シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

158 星暦552年 青の月 18日 飛ぶ?(7)

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本人の強い希望と、一番安全(何と言ってもいざとなれば絶対に蒼流に助けてもらえるから)であるということで、シャルロが試作機第一号に乗ってみることになった。

今まで小型の試作機で試してきた形の骨組みを質量軽減の術回路付きで俺が鍛え、それに生地を張り付けた後に台を固定する。台には違うタイプの質量軽減の術回路をつけた。
最終的なモノはここまで魔力をかけるつもりは無いが、とりあえず殆ど質量が無いぐらいに質量軽減の術回路には魔力を注ぎ込み、効率の悪い浮力の術回路はおまけ程度にしてみた。

スケールとしてはどのくらいのサイズがいいのか分からなかったので、とりあえず両手を広げたぐらいの幅で作ってみることになった。

で。
試乗。
丘の上にでも登って試すのが一番常識的な方法なのだろうが、誰も待ち切れなかったのでシャルロが蒼流の友達の風精霊に頼んで一気に上空まで上げてもらうことにした。
勿論、蒼流には何かあったら安全に着地できるよう、前もって頼んであるし、試作機・シャルロ両方に念入りに保護結界をかけたから蒼流の助けなしでも落ちても怪我はしない・・・はず。

「じゃあ、行ってきます~!」
シャルロが元気いっぱいに手を振ってから台に乗り込み、ベルトを締めてから精霊に「お願い」と声をかけた。
俺が学院で頼んだ時とは天地の差の丁寧さで試作機とシャルロが上がっていく。

ううむ。
流石シャルロ。
風精霊も親切だなぁ。あれだったら別に頑張って道具を作らなくてもケレナを精霊に頼んで空の散歩に連れて行けたじゃん。

なんて思っていたら、試乗機の上昇が止まった。
どうやら、最初に頼んでいた高度までついたらしい。

さて、試乗機はちゃんと空を滑るのか。

一瞬、それは空中に凍りついたかのように停止していたが、やがて優雅に前へ滑り始めた。
「「よし!!」」
俺とアレクが思わず一緒に歓声を上げていた。

「いい感じに動いているじゃないか。流石アレクとシャルロがデザインしただけあるな」
「ウィルのアイディアと骨組みのお陰でここまでたどり着けたんだ、やはり我々は3人そろうと何でも出来そうだな」
お互いに褒め合いながら空を滑っている試乗機を見守る。

良い感じだ。
俺も、是非次に試作機に乗ってみたいな。
・・・なんて思っていたら、突然試作機がゴロゴロゴロ!!!と言う感じに空の上で転がった。

「え????」
思わず、驚きの声が漏れた。
アレクなんて驚きのあまり、声すら出ていない感じだ。

30メタ程(多分)横へ転がったと思ったら一瞬、試乗機が3メタ程すとっと下へ直落。
幾ら安全なはずと思っていても、思わず心臓が凍るかと思ったよ。
だが、3メタ程落ちた後はまた水平に戻り、空を滑り始めた。

「・・・何だったんだ、今のは?」
アレクが茫然と呟く。

「安定性がイマイチなのかも?」
考えてみたら、海を航海する船だって、それなりに重さと低い目の重心が無いと波に滅茶苦茶にもみくちゃにされると以前遊びに行った港町のおっちゃんが言っていた。

今回は『空に浮く』と言うことを重視しすぎて、質量軽減と浮力の術回路に力を入れ過ぎたのかもしれない。
「・・・そうか、重し代わりに重量が必要なのに、それまで打ち消してしまったのが悪いのかもしれないな」
アレクも同じ結論に達したようだ。

「とりあえず、少し術回路の効力を下げてもう一度試してみよう」
俺の提案に、アレクが首を横に振った。
「いや、術回路の効力を下げる前に、どんなデザインだったら横からの風に安定性を持てるのか調べてみよう。小型モデルでデザインを考えていた時は横からの風と言うモノを考慮せずにほぼ無風状態で試していた。効率的に飛ばす為に前向きの空気抵抗は出来るだけ無くしたが、横からの風と言うモノは全く考慮していなかったんだ。少し先にそっちを研究した方が効率的だと思う」

成程。
横からの風って確かに考えていなかったな。何と言っても殆ど無風状態な工房の中で試していたし。

そんなことを話していたら、やがてゆっくりとまっすぐにシャルロが下りてきた。
どうやら、空を散策するのは諦めて、精霊に頼んで下におろしてもらったようだ。

「大丈夫か?」
「寒い!!!!!」
ガチガチを震えて刃を鳴らしながら、シャルロがやっとこさ答えた。

「とりあえず、工房に入って温まりながら話し合おう」
アレクがシャルロの腕を引っ張りながら工房へ向かう。

おいてきぼりになった試乗機を俺が引っ張っていくことになった。

ち。

◆◆◆


「軽すぎるってダメなんだね。
最初は良い感じに動いていたんだけど、風が横向きになった途端に転がっちゃって。
考えてみたらあのデザインって横からの空気抵抗に関してあまり考えていなかったよね。
あと。
上空って寒い!!!!!」

ホットワインをゆっくりと飲みながらシャルロが報告した。

ふむ。
寒いのか。
ちょっと意外かも。

「何で?」
思わず変な質問をしてしまった。

「山の上もここら辺よりも寒い。何らかの理由で、高度があがると気温と言うのは下がるものだと思った方がいいのかもな」
アレクがイマイチ説明にならないことを言ってきた。

結果論よりも理由を知りたくて口にした疑問だったんだけどねぇ~。
ま、いいか。
「じゃあ、台の方に温暖用の術回路も組み込む必要があるな」
シャルロと話している俺を無視して、アレクは既にミニモデルを宙に浮かせて先日作った巨大扇で風を煽り始めていた。
あっさりミニモデルが宙を転がっていった。

何度もミニモデルの形を弄って出来るだけ水平にしたり、窪みをつけてみたり、反対向きに丸みをつけてみたりと色々やってみたが、どんな形にしても都合の悪い風を当てると転がる。

1日かけて転がしまくった結果。
「ダメだな。重さって安定させる為に必要な様だ。
残念ながら質量軽減を使わずに、浮力だけ上げて飛ばさないといけないようだ」
という結論に達した。

あ~あ。
イマイチ浮力の術回路って出力が弱いし魔石の利用効率が悪いんだよねぇ。

どうしたものか・・・。

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