476 / 1,309
卒業後
475 星暦554年 黄の月 11日 転移箱(8)
しおりを挟む
ザルガ共和国の情報部みたいな所の資材(船を含む)管理部のお偉いさんの視点です。
-------------------------------------------------------------------------
>>>サイド ???
ノックの音が部屋に響いた。
「どうぞ」
高級そうなシルクの服を着た中年の男が部屋に入ってきた。
外に自分と相手の男が立っているのを他人が見たら、服の品質から相手の方が上司だと判断されるだろう。
が。
自分の部屋に呼びつけられた男は顔色が悪い。
今までにも何度も自分を呼びつけて偉そうに『依頼』をしてきた男だが、今回の事件で立場が逆転した。
「ようこそ、デルヌ殿。
どうぞお座り下さい。
お互い忙しい身ですので、早速用件に入らせてもらいますが・・・サネージュ号がアファル王国に国家機密窃盗の罪で押収されました。
外部交渉委員会の依頼で情報管理委員会から貸し出されていた船に一体何が起きたのか、説明して頂けますかな?」
戦争が起きて不本意ながらもガルカ王国を接収することになり、新しく隣国となったアファル王国の情報収集を行うために向かわせていた船に至急でどうしても乗せて欲しい人間がいると外部交渉委員会に頼まれて都合を付けたのだが・・・突然何やら『誘拐騒動』が起きて船があちらの王都に足止めを食らい、更には『国家機密窃盗』の罪に問われて船が押収された。
上層部の頭がおかしかったガルカ王国ならばまだしも、アファル王国が船の押収などという思い切った手に出るとは一体どれ程不味いことをしたのだろうか?
デルヌが額の汗を拭きながら目の前の椅子に座った。
もっとも、態と座り心地の悪い椅子を用意してあったので、立っていた方がまだマシだった可能性は高いが。
「実は・・・アファル王国で、情報のやり取りに非常に効率的な魔道具が発明されたという話が耳に入りましてな。
それを入手するために人をやったのだが・・・思ったよりもアファル王国が事件を重視したらしく、王都の港を封鎖されたために抜け出せなくなったと聞いている。
魔道具を分解して、まず間違いなく見つからない隠し場所に魔術回路だけ隠しておいたはずなのだが船の捜索をされた際に見つかってしまった・・・らしい」
情報のやり取りに効率的な魔道具ね。
サネージュ号の利用の要請に合意した後に何が目的なのかこちらも調べさせたが、目的の物は転移門の派生的な魔道具だという話だ。
たかがそんな物の為にサネージュ号を押収される程のリスクを取ったというのだろうか?
「・・・サネージュ号は最新式の船であり、魔道具も色々と設置していたために転移門が2つか3つ設置できるほどの資金が掛けられていたのですが・・・。
この新しい魔道具とやらはそれだけの価値があったのですかな?」
ひっきりなしにハンカチで拭いているにも関わらず、デルヌの顔は冷や汗でテカテカしてきていた。
というか、もうハンカチが濡れていて汗を拭く役割を果たしていないのでは無いか?
「転移門というのは高くつくし記録が残る上に、外部交渉委員会にも体質的に合わない人間がいるのだよ。
その点、この新しい魔道具は遠方の相手との書類のやり取りを部屋から行うことが出来るので、機密が保ちやすい上に個人の体質に関係しない。
今回の交渉にも是非とも欲しいと我々委員会の方では考えたのだ」
転移門の利用が体質に合わないのなら、転移門の利用が不可避な外部交渉委員会で働かなければ良いのだ。
そして、外交的な交渉の間は魔術院の転移門を頻繁に使うのは当然のことなのだ。
記録が残ったところで特に問題は無い。
つまり、そこまでこの新しい魔道具が必要不可欠な訳では無い。
が。
ザルガ共和国が建国した時代ならまだしも、今となっては各委員会の有力なポストは幾つかの家系に独占されている。
そうなると『体質が合わないから』という理由で建国時代からの有力な商家の人間が一族で独占している外部交渉委員会に入らないという選択肢はないのだろうな。
確か、デルヌの息子も転移門の利用が体質に合わない人間の1人だったはず。
転移門を使うと1日は寝込んでしまうため、時間を争う遠方での交渉は任すことが出来ず、外部交渉委員会での昇進も遅れ気味だと耳にしたことがある。
その転移箱とやらがあれば息子の活躍の場が広がると考えて焦ったのだろうが・・・それでアファル王国に最新式の船を押収された上に敵対的行為まで明らかになってしまったのだ。
デルヌとその息子がその失点から復活するのは難しいだろうな。
思わずため息が漏れた。
東の大陸への新規航路の補給島を襲わせたのも上手くいかなかったという話だし、すっかりアファル王国には『敵対国』として認識されているだろう。
「魔道具なんぞ、魔術回路図があれば作成出来るのです。
何故もう少し完成して周囲が落ち着くのを待って、回路図だけ密かに写させなかったのですか?
少なくともサネージュ号を使う必要など、無かったでしょうに」
魔術院の特許部門の書類を盗むのなんて比較的簡単だ。
物事が落ち着いてからそれを密かに写させて秘密裏に魔道具を国元で作らせて限られた人員にだけそれを使わすようにすれば、ばれることも無かったのに。
デルヌが再び汗を拭った。
いい加減、1度そのハンカチを絞ってから使った方が良いんじゃないのか?
「今回のアファル王国との交渉にも役に立つと思ってね。
どうやら開発者が試作品を色々と改造していて中々魔術回路の記録を取らないから、試作品を盗むしか無いと言うことになったらしい」
「それで結局。魔術回路なんていう言い抜けのしようが無い物をサネージュ号で見つけられて船が押収される羽目になった訳ですけどね」
サネージュ号という船を押収された事だけなら、共和国にデルヌ個人の資産から賠償すれば何とかなる。が、アファル王国に『敵対行為を取っている国』とザルガ共和国を認識させてしまったのは何ともしがたい失敗だ。
外部交渉委員会の一員としては、最も避けなければならない行為を自らしたようなものだ。
こいつはもう終わりだな。
さて。
先日売りに出された真水の抽出魔道具もだが、アファル王国では色々と使い道のある新しい魔道具が開発されているようだ。
誰か、魔術院の人間で買収できそうな人間がいないか調べさせよう。
【後書き】
ちなみに転移箱の開発がばれたのは、実はアファル王国の外務省の今回の交渉の担当者も転移門を使うと頭が痛くなる体質の人だったから。
試作品を受け取ってそれを使ってやり取りしていたお陰で転移門を使わなくて済んだので体調が良くってご機嫌だった為、怪しまれて調べられてばれましたw
-------------------------------------------------------------------------
>>>サイド ???
ノックの音が部屋に響いた。
「どうぞ」
高級そうなシルクの服を着た中年の男が部屋に入ってきた。
外に自分と相手の男が立っているのを他人が見たら、服の品質から相手の方が上司だと判断されるだろう。
が。
自分の部屋に呼びつけられた男は顔色が悪い。
今までにも何度も自分を呼びつけて偉そうに『依頼』をしてきた男だが、今回の事件で立場が逆転した。
「ようこそ、デルヌ殿。
どうぞお座り下さい。
お互い忙しい身ですので、早速用件に入らせてもらいますが・・・サネージュ号がアファル王国に国家機密窃盗の罪で押収されました。
外部交渉委員会の依頼で情報管理委員会から貸し出されていた船に一体何が起きたのか、説明して頂けますかな?」
戦争が起きて不本意ながらもガルカ王国を接収することになり、新しく隣国となったアファル王国の情報収集を行うために向かわせていた船に至急でどうしても乗せて欲しい人間がいると外部交渉委員会に頼まれて都合を付けたのだが・・・突然何やら『誘拐騒動』が起きて船があちらの王都に足止めを食らい、更には『国家機密窃盗』の罪に問われて船が押収された。
上層部の頭がおかしかったガルカ王国ならばまだしも、アファル王国が船の押収などという思い切った手に出るとは一体どれ程不味いことをしたのだろうか?
デルヌが額の汗を拭きながら目の前の椅子に座った。
もっとも、態と座り心地の悪い椅子を用意してあったので、立っていた方がまだマシだった可能性は高いが。
「実は・・・アファル王国で、情報のやり取りに非常に効率的な魔道具が発明されたという話が耳に入りましてな。
それを入手するために人をやったのだが・・・思ったよりもアファル王国が事件を重視したらしく、王都の港を封鎖されたために抜け出せなくなったと聞いている。
魔道具を分解して、まず間違いなく見つからない隠し場所に魔術回路だけ隠しておいたはずなのだが船の捜索をされた際に見つかってしまった・・・らしい」
情報のやり取りに効率的な魔道具ね。
サネージュ号の利用の要請に合意した後に何が目的なのかこちらも調べさせたが、目的の物は転移門の派生的な魔道具だという話だ。
たかがそんな物の為にサネージュ号を押収される程のリスクを取ったというのだろうか?
「・・・サネージュ号は最新式の船であり、魔道具も色々と設置していたために転移門が2つか3つ設置できるほどの資金が掛けられていたのですが・・・。
この新しい魔道具とやらはそれだけの価値があったのですかな?」
ひっきりなしにハンカチで拭いているにも関わらず、デルヌの顔は冷や汗でテカテカしてきていた。
というか、もうハンカチが濡れていて汗を拭く役割を果たしていないのでは無いか?
「転移門というのは高くつくし記録が残る上に、外部交渉委員会にも体質的に合わない人間がいるのだよ。
その点、この新しい魔道具は遠方の相手との書類のやり取りを部屋から行うことが出来るので、機密が保ちやすい上に個人の体質に関係しない。
今回の交渉にも是非とも欲しいと我々委員会の方では考えたのだ」
転移門の利用が体質に合わないのなら、転移門の利用が不可避な外部交渉委員会で働かなければ良いのだ。
そして、外交的な交渉の間は魔術院の転移門を頻繁に使うのは当然のことなのだ。
記録が残ったところで特に問題は無い。
つまり、そこまでこの新しい魔道具が必要不可欠な訳では無い。
が。
ザルガ共和国が建国した時代ならまだしも、今となっては各委員会の有力なポストは幾つかの家系に独占されている。
そうなると『体質が合わないから』という理由で建国時代からの有力な商家の人間が一族で独占している外部交渉委員会に入らないという選択肢はないのだろうな。
確か、デルヌの息子も転移門の利用が体質に合わない人間の1人だったはず。
転移門を使うと1日は寝込んでしまうため、時間を争う遠方での交渉は任すことが出来ず、外部交渉委員会での昇進も遅れ気味だと耳にしたことがある。
その転移箱とやらがあれば息子の活躍の場が広がると考えて焦ったのだろうが・・・それでアファル王国に最新式の船を押収された上に敵対的行為まで明らかになってしまったのだ。
デルヌとその息子がその失点から復活するのは難しいだろうな。
思わずため息が漏れた。
東の大陸への新規航路の補給島を襲わせたのも上手くいかなかったという話だし、すっかりアファル王国には『敵対国』として認識されているだろう。
「魔道具なんぞ、魔術回路図があれば作成出来るのです。
何故もう少し完成して周囲が落ち着くのを待って、回路図だけ密かに写させなかったのですか?
少なくともサネージュ号を使う必要など、無かったでしょうに」
魔術院の特許部門の書類を盗むのなんて比較的簡単だ。
物事が落ち着いてからそれを密かに写させて秘密裏に魔道具を国元で作らせて限られた人員にだけそれを使わすようにすれば、ばれることも無かったのに。
デルヌが再び汗を拭った。
いい加減、1度そのハンカチを絞ってから使った方が良いんじゃないのか?
「今回のアファル王国との交渉にも役に立つと思ってね。
どうやら開発者が試作品を色々と改造していて中々魔術回路の記録を取らないから、試作品を盗むしか無いと言うことになったらしい」
「それで結局。魔術回路なんていう言い抜けのしようが無い物をサネージュ号で見つけられて船が押収される羽目になった訳ですけどね」
サネージュ号という船を押収された事だけなら、共和国にデルヌ個人の資産から賠償すれば何とかなる。が、アファル王国に『敵対行為を取っている国』とザルガ共和国を認識させてしまったのは何ともしがたい失敗だ。
外部交渉委員会の一員としては、最も避けなければならない行為を自らしたようなものだ。
こいつはもう終わりだな。
さて。
先日売りに出された真水の抽出魔道具もだが、アファル王国では色々と使い道のある新しい魔道具が開発されているようだ。
誰か、魔術院の人間で買収できそうな人間がいないか調べさせよう。
【後書き】
ちなみに転移箱の開発がばれたのは、実はアファル王国の外務省の今回の交渉の担当者も転移門を使うと頭が痛くなる体質の人だったから。
試作品を受け取ってそれを使ってやり取りしていたお陰で転移門を使わなくて済んだので体調が良くってご機嫌だった為、怪しまれて調べられてばれましたw
1
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる