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卒業後
626 星暦556年 藤の月 12日 とばっちり(13)
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今回は情報部の団長さんの視点からの話です。
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>>>サイド ダグロイド・シャーストン団長(第三騎士団)
「なんと。
非公式とは言え、こちらから協力を頼んでいる人間から軍部と交わした契約の交渉で粘りすぎると暗殺されると思われているというのか?!」
王太子殿下が目を丸くして聞き返してきた。
「そのようですな。
本人にも先日聞いてみたところ、『どうせお偉いさんにとって元孤児の人間なんてそこら辺の野良猫と同じ扱いだろうし。
流石にシャルロとの関係があるからウザかったら即抹殺という事は無いにしても、それなりに満足できる金額がもらえているんだから下手に欲を出して後から狙われるような状況にならない方が無難だろうと思ってね』と言われました」
ウォレン爺が肩を竦めつつ答えた。
「まさか本当に軍部でスラムの都合の悪い人間を暗殺しているとかいうのではないでしょうな?」
宰相がじろりとこちらを睨む。
「戦場での殺し合いならまだしも、暗殺は泥沼な状況になりやすいですから。
他にどうしようもなくて放置したら大惨事になるような状況においてのみ、上からの命令の下で行う決まりになっています。
街の警備隊の方で変なことをやっているのかと情報部の方で調べましたが、暗殺はしていないようです」
ため息をつきながら答える。
「暗殺『は』?」
今回話題になっているウィル・ダントールに近い人間として招かれた特級魔術師のアイシャルヌ氏が片方の眉をあげて聞き返す。
「どうやら、貧しいながらも税金を払っているような下町の人間はまだしも、スラムの勝手に住み着いているような連中に関しては守る義務もないと思っている者がそれなりにいるらしく、事件の報告があっても何もしないだけでなく、何か気に食わないことがあると一方的に暴行を加えることも・・・それなりにあるようです」
「ちなみに、下町とスラムの違いとは何なのだ?
スラムとは下町の蔑称なのかと思っていたが、微妙に違うようだな?」
王太子殿下が口を挟んだ。
「我々からすると、下町とは貧しいながらも建物の所有者と住民が確定しており、家賃や税金を辛うじて払っている貧困層が住む地域。
スラムは建物の所有者も住人もはっきりせず、不特定多数の人間が勝手に占拠している税金も家賃も地代も払われていない地域のことを意味しています。
もっとも、どうも住民にとっては何やら裏社会の集団の縄張りの話らしく、『スラム』を縄張りにする連中と『下町』を縄張りにする連中は明確に彼らとしては違いがあるそうです。
とは言え、それなりに流動的に変わるので境界地域では住民でも聞く相手によって答えが変わってくるそうですが」
自分にしても、今回の問題をウォレン爺から指摘されて本格的な調査を命じて初めて知った詳細だ。
「下町とスラム地域を担当すること自体が警備兵にとって懲戒任務に見られていることから質の悪い人間が集まってしまい、モラルも低い事からそのような暴行事件が起きると聞いた。
根本的な解決策として、その所有者も分からぬスラムの建物を全て壊して地域全体を再開発し、スラムの住人にも仕事を提供してせめて下町レベルには暮らしていけるよう支援していくというのではダメなのか?
今までそれが出来ていないという事は何か障害があるのだろうとは思うが、何が問題なのだ?」
王太子殿下が首を軽く傾げながら尋ねた。
「スラムの建物を倒して再開発なんてことになったらあそこが戦争状態になりますね。
殿下の婚約発表の際の襲撃事件で裏ギルドがほぼ無償で下町部分の警備でかなりの協力をしたことから分かるように、彼らにとってスラムや下町は自衛すべき『自分たちの縄張り』なのです。
『今よりよくするから』と我々が言って現状を破壊し再生しようとしても、納得しないでしょう」
宰相がため息をつきながら応じた。
そう。
王都襲撃事件でかなり協力的に裏ギルドが動いたので、てっきり裏社会もそれなりにアファル王国に対して帰属意識があると思っていたのだが、どうやら彼らにあったのは自衛心だったらしい。
「警備兵に下町やスラムとて重要なアファル王国の一部であると知らしめて、担当地域を定期的に回すようにしてはどうなのだ?」
王太子殿下が提案する。
「地域やその住民に関する知識が無いと見回りにせよ事件の対応にせよ、効率が落ちます。
そう言った情報を全て定期的に別のチームに引き継ぎながらローテーションを組ませるとなったらかなりの追加的労力が掛かることになりますし、警備兵の効率も下がるでしょうな」
ため息をつきながらウォレン爺が答えた。
そう。
事件があった時に突入して戦えば良いだけの騎士たちとは違い、警備兵は地域に密着した働き方をした方が効率的になり、そしてそうなるとどうしても下町やスラムへの『密着する』のは下に見られる。
「しかも、スラムの住民であろうが真摯に対応しようとするような清廉な人間は、賄賂を受け取って見ぬふりをするなんてことはしない。
そうなるとスラムで勢力を振るう人間にとって都合が悪いので、その者を見せしめのために袋叩きにさせたりする。お陰であそこでは真面目に働く者が馬鹿を見るという状況になるようです」
スラムの問題について調べた際に聞いた現状も付け加える。
真面目な人間が損をするのはどこでもある現象だが、スラムでは命に関わる。
お陰でまともな警備兵が長続きせず、賄賂を受け取り暴行を加えるような人間ばかりが残る結果になるのだ。
「ふむ。
裏の三大ギルドのトップに相談してみたらどうだ?
商業地域の様にしっかり管理されては彼らにとっても都合が悪いだろうが、現状が理想的だとは思っていないだろう?
それこそ警備兵その物がいなくてもスラムの治安は彼らが責任をとるというのだったら、そこら辺の合意をスラムの住民に周知させて警備兵そのものを引き上げた方が、少なくとも国が金の交渉の為に暗殺すると思われるほどの不信感を抱かれないで済むのではないか?」
アイシャルヌ氏が中々斬新なことを言いだした。
彼は国の上層部に関わっているにしてはそれなりにスラムの人間にも信頼されている人物なのだが、彼から見てもスラムの状況解決は難しいようだ。
今回の提案はある意味、負けを認めたに近いのかも知れないが・・・現実的な話かもしれない。
「そうですな。
話し合いを提案して、此方にも何か解決策があるのなら努力する気があると見せるのも最初の一歩としてありかも知れませんな」
ため息をつきながら宰相が合意の声をあげた。
交渉は誰が当たることになる事やら・・・。
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>>>サイド ダグロイド・シャーストン団長(第三騎士団)
「なんと。
非公式とは言え、こちらから協力を頼んでいる人間から軍部と交わした契約の交渉で粘りすぎると暗殺されると思われているというのか?!」
王太子殿下が目を丸くして聞き返してきた。
「そのようですな。
本人にも先日聞いてみたところ、『どうせお偉いさんにとって元孤児の人間なんてそこら辺の野良猫と同じ扱いだろうし。
流石にシャルロとの関係があるからウザかったら即抹殺という事は無いにしても、それなりに満足できる金額がもらえているんだから下手に欲を出して後から狙われるような状況にならない方が無難だろうと思ってね』と言われました」
ウォレン爺が肩を竦めつつ答えた。
「まさか本当に軍部でスラムの都合の悪い人間を暗殺しているとかいうのではないでしょうな?」
宰相がじろりとこちらを睨む。
「戦場での殺し合いならまだしも、暗殺は泥沼な状況になりやすいですから。
他にどうしようもなくて放置したら大惨事になるような状況においてのみ、上からの命令の下で行う決まりになっています。
街の警備隊の方で変なことをやっているのかと情報部の方で調べましたが、暗殺はしていないようです」
ため息をつきながら答える。
「暗殺『は』?」
今回話題になっているウィル・ダントールに近い人間として招かれた特級魔術師のアイシャルヌ氏が片方の眉をあげて聞き返す。
「どうやら、貧しいながらも税金を払っているような下町の人間はまだしも、スラムの勝手に住み着いているような連中に関しては守る義務もないと思っている者がそれなりにいるらしく、事件の報告があっても何もしないだけでなく、何か気に食わないことがあると一方的に暴行を加えることも・・・それなりにあるようです」
「ちなみに、下町とスラムの違いとは何なのだ?
スラムとは下町の蔑称なのかと思っていたが、微妙に違うようだな?」
王太子殿下が口を挟んだ。
「我々からすると、下町とは貧しいながらも建物の所有者と住民が確定しており、家賃や税金を辛うじて払っている貧困層が住む地域。
スラムは建物の所有者も住人もはっきりせず、不特定多数の人間が勝手に占拠している税金も家賃も地代も払われていない地域のことを意味しています。
もっとも、どうも住民にとっては何やら裏社会の集団の縄張りの話らしく、『スラム』を縄張りにする連中と『下町』を縄張りにする連中は明確に彼らとしては違いがあるそうです。
とは言え、それなりに流動的に変わるので境界地域では住民でも聞く相手によって答えが変わってくるそうですが」
自分にしても、今回の問題をウォレン爺から指摘されて本格的な調査を命じて初めて知った詳細だ。
「下町とスラム地域を担当すること自体が警備兵にとって懲戒任務に見られていることから質の悪い人間が集まってしまい、モラルも低い事からそのような暴行事件が起きると聞いた。
根本的な解決策として、その所有者も分からぬスラムの建物を全て壊して地域全体を再開発し、スラムの住人にも仕事を提供してせめて下町レベルには暮らしていけるよう支援していくというのではダメなのか?
今までそれが出来ていないという事は何か障害があるのだろうとは思うが、何が問題なのだ?」
王太子殿下が首を軽く傾げながら尋ねた。
「スラムの建物を倒して再開発なんてことになったらあそこが戦争状態になりますね。
殿下の婚約発表の際の襲撃事件で裏ギルドがほぼ無償で下町部分の警備でかなりの協力をしたことから分かるように、彼らにとってスラムや下町は自衛すべき『自分たちの縄張り』なのです。
『今よりよくするから』と我々が言って現状を破壊し再生しようとしても、納得しないでしょう」
宰相がため息をつきながら応じた。
そう。
王都襲撃事件でかなり協力的に裏ギルドが動いたので、てっきり裏社会もそれなりにアファル王国に対して帰属意識があると思っていたのだが、どうやら彼らにあったのは自衛心だったらしい。
「警備兵に下町やスラムとて重要なアファル王国の一部であると知らしめて、担当地域を定期的に回すようにしてはどうなのだ?」
王太子殿下が提案する。
「地域やその住民に関する知識が無いと見回りにせよ事件の対応にせよ、効率が落ちます。
そう言った情報を全て定期的に別のチームに引き継ぎながらローテーションを組ませるとなったらかなりの追加的労力が掛かることになりますし、警備兵の効率も下がるでしょうな」
ため息をつきながらウォレン爺が答えた。
そう。
事件があった時に突入して戦えば良いだけの騎士たちとは違い、警備兵は地域に密着した働き方をした方が効率的になり、そしてそうなるとどうしても下町やスラムへの『密着する』のは下に見られる。
「しかも、スラムの住民であろうが真摯に対応しようとするような清廉な人間は、賄賂を受け取って見ぬふりをするなんてことはしない。
そうなるとスラムで勢力を振るう人間にとって都合が悪いので、その者を見せしめのために袋叩きにさせたりする。お陰であそこでは真面目に働く者が馬鹿を見るという状況になるようです」
スラムの問題について調べた際に聞いた現状も付け加える。
真面目な人間が損をするのはどこでもある現象だが、スラムでは命に関わる。
お陰でまともな警備兵が長続きせず、賄賂を受け取り暴行を加えるような人間ばかりが残る結果になるのだ。
「ふむ。
裏の三大ギルドのトップに相談してみたらどうだ?
商業地域の様にしっかり管理されては彼らにとっても都合が悪いだろうが、現状が理想的だとは思っていないだろう?
それこそ警備兵その物がいなくてもスラムの治安は彼らが責任をとるというのだったら、そこら辺の合意をスラムの住民に周知させて警備兵そのものを引き上げた方が、少なくとも国が金の交渉の為に暗殺すると思われるほどの不信感を抱かれないで済むのではないか?」
アイシャルヌ氏が中々斬新なことを言いだした。
彼は国の上層部に関わっているにしてはそれなりにスラムの人間にも信頼されている人物なのだが、彼から見てもスラムの状況解決は難しいようだ。
今回の提案はある意味、負けを認めたに近いのかも知れないが・・・現実的な話かもしれない。
「そうですな。
話し合いを提案して、此方にも何か解決策があるのなら努力する気があると見せるのも最初の一歩としてありかも知れませんな」
ため息をつきながら宰相が合意の声をあげた。
交渉は誰が当たることになる事やら・・・。
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