45 / 1,309
魔術学院2年目
044 星暦550年 紺の月 17日 遺跡(4)
しおりを挟む
いつの時代も、人間の行動というのはあまり変わらないのだろう。
いつの日か、争いや憎しみ、怒りといったモノから人間が解放される時は来るのだろうか?
清早が作った階段を下りて下の階に出る。
着いた先は、小さな部屋だった。
大きめの浅い壺のようなものと、白骨が一体。
扉は朽ち果てて無くなっていた。
壁に装飾は無く、非常に無愛想な部屋だ。
地階というのは貧乏人が住む場所だったのだろうか?
中央広場の下となれば、窓が無い地階でもそれなりに住みたがる人が多い、高級地となるかと思ったが・・・。
「これ、本物だよね?」
シャルロが恐る恐る白骨を眺めながら尋ねた。
「そりゃそうだろ。こんなとこに偽物を置く必要はないだろうし」
白骨の傍にしゃがみこみながらアレクが答える。
「オーパスタ神殿の遺跡で死体が発見されることって珍しいんだろ?あまり触らない方がいいかもしれないぞ」
変な病気を移されても困るし。
「そうだね。他の部屋も見てみよう」
白骨をもう少し調べてみたいげなアレクを残してシャルロが部屋を出る。
俺も後を続いた。
人類以外の骨だって言うのならまだしも、普通の人間の骨には幾ら古くても興味は無い。
視た感じ、普通の人間のようだったし。
出た先は廊下だった。
今通った扉と同じような出入り口が10か所程ある。
付き当りにちょっとした開けたスペースがあり、そこに机と椅子であったのだろう残骸があった。
その後ろに上との本来の出入り口であったらしい階段がある。
一番上に扉で蓋がしてあるが。
朽ち果てていないと言うことは、岩か鉄板か何かで出来ているのか?
「・・・なんか、変な感じな場所だな」
後ろから続いてきたアレクが呟いた。
地下とは言え、全く窓が無い作り。
それなりに厚い壁。
家具が無く、全く装飾がされていない内装。
一つしかない出入り口の前にある待機所。
「ここって・・・留置所か牢獄のような感じがしないか?」
そんなところに放り込まれたことは無いが、盗賊ギルドの仕事関係で投獄されている人間に連絡を取ったり、逃がしたことは何度かある。
何とはなしに、雰囲気が似ていた。
まあ、単に貧乏人が集まって住んでいる地域だったのかもしれないが。
「他の部屋も見てみよう」
シャルロが隣の部屋に入っていった。
さっきと同じように、壺と、白骨。
あの壺って便器代わりだったんだろうなぁ。
寝床に使われていただろう藁とかはとっくのとうに朽ち果てているのだろう。
3つ目の部屋も似たり寄ったりな感じだった。
だが、4つ目に入った部屋はちょっと違った。
壺が割れており、壁一面に何かが彫られていたのだ。
文字なのだろうか?
絵にしては一つ一つの模様の粒が小さく、サイズが妙に一様だ。
「なあシャルロ、蒼流って人間の文字とか知っていたり・・・しない?」
蒼流程の力がある精霊なら、きっとこの遺跡に人間が住んでいた時代にも存在していただろう。
だとしたら、その時代の言語も知っていても不思議は無い。
「知っている?」
シャルロが蒼流に尋ねる。
今回は返事は心話だったらしい。
「知らないって。その時代の言葉は知っていたけど文字を読む必要性は感じなかったんだって」
ま、そうだね。
精霊が人間の書いた本を読みたいとは思わないだろうし。
つうか、精霊って本を読むなんて言う習慣は無いんだろうなぁ。
「この白骨が気になるところだが・・・これは凄い発見だぞ。
オーパスタ神殿遺跡で文字の発見はごく僅かにしかされていないはずだ」
アレクがしげしげと壁を見詰めながら言った。
「他の部屋にも無いか、見てこよう!」
シャルロが飛び出していく。
この遺跡があった街が捨てられた時・・・ここの投獄されていた人間は飢え死にするに任せて封印されて捨てられたんだろうなぁ。
もしかしたらその前に毒を与えられていたかもしれないが。
というか、上に出る場所が封鎖されていたと言うことは、下にいた人間が上に出たいと思うかもしれない状況だったと言うことだから・・・飢え死にか。
えげつない。
一体何をやったらそこまで許されないのだろう?
残りの部屋を調べたところ、2つに落書きのような書き込みがあり、1つの部屋は壁から壁まで文字で埋め尽くされていた。
そして一つの部屋では・・・壁に穴が開いていた。
便器にするような粗悪品であろう壺の破片で壁を彫りぬくとは、根性だ。
だが、封鎖された階段の一番上に横たわっていた白骨を見る限り、その根性も報われなかったようだ。
可哀想に。
牢獄に注意が行かないように、天井(というか床と言うか)一面に目隠しの術を練り込むのは分かるが、街を破棄する際に、囚人が絶対に逃げられないように封をするだけでなく、固定化の術までかけるなんて。
オーパスタ神殿遺跡の元の住民はあまり過ちを許すタイプではなかったようだ。
「オーパスタ神殿遺跡の文字って解析されているのかな?
何でこの人たちがここまで徹底的に封じ込まれたのか、知りたい」
アレクとシャルロに聞いてみた。
「確か、それなりに文字は解明されていたと思う。古代シャタット文明の文字から派生したものだという話だったはずだ。
サンプルが少ないから、かなりの部分は推測らしいけど。これだけ色々書き込まれていれば、文字の解明そのものにもかなり役に立つと思うな」
アレクが答えた。
「早速帰って、おばあさまに研究者に来るよう話をつけてもらおう。僕もこの人たちが何をしたのか、知りたい」
シャルロが提案した。
「そうだな。あまり見る物も無いようだし」
初めて探検してみた遺跡の中でこうも生々しい『人間らしさ』を目にするとは。
本当に、昔の人間も、今と人間とあまり変わりは無かったんだな。
いつの日か、争いや憎しみ、怒りといったモノから人間が解放される時は来るのだろうか?
清早が作った階段を下りて下の階に出る。
着いた先は、小さな部屋だった。
大きめの浅い壺のようなものと、白骨が一体。
扉は朽ち果てて無くなっていた。
壁に装飾は無く、非常に無愛想な部屋だ。
地階というのは貧乏人が住む場所だったのだろうか?
中央広場の下となれば、窓が無い地階でもそれなりに住みたがる人が多い、高級地となるかと思ったが・・・。
「これ、本物だよね?」
シャルロが恐る恐る白骨を眺めながら尋ねた。
「そりゃそうだろ。こんなとこに偽物を置く必要はないだろうし」
白骨の傍にしゃがみこみながらアレクが答える。
「オーパスタ神殿の遺跡で死体が発見されることって珍しいんだろ?あまり触らない方がいいかもしれないぞ」
変な病気を移されても困るし。
「そうだね。他の部屋も見てみよう」
白骨をもう少し調べてみたいげなアレクを残してシャルロが部屋を出る。
俺も後を続いた。
人類以外の骨だって言うのならまだしも、普通の人間の骨には幾ら古くても興味は無い。
視た感じ、普通の人間のようだったし。
出た先は廊下だった。
今通った扉と同じような出入り口が10か所程ある。
付き当りにちょっとした開けたスペースがあり、そこに机と椅子であったのだろう残骸があった。
その後ろに上との本来の出入り口であったらしい階段がある。
一番上に扉で蓋がしてあるが。
朽ち果てていないと言うことは、岩か鉄板か何かで出来ているのか?
「・・・なんか、変な感じな場所だな」
後ろから続いてきたアレクが呟いた。
地下とは言え、全く窓が無い作り。
それなりに厚い壁。
家具が無く、全く装飾がされていない内装。
一つしかない出入り口の前にある待機所。
「ここって・・・留置所か牢獄のような感じがしないか?」
そんなところに放り込まれたことは無いが、盗賊ギルドの仕事関係で投獄されている人間に連絡を取ったり、逃がしたことは何度かある。
何とはなしに、雰囲気が似ていた。
まあ、単に貧乏人が集まって住んでいる地域だったのかもしれないが。
「他の部屋も見てみよう」
シャルロが隣の部屋に入っていった。
さっきと同じように、壺と、白骨。
あの壺って便器代わりだったんだろうなぁ。
寝床に使われていただろう藁とかはとっくのとうに朽ち果てているのだろう。
3つ目の部屋も似たり寄ったりな感じだった。
だが、4つ目に入った部屋はちょっと違った。
壺が割れており、壁一面に何かが彫られていたのだ。
文字なのだろうか?
絵にしては一つ一つの模様の粒が小さく、サイズが妙に一様だ。
「なあシャルロ、蒼流って人間の文字とか知っていたり・・・しない?」
蒼流程の力がある精霊なら、きっとこの遺跡に人間が住んでいた時代にも存在していただろう。
だとしたら、その時代の言語も知っていても不思議は無い。
「知っている?」
シャルロが蒼流に尋ねる。
今回は返事は心話だったらしい。
「知らないって。その時代の言葉は知っていたけど文字を読む必要性は感じなかったんだって」
ま、そうだね。
精霊が人間の書いた本を読みたいとは思わないだろうし。
つうか、精霊って本を読むなんて言う習慣は無いんだろうなぁ。
「この白骨が気になるところだが・・・これは凄い発見だぞ。
オーパスタ神殿遺跡で文字の発見はごく僅かにしかされていないはずだ」
アレクがしげしげと壁を見詰めながら言った。
「他の部屋にも無いか、見てこよう!」
シャルロが飛び出していく。
この遺跡があった街が捨てられた時・・・ここの投獄されていた人間は飢え死にするに任せて封印されて捨てられたんだろうなぁ。
もしかしたらその前に毒を与えられていたかもしれないが。
というか、上に出る場所が封鎖されていたと言うことは、下にいた人間が上に出たいと思うかもしれない状況だったと言うことだから・・・飢え死にか。
えげつない。
一体何をやったらそこまで許されないのだろう?
残りの部屋を調べたところ、2つに落書きのような書き込みがあり、1つの部屋は壁から壁まで文字で埋め尽くされていた。
そして一つの部屋では・・・壁に穴が開いていた。
便器にするような粗悪品であろう壺の破片で壁を彫りぬくとは、根性だ。
だが、封鎖された階段の一番上に横たわっていた白骨を見る限り、その根性も報われなかったようだ。
可哀想に。
牢獄に注意が行かないように、天井(というか床と言うか)一面に目隠しの術を練り込むのは分かるが、街を破棄する際に、囚人が絶対に逃げられないように封をするだけでなく、固定化の術までかけるなんて。
オーパスタ神殿遺跡の元の住民はあまり過ちを許すタイプではなかったようだ。
「オーパスタ神殿遺跡の文字って解析されているのかな?
何でこの人たちがここまで徹底的に封じ込まれたのか、知りたい」
アレクとシャルロに聞いてみた。
「確か、それなりに文字は解明されていたと思う。古代シャタット文明の文字から派生したものだという話だったはずだ。
サンプルが少ないから、かなりの部分は推測らしいけど。これだけ色々書き込まれていれば、文字の解明そのものにもかなり役に立つと思うな」
アレクが答えた。
「早速帰って、おばあさまに研究者に来るよう話をつけてもらおう。僕もこの人たちが何をしたのか、知りたい」
シャルロが提案した。
「そうだな。あまり見る物も無いようだし」
初めて探検してみた遺跡の中でこうも生々しい『人間らしさ』を目にするとは。
本当に、昔の人間も、今と人間とあまり変わりは無かったんだな。
1
あなたにおすすめの小説
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした
朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※
落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。
■ ■ ■
毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。
男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。
ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。
男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。
接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。
ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。
たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。
孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。
■ ■ ■
一章までの完結作品を長編化したものになります。
死、残酷描写あり。
↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。
本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。
https://www.pixiv.net/users/656961
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる