104 / 1,309
魔術学院3年目
103 星暦551年 青の月 20日 調査
しおりを挟む
「・・・何も残っていないね」
シャルロが見事空っぽな倉庫を見回して呟いた。
倉庫を詳細に視て周る。
かなりの人数が出入りしていて詳細が分かりにくいが、少なくとも奥の部屋にいたらしき女性たちは殺されていないようだ。
ここでは。
「サーシャに目撃された時点で撤退を始めたようだな。少なくともここでは誰も殺されていない」
「どこに行ったか分かる?」
何台かの馬車がこの倉庫に出入りしていたようだが・・・。
女性たちは馬車には乗せられていないようだ。
馬車で移動していてくれれば後をつけるのが簡単だったんだけどねぇ。
「残念ながら、船で出て行ったようで、どこに行ったのか分からない。
どんな船を使っていたのか周辺の人間に聞いてみるか・・・角度的に入港・出港する際にしか見えなかっただろうからあまり期待できないが」
中々『良い』作りの倉庫だ。
船着き場が倉庫と壁に隠されるようになっていて、入出港する船着き場以外からは殆ど船が見えない。
密輸入とかする業者が良く使うタイプの倉庫だ。
となったら例え黒幕が実際にここを借りていたとしても契約書は穴だらけで役に立つような情報は載っていないんだろうな。
「人身売買は違法行為だ。警備兵を呼び込まないにしても、とりあえず脅してサーシャの叔父とやらからどこから金を借りたのか聞いたらどうだ?」
アレクが提案する。
奉公契約というのはそれなりに拘束力がある。雇用者は奉公に来た人間に最低限の衣食住を提供しなければならないが、代わりに奉公人は最初に貰う支度金に応じた年数だけ雇用者が認めた休日以外は雇用者の下で働かなければならない。
だから奉公人が自由に出て来られないと言うことは良くあるが・・・。
家族が会いに行けないと言うことは本来あり得ない。
だが、奉公契約が転売された場合は『奉公先が見つからない』というケースはありうる。
奉公契約の形を悪用した人身売買が横行する原因だ。
一応奉公契約の譲渡は奉公人の合意も必要なんだが、そんなもん合意署名の偽造ですんでしまう。
魔術院に訴えれば合意署名が偽造されたものかどうか分かるが、偽造されたような奉公人がそんな表に出られることなんて・・・ほぼ無い。
しかも偽造が証明できない限り、魔術院へ足を運ぶこと自体が『奉公契約違反』ということで警備兵に逮捕されて奉公先へ連れ戻される行為だし。
奉公制度と言うのはちゃんと機能している場合は、衣食住を提供された状況下で働きながら技能を学べる良い手段なんだが悪用が簡単に出来すぎる。
だから親が死んだような社会的弱者は絶対に奉公契約に合意してはいけないんだよね。
それが分かっていたから俺は奉公契約を強要されそうになった時に孤児院から抜け出して盗賊《シーフ》の見習いになった。
「とりあえず、サーシャのご両親がシャルロの実家で以前働いていてお姉さんとシャルロが知り合いだったから会いたい・・・という設定にでもして聞きに行ってみたら?サーシャ一人で聞きに行っても無視されるか下手したら監禁されて奉公契約を偽造されるのが落ちだよ」
「そうだね。じゃあ、僕はサーシャと一緒に行ってみるよ」
「では私はこの周辺の聞き込みを少しやった後、ここの契約から何か見つからないかやってみよう」
「俺はとりあえずここからの馬車でどっか使えるところにたどれないか調べてみる。16の刻に寮の傍の喫茶店で会おうか?」
◆◆◆
「奉公契約が転売されていて、最後にオークションされたということで記録が残ってなかった」
シャルロが肩を落としながら報告した。
ま、当然だな。妹が建物を見ただけでゴロツキ3人で追いかけ回した揚句、そこを撤退するような組織だ。やっていることは確実に違法行為だろう。追ってこられる記録を残している訳が無い。
アレクの方の報告もある意味、想像通りだった。
「この倉庫の契約は現金払いで、契約書に書いてあった住所は国立図書館だったよ」
俺も報告できる成果は無し。
「あそこに来ていた馬車の跡を追っているんだが、まだ役に立つようなところまでたどり着いていない。
少なくとも2台は今日の間に出入りしていたから最終的にはどこかそれらしいところに付くとは思うんだけどね」
最終的には、ね。
だが、今日中に見つけるのは無理だ。
そんでもって明日からは授業。
奨学金生の俺としては赤の他人の姉が奉公制度の下に消えたからと言って授業は休めない。
「とりあえず、午前中の授業だけはでて、午後の学院祭の準備を抜け出しちゃって探索を続けてくれない?ウィルがいないのは僕とアレクとでカバーしておくから」
シャルロがにこやかに提案してきた。
うう~ん・・・。
ちょっと不安なんだが。
「大丈夫かぁ・・・?」
「私が適当に言いくるめるから、安心して探索してくれ」
まあ、アレクの嘘つき能力なら信頼できるか。
シャルロが見事空っぽな倉庫を見回して呟いた。
倉庫を詳細に視て周る。
かなりの人数が出入りしていて詳細が分かりにくいが、少なくとも奥の部屋にいたらしき女性たちは殺されていないようだ。
ここでは。
「サーシャに目撃された時点で撤退を始めたようだな。少なくともここでは誰も殺されていない」
「どこに行ったか分かる?」
何台かの馬車がこの倉庫に出入りしていたようだが・・・。
女性たちは馬車には乗せられていないようだ。
馬車で移動していてくれれば後をつけるのが簡単だったんだけどねぇ。
「残念ながら、船で出て行ったようで、どこに行ったのか分からない。
どんな船を使っていたのか周辺の人間に聞いてみるか・・・角度的に入港・出港する際にしか見えなかっただろうからあまり期待できないが」
中々『良い』作りの倉庫だ。
船着き場が倉庫と壁に隠されるようになっていて、入出港する船着き場以外からは殆ど船が見えない。
密輸入とかする業者が良く使うタイプの倉庫だ。
となったら例え黒幕が実際にここを借りていたとしても契約書は穴だらけで役に立つような情報は載っていないんだろうな。
「人身売買は違法行為だ。警備兵を呼び込まないにしても、とりあえず脅してサーシャの叔父とやらからどこから金を借りたのか聞いたらどうだ?」
アレクが提案する。
奉公契約というのはそれなりに拘束力がある。雇用者は奉公に来た人間に最低限の衣食住を提供しなければならないが、代わりに奉公人は最初に貰う支度金に応じた年数だけ雇用者が認めた休日以外は雇用者の下で働かなければならない。
だから奉公人が自由に出て来られないと言うことは良くあるが・・・。
家族が会いに行けないと言うことは本来あり得ない。
だが、奉公契約が転売された場合は『奉公先が見つからない』というケースはありうる。
奉公契約の形を悪用した人身売買が横行する原因だ。
一応奉公契約の譲渡は奉公人の合意も必要なんだが、そんなもん合意署名の偽造ですんでしまう。
魔術院に訴えれば合意署名が偽造されたものかどうか分かるが、偽造されたような奉公人がそんな表に出られることなんて・・・ほぼ無い。
しかも偽造が証明できない限り、魔術院へ足を運ぶこと自体が『奉公契約違反』ということで警備兵に逮捕されて奉公先へ連れ戻される行為だし。
奉公制度と言うのはちゃんと機能している場合は、衣食住を提供された状況下で働きながら技能を学べる良い手段なんだが悪用が簡単に出来すぎる。
だから親が死んだような社会的弱者は絶対に奉公契約に合意してはいけないんだよね。
それが分かっていたから俺は奉公契約を強要されそうになった時に孤児院から抜け出して盗賊《シーフ》の見習いになった。
「とりあえず、サーシャのご両親がシャルロの実家で以前働いていてお姉さんとシャルロが知り合いだったから会いたい・・・という設定にでもして聞きに行ってみたら?サーシャ一人で聞きに行っても無視されるか下手したら監禁されて奉公契約を偽造されるのが落ちだよ」
「そうだね。じゃあ、僕はサーシャと一緒に行ってみるよ」
「では私はこの周辺の聞き込みを少しやった後、ここの契約から何か見つからないかやってみよう」
「俺はとりあえずここからの馬車でどっか使えるところにたどれないか調べてみる。16の刻に寮の傍の喫茶店で会おうか?」
◆◆◆
「奉公契約が転売されていて、最後にオークションされたということで記録が残ってなかった」
シャルロが肩を落としながら報告した。
ま、当然だな。妹が建物を見ただけでゴロツキ3人で追いかけ回した揚句、そこを撤退するような組織だ。やっていることは確実に違法行為だろう。追ってこられる記録を残している訳が無い。
アレクの方の報告もある意味、想像通りだった。
「この倉庫の契約は現金払いで、契約書に書いてあった住所は国立図書館だったよ」
俺も報告できる成果は無し。
「あそこに来ていた馬車の跡を追っているんだが、まだ役に立つようなところまでたどり着いていない。
少なくとも2台は今日の間に出入りしていたから最終的にはどこかそれらしいところに付くとは思うんだけどね」
最終的には、ね。
だが、今日中に見つけるのは無理だ。
そんでもって明日からは授業。
奨学金生の俺としては赤の他人の姉が奉公制度の下に消えたからと言って授業は休めない。
「とりあえず、午前中の授業だけはでて、午後の学院祭の準備を抜け出しちゃって探索を続けてくれない?ウィルがいないのは僕とアレクとでカバーしておくから」
シャルロがにこやかに提案してきた。
うう~ん・・・。
ちょっと不安なんだが。
「大丈夫かぁ・・・?」
「私が適当に言いくるめるから、安心して探索してくれ」
まあ、アレクの嘘つき能力なら信頼できるか。
1
あなたにおすすめの小説
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした
朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※
落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。
■ ■ ■
毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。
男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。
ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。
男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。
接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。
ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。
たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。
孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。
■ ■ ■
一章までの完結作品を長編化したものになります。
死、残酷描写あり。
↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。
本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。
https://www.pixiv.net/users/656961
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる