シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

229 星暦553年 紫の月 30日 船探し(12)

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蒼流にシャルロが頼んでまずカラフォラ号を海底から引揚げ、船体に穴が無いか見て回ったが、所々木が腐って破損したらしきところがあるだけで、大きな穴は開いていなかった。

「こうやってみると、アルタルト号は沈むときにどっかの岩にでもぶつかったのかね?あれはかなり大きな穴が開いていたよね?
沈没船って皆大きな穴が開いているものだと思っていたけど、違うんだね」
シャルロがちょこちょこ修理された船を見ながらつぶやいた。

「岩礁にでもぶつからない限り、必ずしも船に穴は開かないんじゃ無いか?
もっと浅くて魚や海藻が沢山生きて居るようなところに沈んでいたら早く痛んで穴が開くんだろうが、今回はアルタルト号よりも更に深いところに沈んでいたし」
まあ、俺も船の事なんざ知らんけどさ。

取り敢えず、俺たちのボートをカラフォラ号の甲板に乗せ、王都に向けて出発した。
もっとも、単にシャルロが蒼流に頼んだだけで俺たちは何もしなかったけど。

「そう言えば、ニルキーニ氏は今日来るのかな?」
学院長にでも誰か魔術院の専門家を紹介して貰えばいいと思ったのに、アレクは俺たちの魔道具作成の教師だったニルキーニに連絡したそうだ。
まあ、あの人もそれなりに信頼できそうな人だったから良いけど。

「もの凄く興味を持ったようだったから、本人が来るんじゃないかな?
もっとも、彼は授業があるからね。もうすぐ中休みがあるとは言え、それまで待っていられないから誰か紹介してくれと言ってあるから誰か連れてきてくれていると有り難いのだが」
アレクが肩を竦めながら答えた。

そうか、そういえばもうすぐ中休みの時期か。
卒業して1年ちょっとなのにすっかりそう言ったことを忘れていた。
その頃までにアドリアーナ号が見つかれば、一緒にがっつり色々教わりながらカラフォラ号の中の物を分類・研究出来るのだが。

これからの予定などを話している間に船が王都に着いたと蒼流が知らせてきた。

「じゃあ、海上に一部出して。
アレクに行き先を指示して貰わないとよく分からないからね」

元々海がだんだんと浅くなってきていたのだが、それでも深いところから上がって行くにつれて周りの水が明るくなり、やがて甲板から水を切りながら俺たちは水面の上へ出てきた。

「うわぁ、あの漁船の人、もの凄くびっくりした顔でこっちを見てる」
シャルロが右側を指しながらコメントした。

一応、他の人に迷惑にならないように周りに船が無い場所で浮上してきたのだが、害がなくても突然それなりのサイズの船が下から上がってきたらギョッとするよなぁ。

取り敢えず手を振ってごまかし、アレクの兄さんが確保した倉庫へと向かう。
船渠《ドック》ではないので船は倉庫の横の桟橋に停泊しか出来ない。
それでは困るので、3人で魔力を合わせてカラフォラ号を倉庫の中へ運び込む。
「「「浮遊レヴィア!」」」

ゆっくりと船が宙に浮かんで扉の中へ進んでいく姿は中々興味深かったが・・・。

突然、船底が破れて中の水(その他諸々)が落ちてきた。
「うわ!!
清早、それ全部受け止めて!!!!」

中身を失わないように倉庫でゆっくり水を抜いていく予定だったのに、どうやら古い船底は中の水の重さに耐えられなかったようだ。

所々小さく穴が開くぐらい痛んでいたんだ、全体的に弱っていたことに気付くべきだったな。

慌てて倉庫の中の台に船を置く。
「蒼流、船の中の水だけを抜いて、海に戻しておいてくれる?
中の物が乱暴に床に落ちたりしないよう、ゆっくりやってくれると嬉しいな」

蒼流は何も俺たちには言わなかったが、船の甲板口から水が太いロープのように何本もにょろにょろ出てきて海に向かっていったので、いつものごとくシャルロの願いが叶えられているのだろう。

「あ、清早、その流れ出ちゃったのを受け止めてくれてありがとうね。
水は海に捨てちゃって、物はそこら辺に置いてくれる?」
取り敢えず船に溜まっていた水に対応している間に、セビウス氏と・・・ニルキーニ氏が飛び出してきた。

「久しぶりだな!
どこにある?!」
殆ど挨拶もせずにニルキーニ氏が甲板へ飛び上がり、中へ入ろうとする。

・・・。
まあ、良いけどさぁ。
「甲板口から入って最初のフロアの奥の方の部屋にありましたよ。
ちょっと水が引けるまで待って下さいね。
磁器とかその他の物を壊さないよう、気をつけて下さいよ~!」

声を掛けたが、聞こえたのかどうだか。まだ水が腰ぐらいまで残っているというのにさっさと中に入って行ってしまった。
ここまで魔道具に興味があるとは知らなかったな。

「やあ、また面白い発見をしたようだね。
引き揚げ屋サルベージャー協会での登録は問題無く出来たかい?」
セビウス氏がにこやかに俺たちの方に声を掛けてきた。

とは言え、彼の視線も船の方に固定されており、水が引き次第中に突入しそうだが。

「登録は問題ありませんでしたが、『偶々、私たちの後を付けていた』と主張する引き揚げ屋サルベージャー達に中身を盗まれそうになりましたよ。
ウィルが策を講じていたので大丈夫でしたが」

「ほぉう?」
セビウス氏の視線がこちらに向いた。

「まあ、彼らが雇われてきたのでは無く、情報を入手しただけのようでしたから警告だけで済ませましたけどね」
アレクが肩を竦めながら答える。

「ふうん。まあ、君たちがそれでいいなら構わないが。
しかし、ダルム商会の存続に関わる案件だというのにそんな目に見えないモノの重要性を理解していない人間をよこすなんて、フェルダンは思ったより人を見る目が無いようだな」
おっと。
どうやら、ヴァナールは自分の信頼を損ねただけで無く、あいつをよこしたセビウス氏のダルム商会の友人に対する評価も落としたようだ。

成る程ねぇ。
部下を使うと言うことは、単にそいつから騙されたり盗まれたりすることを気にするだけでなく、そいつが「自分の代理者」として行動することで自分の信用を傷つけられることにも気をつけなければいけないのか。

フェルダン氏も踏んだり蹴ったりだな。
ま、人を見る目が無かったのは彼自身だから、自業自得とも言うが。
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