シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
94 / 1,309
魔術学院3年目

093 星暦551年 紺の月 15日 聞き込み

しおりを挟む
中休み初日。
俺たちはアレクの家の馬車を借りて日の出とともに寮を出て、朝食前にはダッチャスに着いていた。
既に泊るところはシェフィート商会と縁がある信用の出来る海際の宿屋に決めてある。

そこで荷物を下ろし、馬車を裏に置かせてもらい、早速港へ。
朝の漁から帰ってきた漁師たちが一仕事終わった後の満足げな様子で雑談をしながら仕事をしていた。

「おはよう。私たちは学院の課題の為に海で引き上げられる異物の分布図を作っているところなんだが、ここら辺で過去どんな異物が網にかかったか教えてくれないか?」
アレクが地図を手に、漁師たちに声をかける。

「異物?」
一番近くにいた漁師が訝しげにアレクに聞きかえした。

「壺とか、家具の破片とか、金属の物とか。沈没船から出てきたと思われるようなモノかな。
学院の課題として、ダッチャス港近辺の海流の流れと沈没船からのモノの発見の分布図を作ろうと思うんだ。別に沈没船じゃなくっても嵐で流されてきた家具とかでも良いけど」
シャルロがにこやかに答える。

いくら沈没する船がそれ程多くは無いとは言っても、何と言っても運航している船の数が多い。絶対値としてはそれなりの数が沈んでいてそれからのモノが網に引っ掛かっていると思うんだが・・・。

「ああ、そう言うのね。大したものはないけど、ここら辺かな?」
漁師が地図の一か所を示して答えた。

「あと、鮑の取れる岬沖でもこないだ変なモノが引っかかっていたんじゃなかったっけ?」
興味深げに俺たちの話を聞いていた若者が船から声をかける。

「ここらへんだな」
漁師が最初に指した場所から右上のところを指さす。

「他にはありませんか?」
アレクが船から声をかけた若者と漁師両方に尋ねる。

「俺たちは浅いところで網を張るからね。もっと深いところの魚を取る連中に聞いてみたらどうだ?」
漁師が肩をすくめながら答えた。

確かに、軽い木製の家具とか以外は水中に沈んでいるだろうから海面近くに張った網には引っ掛からないだろう。
季節によって浅いところや深いところを漁するのかと思っていたのだが、どうやら浅いところ用の網と深いところ用の網ではモノが違うから漁師の間にも専門化が起きているようだ。

深いところをターゲットにする漁師たちはもう少し遅く帰ってくるとのことなので彼らが使っている埠頭の場所を聞いてひとまず朝食に戻ることにした。

ワクワクしすぎて食事を忘れていたよ。

◆◆◆


朝食を終わらせた後に更に聞き込みを行い、沖合の海底近くで異物が網にかかった範囲を教えてもらった。

「考えてみたらさ、水の中で呼吸しなくてもいいようにするよりも、水の中でぽっかり俺たちが歩く周りだけ空気のドームを作って欲しいんだけど、出来る?」
海の前に来て、俺は清早に聞いていた。
最初は水の中で呼吸ができるようにして貰おうと思っていたのだが、考えてみたらそれでは服も髪の毛も海水でびしょびしょになる。

他に選択肢が無ければそれでもいいが、出来ればもっと快適に探索したい。

「問題ないぞ。何だったら海をそこだけ割るのだって出来るよ?」
ぷかぷかと宙に浮きながら清早が答える。

「上から魚や船が落ちてきたら困るから、海底で僕たちが歩いているところの周りだけ水を押しのけておいてくれればいいや。」
シャルロが口をはさんだ。

確かにね。
沖合のところなんて漁師の網をみたところ30メタぐらいは深さがありそうだ。上から船が落ちてきたりしたら大変なことになる。

「分かった」
清早が頷く。

「じゃあ、最初の漁師が言っていたところを通って沖合の深いところまで歩いていこうか」
俺が残りの2人に確認する。
2人が頷いたので清早に早速水を押しやるよう頼んだ。

さあ、海底の散策だ!

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~

名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?

くまの香
ファンタジー
 いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。

生活魔法は万能です

浜柔
ファンタジー
 生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。  それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。  ――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。

異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。

もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。 異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。 ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。 残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、 同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、 追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、 清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……

処理中です...