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卒業後
600 星暦555年 黄の月 30日 忠誠心?
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「落とし物ですよ」
シェイラと3日程過ごし、ちょこちょこ遺跡発掘も手伝って楽しんできた俺は気分も爽快に『次の開発は何が良いかな~』なんて考えながら転移門を使って帰って来たら・・・魔術院を出たところで声をかけられた。
またか。
振り返った俺の目に入ったのは、毎度おなじみ左手の薬指に穴のあいた手袋。
もうそろそろ手袋をしてもおかしくはない時期だが、真夏なんかだったら手袋を落とすのって不自然じゃないか?
泥棒に入る時なんかに痕跡を減らすために薄い手袋をすることはよくあるが、そんな物は当然の事ながら人前では身に着けない。
そう考えると真夏に手袋を落とすなんて怪しすぎるだろ、俺。
思わずどうでもいい事を考えながら手袋を受け取る。
「ちなみに、今日はどこに行けば幸先が良さそうだと思う?
明日から仕事を再開する予定なんで、あまり時間を掛けたくないんだが」
配達人に聞いたところで何も知らない・教えてくれない可能性も高いが、もう夜になるところなんだ。
長だって、明日の朝になってから俺に探されるよりは、今のうちにあっさり会いに行った方が良いだろう。
幸いにも今回の配達人はそれなりに情報共有されていたのか、軽く首を傾げたと思ったらあっさり欲しい答えをくれた。
「今日はダルファスのワインが当たりだと言う話ですよ?」
ダルファスというのは北東の方の山間部だ。
そこのワインは中々美味いらしいが、何分山奥で地形がそこそこ険しい為、あまり数は出ない。
盗賊《シーフ》ギルドの隠れ家がある酒場でダルファスのワインを扱っているのは一か所だけなので、そこに長がいる可能性が高いという事なのだろう。
「そうか。
俺もたまにはワインを飲んでみるかな・・・」
せめて奢って貰えることを期待したいところだ。
そんなことを考えながら、下町の方へと足を向ける。
◆◆◆◆
「今度は何の用です?」
言われた酒場の地下にある隠れ家に忍び込み、書類に囲まれながらワインを飲んでいた長に声をかける。
なんかこう、子供の頃は偉くなったら周りの人間に命令をするだけで何もかもが解決して、自分は好きなだけ遊んでいられると思っていたのだが、いざ大人になってみると・・・恐喝で金や権力をかき集めているようなロクデナシ貴族はまだしも、まともな人間は偉くなってもいつ見ても忙しそうにしている気がする。
長にしたって、いつも酒を飲んではいるが、必ずその前には書類が積みあがっている。
折角偉くなっても仕事ばかりに追われる人生なんて、頑張った意味が無くないか?
学院長にしたっていつも忙しそうだし。
まあ、あの人は魔術師として大成したのに教育なんていう今までの努力と関係ない地位に就いてしまったせいかも知れないが、それなりに偉い地位になったのにふらふらと気楽に遊び回っている人ってシャルロのウォレン爺と魔術院の長老達ぐらいのもんじゃないだろうか?
魔術院の長老はあまり見たことが無いので実際にふらふら遊んでいるのか、単に俺の目に入るところにいないだけなのか、知らないが。
シャルロのウォレン爺だって色々暗躍しているようだからそこまで暇ではないだろうし、流石にもうそろそろぽっくり言ってもおかしくない年齢でもありそうだ。
ぽっくり逝きそうな年齢直前までがっつり書類に囲まれて忙しくしてなきゃいけないなんて、なんとも切ない将来の展望の様な気がするぜ。
まあ、俺は組織のお偉いさんになるのではなく、適当に気が向いた魔具を開発して金を稼ぎたいだけなので、年を取る頃にはそれなりに資金が溜まって遊び半分な遺跡探しとか沈没船探しとかに時間を費やせる可能性はそれなりに高いと思うが。
ジジイ3人で小舟で水中を探し回るなんてことをその頃にもやっているかは不明だが。
清早が付き合ってくれれば一人でも沈没船探索は出来るが、流石に一人でやるのでは退屈過ぎてすぐ飽きそうだ。
シャルロなんぞはそれこそ孫と遊ぶのに忙しくて付き合ってくれなそうな気もしないでもないな・・・。
遺跡探しはシェイラも付き合ってくれそうだが、沈没船探しはどうかな。
まあ、古い骨董品が見つかれば、興味を引けるか?
そんなことを考えながら、差し出されたワインを受け取って椅子に腰かけて長の言葉を待つ。
「最近、変な魔具が王都近辺で出回っていてな。
どうもそれをうっかり触って起動させると、今までの組織と関係ない人間に忠誠心を誓いたくなるらしい」
「はあ?
忠誠心なんて単なる利害関係から生じる所属判断でしょう?
魔具で何とかなるような物じゃないでしょうに。
それとも麻薬みたいに判断がおかしくなるんですか?」
長の側近ともいえる青や赤は利害を超えて長に忠誠を誓っていると言えなくも無いが・・・あんなのは例外だ。
普通の人間の『忠誠心』なんていうのは、信頼関係と利害関係を組み合わせた将来予測からくる行動基準にしか過ぎない。
「麻薬の様に露骨に行動が変になる訳ではないから、却って悪質なんだ。
普通どおりの行動をしている人間が、突然裏切るとは想像できないだろう?
何人か、あちこちのギルドで変な行動をして情報漏洩したり利益供与をする人間が現れたことがこの間の裏ギルド会合での雑談で明らかになってな。
殺していなかった裏切り者何人かを更に調べてみたら、何やら変な術にかかっているかもしれないという事で神殿で解呪してもらったところ、怪しげな魔具に触れた後に何故か急に価値観が変わったと言っている」
なんだそれ。
怪しすぎるが・・・忠誠心?
どっかで聞いた気がしないでもないな。
なんだったっけ?
シェイラと3日程過ごし、ちょこちょこ遺跡発掘も手伝って楽しんできた俺は気分も爽快に『次の開発は何が良いかな~』なんて考えながら転移門を使って帰って来たら・・・魔術院を出たところで声をかけられた。
またか。
振り返った俺の目に入ったのは、毎度おなじみ左手の薬指に穴のあいた手袋。
もうそろそろ手袋をしてもおかしくはない時期だが、真夏なんかだったら手袋を落とすのって不自然じゃないか?
泥棒に入る時なんかに痕跡を減らすために薄い手袋をすることはよくあるが、そんな物は当然の事ながら人前では身に着けない。
そう考えると真夏に手袋を落とすなんて怪しすぎるだろ、俺。
思わずどうでもいい事を考えながら手袋を受け取る。
「ちなみに、今日はどこに行けば幸先が良さそうだと思う?
明日から仕事を再開する予定なんで、あまり時間を掛けたくないんだが」
配達人に聞いたところで何も知らない・教えてくれない可能性も高いが、もう夜になるところなんだ。
長だって、明日の朝になってから俺に探されるよりは、今のうちにあっさり会いに行った方が良いだろう。
幸いにも今回の配達人はそれなりに情報共有されていたのか、軽く首を傾げたと思ったらあっさり欲しい答えをくれた。
「今日はダルファスのワインが当たりだと言う話ですよ?」
ダルファスというのは北東の方の山間部だ。
そこのワインは中々美味いらしいが、何分山奥で地形がそこそこ険しい為、あまり数は出ない。
盗賊《シーフ》ギルドの隠れ家がある酒場でダルファスのワインを扱っているのは一か所だけなので、そこに長がいる可能性が高いという事なのだろう。
「そうか。
俺もたまにはワインを飲んでみるかな・・・」
せめて奢って貰えることを期待したいところだ。
そんなことを考えながら、下町の方へと足を向ける。
◆◆◆◆
「今度は何の用です?」
言われた酒場の地下にある隠れ家に忍び込み、書類に囲まれながらワインを飲んでいた長に声をかける。
なんかこう、子供の頃は偉くなったら周りの人間に命令をするだけで何もかもが解決して、自分は好きなだけ遊んでいられると思っていたのだが、いざ大人になってみると・・・恐喝で金や権力をかき集めているようなロクデナシ貴族はまだしも、まともな人間は偉くなってもいつ見ても忙しそうにしている気がする。
長にしたって、いつも酒を飲んではいるが、必ずその前には書類が積みあがっている。
折角偉くなっても仕事ばかりに追われる人生なんて、頑張った意味が無くないか?
学院長にしたっていつも忙しそうだし。
まあ、あの人は魔術師として大成したのに教育なんていう今までの努力と関係ない地位に就いてしまったせいかも知れないが、それなりに偉い地位になったのにふらふらと気楽に遊び回っている人ってシャルロのウォレン爺と魔術院の長老達ぐらいのもんじゃないだろうか?
魔術院の長老はあまり見たことが無いので実際にふらふら遊んでいるのか、単に俺の目に入るところにいないだけなのか、知らないが。
シャルロのウォレン爺だって色々暗躍しているようだからそこまで暇ではないだろうし、流石にもうそろそろぽっくり言ってもおかしくない年齢でもありそうだ。
ぽっくり逝きそうな年齢直前までがっつり書類に囲まれて忙しくしてなきゃいけないなんて、なんとも切ない将来の展望の様な気がするぜ。
まあ、俺は組織のお偉いさんになるのではなく、適当に気が向いた魔具を開発して金を稼ぎたいだけなので、年を取る頃にはそれなりに資金が溜まって遊び半分な遺跡探しとか沈没船探しとかに時間を費やせる可能性はそれなりに高いと思うが。
ジジイ3人で小舟で水中を探し回るなんてことをその頃にもやっているかは不明だが。
清早が付き合ってくれれば一人でも沈没船探索は出来るが、流石に一人でやるのでは退屈過ぎてすぐ飽きそうだ。
シャルロなんぞはそれこそ孫と遊ぶのに忙しくて付き合ってくれなそうな気もしないでもないな・・・。
遺跡探しはシェイラも付き合ってくれそうだが、沈没船探しはどうかな。
まあ、古い骨董品が見つかれば、興味を引けるか?
そんなことを考えながら、差し出されたワインを受け取って椅子に腰かけて長の言葉を待つ。
「最近、変な魔具が王都近辺で出回っていてな。
どうもそれをうっかり触って起動させると、今までの組織と関係ない人間に忠誠心を誓いたくなるらしい」
「はあ?
忠誠心なんて単なる利害関係から生じる所属判断でしょう?
魔具で何とかなるような物じゃないでしょうに。
それとも麻薬みたいに判断がおかしくなるんですか?」
長の側近ともいえる青や赤は利害を超えて長に忠誠を誓っていると言えなくも無いが・・・あんなのは例外だ。
普通の人間の『忠誠心』なんていうのは、信頼関係と利害関係を組み合わせた将来予測からくる行動基準にしか過ぎない。
「麻薬の様に露骨に行動が変になる訳ではないから、却って悪質なんだ。
普通どおりの行動をしている人間が、突然裏切るとは想像できないだろう?
何人か、あちこちのギルドで変な行動をして情報漏洩したり利益供与をする人間が現れたことがこの間の裏ギルド会合での雑談で明らかになってな。
殺していなかった裏切り者何人かを更に調べてみたら、何やら変な術にかかっているかもしれないという事で神殿で解呪してもらったところ、怪しげな魔具に触れた後に何故か急に価値観が変わったと言っている」
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怪しすぎるが・・・忠誠心?
どっかで聞いた気がしないでもないな。
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