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卒業後
216 星歴553年 紫の月7日 手伝い再び(6)
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「どうやら、匂いのタイプに関係なしに、消してくれるみたいだね」
カレーを暫く火にかけていた燻製小屋に頭を突っ込んで匂いを嗅いでいたシャルロが満足げに頷いた。
「そうだな。
次は、これが匂いを消しているだけなのか、実際に空気を換気なりなんなりして一定の状態に保っているのか試そう」
アレクも頷く。
そう、次は空気の入れ替えというか、気密性を高めて火を焚いても弊害が無いかの確認だ。
「よし、シャルロいけ!思いっきり魔力を込めて防音の術をかけるんだ!」
俺が冗談交じりに命じたら、シャルロが本気になって力を籠め始めた。
「よ~し、これでどうだ!」
おいおい。
シャルロが思いっきり魔力を込めた術は、まるで軍事用防御結界のように強固に燻製小屋を覆った。
この状態だったら、もしも何かが起きてこの家に攻撃魔法の爆撃を受けても、この小屋だけは無事に無傷で残りそうだ。
もともと防音の術というのは「音の伝達をある程度防ぐもの」で、空気の伝達までは止めてしまわないように魔力を籠めすぎぬよう意識するものなのだが、意識しないとここまで強固な結果になるのか。
中の火をガラス越しに見ていて、ふと換気の魔術回路の変化に気が付いた。
「へぇ。
何か、今までと違う部分で魔力を使っているぞ。
普段の状態だと匂いを消しているだけで換気はしていないのかな?」
「そうなんだ。でも、考えてみたらこの換気の術が無かったら何分で火が消えるか確認するの忘れていたね」
しゃがみ込んでガラス越しに魔術回路を見ながらシャルロがつぶやいた。
普通に見たところであまり魔力は見えないと思うが。
「まあ、換気なしで5分で空気が足りなくなって火が消えるのが、20分で消えるという程度の変化じゃあ実質的には売り物にはならないからね。
最低でも一晩、出来ればまるまる2日ぐらいは普通の魔石から供給する魔力で換気できるようじゃないと換気の機能で売り込むには危険だ」
アレクが肩をすくめた。
「じゃあ、もう少し燃料を持ってきて長期的な確認だな」
燃料を取りに倉庫へ行こうとした瞬間、魔術回路の魔力が消えた。
「あ」
「「うん?」」
「魔石の魔力が尽きたわ。
考えてみたら、最初からずっと同じのを使っていたし。
とりあえず、同じ程度の魔力を込めた魔石を使ってここでの集中換気のテストと、普通に台所でも窓を開ける換気の代わりに使ってもらってどのくらい魔石の寿命が違うかの確認もしよう」
◆◆◆◆
魔石を付け替え、火を入れて耐久テストを始め、台所にも換気用魔術回路を設置した後、1時間おきに交互に燻製小屋の魔術回路の状態を確認することを決めた俺たちは各々好きなことをやり始めた。
「12刻、まだ火が残っている、と」
燻製小屋の扉のところに掛けてあった紙に記録をつける。
それなりに続いているな。魔石もそこまで消耗している様子ではないので、思っていたよりも魔力を使わないのかもしれない。
そこまで複雑な構造でもないし、これだったら普通の家庭でも使える値段で売れるかな?
普通に使用した際にどのくらいもつのかの耐久テストも必要だが。
さっさと売り出したいのに、通常の家庭で使っていたらどのくらいで魔石が尽きるのか調べるのに何週間とか何か月もかかったら面倒だな。
ごくごく小さく安い魔石を使ってテストして、半年か1年ぐらいもつのに必要と想定される魔力を含有する魔石をつけて売り出すか?
想定よりもたなくても、半年以内に切れたら魔力を再充填しますと保証しておけばいいだろう。
そんなことを考えていたら、ぽこっと足元の地面が開いて、土竜の頭が出てきた。
『久しぶりだの』
「あれ、アスカ久しぶり。ここんとこ見なかったけど、どこに行っていたの?」
学生の時に召喚した土竜のアスカは、郊外でなら乗ったり物を運ぶのを手伝ったりしてくれるしユニコーンのラフェーンと違ってあまり一緒にやることがない。特に空滑機が出来てからは、いくら馬と同じ程度の速度で動けるとはいっても土の中を移動するのって違和感があるから転移門を使わない程度の距離の移動も頼まなくなったし。
なので最近は色々自分の興味があるところにアスカは出かけ、たまに帰ってきたら見つけた面白いモノを見せてくれたりお土産にくれたりしている。
『山の方に行っていた。
鉱山で掘っていて温かい水が出る層にあたった場所があってな。気持ちよく浸かってきた』
へぇ。
幻獣でも寒さとか温かさとか、感じるんだ。
「寒いなら、工房の炉の傍にいると温かいぞ?」
『いや、別に寒くても平気だ。だが、たまには温かい水に浸かるのも気持ちがいいだけだ。
ウィルは何をやっているのだ?』
ふうん。寒いのは平気なんだ?
