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卒業後
231 星暦553年 紫の月 30日 船探し(14)
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腹が減ってきた。
「ひとまずここら辺で切り上げて、昼ご飯でも食いに行かないか?
腹が減った」
下のフロアの貨物室もざっと確認して、最後の貨物室で色々な箱を手当たり次第に開けて中の物を見て回っていた皆に声を掛けたら、アンディが手に持っていた磁器を箱に戻して声を上げた。
・・・おい。
お前さんは磁器では無く魔道具を見ているべきじゃ無いのか?
「あ、セビウス氏がランチは手配してくれているはずだよ。
もうそろそろ来てもおかしくないから、上の二人にも声を掛けて出ようか」
流石はアレクの兄貴、抜かりがないぜ。
「良いね。無事だった貨物室の数と各部屋においてある箱の数が大体分かったし、これからどうするのか一度話し合おう」
シャルロも大きな皿を箱に戻して合意した。
心眼《サイト》で見たところ2人は俺たちの真上ではなく、もう少し甲板口に近い部屋に居るので、ここから大声を出しても聞こえないだろう。
諦めて上のフロアに上がり、彼らのいる貨物室へ首を突っ込んだ。
「もうそろそろ、昼食にしませんか?
これからの作業の流れも話し合っておく必要がありますし」
手の中の花瓶(かな?)をじっくり見つめていたセビウス氏が丁寧にそれを箱に戻しながら頷いた。
「そうだね。もうそろそろ手配していたものが着くころだろうし」
が、箱から出さずに魔道具をじっくりと調べていたニルキーニ氏は動かなかった。
「ああ、勝手に食べていてくれ。俺は我慢できなくなったら残り物でも貰うから」
おい。
「何を言っているんですか。船にあった魔道具をどう検査・修復するか、所有権や売り上げに対する権利をどうするか、貴方と話す必要があるでしょうが。
それともアンディに全て決めさせて良いと言うんですか?」
アレクが呆れたように言い返す。
「・・・。
そうだな、後からになると食べ物も残っていないかもしれないしな。
取り敢えず、中断するか」
どうしてこう、学者タイプは研究馬鹿なのだろうか。
魔術学院で教えていたころはここまで変人な感じでは無かったのだが、俺たちの前では知識欲を抑えていたのかね?
・・・まあ、俺たちじゃあ熟練の教師の知識欲を刺激するようなものもなかったか。
通信機を持ち込んだ時はちょっと興味が凄かったもんな。
◆◆◆◆
「20部屋のうち、6つが扉が破損していて中の貨物もほぼ全損。
残り14部屋は各部屋に大体20箱、そのうち2,3箱に魔道具が入っているというところかな?」
昼食を食べ終わった後、アレクが紙を手に取りながら声を出した。
「いや、一つだけ殆ど全部魔道具だった部屋があったな。
だから魔道具は50個ぐらいだと思う」
魔力は尽きているものの、魔道具は心眼への映り方が違うので見分けやすい。
見つけた日に調べた部屋と、さっき手当たり次第に確認した部屋以外は箱を開けていなかったのでアレク達にはわからなかったようだが、ニルキーニ氏や魔術院と何らかの話し合いをする為にも魔道具の数は確認したほうがいいだろうと数えていた。
「ほおう、そうか。お前の心眼《サイト》は便利なものだな。
ついでに、魔道具の入った箱を全部まとめて運び出しておいてくれ」
ニルキーニ氏が嬉しそうに命じてきた。
・・・まあ、良いけどさ。
ある意味俺たちがカラフォラ号の発見者、つまりオーナーでニルキーニ氏は雇われ人の立場のはずなのに。
何故かあっちの方が偉そうだ。
まあ、本人は偉そうにしている意識はないんだろうけど。
やっぱ、元生徒だとついつい態度が昔のものに近くなってしまうのかな。
「ウィル、後で各部屋の魔道具が入った箱に印をつけておいてくれ。
私たちでそれを運び出しておく。
ところで、これからのことですが。
セビウス兄さんは前回と同じく、経費を引いた後の売上の1割で良いですか?
ニルキーニ氏は修繕や魔道具の調査に関する時間は一刻あたり銀貨5枚で経費とし、最終的な魔道具の売り上げの1割でよろしいでしょうか?
もしも魔術院から手伝いが必要になって経費が発生した場合は魔道具の売上から引くということで
魔術院にはオークションの前に魔道具を確認する権利を与えましょう」
テキパキとアレクが提案していく。
「俺は??」
アンディが手を挙げて発言した。
「お前は魔術院から給料が出ているんだろうが。
何か余分に手当てが欲しかったらニルキーニ氏と交渉するんだな」
却下だ、却下。
友人だが、どうせ公務員として給料を貰っているんだ、二重取りは必要ない。
「それで良いよ。
そうなると思ってこちらに契約書も準備しておいたし」
セビウス氏はにこやかに合意しながら契約書を取り出してきた。
流石、手回しが良いねぇ。
昨日話をしたばかりなのに既に契約書があるなんて。
それとも、きっと何か見つかるに違いないと思って倉庫と一緒に前もって準備しておいたのかね?
「俺は1割の金を貰うんじゃなくって、1割分として魔道具を5個くれ」
何やら紙に書いていたニルキーニ氏が顔を上げて提案してきた。
なるほど。
物の方が良いか。
俺とシャルロにちらりを目をやって、俺たちが合意しているのを見てアレクも頷いた。
「良いですよ。兄さん、これに関しては他の魔道具の平均売価で売れたと想定して手数料を計算するということで良いですか?
ちなみに、魔道具は修理してからでないと売れない可能性が高いので、オークション出来る時期がずれ込むかもしれません」
魔力切れなだけだったら魔力を充填すればすぐ動くが、魔道具はそれなりに精密な構造をしている。長年海水に使っていた魔道具が魔力を充填するだけで支障なく機能するとは思いにくい。
「構わないよ。
こちらにしても、今回は詳細な磁器の来歴が保険契約の記録に詳しく残っているのでね。
それと実物とを合わせたほうが高く売れるが、照合するのにそれなりに時間がかかるだろうからあまり違いが出ないかもしれないし」
「え、保険記録って何ですか?アルタルト号の時にはそんなのありませんでしたよね?」
シャルロがお茶をつぎながら聞いてきた。
俺も知りたい。
アルタルト号の時は貨物目録で大体何があるのかのリストと実物とを照合して、その後破損や汚れを修復してオークションに出したはずだが。
「アルタルト号は客船だったからね。持ち主は実際に船に乗っていたので船の中で消えたり破損した場合は船の会社から損害賠償を受けると言うことで貨物目録には記されていたけど、保険そのものはあまり掛けられていなかったんだよ。
誰も自分が乗る船が沈むなんて想定していないし、沈んだ場合は自分も死んでいる可能性が高いから態々高い保険代を払って自分の遺産相続人に保険金をあげる必要も無いと思った人が多かったんだろうね」
シャルロからお茶を受取ながらセビウス氏が説明した。
「その点、カラフォラ号は輸出入で収益を上げていた貿易船だったからね。
船が沈んだ場合には少しでも投資者の損失を軽減するために、貨物には保険が掛けられていたんだよ。
当然、『磁器の皿』ってだけじゃあどの品物に保険を掛けたのか分からないから、どこで作られてどのような形状にどのような模様が付いていて、当時の時価がどの位だったかといった詳細の情報が保険契約の付帯記録に残っているんだ」
成る程ねぇ。
だが。
「・・・ダルム商会は保険金を貰っても破綻しそうなのですか?と言うか、船を俺たちが見つけたら保険金は貰えない??」
セビウス氏が肩を竦める。
「どうも船の建造費が思ったより掛ったらしくてね。資金繰りがギリギリだったらしい。最新式の船に大量の荷を積んでいたから、保険を掛けようと思うと費用がとんでもない額になってしまって結局払わなかったか・・・払えなかったらしい」
へぇぇ。
全額分保険を掛けられなくても、一部だけでも掛けておけば今の破綻危機が回避できただろうに。
それとも、一部しか保険を掛けないって言うのは商会の資金繰りがやばいって事を周りにばらす羽目になって良くないのかな?
それで破綻に追い込まれていたら世話無いけど。
ま、賭に出て負けたという所だな。
「しかし、良くそんな保険契約の資料が昨日の今日で入手できましたね。
倉庫と違って保険契約なんて船の名前が必要だから、昨晩シャルロ達が引き揚げ屋協会から帰ってきて初めて分かったのに」
にやりとセビウス氏が笑う。
「極上のワイン1ケースと引き換えに夜通し掛けて契約書を探して写して貰ったのさ。
心配しなくて良い、これは私が個人的に一時も早く知りたくて急いで手配したことだから経費には入れないよ」
おいおい。
極上のワイン1ケースなんて一体幾らしたんだ???
この人も、クールそうに見えて実は趣味に走ってるよなぁ。
「ひとまずここら辺で切り上げて、昼ご飯でも食いに行かないか?
腹が減った」
下のフロアの貨物室もざっと確認して、最後の貨物室で色々な箱を手当たり次第に開けて中の物を見て回っていた皆に声を掛けたら、アンディが手に持っていた磁器を箱に戻して声を上げた。
・・・おい。
お前さんは磁器では無く魔道具を見ているべきじゃ無いのか?
「あ、セビウス氏がランチは手配してくれているはずだよ。
もうそろそろ来てもおかしくないから、上の二人にも声を掛けて出ようか」
流石はアレクの兄貴、抜かりがないぜ。
「良いね。無事だった貨物室の数と各部屋においてある箱の数が大体分かったし、これからどうするのか一度話し合おう」
シャルロも大きな皿を箱に戻して合意した。
心眼《サイト》で見たところ2人は俺たちの真上ではなく、もう少し甲板口に近い部屋に居るので、ここから大声を出しても聞こえないだろう。
諦めて上のフロアに上がり、彼らのいる貨物室へ首を突っ込んだ。
「もうそろそろ、昼食にしませんか?
これからの作業の流れも話し合っておく必要がありますし」
手の中の花瓶(かな?)をじっくり見つめていたセビウス氏が丁寧にそれを箱に戻しながら頷いた。
「そうだね。もうそろそろ手配していたものが着くころだろうし」
が、箱から出さずに魔道具をじっくりと調べていたニルキーニ氏は動かなかった。
「ああ、勝手に食べていてくれ。俺は我慢できなくなったら残り物でも貰うから」
おい。
「何を言っているんですか。船にあった魔道具をどう検査・修復するか、所有権や売り上げに対する権利をどうするか、貴方と話す必要があるでしょうが。
それともアンディに全て決めさせて良いと言うんですか?」
アレクが呆れたように言い返す。
「・・・。
そうだな、後からになると食べ物も残っていないかもしれないしな。
取り敢えず、中断するか」
どうしてこう、学者タイプは研究馬鹿なのだろうか。
魔術学院で教えていたころはここまで変人な感じでは無かったのだが、俺たちの前では知識欲を抑えていたのかね?
・・・まあ、俺たちじゃあ熟練の教師の知識欲を刺激するようなものもなかったか。
通信機を持ち込んだ時はちょっと興味が凄かったもんな。
◆◆◆◆
「20部屋のうち、6つが扉が破損していて中の貨物もほぼ全損。
残り14部屋は各部屋に大体20箱、そのうち2,3箱に魔道具が入っているというところかな?」
昼食を食べ終わった後、アレクが紙を手に取りながら声を出した。
「いや、一つだけ殆ど全部魔道具だった部屋があったな。
だから魔道具は50個ぐらいだと思う」
魔力は尽きているものの、魔道具は心眼への映り方が違うので見分けやすい。
見つけた日に調べた部屋と、さっき手当たり次第に確認した部屋以外は箱を開けていなかったのでアレク達にはわからなかったようだが、ニルキーニ氏や魔術院と何らかの話し合いをする為にも魔道具の数は確認したほうがいいだろうと数えていた。
「ほおう、そうか。お前の心眼《サイト》は便利なものだな。
ついでに、魔道具の入った箱を全部まとめて運び出しておいてくれ」
ニルキーニ氏が嬉しそうに命じてきた。
・・・まあ、良いけどさ。
ある意味俺たちがカラフォラ号の発見者、つまりオーナーでニルキーニ氏は雇われ人の立場のはずなのに。
何故かあっちの方が偉そうだ。
まあ、本人は偉そうにしている意識はないんだろうけど。
やっぱ、元生徒だとついつい態度が昔のものに近くなってしまうのかな。
「ウィル、後で各部屋の魔道具が入った箱に印をつけておいてくれ。
私たちでそれを運び出しておく。
ところで、これからのことですが。
セビウス兄さんは前回と同じく、経費を引いた後の売上の1割で良いですか?
ニルキーニ氏は修繕や魔道具の調査に関する時間は一刻あたり銀貨5枚で経費とし、最終的な魔道具の売り上げの1割でよろしいでしょうか?
もしも魔術院から手伝いが必要になって経費が発生した場合は魔道具の売上から引くということで
魔術院にはオークションの前に魔道具を確認する権利を与えましょう」
テキパキとアレクが提案していく。
「俺は??」
アンディが手を挙げて発言した。
「お前は魔術院から給料が出ているんだろうが。
何か余分に手当てが欲しかったらニルキーニ氏と交渉するんだな」
却下だ、却下。
友人だが、どうせ公務員として給料を貰っているんだ、二重取りは必要ない。
「それで良いよ。
そうなると思ってこちらに契約書も準備しておいたし」
セビウス氏はにこやかに合意しながら契約書を取り出してきた。
流石、手回しが良いねぇ。
昨日話をしたばかりなのに既に契約書があるなんて。
それとも、きっと何か見つかるに違いないと思って倉庫と一緒に前もって準備しておいたのかね?
「俺は1割の金を貰うんじゃなくって、1割分として魔道具を5個くれ」
何やら紙に書いていたニルキーニ氏が顔を上げて提案してきた。
なるほど。
物の方が良いか。
俺とシャルロにちらりを目をやって、俺たちが合意しているのを見てアレクも頷いた。
「良いですよ。兄さん、これに関しては他の魔道具の平均売価で売れたと想定して手数料を計算するということで良いですか?
ちなみに、魔道具は修理してからでないと売れない可能性が高いので、オークション出来る時期がずれ込むかもしれません」
魔力切れなだけだったら魔力を充填すればすぐ動くが、魔道具はそれなりに精密な構造をしている。長年海水に使っていた魔道具が魔力を充填するだけで支障なく機能するとは思いにくい。
「構わないよ。
こちらにしても、今回は詳細な磁器の来歴が保険契約の記録に詳しく残っているのでね。
それと実物とを合わせたほうが高く売れるが、照合するのにそれなりに時間がかかるだろうからあまり違いが出ないかもしれないし」
「え、保険記録って何ですか?アルタルト号の時にはそんなのありませんでしたよね?」
シャルロがお茶をつぎながら聞いてきた。
俺も知りたい。
アルタルト号の時は貨物目録で大体何があるのかのリストと実物とを照合して、その後破損や汚れを修復してオークションに出したはずだが。
「アルタルト号は客船だったからね。持ち主は実際に船に乗っていたので船の中で消えたり破損した場合は船の会社から損害賠償を受けると言うことで貨物目録には記されていたけど、保険そのものはあまり掛けられていなかったんだよ。
誰も自分が乗る船が沈むなんて想定していないし、沈んだ場合は自分も死んでいる可能性が高いから態々高い保険代を払って自分の遺産相続人に保険金をあげる必要も無いと思った人が多かったんだろうね」
シャルロからお茶を受取ながらセビウス氏が説明した。
「その点、カラフォラ号は輸出入で収益を上げていた貿易船だったからね。
船が沈んだ場合には少しでも投資者の損失を軽減するために、貨物には保険が掛けられていたんだよ。
当然、『磁器の皿』ってだけじゃあどの品物に保険を掛けたのか分からないから、どこで作られてどのような形状にどのような模様が付いていて、当時の時価がどの位だったかといった詳細の情報が保険契約の付帯記録に残っているんだ」
成る程ねぇ。
だが。
「・・・ダルム商会は保険金を貰っても破綻しそうなのですか?と言うか、船を俺たちが見つけたら保険金は貰えない??」
セビウス氏が肩を竦める。
「どうも船の建造費が思ったより掛ったらしくてね。資金繰りがギリギリだったらしい。最新式の船に大量の荷を積んでいたから、保険を掛けようと思うと費用がとんでもない額になってしまって結局払わなかったか・・・払えなかったらしい」
へぇぇ。
全額分保険を掛けられなくても、一部だけでも掛けておけば今の破綻危機が回避できただろうに。
それとも、一部しか保険を掛けないって言うのは商会の資金繰りがやばいって事を周りにばらす羽目になって良くないのかな?
それで破綻に追い込まれていたら世話無いけど。
ま、賭に出て負けたという所だな。
「しかし、良くそんな保険契約の資料が昨日の今日で入手できましたね。
倉庫と違って保険契約なんて船の名前が必要だから、昨晩シャルロ達が引き揚げ屋協会から帰ってきて初めて分かったのに」
にやりとセビウス氏が笑う。
「極上のワイン1ケースと引き換えに夜通し掛けて契約書を探して写して貰ったのさ。
心配しなくて良い、これは私が個人的に一時も早く知りたくて急いで手配したことだから経費には入れないよ」
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