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卒業後
524 星暦555年 赤の月 30日 確認作業は重要です(3)
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「おお、お久しぶりですな!
もうそろそろ記録の確認に現れるかと思って準備をしておいたのだが、それが無駄にならなくって良かった!」
大きな笑みを浮かべながらジャレットが俺達をむかえてくれた。
ははは。
確認に来ると思って準備してたんだ~。
まあ、流石に初年度から後ろ暗い事はしないよな。
それに、商業省に重要な新規交易ルートの新しい補給島の開発責任者として選ばれたのだ。ジャレットが有能かつ誠実な男である可能性はそこそこ高い。
奥さんも居るんだから若い女に入れ込んで金が必要になって悪事をすると言うことも無いだろうし。
「ははは、準備していたんですね。
ではきっと直ぐに終わるでしょうから、さっと一通り確認したら土木作業でも何でも手伝いますので考えておいて下さい」
アレクが微苦笑しながら答えた。
抜き打ち検査に来て、『来るのを待ってました』と言われたらちょっと反応に困るよな。
まあ、アレクだって元々ジャレットが悪事をしているとは思っていなかったんだろうし。
じゃなきゃ幾ら俺達がバタバタしてたからって年度末の報告の締め切りが終わってから来ようなんて言わないだろう。
取り敢えず、アレクに書類の確認を任せ(流石に彼1人にやらせるのも悪いからシャルロに色々教えながらと言う形にしている)、俺はジャレットとパストン島の最近の様子を聞いていた。
「へぇ~、もう防壁の外の畑から収穫が出来るようになったとは。
と言うことは、大分自給出来るようになってきた?
でもまあ、船を補給する為に保存食の輸入は必要だろうけど」
農作物って数ヶ月で収穫できるもんなんだ?
はっきり言って畑とは全く縁が無い生活を送ってきたので、農作物の収穫にどの位時間が掛るのかなんて考えてもいなかった。
「土竜《ジャイアント・モール》に耕され、ユニコーンに祝福された土地だからね。
普通の開拓地だったら最低でも2~3年は土を作るのに掛るんだが、農業担当者が呆れるぐらい土の状態が良くなったから直ぐに収穫できるようになったんだ。
お陰で農業予算が大分浮いたから、他の建築作業が進んで助かったよ」
ニコニコと笑いながらジャレットが答えた。
なるほど。
土の幻獣が畑にするために耕したら多分それなりに良くなるんだろう。
ユニコーンの権能がどんな感じなのかは知らないが、あれも植物に関しては大分詳しいみたいだから、そっち方面の加護効果があるんだろうし。
「もっと畑を広げておく?
アスカに頼んでちゃちゃっとやる分にはそれ程時間は掛らないぜ。
・・・もっとも、農作業をする人間が足りないかな?」
新規開発中の補給島なのだ。
将来的には補給する食糧も育てられる場所になる事が期待されているが、暫くは港関係の人間がメインで、農業に関しては本国なり東の大陸なりから農家の求人に答える人がそれなりに出てくるまでは収穫量をある程度以上増やすことは難しいだろう。
農業って労働集約型だとどっかで聞いたし。
牛とかがいれば代わりに使えるらしいが、そこまで沢山は連れてきてない・・・はず。
それとも、ラフェーンが船の上で宥めすかして連れてきた牛とかもがっつり増えているのかな?
牛ってどの位の早さで繁殖するんだ??
そんなことを考えていたら、ジャレットが少し顔をしかめた。
「防壁の外へ農業の手伝いをすると言って出て行く労働者の数はそれなりに多いんだが・・・妙にそれが作業効率に繋がっていないようなんだ。
だから人数だけだったらもっと畑を増やしてもらえれば嬉しいところなのだが、あの作業効率だったらちゃんと畑を耕して収穫できない可能性が高いかな」
ふうん?
船乗りが港で休んでいる間にちょっと気分転換に外で働こうとしてあまりうまく出来てないとか?
