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卒業後
134 星暦552年 紫の月 3日 呼び出し(2)
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名目上ギルドの正メンバーからは抜けた俺は、定期的に変わる本部の位置は知らない。
だが、アスカに王都の下を散策する際についでに長を見かけたら場所を教えてくれと言ってあるので大体の場所は知っている。
長って意外と魔術師や幻獣の心眼には目立つ人なんだよね。
魔術を発現させる能力は無いようだが、生命力・・・というか魔力は魔術師並みにある。
だから使用者の魔力を吸って稼動するような魔具だったら意外といい感じに使いこなせるかも。
・・・ま、それはともかく。
長はここ数日はカナバラ神殿のそばの酒場の下にいた。
俺が一人だったら下水道を通ってでも誰にも見慣れないルートを取るのだが、流石に学院長を連れて下水道を歩くのは躊躇われる。
しょうがないので俺と学院長に擬態をかけて酒場を直接突っ切ることにした。
「お久しぶりです」
護衛に俺の召集状(左の薬指に穴の開いた手袋)を見せ、中に入った。
珍しく机から離れてソファでワインを飲んでいた長に声をかける。
「ハートネット学院長、説明も無く急な呼び出しに応じていただき、ありがとうございました。
ウィルも急に悪かったな」
学院長は小さく肩を竦めただけだった。
「願わくは、最近耳にする不穏な噂に関する答えをもらえると期待しているところだ。何が起きた?」
「どんな噂かは知りませんが・・・あれに関係ありそうですか?」
長がワイングラスで指したのは机の方だった。
反対側に回ったところで、床に転がった青が目に入る。
床に仄かに光る拘束結界の上に、ルシャーナ神の聖印を刻んだ鎖で縛られた、青の姿が。
「一体何が・・・」
長に尋ねようとして、青の異常に気がつく。
何かが青を浸食していた。
『青』というさまざまな色から出来上がった絵に上から薄い墨汁を重ね塗りして色を消していっているかのように、『青』の本質が霞んでいる。
代わりに見えるのは、悪寒を感じさせる・・・何か。
「悪魔憑き・・・か?」
学院長がつぶやいた。
悪魔憑きとは召喚術で呼び出した悪魔を自分もしくは他人に宿らせた状態を示す。
禁忌の一つであり、俺は見たことが無い。
「ハートネット殿もそう思われますか?」
長が疲れたように尋ねた。
「ここ1月ぐらい、人が姿を消しているんですよ。それだけでも嫌な予感を感じさせるのには十分なんですが、更に怖いことに最近、『急に聞き分けが良くなった』と言われる人間が数人いるような気がするんです。
青にもちょっと深読みしすぎだと笑われたんですけどね、一応調べさせていたら・・・。
今朝帰ってきた青が突然近寄ってきたかと思ったら対悪魔拘束結界が作動して、こうなったんです。
しょうがないから慌ててウィルにハートネット殿を呼び出してもらった訳です」
神殿の術というものは術者の能力で具現化するか、かけた後は『信心』というものが無ければあっという間に劣化する。
代わりにこの信心という糧があれば普通の魔術などとは比べ物にならないぐらい長持ちするのだが。
バカなのでない限り、自分の護身用の結界に信じていない神の結界を使ったりしない。
つまり、長は闇の神ルシャーナの信徒なのか。
意外~。
別に、闇の神といっても邪神などではない。
確かに闇の神から発した子神には邪神と化したものもそこそこいるが、ルシャーナ神そのものは健やかな眠りと安らぎを象徴する神として知られている。
ま、盗賊が働きやすいよう、皆に安らかな眠りを賜えて下さい・・・というところかもしれないけど。
「悪魔憑きを払うには、魔術師よりも神官の方が向いている。その結界を張った人間を頼らなかったのか?」
「その知人も、姿を消した人間の一人なんですよ」
疲れたように答えながら長がワインを飲み干した。
自分の保護結界を張らせるほど信用していた知人に加え青まで失ったとなったら確かにショックは大きいだろうな。
「最近妙に聞きわけが良くなった人間って誰のことです?」
ここに実際に悪魔憑きの証拠がいるということは、何かが禁呪で行われているということ。
行動が明らかに変わった人間は真っ先に被害者として調べるべきだろう。
「暗殺ギルドの副長、アレサナ商会の長男、第2騎士団の副団長。
あと、皇太子妃候補のケレナ・ラズバリー嬢」
学院長が唸った。
「暗殺ギルド、王都有数の商会、更に王宮警備担当の騎士団。
極め付けに皇太子妃か?国を乗っ取るつもりなのか・・・。
アレサナ商会の跡取り息子と第2騎士団の副団長の噂だけしか聞いていなくても私は不安を感じていたというのに」
「ケレナ嬢はちょっとしたじゃじゃ馬で、皇太子妃なんて冗談じゃないと言っていたのにある日突然理想的な淑女に変身してラズバリー伯爵夫人を喜ばせたそうですよ」
長が皮肉げに付け加えた。
しっかし。
4人で国を乗っ取ることは出来ないが・・・。
商会と騎士団、皇太子を押さえ、最後の手段として暗殺もありとなると、陰から糸を引く人間はかなり有利に国を操れるかもしれない。
トップの人格が急に変わったら怪しまれるが、トップの片腕だった男が後を継いで上に立った際には少し印象が変わっても『立場が変わって一皮向けた』というところで見逃される可能性は高い。
それを狙って最初からトップから一段下の人間を悪魔を使って入手したとしたら・・・恐るべき計画能力と言わなければならない。
悪魔憑きもしくは悪魔による人のコントロールって解除できるんだっけ?
こういう禁呪は授業でもさらっとしかやら無かったから覚えていない。
ほんの3年の間に2回も禁呪にぶち当たるなんて、実は禁呪って思っていたよりもメジャーなのかもしれない。
・・・一度、きっちり対応策に関して調べておく方がいいかもしれないな。
だが、アスカに王都の下を散策する際についでに長を見かけたら場所を教えてくれと言ってあるので大体の場所は知っている。
長って意外と魔術師や幻獣の心眼には目立つ人なんだよね。
魔術を発現させる能力は無いようだが、生命力・・・というか魔力は魔術師並みにある。
だから使用者の魔力を吸って稼動するような魔具だったら意外といい感じに使いこなせるかも。
・・・ま、それはともかく。
長はここ数日はカナバラ神殿のそばの酒場の下にいた。
俺が一人だったら下水道を通ってでも誰にも見慣れないルートを取るのだが、流石に学院長を連れて下水道を歩くのは躊躇われる。
しょうがないので俺と学院長に擬態をかけて酒場を直接突っ切ることにした。
「お久しぶりです」
護衛に俺の召集状(左の薬指に穴の開いた手袋)を見せ、中に入った。
珍しく机から離れてソファでワインを飲んでいた長に声をかける。
「ハートネット学院長、説明も無く急な呼び出しに応じていただき、ありがとうございました。
ウィルも急に悪かったな」
学院長は小さく肩を竦めただけだった。
「願わくは、最近耳にする不穏な噂に関する答えをもらえると期待しているところだ。何が起きた?」
「どんな噂かは知りませんが・・・あれに関係ありそうですか?」
長がワイングラスで指したのは机の方だった。
反対側に回ったところで、床に転がった青が目に入る。
床に仄かに光る拘束結界の上に、ルシャーナ神の聖印を刻んだ鎖で縛られた、青の姿が。
「一体何が・・・」
長に尋ねようとして、青の異常に気がつく。
何かが青を浸食していた。
『青』というさまざまな色から出来上がった絵に上から薄い墨汁を重ね塗りして色を消していっているかのように、『青』の本質が霞んでいる。
代わりに見えるのは、悪寒を感じさせる・・・何か。
「悪魔憑き・・・か?」
学院長がつぶやいた。
悪魔憑きとは召喚術で呼び出した悪魔を自分もしくは他人に宿らせた状態を示す。
禁忌の一つであり、俺は見たことが無い。
「ハートネット殿もそう思われますか?」
長が疲れたように尋ねた。
「ここ1月ぐらい、人が姿を消しているんですよ。それだけでも嫌な予感を感じさせるのには十分なんですが、更に怖いことに最近、『急に聞き分けが良くなった』と言われる人間が数人いるような気がするんです。
青にもちょっと深読みしすぎだと笑われたんですけどね、一応調べさせていたら・・・。
今朝帰ってきた青が突然近寄ってきたかと思ったら対悪魔拘束結界が作動して、こうなったんです。
しょうがないから慌ててウィルにハートネット殿を呼び出してもらった訳です」
神殿の術というものは術者の能力で具現化するか、かけた後は『信心』というものが無ければあっという間に劣化する。
代わりにこの信心という糧があれば普通の魔術などとは比べ物にならないぐらい長持ちするのだが。
バカなのでない限り、自分の護身用の結界に信じていない神の結界を使ったりしない。
つまり、長は闇の神ルシャーナの信徒なのか。
意外~。
別に、闇の神といっても邪神などではない。
確かに闇の神から発した子神には邪神と化したものもそこそこいるが、ルシャーナ神そのものは健やかな眠りと安らぎを象徴する神として知られている。
ま、盗賊が働きやすいよう、皆に安らかな眠りを賜えて下さい・・・というところかもしれないけど。
「悪魔憑きを払うには、魔術師よりも神官の方が向いている。その結界を張った人間を頼らなかったのか?」
「その知人も、姿を消した人間の一人なんですよ」
疲れたように答えながら長がワインを飲み干した。
自分の保護結界を張らせるほど信用していた知人に加え青まで失ったとなったら確かにショックは大きいだろうな。
「最近妙に聞きわけが良くなった人間って誰のことです?」
ここに実際に悪魔憑きの証拠がいるということは、何かが禁呪で行われているということ。
行動が明らかに変わった人間は真っ先に被害者として調べるべきだろう。
「暗殺ギルドの副長、アレサナ商会の長男、第2騎士団の副団長。
あと、皇太子妃候補のケレナ・ラズバリー嬢」
学院長が唸った。
「暗殺ギルド、王都有数の商会、更に王宮警備担当の騎士団。
極め付けに皇太子妃か?国を乗っ取るつもりなのか・・・。
アレサナ商会の跡取り息子と第2騎士団の副団長の噂だけしか聞いていなくても私は不安を感じていたというのに」
「ケレナ嬢はちょっとしたじゃじゃ馬で、皇太子妃なんて冗談じゃないと言っていたのにある日突然理想的な淑女に変身してラズバリー伯爵夫人を喜ばせたそうですよ」
長が皮肉げに付け加えた。
しっかし。
4人で国を乗っ取ることは出来ないが・・・。
商会と騎士団、皇太子を押さえ、最後の手段として暗殺もありとなると、陰から糸を引く人間はかなり有利に国を操れるかもしれない。
トップの人格が急に変わったら怪しまれるが、トップの片腕だった男が後を継いで上に立った際には少し印象が変わっても『立場が変わって一皮向けた』というところで見逃される可能性は高い。
それを狙って最初からトップから一段下の人間を悪魔を使って入手したとしたら・・・恐るべき計画能力と言わなければならない。
悪魔憑きもしくは悪魔による人のコントロールって解除できるんだっけ?
こういう禁呪は授業でもさらっとしかやら無かったから覚えていない。
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