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卒業後
375 星暦554年 藤の月 05日 旅立ち?(16)
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「・・・狭いね」
新規航路開拓のための船は、大きかった。
ティリア号というそれは、新型船で以前見かけたアドリアーナ号とちょっと似たような感じだったが、あれよりも細めでスマートな感じだった。
これだけ大きいのだったら食糧もそれなりに積めるだろうし、台所もちゃんとしたものがあるんだろうと思った俺の期待は、俺たちの船室を見せられた時点で下方修正された。
部屋が小さい。
部屋の両側に寝棚が2段ずつ取付けられてあり、真ん中に細い通路分のスペースがあってその奥にお情け程度の荷物置き場と椅子が一脚だけ置いてある。
3人で使う部屋だということを考えると、日中は2人は寝棚に座り、上の段の寝棚を使う人間が椅子に座るのか?
奥に小さな丸い窓がある。
押し開けて下を覗いてみたら、甲板を走り回る船員たちの姿が見えた。
「これって顔を洗った水を窓から捨てられないよな?
どうするんだ?」
振り返って俺たちを案内してくれた副長 (らしい)に尋ねる。
「水回りの事は廊下の突き当たりの向こうにある部屋を使ってくれ。そこだったら水を直接海に捨てられる。
一応顔を洗う用の真水も準備されるが、無駄遣いはしないよう気をつけて貰いたい」
俺たちの微妙な反応に気が付いたようだが、それに対しては何もコメントせずに副長が無表情に答えた。
「ああ、水だったら俺もシャルロも出せるから、心配しなくて良い。
と言うか、必要があったら出すから言ってくれ」
水を出すのだったら清早に頼めば簡単だ。船員達に貸しを作っておいても損はない。
「それは助かる。
一応航海に足りるだけの最低限の水は積んであるが、新鮮な真水を補給できると大分航海が楽になるからな」
副長の目元が少し嬉しげに緩んだ。
最初からシャルロの蒼流に期待して水を積む量を減らしたりはしてないんだ。
水を補給してくれって魔術師に頼むのってあまりしないのかね?
「出発前後は船内も色々とバタバタしているので、夕食の際には誰か船員を案内によこすから今日は部屋にいてくれ。
朝と昼は銅鑼が鳴ったら適当に食堂に来たら食べれることになっている。
後は何か分からないことがあったら夕食の時にでも聞いてくれ」
ちゃちゃっと部屋の使い方(というか、殆ど使う物がなくって単に寝棚の固定方法程度だった)を説明して、副長が出て行った。
ふう。
いや、贅沢を言っちゃあいけないのは分かっている。
ギルド時代に使っていた隠れ家よりは大きい。
この寝棚だって、床に直接寝るよりは寝心地が良いだろう。
だが。
この年になって寮に居た時の2人部屋のサイズの所に3人で2週間過ごせと言われるとは思っていなかったぜ。
「豪華客船以外だったら、船というのは交易品なり食糧なりを運ぶことで利益を得るんだ。寝るための部屋なんてこんなものだろう」
部屋を見回してため息をついた俺に、アレクが肩を竦めて言った。
そうなんだ・・・。
お坊ちゃまなシャルロが驚いていたのはある意味当然だが、アレクがこれを当然だと思っているのは意外だった。
まあ、アレクのことだ。部屋のサイズとか食事のこととか、既にダルム商会の人にでも聞いてあるんだろうな。
「ちなみに、食事の内容はどんな物になるのかな?
依頼主が食事と部屋は請け負うと言われていたから、昨日シェイラに言われるまで何も考えて無かったんだが、やはり2週間かなり粗末な食事になるのか?」
家の保存庫《フリッジ》に大量に食料品を入れて持ってくることも考えたが、すぐに現実的では無いと諦めた。
荷物制限について何も言われなかったが、流石に自分で持ち上げられない重さの物を船に持ち込むのはド顰蹙だろう。
「魚が捕まればそれを食べることになるな。
だが、大洋に出て陸から離れるとなかなか魚が捕まらないこともあるらしいからな。そうなると干し肉シチューが定番料理だと聞いた。
あと、乗組員用のパンを焼くようなオーブンは無いだろうから、パンは堅焼きパンの可能性が高いな」
アレクが答えた。
魚?
あまり魚料理って馴染みがないんだが・・・。
でも、干し肉シチューってあまり美味しそうに聞こえない。試して微妙だったら清早に魚を捕ってくるよう頼むか。
考えてみたら、俺も贅沢になったよなぁ。
ガキの頃はカビが生えた堅焼きパンだってむさぼり食った時期だってあったのに。
「そっかぁ。パンのことは考えてなかったな。
クッキーは大量に運び込んでもらっといたんだけど」
シャルロが寝棚の上に積み上げられた箱を確認しながら言った。
おい。
その大きな箱2つとも、クッキーかよ??!!
お前、箱に押し出されて寝棚から落ちるんじゃ無いか??
と言うか、前もって荷物を船に送りつけられたのかぁ。
当日持ち込める物だけだと思っていたから、結局俺は缶に2つ分しかクッキーは持ってきていない。
「取り敢えず。
その箱が乗っている寝棚をしまって、その場所も荷物置き場にしないか?
シャルロはその上の寝棚を使ったら良い。
流石に上の寝棚にその箱を乗せるのは大変そうだし、固定していても船が揺れた際に落ちてきたら危ないからな」
アレクがため息をつきながら提案した。
微妙にシャルロに呆れたような口ぶりだが・・・奥に置いてある箱、お前のだろ?
俺は何も送りつけてないんだから。
「シャルロは焼き菓子だろうが、アレクが送っておいたのは何なんだ?」
梯子を登って先程副長が固定して見せた寝棚を試しながら尋ねる。
「リンゴ。
あと、オレンジも入っている。
船では新鮮な野菜は少ないと聞いたからな。一応船の方でも果物をある程度準備してあるだろうが自分の好みに合う物も欲しいからな」
そうか。
リンゴやオレンジだったら2週間程度なら持つのか。
ううむ。
・・・お前ら、俺にももう少し助言してくれても良かったのに~~~~!!
--------------------------------------------------------
【後書き】
アレクもシャルロも、少しならウィルに分ける予定です。
でも大部分は自分で食べるつもり。
ウィル君は頑張ってグライダーで島を見つけて果物を採取する必要ありw
新規航路開拓のための船は、大きかった。
ティリア号というそれは、新型船で以前見かけたアドリアーナ号とちょっと似たような感じだったが、あれよりも細めでスマートな感じだった。
これだけ大きいのだったら食糧もそれなりに積めるだろうし、台所もちゃんとしたものがあるんだろうと思った俺の期待は、俺たちの船室を見せられた時点で下方修正された。
部屋が小さい。
部屋の両側に寝棚が2段ずつ取付けられてあり、真ん中に細い通路分のスペースがあってその奥にお情け程度の荷物置き場と椅子が一脚だけ置いてある。
3人で使う部屋だということを考えると、日中は2人は寝棚に座り、上の段の寝棚を使う人間が椅子に座るのか?
奥に小さな丸い窓がある。
押し開けて下を覗いてみたら、甲板を走り回る船員たちの姿が見えた。
「これって顔を洗った水を窓から捨てられないよな?
どうするんだ?」
振り返って俺たちを案内してくれた副長 (らしい)に尋ねる。
「水回りの事は廊下の突き当たりの向こうにある部屋を使ってくれ。そこだったら水を直接海に捨てられる。
一応顔を洗う用の真水も準備されるが、無駄遣いはしないよう気をつけて貰いたい」
俺たちの微妙な反応に気が付いたようだが、それに対しては何もコメントせずに副長が無表情に答えた。
「ああ、水だったら俺もシャルロも出せるから、心配しなくて良い。
と言うか、必要があったら出すから言ってくれ」
水を出すのだったら清早に頼めば簡単だ。船員達に貸しを作っておいても損はない。
「それは助かる。
一応航海に足りるだけの最低限の水は積んであるが、新鮮な真水を補給できると大分航海が楽になるからな」
副長の目元が少し嬉しげに緩んだ。
最初からシャルロの蒼流に期待して水を積む量を減らしたりはしてないんだ。
水を補給してくれって魔術師に頼むのってあまりしないのかね?
「出発前後は船内も色々とバタバタしているので、夕食の際には誰か船員を案内によこすから今日は部屋にいてくれ。
朝と昼は銅鑼が鳴ったら適当に食堂に来たら食べれることになっている。
後は何か分からないことがあったら夕食の時にでも聞いてくれ」
ちゃちゃっと部屋の使い方(というか、殆ど使う物がなくって単に寝棚の固定方法程度だった)を説明して、副長が出て行った。
ふう。
いや、贅沢を言っちゃあいけないのは分かっている。
ギルド時代に使っていた隠れ家よりは大きい。
この寝棚だって、床に直接寝るよりは寝心地が良いだろう。
だが。
この年になって寮に居た時の2人部屋のサイズの所に3人で2週間過ごせと言われるとは思っていなかったぜ。
「豪華客船以外だったら、船というのは交易品なり食糧なりを運ぶことで利益を得るんだ。寝るための部屋なんてこんなものだろう」
部屋を見回してため息をついた俺に、アレクが肩を竦めて言った。
そうなんだ・・・。
お坊ちゃまなシャルロが驚いていたのはある意味当然だが、アレクがこれを当然だと思っているのは意外だった。
まあ、アレクのことだ。部屋のサイズとか食事のこととか、既にダルム商会の人にでも聞いてあるんだろうな。
「ちなみに、食事の内容はどんな物になるのかな?
依頼主が食事と部屋は請け負うと言われていたから、昨日シェイラに言われるまで何も考えて無かったんだが、やはり2週間かなり粗末な食事になるのか?」
家の保存庫《フリッジ》に大量に食料品を入れて持ってくることも考えたが、すぐに現実的では無いと諦めた。
荷物制限について何も言われなかったが、流石に自分で持ち上げられない重さの物を船に持ち込むのはド顰蹙だろう。
「魚が捕まればそれを食べることになるな。
だが、大洋に出て陸から離れるとなかなか魚が捕まらないこともあるらしいからな。そうなると干し肉シチューが定番料理だと聞いた。
あと、乗組員用のパンを焼くようなオーブンは無いだろうから、パンは堅焼きパンの可能性が高いな」
アレクが答えた。
魚?
あまり魚料理って馴染みがないんだが・・・。
でも、干し肉シチューってあまり美味しそうに聞こえない。試して微妙だったら清早に魚を捕ってくるよう頼むか。
考えてみたら、俺も贅沢になったよなぁ。
ガキの頃はカビが生えた堅焼きパンだってむさぼり食った時期だってあったのに。
「そっかぁ。パンのことは考えてなかったな。
クッキーは大量に運び込んでもらっといたんだけど」
シャルロが寝棚の上に積み上げられた箱を確認しながら言った。
おい。
その大きな箱2つとも、クッキーかよ??!!
お前、箱に押し出されて寝棚から落ちるんじゃ無いか??
と言うか、前もって荷物を船に送りつけられたのかぁ。
当日持ち込める物だけだと思っていたから、結局俺は缶に2つ分しかクッキーは持ってきていない。
「取り敢えず。
その箱が乗っている寝棚をしまって、その場所も荷物置き場にしないか?
シャルロはその上の寝棚を使ったら良い。
流石に上の寝棚にその箱を乗せるのは大変そうだし、固定していても船が揺れた際に落ちてきたら危ないからな」
アレクがため息をつきながら提案した。
微妙にシャルロに呆れたような口ぶりだが・・・奥に置いてある箱、お前のだろ?
俺は何も送りつけてないんだから。
「シャルロは焼き菓子だろうが、アレクが送っておいたのは何なんだ?」
梯子を登って先程副長が固定して見せた寝棚を試しながら尋ねる。
「リンゴ。
あと、オレンジも入っている。
船では新鮮な野菜は少ないと聞いたからな。一応船の方でも果物をある程度準備してあるだろうが自分の好みに合う物も欲しいからな」
そうか。
リンゴやオレンジだったら2週間程度なら持つのか。
ううむ。
・・・お前ら、俺にももう少し助言してくれても良かったのに~~~~!!
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【後書き】
アレクもシャルロも、少しならウィルに分ける予定です。
でも大部分は自分で食べるつもり。
ウィル君は頑張ってグライダーで島を見つけて果物を採取する必要ありw
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