134 / 1,309
卒業後
133 星暦552年 紫の月 3日 呼び出し(1)
しおりを挟む
カン、キン!
カン、キン!
槌の音が鍛冶場に響く。
湯沸かし器も終わり、ここのところ休養日も働きづめだった俺たちは5日程休みを取ることにした。
アレクは1日ラフェーンと遠出に行ったものの、その後は書類の決済やら企画査定だかをしに実家へ通っている。
本当に働くのが好きだよねぇ、あいつは。
シャルロは実家に戻って初姪を可愛がりながら、集まった親族とノンビリ時間を過ごしているらしい。
俺と言えば、スタルノの鍛冶場で魔剣作りに再び挑戦中。
シャルロが発見した遮熱性の高い素材を一部利用することで刃先だけ放熱する魔剣を造れないかと思い立ったのだ。
ま、試してみたら硬度が全然足りなくってダメだったから現在試行錯誤中なんだけどね。
5日間で納得できるところまでいかなかったらまたおいおい続けていくつもり。
思うどおりの機能を持つ魔剣なんてそうそう作れるものじゃあない。
折角魔剣で金を稼がなくていいようになったんだ。時間をかけて拘っていきたい。
「ウィル!客だ!!」
スタルノが隣の部屋からどなる。
おや?
アレクかね?
シャルロは俺が家を出る前に実家に戻っていたから俺がここにいるって知らないはずだし。
「落とし物です」
見たことのない男が左手の薬指に穴のあいた手袋を俺に差し出した。
おいおい。
折角の休みなのにギルド召集かよ。
元々、後で一度挨拶に行こうとは思っていたが・・・召集されたら挨拶だけで済むとは思えない。
小さなため息を呑み込みながら手袋を受け取る。
カサリ。
中に何か入っていた。
「態々どうも。」
銅貨を1枚握らせ、中に戻る。
歩きながら差し込まれていた紙を掌の中で開き・・・思わず足が止まった。
『学院長を連れて本部へ至急来たれし』
・・・は???
◆◆◆
「お土産です」
出かけていないかな?と期待しつつ寄ってみた学院長は部屋にいた。
いなけりゃ『急なことで捕まらなかった』と言い抜けが出来たんだけどなぁ。
仮にも特級魔術師を理由も分からずに盗賊ギルドに連れていくっていうのは、かなり嫌なんだが。
多分それなりに重大な理由があるんだろう・・・と思いたい。
「ほう、あの試作品か。そう言えば売りに出たと聞いたな」
「何でしたらコネで割引入荷出来ないか、聞いてみますよ?」
アレクの実家から差し入れられた箱入りのティーバッグを開けて中を眺めていた学院長が顔を上げた。
「何が欲しいんだ?」
信用ないね。
ま、確かに何か欲しい物がなきゃ後で微妙に怖いことになりそうな割引入荷の斡旋なんかしないが。
「俺も良く分からないんですが・・・ギルドの方で、至急学院長と来て欲しいと連絡が来たんですよ。
何分全く付随情報が無いので何と言って説得すればいいのか分からずこちらも困っているんです。
どうします?」
可能性は低いが、下手をしたら学院長の暗殺もしくは監禁目的ということもあり得なくは無い。
どこかほかの国がアファル王国へ攻め込もうとしているのだったら、一応現役と言えるだけの肉体能力を持った特級魔術師は前もって抹殺しておきたい対象だろう。
ただねぇ。
盗賊ギルドにとって戦争は商売の敵。国が平和に豊かになっている方が盗む対象も盗品を買う金持ちも増えるから、特級魔術師を害するようなことに参加するとは思いにくい。
・・・多分。
長ぁ~。
いくら情報の漏えいが怖いからってもう少し背景を教えて欲しかったよ。
もしも学院長を暗殺するって言うんだったら俺を撒きこまないで欲しいし。
もうこの際、学院長が断ってくれるのが一番良い気もするんだよなぁ。
何か早急に手伝ってもらう必要がある事態だったら式神を飛ばして連絡するっていうことにして。
一応俺は学院長の好きなモノを差し出して同行を頼んだんだし。
断られたらどうしようもなかったよね?
うん、それが一番いいな・・・。
「分かった」
おっと。
長への言い訳を考えていたら学院長がコートを席を立ち、コートを取り出していた。
あ~。
罠の可能性もあるからさ、来ない方が俺にとっても都合がいいんだけど。
「最近幾つか不穏な噂を耳にしている。もしもお前の知り合いが何か知っているのならば話を聞いておきたい」
「罠じゃないっていう保証はありませんが?」
「ま、一応用心している特級魔術師を捉えるだけの力がある相手だったらどれだけ警戒していてもそのうちやられるさ」
流石だね~。
何か、戦場で戦った男の自信みたいなものを感じるよ。
俺とギルド両方の為にも、長が変なことを考えていないことを切に願おう。
カン、キン!
槌の音が鍛冶場に響く。
湯沸かし器も終わり、ここのところ休養日も働きづめだった俺たちは5日程休みを取ることにした。
アレクは1日ラフェーンと遠出に行ったものの、その後は書類の決済やら企画査定だかをしに実家へ通っている。
本当に働くのが好きだよねぇ、あいつは。
シャルロは実家に戻って初姪を可愛がりながら、集まった親族とノンビリ時間を過ごしているらしい。
俺と言えば、スタルノの鍛冶場で魔剣作りに再び挑戦中。
シャルロが発見した遮熱性の高い素材を一部利用することで刃先だけ放熱する魔剣を造れないかと思い立ったのだ。
ま、試してみたら硬度が全然足りなくってダメだったから現在試行錯誤中なんだけどね。
5日間で納得できるところまでいかなかったらまたおいおい続けていくつもり。
思うどおりの機能を持つ魔剣なんてそうそう作れるものじゃあない。
折角魔剣で金を稼がなくていいようになったんだ。時間をかけて拘っていきたい。
「ウィル!客だ!!」
スタルノが隣の部屋からどなる。
おや?
アレクかね?
シャルロは俺が家を出る前に実家に戻っていたから俺がここにいるって知らないはずだし。
「落とし物です」
見たことのない男が左手の薬指に穴のあいた手袋を俺に差し出した。
おいおい。
折角の休みなのにギルド召集かよ。
元々、後で一度挨拶に行こうとは思っていたが・・・召集されたら挨拶だけで済むとは思えない。
小さなため息を呑み込みながら手袋を受け取る。
カサリ。
中に何か入っていた。
「態々どうも。」
銅貨を1枚握らせ、中に戻る。
歩きながら差し込まれていた紙を掌の中で開き・・・思わず足が止まった。
『学院長を連れて本部へ至急来たれし』
・・・は???
◆◆◆
「お土産です」
出かけていないかな?と期待しつつ寄ってみた学院長は部屋にいた。
いなけりゃ『急なことで捕まらなかった』と言い抜けが出来たんだけどなぁ。
仮にも特級魔術師を理由も分からずに盗賊ギルドに連れていくっていうのは、かなり嫌なんだが。
多分それなりに重大な理由があるんだろう・・・と思いたい。
「ほう、あの試作品か。そう言えば売りに出たと聞いたな」
「何でしたらコネで割引入荷出来ないか、聞いてみますよ?」
アレクの実家から差し入れられた箱入りのティーバッグを開けて中を眺めていた学院長が顔を上げた。
「何が欲しいんだ?」
信用ないね。
ま、確かに何か欲しい物がなきゃ後で微妙に怖いことになりそうな割引入荷の斡旋なんかしないが。
「俺も良く分からないんですが・・・ギルドの方で、至急学院長と来て欲しいと連絡が来たんですよ。
何分全く付随情報が無いので何と言って説得すればいいのか分からずこちらも困っているんです。
どうします?」
可能性は低いが、下手をしたら学院長の暗殺もしくは監禁目的ということもあり得なくは無い。
どこかほかの国がアファル王国へ攻め込もうとしているのだったら、一応現役と言えるだけの肉体能力を持った特級魔術師は前もって抹殺しておきたい対象だろう。
ただねぇ。
盗賊ギルドにとって戦争は商売の敵。国が平和に豊かになっている方が盗む対象も盗品を買う金持ちも増えるから、特級魔術師を害するようなことに参加するとは思いにくい。
・・・多分。
長ぁ~。
いくら情報の漏えいが怖いからってもう少し背景を教えて欲しかったよ。
もしも学院長を暗殺するって言うんだったら俺を撒きこまないで欲しいし。
もうこの際、学院長が断ってくれるのが一番良い気もするんだよなぁ。
何か早急に手伝ってもらう必要がある事態だったら式神を飛ばして連絡するっていうことにして。
一応俺は学院長の好きなモノを差し出して同行を頼んだんだし。
断られたらどうしようもなかったよね?
うん、それが一番いいな・・・。
「分かった」
おっと。
長への言い訳を考えていたら学院長がコートを席を立ち、コートを取り出していた。
あ~。
罠の可能性もあるからさ、来ない方が俺にとっても都合がいいんだけど。
「最近幾つか不穏な噂を耳にしている。もしもお前の知り合いが何か知っているのならば話を聞いておきたい」
「罠じゃないっていう保証はありませんが?」
「ま、一応用心している特級魔術師を捉えるだけの力がある相手だったらどれだけ警戒していてもそのうちやられるさ」
流石だね~。
何か、戦場で戦った男の自信みたいなものを感じるよ。
俺とギルド両方の為にも、長が変なことを考えていないことを切に願おう。
1
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる