シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
186 / 1,309
卒業後

185 星暦552年 黄の月 11日 仲良し3人組(2)

しおりを挟む
今度は再び学院長の視点です

---------------------------------------------------------------------------


「はい、どうぞ」
ソファに座りながら、ウィルがスーツケースをニルキーニの方へ押してよこした。

先日の皇太子手紙事件の際に見せられた携帯用通信機が面白そうだったので一つ買うことにしたのだ。
それを何かの拍子で話題に上げたら、魔具製造担当のニルキーニが非常に興味を示したのでウィルが持ってくる際にその説明をニルキーニも聞かせてもらうことになった。

早速ニルキーニがスーツケースを開く。
「ほう、これが携帯式通信機か。思ったよりも軽いな」

「ああ、重さに関しては質量軽減の術回路も入れてあるんで。元々空滑機グライダーに乗っている時にお互いと話し合えないのが不便だと言うことで始めた研究だったんで、軽くするというのは必要絶対条件だったんですよ」
ウィルが私からお茶を受け取りながら答えた。

「それで、どの位の距離で会話が出来るのかね?」
中のカバーを外し、術回路となんだか分からない分からない金属片やら色んな物が入り繰った中身を丹念に見つめながらニルキーニが尋ねる。

流石、魔具製造担当教師だ。熱意が違う。
私だったらどう機能するかに興味があり、いわば動けば良いと言うところなのだが、ニルキーニは通話を楽しむ前に中を調べている。
・・・これでは、下手をしたら使う前に分解されてしまいそうな勢いだ。

そうなったら給料から天引きしてやろう。

「え~とまあ、内部の構造に関しては一応企業秘密なんて、使い方だけ説明させてもらいます。
これが動力源の魔石。切れたら魔力を充填するか新しい魔石を入れて下さい。こちらは通話先を設定する為の魔石。相手の持っている魔石と予め同調させておいて使います。違う相手と話し合い時はこれを入れ変えるだけです。
一応最初から10個程通話先指定用の魔石が入っていますし、この魔石は何度でも同調しなおすことが可能ですが、更に数が必要になったら自分で購入して下さい。普通の魔石でも大丈夫ですが、水晶系の魔石の方が音がいいです」

スーツケースの上部にある小さな箱から水晶がベースになった魔石を取り出し、ウィルはそれを会話用の端末の方へ嵌めこんだ。

「とりあえず、これはウチの通話端末に同調してありますので、お見せしますね」
その言葉とともに、ウィルが端末の右にあるスイッチを入れる。
柔らかい音が端末機から流れた。
「これは相手への呼び出し音が聞こえています。
相手の端末の待機用ケースにこちらの魔石と同調させた物が入っていれば、呼び出し音は鳴るようになっています。完全に外して別のところに置いている場合はどうにもなりませんが」

『お、着いたか?』
端末からアレク・シェフィートの声が聞こえてきた。

「アレクか、久しぶりだな」
ニルキーニが端末機へ話しかける。
「・・・ニルキーニ先生ですか、お久しぶりです。面白いおもちゃでしょう?よろしかったら割引販売いたしますよ?今のところあまり端末機を持っている人がいないので通話できる相手が限られていますが、近いうちに使える相手も激増すると思いますし」

シェフィートが滑らかに売り込みを始めた。
「こらこら、売り込みをしないでくれ。ところで、人からかかってきた時の呼び出し音も聞きたいからそちらから通話を呼びかけてくれないかね?」

新しいおもちゃの誘惑に引きずり込まれそうになったニルキーニから端末を取り上げ、、リクエストする。
それなりの高給を払っていると言うのにニルキーニがいつも金欠病なのは、この新しい物好きな性根が諸悪の根源だ。
本人もそれを認めているって言うのに、こういう場面であっさり誘惑されてしまうのは困ったものだ。

「分かりました。アレク、切るからかけ直してくれ」
ウィルが端末を受け取り、右のスイッチを押してから水晶ベースの魔石を待機用と説明した箱へ魔石を戻した。

りんご~ん。
柔らかい音が部屋に響いた。
ウィルが待機用の箱から魔石を取り出し、端末へ嵌めこんで右スイッチを入れる。
「ありがと、アレク。」

会話が切れた後にも、更に使い方の詳しい説明をウィルが続けた。
「これってリビングとかには置かない方がいいと思いますよ。来客中や考えことをしている時に問答無用で突然話しかけられて邪魔をされるのはそれなりに苛立たしいし、待機用の箱に入れていた魔石の同調先の人は向こうからこちらの会話がある程度聞き取れてしまうので」

ふんふんと使い方の説明を聞き流していたのだが、これは・・・困る。
「盗み聞きに最高な魔具だな」

「だから一応、人に渡す際には音が漏れますよって警告しているんですよ。現時点ではそれ程多数が出回っていないので被害も少ないと思いますが、これがもっと広く出回った際にはどうやって盗聴をさせないかは重要な課題になってくると思います」
肩をすくめながらウィルが答えた。

まあ、どれほど優れていようと都合の悪い機能があろうが、道具は道具だ。
作った者の意図とは関係なしに、便利なツールと言うのは悪事にも便利に使われてしまうのだろう。

・・・考えてみたら、皇太子の部屋や王宮の会議室にこの端末をさり気無く置いておけば盗聴やり放題じゃないか。
王宮と軍の警備部門に何らかの対抗策を考えさせた方がいいな。

「通話の距離と魔石の消耗はほぼ比例しています。遠くと話せば話すほど、魔石が早く消耗します。大体王都の端のノルデ村から反対側の郊外の町までの通話で丸々1日程度話していたら魔石の魔力が無くなります。王都のシェフィート本店からここぐらいまで位の距離だったら3日程度と言うところですかね。
スーツケースの方はここに置いて教室でもぎりぎり使えるかな・・・と言うところですかね。ただし、本体と端末の距離を離して使うと音が悪くなります。
ま、何か質問があったらいつでも言って下さい」

お茶を終わらせてウィルが立ち上がろうとしたが、ニルキーニがあれやこれやと質問を投げかけたのでやがてウィルは座りなおしていた。

・・・幾ら興味を示したからってニルキーニを呼んだのは悪かったかな?
ま、こいつも魔具好きな仲間が多いから、うまくいけば商品購入がそれなりに起きるかもしれないから、それで負けておいて貰おう。


しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...