まあ、土の下って地上よりは温度の変動が少ないらしいしな。
「ま、いいけど。ちょっと換気の魔術回路を再現してね。
完全に空気を隔離した状態で火をつけてどのくらい空気を保てるか、実験しているところ」
『ほう。
鉱山などでは稀に空気に毒が混じって困ることがあるようだが、それは毒も浄化できるのか?』
どうなんだろ?
匂いとか煙と毒は同じ扱いになるのだろうか?
まあ、有害度で云ったらさらに高いんだから、換気というか洗浄というか、出来るならして欲しいものだよな。
鉱山に売りつけられたら更に市場が広がるし。
「毒の空気ってどんなの?」
『どんな・・・と言ってもな。毒だ。ほんの少し吸っただけで人が死んでしまうのもあれば、単に息苦しくなってそのうち気を失ってしまう程度の物もある。
あちらの小屋に出して見せようか?』
シャルロの術をかけていないほうの小屋を示しながらアスカが言った。
「え、毒の空気なんて出せるの?」
『我は地の下の幻獣。地の下にある物はある程度の再現もコントロールも出来るぞ』
空気が『物』なのかは知らんが、便利だな。
・・・これってつまり、土を農作物に適したように変えたり、ただの岩を鉱物に変えたりできるのかな??
まあ、そんな金儲けの手段の為に使おうとしたら多分召喚契約を切って姿を消しちゃいそうだけど。
お土産として価値のある物を向うが自発的に与えるのはいいが、「くれ」と幻獣に対して請求するのはあまり勧められないと魔術学院でも習ったしな。
それはともかく。
鉱山とかでも使えるのかも、要確認だな。
カレーを暫く火にかけていた燻製小屋に頭を突っ込んで匂いを嗅いでいたシャルロが満足げに頷いた。
「そうだな。
次は、これが匂いを消しているだけなのか、実際に空気を換気なりなんなりして一定の状態に保っているのか試そう」
アレクも頷く。
そう、次は空気の入れ替えというか、気密性を高めて火を焚いても弊害が無いかの確認だ。
「よし、シャルロいけ!思いっきり魔力を込めて防音の術をかけるんだ!」
俺が冗談交じりに命じたら、シャルロが本気になって力を籠め始めた。
「よ~し、これでどうだ!」
おいおい。
シャルロが思いっきり魔力を込めた術は、まるで軍事用防御結界のように強固に燻製小屋を覆った。
この状態だったら、もしも何かが起きてこの家に攻撃魔法の爆撃を受けても、この小屋だけは無事に無傷で残りそうだ。
もともと防音の術というのは「音の伝達をある程度防ぐもの」で、空気の伝達までは止めてしまわないように魔力を籠めすぎぬよう意識するものなのだが、意識しないとここまで強固な結果になるのか。
中の火をガラス越しに見ていて、ふと換気の魔術回路の変化に気が付いた。
「へぇ。
何か、今までと違う部分で魔力を使っているぞ。
普段の状態だと匂いを消しているだけで換気はしていないのかな?」
「そうなんだ。でも、考えてみたらこの換気の術が無かったら何分で火が消えるか確認するの忘れていたね」
しゃがみ込んでガラス越しに魔術回路を見ながらシャルロがつぶやいた。
普通に見たところであまり魔力は見えないと思うが。
「まあ、換気なしで5分で空気が足りなくなって火が消えるのが、20分で消えるという程度の変化じゃあ実質的には売り物にはならないからね。
最低でも一晩、出来ればまるまる2日ぐらいは普通の魔石から供給する魔力で換気できるようじゃないと換気の機能で売り込むには危険だ」
アレクが肩をすくめた。
「じゃあ、もう少し燃料を持ってきて長期的な確認だな」
燃料を取りに倉庫へ行こうとした瞬間、魔術回路の魔力が消えた。
「あ」
「「うん?」」
「魔石の魔力が尽きたわ。
考えてみたら、最初からずっと同じのを使っていたし。
とりあえず、同じ程度の魔力を込めた魔石を使ってここでの集中換気のテストと、普通に台所でも窓を開ける換気の代わりに使ってもらってどのくらい魔石の寿命が違うかの確認もしよう」
◆◆◆◆
魔石を付け替え、火を入れて耐久テストを始め、台所にも換気用魔術回路を設置した後、1時間おきに交互に燻製小屋の魔術回路の状態を確認することを決めた俺たちは各々好きなことをやり始めた。
「12刻、まだ火が残っている、と」
燻製小屋の扉のところに掛けてあった紙に記録をつける。
それなりに続いているな。魔石もそこまで消耗している様子ではないので、思っていたよりも魔力を使わないのかもしれない。
そこまで複雑な構造でもないし、これだったら普通の家庭でも使える値段で売れるかな?
