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卒業後
218 星暦553年 紫の月 20日 船探し
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シェフィート家次男の友人から来る話なので今回は次男(セビウス)の視点で始まります。
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>>>サイド セビウス・シェフィート
「アドリアーナ号が沈んだ」
先日会ったばかりだったのに緊急で時間を欲しいと連絡をしてきた相手は、自分が部屋に入り飲み物を受け取ったとたんに深いため息と共に切り出してきた。
・・・何故わざわざ個室を指定してきたのかと思っていたら、そういうことか。
アドリアーナ号はこの友人の家族が有するダルム商会の最新の大型船で、数か月前に出発してもうそろそろ西の交易先の国から帰ってくるはずだった。
それなりに借り入れもした思い切った投資だったが、大型船で大量の輸送量をまかなうことで十分に投資に見合うだけの利益が見込まれるはずだったのだが・・・。
初航海で沈むとは。
「単に遅れているだけではないのか?まだそれほど予定がずれ込んでいる訳ではないだろう、フェルダン?」
自分にこのタイミングで話を持ってくるということは、それなりに確信があるのだろうとは思いつつも、楽観論を口にする。
「先週、ダッチャスの沖で沈んだ際に、数名の船員がなんとか岸まで生きてたどり着いたんだ。その連絡が昨日届いた」
ダルム商会とシェフィート商会では同じ「商会」と言っても業態はだいぶ違う。シェフィート商会は国内の取引を主に王都や領都での商売をしており、ダルム商会は海外との輸出入を主な収入源とする。
まあ、だからこそあまりお互いで軋轢もなく気楽に付き合ってこれたのだが。
ある程度の資金ならば貸与することも可能と言えば可能だが、あくまでビジネスとして利益が見込まれるならば、である。
しかもその場合は自分ではなく兄か父に行くべきだが・・・その紹介を頼まれるのだろうか?
家族の中で一番そういった情が無い人間と思われている自分に相談にくるとしたら相手の人を見る目にちょっと疑問を感じるが・・・。
「資金提供を求めるなら、それなりの資料を持ってきたら父に渡すことはやぶさかではないが・・・。個人的な関係があるからこそ、私は意思決定に関与しないぞ」
軽く酒をなめながらつぶやく。
「いや」
薄いエールを大きく一口飲んでから相手は断ってきた。
「お前のところの弟が、以前沈没船を発見したと言っていただろう?
アドリアーナ号を探して欲しい。
日当で1日金貨1枚を払うかわりに、アドリアーナが見つかったらその積荷はダルム商会のものとするという形で、君の弟を雇えないか?」
そういえば、アルタルト号を見つけてその積荷などを処理していた際にも飲んだか。
思わず楽しかったので色々話したかもしれない。
とは言え。
「あれは、弟というよりもその友人の技能が役に立ったみたいだぞ。第一、行き当たりばったりに海底を探していて偶然アルタルト号を見つけたのと、特定の船を見つけようというのはまた違う話だろうに」
「分かっている。だが、今回の積荷は鉄製品や陶器が多かったから今ならまだ回収できれば十分売れるはずだ。
そして、それらを回収できればまだダルムは存続できる」
・・・。
「そんなに不味いのか?」
「船を一つ作れば平均して最低でも10年は使える。少なくとも、一往復できれば何とかなるレベルの借り入れだから、悪くはない賭けのはずだったのだがな。
まさか最悪のケースが起きるとは誰も思っていなかった」
深くため息をつきながら相手が答える。
「それ程重要な船なのに、魔術師を乗せていなかったのか?」
「いや、ベテランと若いので2人乗せていたのだが・・・結果としては船の積載量に対して足りなかったらしい。
まあ、大きく重い船を嵐の中でコントロールするのに何人魔術師がいるかというのは経験則的な話だからな。2人では足りないとは想像もしていなかった」
ため息をつきながらフェルダンが答える。
確かに、アドリアーナ号を見つけられるならばダルム商会そのものへの融資をするよりは、アレクと友人2人をひと月程度雇う方が安くつくだろう。
魔術師とは言え、なんといってもまだ若いから相場は低いし、本人たちもそれ程金にがっついていないから無茶な日当は要求してこないだろう。
また、数日前にアドリアーナ号に乗っていた船員が流れ着いたというのならば、どこら辺で沈んだかも範囲は比較的限られるかもしれない。
「ほかの引き揚げ屋に先にとられる可能性は?」
「一応浅瀬は既にうちの商会の船で探し回ったが、無かった。
深いところで沈んだとすれば、あれだけ大きな船を見つけたところで引き上げるのは魔術師でもなければ無理だ。
重くて大きな積荷が多かったからな。個人が潜って引き上げるのには向いていないから、引き揚げ屋の手におえるものではないと思う」
確か、アレク達は先日、新しい魔術回路を登録してそれを使った魔道具を売りに出したばかりだ。
遺跡に手伝いを兼ねた遊びに行ったと思ったら結局商売につなげているなんて、何をやっているのかと呆れたものだが、取り敢えず今は何かの真っ最中ということはない可能性が高い。
「分かった。
明日にでも、弟達と話してくる。ちなみに、船探しに向いた才能を持っているのは弟ではなく、その友人2人だ。うまく交渉すれば船を見つけた後にそれを港まで持ってくるのまでも頼めるだろう。
それなりにお人よしだから足元を見たりはしないだろうが、正直に現状を説明して助けを頼むのだな」
ふうぅ。
大きく息を吐いてから相手は頷いた。
「ありがとう。助かるよ」
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>>>サイド セビウス・シェフィート
「アドリアーナ号が沈んだ」
先日会ったばかりだったのに緊急で時間を欲しいと連絡をしてきた相手は、自分が部屋に入り飲み物を受け取ったとたんに深いため息と共に切り出してきた。
・・・何故わざわざ個室を指定してきたのかと思っていたら、そういうことか。
アドリアーナ号はこの友人の家族が有するダルム商会の最新の大型船で、数か月前に出発してもうそろそろ西の交易先の国から帰ってくるはずだった。
それなりに借り入れもした思い切った投資だったが、大型船で大量の輸送量をまかなうことで十分に投資に見合うだけの利益が見込まれるはずだったのだが・・・。
初航海で沈むとは。
「単に遅れているだけではないのか?まだそれほど予定がずれ込んでいる訳ではないだろう、フェルダン?」
自分にこのタイミングで話を持ってくるということは、それなりに確信があるのだろうとは思いつつも、楽観論を口にする。
「先週、ダッチャスの沖で沈んだ際に、数名の船員がなんとか岸まで生きてたどり着いたんだ。その連絡が昨日届いた」
ダルム商会とシェフィート商会では同じ「商会」と言っても業態はだいぶ違う。シェフィート商会は国内の取引を主に王都や領都での商売をしており、ダルム商会は海外との輸出入を主な収入源とする。
まあ、だからこそあまりお互いで軋轢もなく気楽に付き合ってこれたのだが。
ある程度の資金ならば貸与することも可能と言えば可能だが、あくまでビジネスとして利益が見込まれるならば、である。
しかもその場合は自分ではなく兄か父に行くべきだが・・・その紹介を頼まれるのだろうか?
家族の中で一番そういった情が無い人間と思われている自分に相談にくるとしたら相手の人を見る目にちょっと疑問を感じるが・・・。
「資金提供を求めるなら、それなりの資料を持ってきたら父に渡すことはやぶさかではないが・・・。個人的な関係があるからこそ、私は意思決定に関与しないぞ」
軽く酒をなめながらつぶやく。
「いや」
薄いエールを大きく一口飲んでから相手は断ってきた。
「お前のところの弟が、以前沈没船を発見したと言っていただろう?
アドリアーナ号を探して欲しい。
日当で1日金貨1枚を払うかわりに、アドリアーナが見つかったらその積荷はダルム商会のものとするという形で、君の弟を雇えないか?」
そういえば、アルタルト号を見つけてその積荷などを処理していた際にも飲んだか。
思わず楽しかったので色々話したかもしれない。
とは言え。
「あれは、弟というよりもその友人の技能が役に立ったみたいだぞ。第一、行き当たりばったりに海底を探していて偶然アルタルト号を見つけたのと、特定の船を見つけようというのはまた違う話だろうに」
「分かっている。だが、今回の積荷は鉄製品や陶器が多かったから今ならまだ回収できれば十分売れるはずだ。
そして、それらを回収できればまだダルムは存続できる」
・・・。
「そんなに不味いのか?」
「船を一つ作れば平均して最低でも10年は使える。少なくとも、一往復できれば何とかなるレベルの借り入れだから、悪くはない賭けのはずだったのだがな。
まさか最悪のケースが起きるとは誰も思っていなかった」
深くため息をつきながら相手が答える。
「それ程重要な船なのに、魔術師を乗せていなかったのか?」
「いや、ベテランと若いので2人乗せていたのだが・・・結果としては船の積載量に対して足りなかったらしい。
まあ、大きく重い船を嵐の中でコントロールするのに何人魔術師がいるかというのは経験則的な話だからな。2人では足りないとは想像もしていなかった」
ため息をつきながらフェルダンが答える。
確かに、アドリアーナ号を見つけられるならばダルム商会そのものへの融資をするよりは、アレクと友人2人をひと月程度雇う方が安くつくだろう。
魔術師とは言え、なんといってもまだ若いから相場は低いし、本人たちもそれ程金にがっついていないから無茶な日当は要求してこないだろう。
また、数日前にアドリアーナ号に乗っていた船員が流れ着いたというのならば、どこら辺で沈んだかも範囲は比較的限られるかもしれない。
「ほかの引き揚げ屋に先にとられる可能性は?」
「一応浅瀬は既にうちの商会の船で探し回ったが、無かった。
深いところで沈んだとすれば、あれだけ大きな船を見つけたところで引き上げるのは魔術師でもなければ無理だ。
重くて大きな積荷が多かったからな。個人が潜って引き上げるのには向いていないから、引き揚げ屋の手におえるものではないと思う」
確か、アレク達は先日、新しい魔術回路を登録してそれを使った魔道具を売りに出したばかりだ。
遺跡に手伝いを兼ねた遊びに行ったと思ったら結局商売につなげているなんて、何をやっているのかと呆れたものだが、取り敢えず今は何かの真っ最中ということはない可能性が高い。
「分かった。
明日にでも、弟達と話してくる。ちなみに、船探しに向いた才能を持っているのは弟ではなく、その友人2人だ。うまく交渉すれば船を見つけた後にそれを港まで持ってくるのまでも頼めるだろう。
それなりにお人よしだから足元を見たりはしないだろうが、正直に現状を説明して助けを頼むのだな」
ふうぅ。
大きく息を吐いてから相手は頷いた。
「ありがとう。助かるよ」
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