シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院3年目

096 星暦551年 紺の月 16日 沖で(2)

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魔術でそよ風・・・の代わりに水流を作り出して残骸の周りの砂を流し飛ばす。
船が海流を止める役割でも果たしていたのか、反対側が意外とえぐれた感じになった。

なったのだが・・・。

「思ったより小さいね」
シャルロが呟いた。

近海の漁船よりは大きいが、長距離商船としては小さい。

「・・・確実に、イーサン号じゃあないね。まあ、もうイーサン号だろうがガラバス号だろうがヒメラス号だろうが、何でもいいから大きいのが見つかれば万々歳なんだけどさ」
アレクが答える。

「ま、とりあえず深いところに沈没していた船がどんな感じになるか調べるサンプルと思うことにしようぜ」
世の中、物事を前向きに捉えないと。

船を視てみたところ、船体に傷は付いていないようだった。
マストが折れているが。
風でメインマストが折れて波に飲まれて沈んだと言うところか。
甲板の下は2層になっていて、下の層が商品の保管場所だったようだ。
甲板の上の部屋は船長室というところかな?

シャルロが蒼流に頼んで船全体を空気のドームで囲むようにして船から水を抜いてもらっていた。
斜めに海底に横たわっているから、水を抜かずに水の中で呼吸ができるようにして貰って中を泳ぐ方が楽だったかもしれないけど・・・ま、とりあえず様子をみて今後の参考にしよう。

「よっ。」
縄をかけて甲板に上り、縄を反対側に垂らして船長室らしき所へ進む。
海草は生えていないが、やはりちょっとヌルヌルしていて歩きにくい。

「ウィルって器用だね」

「シャルロだって十分器用だよ」
アレクの苦笑交じりの声が聞こえた。

振りかえって見えたのが・・・。
プカプカ宙に浮いて後を付いてくるシャルロ。
アレクも宙に浮いてこちらを見ていた。

そっか。
浮遊レヴィアを使えば縄なんぞ使わなくても宙に上がれるんだっけ。
シャルロみたいに術の応用編を使えば空気の中を実質泳ぐことが出来る。

本当に、魔術師って泥棒になる為に存在するような存在だよなぁ。
まあ、泥棒になるより合法的にもっと安全に稼げる手段があるし、魔術を使って違法行為を行っているのがバレた時の制裁が魔力封印か死罪だから、わざわざ泥棒になる魔術師は少ないようだが。

密かにばれない様に魔力を悪用している人間って絶対にいるだろ。

ま、それはともかく。
安定性がイマイチな船の上で縄で体を支えるよりは魔術を使う方がいい。
ということで俺も浮遊レヴィアで体を浮かせた。
シャルロのように術で体まで動かすことはせず、浮かせるだけ浮かして後は手足で周りを押して体を動かすんだけどね。
どうせ船の中は狭い。余程器用でないと魔術で動こうとすると壁や天井にぶつかる。


船長室の扉は動かなかった。
「鍵がかかっているのかな?」
シャルロが尋ねる。

「いや、木が水で膨張しているんだろ。鍵もかかっていたかもしれないが」
魔術で無理やり扉に含まれている水分を吸いだして急激に乾燥させる。

ミシミシ!

「これは別に構わないが・・・ちゃんとした歴史的な価値がある船を発見した時はあまり急激に水を抜かない方がよさそうだな」
術の反動で扉にひびが無数に入ったのを見てアレクが呟いた。

「・・・歴史的に価値があるにしても、船みたいに大きなモノを海底から持ち上げられるのか?」

「空気を入れれば浮力が付いて案外と簡単に上にあげられると思うよ?」
シャルロが答えた。

お?
そうなんだ。
まあ、考えてみたら元々浮いているモノだもんな。船底に穴が開いていなければ中の水を抜けば浮き上がるはずか。

「お、開いた」
扉が縮んでドア枠から外れ、中へ落ちるように開いた。


「狭いねぇ」
シャルロが呆れたように呟いた。

「船の中の空間は商品価値が非常に高いんだ。船長の為に大きな部屋を作るよりもそれだけ貨物なり補給品を多めに積んでおくものだよ」
アレクが苦笑しながら答える。

「だが・・・ベッドと机しかない部屋だな。折角船長になったって言うのに」
思わず俺も部屋を見て呆れてしまった。
何が嬉しくって一番偉い人間になってもこんな狭い部屋に住むんだろう?
下町の住民の部屋並みに小さくないか、これ?

「船長になった人間の希望は貿易で利益を得て陸に屋敷を買ってリタイアすることさ。
その為に頑張って危険を冒して船を動かしているのに、自分の贅沢の為に部屋を大きく取ったせいで余分に補給に寄る羽目になって海賊に襲われたりしたら、意味が無いだろ?」
アレクが説明してくれた。

そっか。ある意味、船長っていうのは傭兵と似たようなものなんだな。リスクを取って利益を出して何とかリタイアするだけの金を貯めるのか。

ちなみに。
船長室には小さめのベッドと机、衣装箱があっただけだった。
船長のモノだったらしい真鍮のカップがあったが・・・。

「持って帰る?」
二人とも首を横に振った。

船員たちの生活スペースはスルーして、貨物スペースに下りていく。
下には・・・大量の麻袋が積んであった。

「なんだろ?」
「鉱石とかだったらまだ面白いんだが・・・」
シャルロとアレクが話しなが麻袋の一つを開けてみた。

べちょ。

何やら水に溶けた白っぽい泥のようなものが落ちた。

「・・・穀物だったようだね」
アレクがため息をつきながら袋を下におろした。

深く水温の低い海底に沈んでいたから中身が少し残っていたようだが・・・引き上げても価値は無いだろう。

「一つぐらい何か違う袋が無いか、確認できる?」
シャルロが俺に提案した。

残念ながら・・・全ての袋を心眼サイトで確認したものの、全部有機物だったらしきものばかりだった。

ちっ。


ちなみに、アレクの提案で『支払い用の資金が少しはあったはず』ということで、昼食後に船長室を念入りに探したところ、幾ばくかの貨幣が見つかった。

「ま、量は少ないけど古貨幣ということで少しは価値があるかも?」
とのことだった。

・・・明日に期待というところだな!


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