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卒業後
622 星暦555年 桃の月 28日 とばっちり(9)
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「へぇぇ、色々臨時でこき使った代償として、仕事が忙しくて休めなくなった団長さんからここの予約を奪い取ってくれたんだ、ウォレン氏?」
最近王都で大人気らしいザルガッドとかいうレストランで個室に案内されながらシェイラが尋ねてきた。
「おう。
こき使って悪かったなって。
アファル王国で秘匿している特産物がある街が二か所も狙われていたんだ。しかも通信用魔具を使った盗聴までしてたから、他の場所の確認とかで死ぬ程忙しいらしい。
第三騎士団は団長を含めて年末年始の休みは返上して働きっぱだってさ。
まあ、国が対処を決める為にも、被害の程度とか黒幕の特定とかをまずしない事には話にならんだろうからな」
なんと言っても、ペルファーナでは薬師ギルドで4個、採取ギルドで10個(しかも2つは庭にあった温室内)、その他ギルドで各所2個ずつも通信用魔具が埋め込まれていたのだ。
ついでにと泣きつかれて領主の館も調べたらこちらからも5個ほどでてきた。
呪具による精神汚染の被害者が少なかったからそれ程本腰を入れていなかったのかと思っていたら、どうやらあそこはよそ者が目立ちすぎるために住民に呪具を使って情報を聞き出すのが難しいと判断して最初から通信用魔具を重用していたっぽい。
領主の寝室からも一つ発見した時はかなり微妙な顔をされた。
ファルナとしてはプライベートな部屋には流石に無いだろうと案内しなくても良いかな~と思っていたようだが、心眼《サイト》で視たら明らかに金庫ではない魔具がベッドのヘッドボードの傍に埋め込まれていたので、『領主が変な情報を抜き取られて恐喝されたら、呪具も誓約魔術も関係なく情報取り放題じゃないか?』と言ったら案内された。
「通信用魔具を仕込むって、それをずっと誰かが聞いている訳でしょ?
随分と金を掛けているわね」
テーブルについてメニューを開きながらシェイラが言った。
「よく知らんが、金持ちに多い病気の唯一の治療薬が特産物で、高く売れるらしい。
一応自生している薬草は他の地域でもあるんで薬その物は他の地域でも入手できるが、自生している薬草を採って調薬するのと、栽培してやるのとでは全然効率が違うだろ?
あそこは小さい癖にあの地方で一番税収の多い街なんだとさ」
金持ちの病気用となると薬は高くても買うっていう患者が多いだろうから、ある意味あの盆地には金の生る木が生えているようなものなんだろう。
まあ、金持ちは沢山いるから他の地域で栽培を始めたところで薬の値段ががっつり下がるかどうかは知らんが・・・それこそ、南の方の国とかが黒幕なんだったら交易で色んな地域の金持ちにも売り込めるから、見込み収益は大きいんだろうな。
「何を頼むか決めた?」
シェイラがこちらのメニューを覗き込みながら尋ねる。
「一応こっちのナンとカリダスのセットのコースかな?
確か東大陸で食べた時に美味しかった気がするから」
というか、それしか記憶にない。
はっきり言って俺はあまり食事に関しては冒険をしないタイプなので、適当に人に美味しいと教わった物を試して、それが美味しかったらそれを食べ続ける。
このカリダスという辛いシチューっぽい料理は辛い中にも甘さや複雑な旨味があって、アファル王国では食べたこともない料理だった上に美味しいく、中々満足のいく料理だった。
店によっては辛すぎてイマイチ味が分からなくなるので、最近は東大陸やパストン島に行った時にはアファル王国の人間が勧める店に行くことにしているが。
どうも東大陸の人間は香辛料に慣れているせいか、辛さへの標準が俺たちと違うんだよな。
「じゃあ、私もそれにしてみようかな。
実家の知り合いで食道楽の人も最初は是非それを試せって言っていたし。
もっとも、『最初は』って言っても今じゃあ予約を入れようにも数月待ちだから、1刻以上並ぶ根性がないと他のメニューを試せないみたいだけど」
このザルガッドという店は全席予約制ではなく、半分は並んで入った人が入れるようになっている。
お蔭で王都の幅広い客層に人気になってますます予約が難しくなっているのだが・・・この寒いさなかでも1刻以上並んででも店に入ろうとする強者が意外と多いらしい。
俺としてはこき使われた報酬として予約を取ってくれるなら大歓迎だが、流石に真冬に食べ物の為に外で1刻並ぶつもりは無いので、外で待っている連中の気が知れないと密かに思っている。
・・・シェイラってどの程度の食道楽なんだろう?
寒いさなかに並びたいなんて言われたら嫌なんだけど。
まあ、防寒用結界を使えばそれなりに暖かく過ごせるが、それでも1時間外で立って待つこと自体がイマイチだ。
仕事の為と思えば我慢できるが、自分が食べる食事の為だったら家でパディン夫人に作って貰っても良いじゃないかと思うんだよなぁ。
シェイラが誘ってきたら断らないが、誘われないことを祈りたいね。
「そう言えば、軍部との契約だって交渉して良いんだぞってウォレン氏に言われたんだが・・・どの程度ごねても危険はないかな?」
何分俺の軍人との個人的な金の絡むかかわりというのは、ウォレン氏経由でなんだかんだ押し付けられるの以外では、幼い時に警備兵に折角稼いだ金を根こそぎ奪い取られた悲惨な原体験だけだ。
警備兵に下手に逆らうと殺されるとか、投獄されて気分転換に殴られる羽目になる。
なので基本的に兵士に捕まったら逆らわないのが下町の常識だった。
が。
今回のウォレン氏の言葉から考えるに、どうも臨時要請の際の報酬について、俺はもっとごねても良かったのでは?という気がしてきたのだ。
どうなんだろ?
「ええ?
そりゃあ、交渉しまくった挙句に断ったりしたら後で恨まれて何かが起きた際に助けが遅れたり、罰則が厳しくなったりすることはあるけど、ある程度の交渉は普通の商会や魔術院と同じで当然向うも織り込み済みで最初の値段を提示しているでしょ?」
あっさり返ってきたシェイラの言葉にがっくりした。
やっぱりかぁ・・・。
どの位儲け損ねたんだろ?
最近王都で大人気らしいザルガッドとかいうレストランで個室に案内されながらシェイラが尋ねてきた。
「おう。
こき使って悪かったなって。
アファル王国で秘匿している特産物がある街が二か所も狙われていたんだ。しかも通信用魔具を使った盗聴までしてたから、他の場所の確認とかで死ぬ程忙しいらしい。
第三騎士団は団長を含めて年末年始の休みは返上して働きっぱだってさ。
まあ、国が対処を決める為にも、被害の程度とか黒幕の特定とかをまずしない事には話にならんだろうからな」
なんと言っても、ペルファーナでは薬師ギルドで4個、採取ギルドで10個(しかも2つは庭にあった温室内)、その他ギルドで各所2個ずつも通信用魔具が埋め込まれていたのだ。
ついでにと泣きつかれて領主の館も調べたらこちらからも5個ほどでてきた。
呪具による精神汚染の被害者が少なかったからそれ程本腰を入れていなかったのかと思っていたら、どうやらあそこはよそ者が目立ちすぎるために住民に呪具を使って情報を聞き出すのが難しいと判断して最初から通信用魔具を重用していたっぽい。
領主の寝室からも一つ発見した時はかなり微妙な顔をされた。
ファルナとしてはプライベートな部屋には流石に無いだろうと案内しなくても良いかな~と思っていたようだが、心眼《サイト》で視たら明らかに金庫ではない魔具がベッドのヘッドボードの傍に埋め込まれていたので、『領主が変な情報を抜き取られて恐喝されたら、呪具も誓約魔術も関係なく情報取り放題じゃないか?』と言ったら案内された。
「通信用魔具を仕込むって、それをずっと誰かが聞いている訳でしょ?
随分と金を掛けているわね」
テーブルについてメニューを開きながらシェイラが言った。
「よく知らんが、金持ちに多い病気の唯一の治療薬が特産物で、高く売れるらしい。
一応自生している薬草は他の地域でもあるんで薬その物は他の地域でも入手できるが、自生している薬草を採って調薬するのと、栽培してやるのとでは全然効率が違うだろ?
あそこは小さい癖にあの地方で一番税収の多い街なんだとさ」
金持ちの病気用となると薬は高くても買うっていう患者が多いだろうから、ある意味あの盆地には金の生る木が生えているようなものなんだろう。
まあ、金持ちは沢山いるから他の地域で栽培を始めたところで薬の値段ががっつり下がるかどうかは知らんが・・・それこそ、南の方の国とかが黒幕なんだったら交易で色んな地域の金持ちにも売り込めるから、見込み収益は大きいんだろうな。
「何を頼むか決めた?」
シェイラがこちらのメニューを覗き込みながら尋ねる。
「一応こっちのナンとカリダスのセットのコースかな?
確か東大陸で食べた時に美味しかった気がするから」
というか、それしか記憶にない。
はっきり言って俺はあまり食事に関しては冒険をしないタイプなので、適当に人に美味しいと教わった物を試して、それが美味しかったらそれを食べ続ける。
このカリダスという辛いシチューっぽい料理は辛い中にも甘さや複雑な旨味があって、アファル王国では食べたこともない料理だった上に美味しいく、中々満足のいく料理だった。
店によっては辛すぎてイマイチ味が分からなくなるので、最近は東大陸やパストン島に行った時にはアファル王国の人間が勧める店に行くことにしているが。
どうも東大陸の人間は香辛料に慣れているせいか、辛さへの標準が俺たちと違うんだよな。
「じゃあ、私もそれにしてみようかな。
実家の知り合いで食道楽の人も最初は是非それを試せって言っていたし。
もっとも、『最初は』って言っても今じゃあ予約を入れようにも数月待ちだから、1刻以上並ぶ根性がないと他のメニューを試せないみたいだけど」
このザルガッドという店は全席予約制ではなく、半分は並んで入った人が入れるようになっている。
お蔭で王都の幅広い客層に人気になってますます予約が難しくなっているのだが・・・この寒いさなかでも1刻以上並んででも店に入ろうとする強者が意外と多いらしい。
俺としてはこき使われた報酬として予約を取ってくれるなら大歓迎だが、流石に真冬に食べ物の為に外で1刻並ぶつもりは無いので、外で待っている連中の気が知れないと密かに思っている。
・・・シェイラってどの程度の食道楽なんだろう?
寒いさなかに並びたいなんて言われたら嫌なんだけど。
まあ、防寒用結界を使えばそれなりに暖かく過ごせるが、それでも1時間外で立って待つこと自体がイマイチだ。
仕事の為と思えば我慢できるが、自分が食べる食事の為だったら家でパディン夫人に作って貰っても良いじゃないかと思うんだよなぁ。
シェイラが誘ってきたら断らないが、誘われないことを祈りたいね。
「そう言えば、軍部との契約だって交渉して良いんだぞってウォレン氏に言われたんだが・・・どの程度ごねても危険はないかな?」
何分俺の軍人との個人的な金の絡むかかわりというのは、ウォレン氏経由でなんだかんだ押し付けられるの以外では、幼い時に警備兵に折角稼いだ金を根こそぎ奪い取られた悲惨な原体験だけだ。
警備兵に下手に逆らうと殺されるとか、投獄されて気分転換に殴られる羽目になる。
なので基本的に兵士に捕まったら逆らわないのが下町の常識だった。
が。
今回のウォレン氏の言葉から考えるに、どうも臨時要請の際の報酬について、俺はもっとごねても良かったのでは?という気がしてきたのだ。
どうなんだろ?
「ええ?
そりゃあ、交渉しまくった挙句に断ったりしたら後で恨まれて何かが起きた際に助けが遅れたり、罰則が厳しくなったりすることはあるけど、ある程度の交渉は普通の商会や魔術院と同じで当然向うも織り込み済みで最初の値段を提示しているでしょ?」
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やっぱりかぁ・・・。
どの位儲け損ねたんだろ?
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