シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院2年目

062 星暦550年 翠の月 15日 拘り

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面白いことを発見した。
だけど道のりは遠いかも。

◆◆◆


術回路を作った素材の金属は融解温度が鉄よりも高いらしい。
だからこれを主に鉄で出来た剣の芯に接合した後、刃となる外側の鉄片を熱して合わせて鍛えても術回路は熔けない。

まあ、剣全部を溶かす勢いで熱すれば話は別だが。

スタルノに教わった術回路を作った俺たちは芯を熱してその上に術回路を乗せ、ペンチで抑えて回路を埋め込んで灰の中に埋め込んだ。フリーハンドで溶かした術回路を直接描く時は剣をある程度冷ましておくことで術回路の素材が素早く剣に凝固するようにするのだが、今回のように前もって術回路を作っておく場合は剣を熱して剣に埋め込む形になる。

どちらでも特に効果に違いは無いとのことだった。態々難しいフリーハンドで術回路を作っていたのはその方が熱する手間が一度省けるから・・・というだけのことらしい。

ははは。

今度は外側の鉄片を熱し、十分に赤くなってきたら折り曲げ、芯を取り出して来てそれを間に挟んでペンチで止めた。

ふう。
清早に頼んだお陰で、今日は炉の傍で働いても一昨日ほど無茶苦茶暑くは無いな。
火の精霊にも手伝ってもらえたら鍛冶師として凄く有利だと思うが・・・ま、そんな都合のいいことは考えるだけ無駄だな。
これだけ火を使った鍛冶場で働いているのに暑くないなんて言うずるを出来るだけでも感謝しなくちゃいけない。

「最初は軽く叩け。熱いうちに溶接させるのが目的だ。
鍛えるのはペンチを外してからだ。じゃないと剣に歪みが残る」
スタルノが指示を出した。
槌を取り出して俺とアレクが剣を叩き始めた。
またスタルノとタランが付いてリズムと強さを調整してくれる。

カン、カン。
カン、カン。
カン、カン。
カン、カン。
カン、カン。
炉に戻して熱し、今度は反対向きにして叩く。
カン、カン。
カン、カン。
カン、カン。
カン、カン。

ペンチを外した。
「よし、思いっきりいけ。」
指示通り、力を込めて槌を下し始めた。
ガン、カン。
ガン、カン。
ガン、カン。
・・・。

1刻ごとにシャルロと交代しながらひたすら鍛えていく。
だんだん鍛えていくにつれて剣の密度が上がり、形も『鉄片』から『剣』へと変わっていくのが面白い。
体は疲れるが、今日は清早に体温調節で助けてもらったお陰で気持ちのいい疲れだった。

しかも。
面白いことに、鍛える際に集中するとある程度剣の中身に影響を与えられるようなのだ。
中身っていうと変な感じだが。
鍛えることで密度が上がるのを視ていたのだが、その時にぐしゃぐしゃにとりあえず潰して密度を上げるのではなく、中身を奇麗に整頓して圧縮していくような感じを意図すると、完全に思った通りにではないが少しずつ出来るのだ。

試しに自分のナイフを手に持ってその密度や中身を変えられないかと集中してみたのだが殆ど変わらない。
だが、鍛える際に集中すると、まるで槌で叩いたエネルギーで一瞬鉄の中身が浮かび自由に動く瞬間があり、それを自分の意思で少し影響を与えることが出来るのだ。

面白い。
これって、時間を掛けさえすれば、完璧な剣って言うのが出来るのだろうか。
中身が全て奇麗に整理された剣ってそれだけ強く、良く切れる剣になりそうな気がするが、どうだろう?
一回ごとに『整理』出来る中身は本当にごく僅かだから剣の全部を完璧に作ろうとなんて思ったら何年かかるか分からない。
だが、これから2日の間に俺の集中力の全てをかけて少しでも影響を与えたら結果としてより良い剣が出来るのか。
試してみようじゃないか。


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