622 / 1,309
卒業後
621 星暦555年 桃の月 19日 とばっちり(8)
しおりを挟む
>>>サイド ウォレン・ガズラート
「ベルファウォードは街全体を封鎖し、領主殿の許可を得て成人した住民全員に軽い自白剤を投与して確認したところ、多分情報は漏れていないのではないかという結論になったようです」
今日は第3騎士団の団長室でお茶を飲みながら、ウィルに押し付けた街毎の精神汚染度の確認作業で発覚した白磁の街での異常事態について話を聞いていた。
「ウォード侯の偏執的なまでな誓約魔術の使用には陛下も苦言を呈していたのだが・・・これからは何も言えなくなりそうじゃの」
比較的小規模とは言え仮にも侯爵領の領都の人口三分の二を超える人数に誓約魔術を課すなんてやりすぎとしか言いようがない行動なのだが、何が幸いするか分からないものだ。
「ベテラン職人の何人かは誓約魔術への負荷のせいで心臓に痛みを訴えていたそうなので、別の意味でも危ない所でしたけどね。
まさかこんな事件が起きているとは思ってもいませんでしたが、解呪用魔具の配布優先度を調べることにして良かったですよ、本当に」
ため息をつきながら団長が立ち上がってお茶のお代わりを注いだ。
こやつはワイン好きなのだが、流石に昼前から飲む前にはいかないと我慢しているのだろう。
「それで何か分かったのかの?」
「横領が何件か分かったのでそちらは訴追しました。
不倫も幾つか発覚したので、後で脅される可能性を考えて関係者を呼び出して注意をしてあります。
黒幕に関しては・・・直接的に動いていたのはザルガ共和国の商会の一つの様ですが、あの国は陶器の製造に適した土は全くありませんからな。
陶磁器生産の地域で利権を手に入れた様子も無いらしいので、どこかの依頼なのでしょう。
依頼先の特定にはまだ出来ていませぬ」
ザルガ共和国ね。
あそこは商売という名の下でなら何でもするから、今までに同じような事件が起きていなかったこと自体が驚きかも知れない。
南航路で東大陸とは以前から交易をしていたのだから、呪具のことはもっと前から知られていただろうに。
考えてみると、あの呪具をもっと情報戦に使って来なかったことが意外だが・・・長期使用すると精神異常を起こすという欠点のせいで国の政策に関するような長期の情報戦には向かないのかの?
そんなことを考えていたら、慌ただしく団長室の方へ走ってくる足音がしたと思ったら忙しないノックの音が響いた。
「入れ!」
扉が開き、中堅の士官らしき男が飛び込んで来た。
「魔力探知機の持ち出しの許可をお願いいたします!」
扉を閉めたと思ったら、抑えた声と共に承認要請書が差し出された。
「魔力探知機?
今か?」
眉をひそめながら団長が承認要請書を手に取る。
「ファルナ大尉から連絡がありまして。
誓約魔術が掛かっていても内部の人間での話し合いに障害はないことから、ギルド内などの会議室に通信用魔具を仕込めば時間が掛かるもののいつか情報を得られるのではないかと」
ファルナ大尉と言えば、ウィルに付けた人間だ。
ウィルからの指摘なのかな?
有難いが・・・どうせならもう数日早い方が更に良かったのう。
「不味いな。
直ぐに各ギルドの建物内を徹底的に調べさせろ。
あと、安全を確認した部屋でギルド関係者に不味い情報についてここ数日間で具体的な話し合いがあったかどうかも確認しておけ。
場合によっては何か理由をつけて国境を封鎖する必要があるかも知れない」
団長が士官に指示を出した。
転移箱や通信機の普及してきた今では、残念ながら国境を封鎖してもあまり効果はない可能性が高いが。
「はっ!
あと、ファルナ大尉の報告ではペルファーナでも多数の精神汚染者が発見されているという事です」
ベルファウォードの状況が明らかになって、3か所程追加で特産物の情報が秘匿されている街の確認させようとウィルに回って貰っていたのだが、そのうちの二つは問題が無かったらしいのでどうやら産業諜報の標的にされたのはベルファウォードだけのようだと一息ついていたのだが・・・どうやらペルファーナも狙われているらしい。
「ペルファーナもか。
魔力探知機の半数はあちらに回せ」
頭を抱えながら団長が指示した。
「・・・現在回せる王都にある使用されていない魔力探知機は5台しかないので、半数に分けるとベルファウォードの捜査が大幅に遅れる可能性がありますが」
恐る恐るといった様子で士官が尋ねる。
「ペルファーナの方は通信用魔具の確認もウィル君に頼んだらどうじゃ?
彼は精神汚染被害者だけでなく魔具を見つけるのも得意らしいぞい」
追加依頼に文句を言われそうだが。
暫し腕を組んで考え込んでいた団長が、手元にあった承認依頼書にそのまま署名して士官に差し出した。
「ペルファーナの住民は殆どが主なギルドの関係者か、その家族の筈だ。
広場での確認作業はやめて、各ギルドに関係者と家族を全員集めるようにしてその場で精神汚染を調べてもらい、ついでにギルド敷地内の通信用魔具捜査もお願いしろ。
取り敢えず金貨10枚で依頼してみて、難色を示したら30枚まで出しても良い」
取り敢えず。
ご機嫌取りに美味しい焼き菓子を入手しておこう。
そして年末にとびっきり美味しい食事処でのフルコースも予約かな。
最近東大陸の香辛料をふんだんに使った異国風の料理で人気が出てきたところがあった筈。
あそこは客層は限定していないが、人気がありすぎて予約しようにも来年春ぐらいまで空きがないと聞いた。
ちょっとなんとかならないか、調べてみるか。
「ベルファウォードは街全体を封鎖し、領主殿の許可を得て成人した住民全員に軽い自白剤を投与して確認したところ、多分情報は漏れていないのではないかという結論になったようです」
今日は第3騎士団の団長室でお茶を飲みながら、ウィルに押し付けた街毎の精神汚染度の確認作業で発覚した白磁の街での異常事態について話を聞いていた。
「ウォード侯の偏執的なまでな誓約魔術の使用には陛下も苦言を呈していたのだが・・・これからは何も言えなくなりそうじゃの」
比較的小規模とは言え仮にも侯爵領の領都の人口三分の二を超える人数に誓約魔術を課すなんてやりすぎとしか言いようがない行動なのだが、何が幸いするか分からないものだ。
「ベテラン職人の何人かは誓約魔術への負荷のせいで心臓に痛みを訴えていたそうなので、別の意味でも危ない所でしたけどね。
まさかこんな事件が起きているとは思ってもいませんでしたが、解呪用魔具の配布優先度を調べることにして良かったですよ、本当に」
ため息をつきながら団長が立ち上がってお茶のお代わりを注いだ。
こやつはワイン好きなのだが、流石に昼前から飲む前にはいかないと我慢しているのだろう。
「それで何か分かったのかの?」
「横領が何件か分かったのでそちらは訴追しました。
不倫も幾つか発覚したので、後で脅される可能性を考えて関係者を呼び出して注意をしてあります。
黒幕に関しては・・・直接的に動いていたのはザルガ共和国の商会の一つの様ですが、あの国は陶器の製造に適した土は全くありませんからな。
陶磁器生産の地域で利権を手に入れた様子も無いらしいので、どこかの依頼なのでしょう。
依頼先の特定にはまだ出来ていませぬ」
ザルガ共和国ね。
あそこは商売という名の下でなら何でもするから、今までに同じような事件が起きていなかったこと自体が驚きかも知れない。
南航路で東大陸とは以前から交易をしていたのだから、呪具のことはもっと前から知られていただろうに。
考えてみると、あの呪具をもっと情報戦に使って来なかったことが意外だが・・・長期使用すると精神異常を起こすという欠点のせいで国の政策に関するような長期の情報戦には向かないのかの?
そんなことを考えていたら、慌ただしく団長室の方へ走ってくる足音がしたと思ったら忙しないノックの音が響いた。
「入れ!」
扉が開き、中堅の士官らしき男が飛び込んで来た。
「魔力探知機の持ち出しの許可をお願いいたします!」
扉を閉めたと思ったら、抑えた声と共に承認要請書が差し出された。
「魔力探知機?
今か?」
眉をひそめながら団長が承認要請書を手に取る。
「ファルナ大尉から連絡がありまして。
誓約魔術が掛かっていても内部の人間での話し合いに障害はないことから、ギルド内などの会議室に通信用魔具を仕込めば時間が掛かるもののいつか情報を得られるのではないかと」
ファルナ大尉と言えば、ウィルに付けた人間だ。
ウィルからの指摘なのかな?
有難いが・・・どうせならもう数日早い方が更に良かったのう。
「不味いな。
直ぐに各ギルドの建物内を徹底的に調べさせろ。
あと、安全を確認した部屋でギルド関係者に不味い情報についてここ数日間で具体的な話し合いがあったかどうかも確認しておけ。
場合によっては何か理由をつけて国境を封鎖する必要があるかも知れない」
団長が士官に指示を出した。
転移箱や通信機の普及してきた今では、残念ながら国境を封鎖してもあまり効果はない可能性が高いが。
「はっ!
あと、ファルナ大尉の報告ではペルファーナでも多数の精神汚染者が発見されているという事です」
ベルファウォードの状況が明らかになって、3か所程追加で特産物の情報が秘匿されている街の確認させようとウィルに回って貰っていたのだが、そのうちの二つは問題が無かったらしいのでどうやら産業諜報の標的にされたのはベルファウォードだけのようだと一息ついていたのだが・・・どうやらペルファーナも狙われているらしい。
「ペルファーナもか。
魔力探知機の半数はあちらに回せ」
頭を抱えながら団長が指示した。
「・・・現在回せる王都にある使用されていない魔力探知機は5台しかないので、半数に分けるとベルファウォードの捜査が大幅に遅れる可能性がありますが」
恐る恐るといった様子で士官が尋ねる。
「ペルファーナの方は通信用魔具の確認もウィル君に頼んだらどうじゃ?
彼は精神汚染被害者だけでなく魔具を見つけるのも得意らしいぞい」
追加依頼に文句を言われそうだが。
暫し腕を組んで考え込んでいた団長が、手元にあった承認依頼書にそのまま署名して士官に差し出した。
「ペルファーナの住民は殆どが主なギルドの関係者か、その家族の筈だ。
広場での確認作業はやめて、各ギルドに関係者と家族を全員集めるようにしてその場で精神汚染を調べてもらい、ついでにギルド敷地内の通信用魔具捜査もお願いしろ。
取り敢えず金貨10枚で依頼してみて、難色を示したら30枚まで出しても良い」
取り敢えず。
ご機嫌取りに美味しい焼き菓子を入手しておこう。
そして年末にとびっきり美味しい食事処でのフルコースも予約かな。
最近東大陸の香辛料をふんだんに使った異国風の料理で人気が出てきたところがあった筈。
あそこは客層は限定していないが、人気がありすぎて予約しようにも来年春ぐらいまで空きがないと聞いた。
ちょっとなんとかならないか、調べてみるか。
2
あなたにおすすめの小説
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
ハズレスキル【分解】が超絶当たりだった件~仲間たちから捨てられたけど、拾ったゴミスキルを優良スキルに作り変えて何でも解決する~
名無し
ファンタジー
お前の代わりなんざいくらでもいる。パーティーリーダーからそう宣告され、あっさり捨てられた主人公フォード。彼のスキル【分解】は、所有物を瞬時にバラバラにして持ち運びやすくする程度の効果だと思われていたが、なんとスキルにも適用されるもので、【分解】したスキルなら幾らでも所有できるというチートスキルであった。捨てられているゴミスキルを【分解】することで有用なスキルに作り変えていくうち、彼はなんでも解決屋を開くことを思いつき、底辺冒険者から成り上がっていく。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
俺たちYOEEEEEEE?のに異世界転移したっぽい?
くまの香
ファンタジー
いつもの朝、だったはずが突然地球を襲う謎の現象。27歳引きニートと27歳サラリーマンが貰ったスキル。これ、チートじゃないよね?頑張りたくないニートとどうでもいいサラリーマンが流されながら生きていく話。現実って厳しいね。
生活魔法は万能です
浜柔
ファンタジー
生活魔法は万能だ。何でもできる。だけど何にもできない。
それは何も特別なものではないから。人が歩いたり走ったりしても誰も不思議に思わないだろう。そんな魔法。
――そしてそんな魔法が人より少し上手く使えるだけのぼくは今日、旅に出る。
異世界に召喚されて2日目です。クズは要らないと追放され、激レアユニークスキルで危機回避したはずが、トラブル続きで泣きそうです。
もにゃむ
ファンタジー
父親に教師になる人生を強要され、父親が死ぬまで自分の望む人生を歩むことはできないと、人生を諦め淡々とした日々を送る清泉だったが、夏休みの補習中、突然4人の生徒と共に光に包まれ異世界に召喚されてしまう。
異世界召喚という非現実的な状況に、教師1年目の清泉が状況把握に努めていると、ステータスを確認したい召喚者と1人の生徒の間にトラブル発生。
ステータスではなく職業だけを鑑定することで落ち着くも、清泉と女子生徒の1人は職業がクズだから要らないと、王都追放を言い渡されてしまう。
残留組の2人の生徒にはクズな職業だと蔑みの目を向けられ、
同時に追放を言い渡された女子生徒は問題行動が多すぎて退学させるための監視対象で、
追加で追放を言い渡された男子生徒は言動に違和感ありまくりで、
清泉は1人で自由に生きるために、問題児たちからさっさと離れたいと思うのだが……
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる