シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院3年目

094 星暦551年 紺の月 15日 練習

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海草がここまで滑りやすいものだとは知らなかった・・・。

◆◆◆


「うわっ!」

「おっと!」

ずべ!

あらら。
今度はアレクが転んだ。

海底を歩き始めてほんの数歩でシャルロが滑って転んで以来、俺もアレクもかなり注意して歩いていたのだが・・・中々難しい。

屋根の上とか歩くのなら慣れているんだけどねぇ。
ヌルヌルな海草の上というのは今まで経験が無いだけに、難しい。

裸足だったらまだマシだったかもしれないが、意外と貝とかサンゴとかが鋭角で、靴を脱ぐのは無謀だと言うことが最初の数歩で分かった。
しかも見た目微妙に怖い感じの生き物が多いし。
俺たちが歩くところだけ水が無くなっているから苦しそうにぴくぴくしているだけなのだが、裏返したら噛み付かれそうな手の形をしたべっとり平べったい生き物とか、微妙に棘が付いているように見える海草モドキな生物とか。

遠くから見る分には奇麗なのだが、自分の裸足の足で踏むのは躊躇われるモノが意外と多い。

「この分じゃあ余り遠くまで進めなさそうだな。今日は海底散策の練習も兼ねて少し歩いたら昼食に戻って、その後最初に聞いた場所に行ってみよう」
半刻程歩いて、2人に提案した。
はっきり言って、大雨の後の泥道を歩くのよりも遅い。
岸から500メタ程度は確実にある沖合まで一気に行くのは無理だろう。
途中で腹が減ってへたれることになるのは明らかだ。

「そうだね。明日はお弁当を貰ってこよう」
シャルロが上着に付いた海草を剥がし取りながら頷いた。

「折角の景色だ。足もとばかりを見ていても勿体ないし。ゆっくり歩いて周りも見よう」
アレクが周りを指しながら合意する。

足元は水から出てしまった海草がべっちょり海底にへばりつきあまり奇麗ではないが、周りは幻想的な海の風景が浮かびあがっていた。
色んな魚が泳ぎまわっているのが空気のドームの向こうに見えている。
光の反射で水が蒼く見えていることが、ますます周囲を幻想的に美しく彩っていた。

「こうやって見ると、魚って意外と遊び心があるみたいだね」
すいすいっと鬼ごっこをしているかのように水の中を滑っている魚を見ながらシャルロが言った。

「遊んでいるのか、必死に餌にならないよう逃げているのか、子供を作ってもらう為にメスを追いかけているのか。彼らにとっては遊んでいるつもりは無いのかもよ?」
アレクが笑いながら反論する。

すると。
まるでアレクの台詞を待っていたかのように、俺たちの目の前に突然大きな魚が現れ、ガバっと口を開けてそこを戯れるように泳いでいた小魚を3匹程度一気に口に吸いこんでしまった。

・・・。
「逃げていたのだとしたら・・・失敗したな」


更に2刻程歩き続け、やっと海草の上を歩くのにも慣れ、周りの景色も落ち着いて堪能できるようになってきたところで更に問題が発覚した。

「ねぇ。
僕たち今どこを歩いているのか・・・分かる?」

海の底は奇麗だ。
色とりどりな魚が動き回り、水は幻想的に蒼く。

だが。
目印になるようなモノが無い!
つうか、あったとしても俺たちはそれが何を意味するか分かっていないし。

「清早~。俺たちが今どこにいるか教えて?」
「海にいるぞ」
いや、それは分かっているんだけどさ。

「この地図のどこら辺かな?」
ぷかぷか俺の傍で実体化していた清早に地図を差し出したところ。
・・・初めて清早の困惑した顔というのを見たかもしれない。

「これなに?」

考えてみたら、蒼流も人間の文字は学んでいないって言っていたもんなぁ。
地図の読み方なんて知っている訳、無かったか。

「ちょっと一旦俺たちを海の上まで押し出してくれる?」
とりあえず、まだ海岸線が見えなくなるほどは歩いていないはず。
海面から周りを見渡せばどこにいるか分かるだろう。

「昼食に戻った時に、コンパスを入手しよう」
アレクが提案した。

「後は、何か距離を測る手段も必要だな。歩数を数えながら移動なんて嫌だぞ」
折角奇麗な景色を楽しみ、海底の宝物発見の旅に来ているのだ。一歩一歩を数えるのに神経を費やすなんて勿体ない。

「時々海面に出て現在地確認するのはどう?」

浅い間は良いが、沖に出たら上がったり下がったりも面倒になってくるぞ、きっと。
第一、沖に出たら海岸線が見えなくなるかもしれない。

「沖合に出た時に一々上がったり下がったりするのも面倒だろう。
細い麻紐の束でも買い集めるか。定期的に後ろを確認していけばまっすぐ進んでいるかも分かるし、距離も把握できる」
細い麻紐なら極端には重くないはず。
だが、波や海流に流されないように何か重しが必要かな?

うう~む、思っていたより色々難しいなぁ・・・。

まだ陶磁器の欠片すら見かけてないんだけど。

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