シーフな魔術師

極楽とんぼ

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魔術学院3年目

098 星暦551年 紺の月 17日 花瓶

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「船首像だ!」
シャルロが興奮して声を上げる。

「流石に水でダメになっているんじゃないの?」
シャルロの興奮具合に驚いてアレクに尋ねた。

「船首像っていうのは無駄なのに高いんだよ。
そんなものをつける余裕があったと言うことはそれなりに高価な物か人を運んでいたと言うことなのさ」
アレクが説明してくれた。

成程。
ある意味、貨物船ではなく金持ちの人間を運んでいたのでも、装飾品とかでいいモノがあるかもしれないな。
・・・砂の中から探すのが大変そうだが。

しっかし。

シャルロが立て続けに放った水打《ヒタン》の下から姿を現した船は大きかった。
ダッチャスに来て見かけた船の中でも一番大きいのではないだろうか。
まあ、殆ど漁船と短距離商船しか見ていないんだけどね。

水を抜いている間に船の周りを歩いてみる。
マストが無残に折れていたので、これが原因で沈んだようだが、海底にぶつかったときの衝撃からか、船底にかなり大きな亀裂が入っていた。

心眼《サイト》で視たところ、上2階分が客室、真ん中に船員の睡眠スペースとキッチン、そして下2階分が貨物置き場という感じだ。

「先に貨物を確認する?それとも客室から周る?」
2人に確認する。

「先に貨物を見よう。その方が早く大きな範囲をカバーできる」
アレクが提案した。

「ついでに船長室も見ていこうよ」

どうせ船の中に入る為には甲板に上がらなければならず、船長室は直ぐそばだ。
シャルロの希望通り船長室を覗くことにした。

やはり扉が開かない。

「これって丁寧に気をつけて水を抜かなきゃいけない訳?」
先ほどのアレクの台詞を思い出して確認する。

アレクが肩をすくめた。
「ま、考えてみたらどうせ船長室のドアはどれだけ船に歴史的価値があったとしても、再利用できる前に取りかえるだろうからそれ程神経質にならなくってもいいか」

と言うことで急速乾燥。

扉を開けた中は・・・。
最初にみつけた漁船よりは大きい。
大きいが、下町の狭い部屋から中流階級の子供部屋ぐらいの違い。
それ程大きくは無い。

残念ながらこちらは窓があったせいでそこが沈む時に割れたのか、小さなものはかなり流されたらしくあまり部屋に物は見当たらなかった。

「細かい物は流されちゃったみたいだな」
すっきりとした部屋を見ながら俺がコメントした。

「嵐でガラスが割れて風にさらされる危険性はいつでもあったはずだから、基本的に重要なモノは仕舞っていたはず」
アレクがそう言いながら右側の壁に作り付けしてあったらしき机の蓋を外して中を調べ始めた。

「・・・お!これなんてどうかな?」
アレクが3度目に開いた引き出しの奥から何やら出てきた。

アレクの手の中にあったのは、かなり凝ったコンパスだった。
金のケースに宝石がちりばめられている。

錆びない金のケースはまだしも、宝石なんていらないだろうに。
まあ、肌身離さず持っていればもしもの時の非常資金源になるかもしれないけど。

結局、コンパスとブリキのマグと幾つかの金のカフス、そして幾ばくかの現金しか出て来なかった。
「なんだい、小さな商船よりも現金が少ないじゃん」

思わず愚痴った俺にアレクが答えてくれた。
「ある程度以上大きくなれば顔が広くなるからな。つけでなく現金払いをしなければならない状況が少なかったんだろ」

とりあえず船長室はそこで諦め、貨物フロアへ。

またもや水からの膨張で開かなくなった扉をこじ開け、中を覗きこむ。

「花瓶だ!」
思わず声が上がった。

信じられない。
行き当たりばったりだったのに南から陶磁器を運んでいたと言うイーザン号を見つけたのか?!

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