シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
257 / 1,309
卒業後

256 星暦553年 翠の月 1日 祭りの後(2)

しおりを挟む
魔術院では子供の魔力ギフトを『ある』か『ない』かと判定をしているが、実は魔力ギフトというのは誰でもある程度は有している。

それこそ、頭をどこかにぶつけて支障が出てしまった人や、生まれつき障害がある人間以外全てに嗅覚や聴覚があるのと同じように、魔力ギフトだって殆どの人間がある程度は持っている。

ただし、通常の一般人が有している魔力ギフトは少なすぎて実用性が無く、それこそ俺たち魔術師が普通に使っているような術でも無理矢理起動させたら気絶するか、下手をしたら干からびて死んでしまうレベルだ。

だから魔術院で使っている魔力ギフトの判定の魔道具は、基本的な術を日に3回ぐらい起動させても支障が無いレベルの魔力があるか否かを基準として『魔力あり』と『魔力なし』の振り分けをしている。

実際の所、基本的な術を日に3回程度しか起動できないのでは勉強だって練習が捗らず大変だし、働くにしても十分食っていけるだけの仕事をこなすのも難しい。

だが、例えば魔術院の事務職などだったら『魔術』という物に対する理解がある方が好ましいが別に術はそれ程使う必要は無い。

それに、魔道具の開発だって魔力を視ることが出来る方が良いが、魔道具の発動はどうせ魔石を使うから本人の魔力はそれ程重要では無い。

と言うことで最低レベルの魔力しか無いからと悲観する必要は無いのだが・・・。

神殿教室に居た子供達のうち、二人はちゃんと学べば一流か二流の魔術師としてやっていけるだけの魔力がある。
(ちなみに、シャルロは間違いなく一流、俺とアレクは一流の下か二流の上というところ)


目の前に立っている少年に関しては。悩ましいところだった。

「う~ん。
お前さん、将来何かなりたい職業ってあるのか?」

「俺?俺は親父みたいに立派な大工になるんだ!」
ニカっと笑いながら自信満々に少年が答えた。

大工かぁ。
家を建てる際には固定化や防水等、様々な術を掛けることがある。
実際に自分で掛けるのでは無くても、どんな術があるのか、術の特徴がどんなものか等を知っておけば頭脳派な大工にとっては得るものが多いとは思う。

だが、大工というの元々それなりに尊敬を得られる堅実な職業だから、これから3年間かけて態々微妙なレベルの魔術師になる勉強をする必要があるかどうかは判断に困るところだ。

「そうか。
取り敢えず、お前さんにもそれなりに魔力があるから、なりたければ魔術師になれる。
ただ、あまり魔力が多くは無いから魔術師としてだけ食っていくのはちょっと大変かも知れない」
微妙なレベルの子供への勧誘って中々悩ましいものだな。

「魔術師っていうのは魔力だけが重要なのでは無く、工夫や努力でそれなりに伸びる。
だが、魔力が他の魔術師よりも少ないと言うことは・・・それだけ他よりも努力しなければ同じ開始時点に立つことすら難しいと言うことだ。
家を建てるのにも魔術というものに対する理解があると、より良い家を建てられると思う。だから魔術師になる勉強をした上で大工になるというのもありだろうが、それがお前にとってこれから3年間ほど必死の努力をするだけの価値があるかどうかは分からん。
親と相談して、魔術学院に行きたいと思うなら魔術院に来てくれ。
話をもっと聞きたいというのなら俺も相談にのるから、魔術院で俺に呼び出しを掛けてもいいぞ」
幸い、悩ましいぐらい魔力のレベルが微妙と言うことは、少なくとも暴発のリスクは殆ど無いと言うことなので本人が魔術師になりたくないと言えば放置しても構わない。

魔術院で俺を呼び出せるように連絡カードを少年に渡してから、残った子供達のテストを続ける。

「お、魔力ありだね~。
今度一度、ご両親と一緒に魔術院か魔術学院に来て話を聞かないか?」
案の定、先程目を付けていた少女で判定の魔道具が反応した。

「え~本当??どうしようかなぁ~」
何やらきゃぴきゃぴした感じに指を組み合わせて首をかしげながら、少女がこちらを見上げた。

・・・なんだ、これは。

『媚びた』とまでは言わないが、こうも『女々しい』というか『女』であることを全面に出してくる少女と今まで縁が無かったので、思わず一瞬言葉に詰まる。

「あ~女性というのはまた違った観点の考えることがあるかも知れないからな。
魔術院で女性の相談員とでも話した方が良いだろう。
後で魔術院でお前さんのことを伝えておくから、明日にでもご両親を連れて相談に来てくれ」
これは、付き合いたくない。
俺はもっとサバサバした人間が好きなんだ。

女だからと周りに甘やかされることを期待しているような人間なぞ、相手にしたくない。
これだったら魔術師になるよりも、魔力を封じた方が良いんじゃねぇ?
取り敢えず、これは魔術院に丸投げだな。

さらにその後、何人か「残念ながら無いね、次~」なんてことをやっていたら、最後にもう一人の魔力ギフトがあると思っていた少年の番になった。

というか、本人はテストを受けたくなかったのか、さりげなくテストを受け終わって話している子供達に混ざっていたのを声を掛けて呼び出したのだ。

・・・何なんだ、こいつは?
テストを受けたくないなら今日はサボれば良かったのに。
今だって受けたふりして帰っても神官達にはばれなかっただろうに、そのままここに居るが自分からは来ようとしない。

魔力が視えるはずなのに自分では手を上げないし。
変なの。

「ん。お前、やっぱり魔力が視えているだろ?」
魔道具が明るく光ったのを見て少年に声を掛ける。

特に精霊に好かれている様では無いが、蒼流抜きのシャルロ並の魔力がある。
間違いなく、一流魔術師になるだけの魔力ギフトがあるし、これなら魔力を目に集める方法を学ばなくったって魔力が視えているはずだ。

「俺・・・魔術師にはなれないから。
それでも、魔術の勉強だけするって可能ですか?」
何やら事情がありそうだな・・・。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...