普通に使用した際にどのくらいもつのかの耐久テストも必要だが。
さっさと売り出したいのに、通常の家庭で使っていたらどのくらいで魔石が尽きるのか調べるのに何週間とか何か月もかかったら面倒だな。
ごくごく小さく安い魔石を使ってテストして、半年か1年ぐらいもつのに必要と想定される魔力を含有する魔石をつけて売り出すか?
想定よりもたなくても、半年以内に切れたら魔力を再充填しますと保証しておけばいいだろう。
そんなことを考えていたら、ぽこっと足元の地面が開いて、土竜の頭が出てきた。
『久しぶりだの』
「あれ、アスカ久しぶり。ここんとこ見なかったけど、どこに行っていたの?」
学生の時に召喚した土竜のアスカは、郊外でなら乗ったり物を運ぶのを手伝ったりしてくれるしユニコーンのラフェーンと違ってあまり一緒にやることがない。特に空滑機が出来てからは、いくら馬と同じ程度の速度で動けるとはいっても土の中を移動するのって違和感があるから転移門を使わない程度の距離の移動も頼まなくなったし。
なので最近は色々自分の興味があるところにアスカは出かけ、たまに帰ってきたら見つけた面白いモノを見せてくれたりお土産にくれたりしている。
『山の方に行っていた。
鉱山で掘っていて温かい水が出る層にあたった場所があってな。気持ちよく浸かってきた』
へぇ。
幻獣でも寒さとか温かさとか、感じるんだ。
「寒いなら、工房の炉の傍にいると温かいぞ?」
『いや、別に寒くても平気だ。だが、たまには温かい水に浸かるのも気持ちがいいだけだ。
ウィルは何をやっているのだ?』
ふうん。寒いのは平気なんだ?
まあ、土の下って地上よりは温度の変動が少ないらしいしな。
「ま、いいけど。ちょっと換気の魔術回路を再現してね。
完全に空気を隔離した状態で火をつけてどのくらい空気を保てるか、実験しているところ」
『ほう。
鉱山などでは稀に空気に毒が混じって困ることがあるようだが、それは毒も浄化できるのか?』
どうなんだろ?
匂いとか煙と毒は同じ扱いになるのだろうか?
まあ、有害度で云ったらさらに高いんだから、換気というか洗浄というか、出来るならして欲しいものだよな。
鉱山に売りつけられたら更に市場が広がるし。
「毒の空気ってどんなの?」
『どんな・・・と言ってもな。毒だ。ほんの少し吸っただけで人が死んでしまうのもあれば、単に息苦しくなってそのうち気を失ってしまう程度の物もある。
あちらの小屋に出して見せようか?』
シャルロの術をかけていないほうの小屋を示しながらアスカが言った。
「え、毒の空気なんて出せるの?」
『我は地の下の幻獣。地の下にある物はある程度の再現もコントロールも出来るぞ』
空気が『物』なのかは知らんが、便利だな。
・・・これってつまり、土を農作物に適したように変えたり、ただの岩を鉱物に変えたりできるのかな??
まあ、そんな金儲けの手段の為に使おうとしたら多分召喚契約を切って姿を消しちゃいそうだけど。
お土産として価値のある物を向うが自発的に与えるのはいいが、「くれ」と幻獣に対して請求するのはあまり勧められないと魔術学院でも習ったしな。
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