でも、入港した船乗りは酒を飲むのと二日酔いに忙しくて、とても畑作業の手伝いをして小遣い稼ぎをする時間や気力があるとは思えない。
「もしかして、畑作業の手伝いをするといって防壁の外に出ているけど、実はそのまま奥地に進んで鉱山でも探しているとか?」
元々、この島は国の直轄地だ。
例え鉱山を発見しても所有権その物は国の物になる。
でも、発見すれば鉱山から出荷された鉱物の売上に対してある程度の利益を受け取る権利は付与されるから、そういう一攫千金を狙う輩もいるらしい。
ただね~。
既にアスカに『人間が使うような鉱物や宝石系の岩石』が無い事は確認しているから、探すだけ無駄なんだけど。
ジャレットが突然立ち上がって何やら帳簿を取り出してめくり始めた。
「その可能性はあるかもな。
考えてみたら、『畑作業の手伝い』という名目で防壁の外に出た人間の数と、畑作業の手伝いに対する支払いが一致しているか確認してなかった」
おお~。
そう言う数字も繋がるはずなのか。
数字って偉大だな。
これも一種の魔術みたいだ。
-------------------------------------------------------------
ちょっとまだ前座的な話です。
もうそろそろ記録の確認に現れるかと思って準備をしておいたのだが、それが無駄にならなくって良かった!」
大きな笑みを浮かべながらジャレットが俺達をむかえてくれた。
ははは。
確認に来ると思って準備してたんだ~。
まあ、流石に初年度から後ろ暗い事はしないよな。
それに、商業省に重要な新規交易ルートの新しい補給島の開発責任者として選ばれたのだ。ジャレットが有能かつ誠実な男である可能性はそこそこ高い。
奥さんも居るんだから若い女に入れ込んで金が必要になって悪事をすると言うことも無いだろうし。
「ははは、準備していたんですね。
ではきっと直ぐに終わるでしょうから、さっと一通り確認したら土木作業でも何でも手伝いますので考えておいて下さい」
アレクが微苦笑しながら答えた。
抜き打ち検査に来て、『来るのを待ってました』と言われたらちょっと反応に困るよな。
まあ、アレクだって元々ジャレットが悪事をしているとは思っていなかったんだろうし。
じゃなきゃ幾ら俺達がバタバタしてたからって年度末の報告の締め切りが終わってから来ようなんて言わないだろう。
取り敢えず、アレクに書類の確認を任せ(流石に彼1人にやらせるのも悪いからシャルロに色々教えながらと言う形にしている)、俺はジャレットとパストン島の最近の様子を聞いていた。
「へぇ~、もう防壁の外の畑から収穫が出来るようになったとは。
と言うことは、大分自給出来るようになってきた?
でもまあ、船を補給する為に保存食の輸入は必要だろうけど」
農作物って数ヶ月で収穫できるもんなんだ?
はっきり言って畑とは全く縁が無い生活を送ってきたので、農作物の収穫にどの位時間が掛るのかなんて考えてもいなかった。
「土竜《ジャイアント・モール》に耕され、ユニコーンに祝福された土地だからね。
普通の開拓地だったら最低でも2~3年は土を作るのに掛るんだが、農業担当者が呆れるぐらい土の状態が良くなったから直ぐに収穫できるようになったんだ。
お陰で農業予算が大分浮いたから、他の建築作業が進んで助かったよ」
ニコニコと笑いながらジャレットが答えた。
なるほど。
土の幻獣が畑にするために耕したら多分それなりに良くなるんだろう。
ユニコーンの権能がどんな感じなのかは知らないが、あれも植物に関しては大分詳しいみたいだから、そっち方面の加護効果があるんだろうし。
「もっと畑を広げておく?
アスカに頼んでちゃちゃっとやる分にはそれ程時間は掛らないぜ。
・・・もっとも、農作業をする人間が足りないかな?」
新規開発中の補給島なのだ。
将来的には補給する食糧も育てられる場所になる事が期待されているが、暫くは港関係の人間がメインで、農業に関しては本国なり東の大陸なりから農家の求人に答える人がそれなりに出てくるまでは収穫量をある程度以上増やすことは難しいだろう。
農業って労働集約型だとどっかで聞いたし。
牛とかがいれば代わりに使えるらしいが、そこまで沢山は連れてきてない・・・はず。
それとも、ラフェーンが船の上で宥めすかして連れてきた牛とかもがっつり増えているのかな?
牛ってどの位の早さで繁殖するんだ??
そんなことを考えていたら、ジャレットが少し顔をしかめた。
「防壁の外へ農業の手伝いをすると言って出て行く労働者の数はそれなりに多いんだが・・・妙にそれが作業効率に繋がっていないようなんだ。
だから人数だけだったらもっと畑を増やしてもらえれば嬉しいところなのだが、あの作業効率だったらちゃんと畑を耕して収穫できない可能性が高いかな」
ふうん?
船乗りが港で休んでいる間にちょっと気分転換に外で働こうとしてあまりうまく出来てないとか?
でも、入港した船乗りは酒を飲むのと二日酔いに忙しくて、とても畑作業の手伝いをして小遣い稼ぎをする時間や気力があるとは思えない。
「もしかして、畑作業の手伝いをするといって防壁の外に出ているけど、実はそのまま奥地に進んで鉱山でも探しているとか?」
元々、この島は国の直轄地だ。
例え鉱山を発見しても所有権その物は国の物になる。
でも、発見すれば鉱山から出荷された鉱物の売上に対してある程度の利益を受け取る権利は付与されるから、そういう一攫千金を狙う輩もいるらしい。
ただね~。
既にアスカに『人間が使うような鉱物や宝石系の岩石』が無い事は確認しているから、探すだけ無駄なんだけど。
ジャレットが突然立ち上がって何やら帳簿を取り出してめくり始めた。
「その可能性はあるかもな。
考えてみたら、『畑作業の手伝い』という名目で防壁の外に出た人間の数と、畑作業の手伝いに対する支払いが一致しているか確認してなかった」
おお~。
そう言う数字も繋がるはずなのか。
数字って偉大だな。
これも一種の魔術みたいだ。
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ちょっとまだ前座的な話です。
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