シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
231 / 1,309
卒業後

230 星暦553年 紫の月 30日 船探し(13)

しおりを挟む
「あ、排水が終わったかな?」
甲板口からにょろにょろ出ていた水のロープが途切れたのを見たシャルロが言った。

「おお!ではちょっと見てくるから君たちは好きにしていたまえ!」

おいおい。
さっさと船に向かってしまったアレクの兄さんを見て俺たちはお互いに苦笑した。

「僕も中を見たかったんだけど。
無駄話なんかしてないで、こっちまで持ってくる間に中を調べれば良かった・・・」
シャルロががっくりしながらつぶやいた。

「ははは。相変わらずちょっとノンビリなようだな、シャルロ」
倉庫の後方にあった事務所スペースみたいなところの扉が開き、声がしてきた。

「アンディ?!
どうしたの、何でこんなところにいるんだ?」
魔術学院で3年の時に寮長をやっていたお祭り男、アンディが現れたのを見て思わず驚きの声が出た。

「ふっふっふ。
今回の魔道具の発見に関して、ニルキーニ氏と共同作業するために魔術院から派遣されたのさ!」
そういえば、アンディは魔術学院を卒業した後、魔術院に就職したんだっけ。
寮長というそれなりに責任のある役割を果たしていたので就職先には困らなかったらしいが、社交的で色々な人とやり取りするのが好きなこいつは魔術院を選んだと聞いた気がする。

「へえ、凄いじゃ無いか、まだ新人なのに抜擢されたのか?」
アレクが尋ねる。

「まあ、お前らと面識があるし、ニルキーニ氏が授業で忙しいときに雑用を言いつけやすいから丁度良いって選ばれたというのが本当のところだけど。
出てきた魔道具が大発見だったりしたらもっと上の人間が派遣されると思うぜ」

なるほど。
昔の沈没船といっても遺跡ほど古くは無いから、復元できれば貴重かも知れないがそれ程未知の物では無い。つまり、魔術院のお偉いさんの興味を引くほどの物では無いのか。

・・・それでも何か想定外に凄い物が出てきた時に一枚噛めるよう、一応新人を出してきたんだな。アンディと俺たちが魔術学院で同期だったというのも都合が良いだろうし。

「取り敢えず、あの二人とこれからどうするのか実務的な話を固めなくちゃならないから、ちょっと連れ出してくるか」
アレクがため息をついて船を見つめた。

「と言うか、俺たちも中を見よう。
ニルキーニ氏に後れを取ったけど、俺だって興味あるんだぜ」

「そうだね、僕だって見たいし!」
アンディの提案にシャルロがのり、さっと船に向かって行った。

船を固定している台へ登り、そこから甲板口へと行きながらシャルロはアンディに色々最近のことを聞いていた。

「ま、まだ昼食にもなっていないんだし、ノンビリ私たちも見ようか。
私たちだって結局それ程じっくりとは見てないからな。
下のフロアを覗いてみないか?」
アレクがため息をつきながら俺の方に振り返って提案した。

「そうだな。
中身はともかく、どの位箱があるか確認しておけば大体の全体量が把握できるだろうし」

前回、アルタルト号を見つけたときは大きな貨物室と一等客室は確認してから王都に持ち込んできたから、アレクの兄さんに引き渡した段階で船の中身は大体把握していた。
今回は今日を逃したら次の休養日は10日後になってしまうので、取り敢えずこちらへ運んでくることを優先した。つまり中身の確認をする暇が無かったのだ。
幾らアレクの兄貴が多分信頼できる人間であろうと、中身を確認せずに任せるのはあまりにもうっかり過ぎる。

・・・時間的制約があるんだから、引き揚げ屋サルベージャー協会で記載されていたカラフォラ号の歴史のこととか、あの時代の魔道具の話なんかに熱中せずに、こちらへ運んでいる間に貨物室をもっと調べておくべきだったな。

ちょっと興奮しすぎていたか。
まあ、まだ半日以上あるんだから。中身をさっと確認してこれからの手順をニルキーニ氏とアレクの兄貴と話し合う時間は十分にあるだろう。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...