657 / 1,309
卒業後
656 星暦556年 青の月 18日 空滑機改
しおりを挟む
「へぇぇ、やっと空滑機《グライダー》を改造するのか。
あれも世に出てから4年ってところだろ?
もうそろそろ改造版が出ても良い時期だよな」
空滑機《グライダー》と転移門の経済的影響について確認したいとアンディに連絡したところ、2日後にウチの方に遊びに来た。
別に魔術院に行っても構わなかったんだが、アンディとしても郊外にあるウチの工房に来るという口実で半日ゆったりしたかったようだ。
乗合馬車を使うならまだしも、魔術院の空滑機《グライダー》でなくても普通に馬に乗ってくれば半日なんて必要ないんだけどね。
魔術院のお偉いさんの頭の中では『王都の城壁の外』となると自動的に『遠い田舎町』と変換されるらしい。
「そんなものか?
魔具も魔術回路も何十年も前のを使っているのも多いじゃないか」
ゆったりと工房のソファでお茶を楽しむアンディの言葉にちょっと首を傾げる。
「商業ギルドや軍部が使うような魔具っていうのはそれなりの頻度で改善されているぜ?
その方が特許の収入も増えるしな。
空滑機《グライダー》だってもっと使い勝手を良くして欲しいという要望は上がっていただろ?」
まあ、確かにね。
「色々と忙しかったし、あれは僕達的には遊びに行くための魔具という位置づけだったから、あまり言われたような変更に興味が湧かなかったんだよねぇ」
シャルロが肩を竦めながら答えた。
金に困らない育ちのせいか、意外な事にシャルロが俺たちの中では一番モノづくりに関しては頑固だ。
作りたい物を造る。
あったら便利だと思えるような物を造りたいけど、興味を感じなければ人の要望に必ずしも耳を傾けない。
金の為に要求があったら何でも応じるっていうのは嫌という姿勢だ。
一旦開発を始めたらちょっと想定外の方向に魔具の内容が変わる時はあるし、そう言う場合は想定使用者の希望を聞くこともあるが。
空滑機《グライダー》は特に遊びに行くための魔具という位置づけだったせいで、商業用や軍事用の利用の為に便利にしたいという要望はほぼ全て無視してきたのだ。
それが甥姪が増えたお蔭で空滑機《グライダー》の改造版を造ろうという流れになったのは、商業ギルドとか軍部にとっては喜ばれそうだ。
それはさておき。
「ちなみに、空滑機《グライダー》の積載量を増やして使い勝手を良くした場合、転移門の利用が減ったりして魔術院で問題が起きたりはしないか?
通信機で言ったように、それを確認しておきたかったんだが」
アレクがアンディに尋ねた。
ふふんとアンディがアレクの懸念を鼻で笑った。
「元々、転移門は魔術師用の魔具なんだぜ?
空いた時間にどうしてもというから貴族や商家に使わせてやっているだけだ。
第一、多少空滑機が便利になったところで、距離と時間を考えると急ぐ場合はどうしたって転移門を使うだろう」
まあ、確かに。
荷物があるような移動以外だと富裕層は基本的に転移門を使い、そうでない場合は馬車だ。
そう考えると、たいていの人が空滑機《グライダー》を使うのは移動よりも遊びが多いかな?
土砂崩れの様な事案で空滑機《グライダー》改を使うにしても、それは最寄りの街に転移門が無いか、何らかの理由で転移門の魔力補填が間に合わないからだろう。
「狭い空滑機《グライダー》の中に数刻寝転がって、落ちて死ぬかも知れない魔具で移動したいと考える奇特な人間はそれ程多くは無い。
だから瞬時に移動できる魔具を開発しない限り、魔術院への影響は限定的だよ」
「安全装置があるから、空滑機《グライダー》が落ちても死ぬどころか大怪我した人だっていないよ!」
アンディの言葉にシャルロが抗議の声を上げる。
「安全な筈な空滑機《グライダー》が壊れるんだ。
安全装置がちゃんと機能しない可能性だってゼロじゃあない・・・って普通の人間は心配するんだぜ?」
アンディが肩を竦めながら応じた。
なるほど。
「人数を増やした際の安全対策については十分注意しておこう。
あとは・・・乗る姿勢が寝転がる一択ではなく座れるように出来るかも考えてみようか」
アレクが言った。
「確かにな。
今までは空を飛んで景色を楽しむ為の遊び道具だったから下を見やすい寝転がり体勢以外は考えてこなかったが、積載量を増やして飛ぶことに興味がない人間も乗せる可能性が高くなるとしたら、そこら辺の利便性も考える必要があるな」
女性の服なんかはあまり寝転がるのに向いていないし。
シェイラも服に皺が寄ると文句を言っていたな、そう言えば。
改善点は色々とありそうだ。
今まで上がってきて無視していた改善要望について、見直してみるか。
【後書き】
うつ伏せに寝転がったまま寝返りもうたずに数時間って実はキツそうw
あれも世に出てから4年ってところだろ?
もうそろそろ改造版が出ても良い時期だよな」
空滑機《グライダー》と転移門の経済的影響について確認したいとアンディに連絡したところ、2日後にウチの方に遊びに来た。
別に魔術院に行っても構わなかったんだが、アンディとしても郊外にあるウチの工房に来るという口実で半日ゆったりしたかったようだ。
乗合馬車を使うならまだしも、魔術院の空滑機《グライダー》でなくても普通に馬に乗ってくれば半日なんて必要ないんだけどね。
魔術院のお偉いさんの頭の中では『王都の城壁の外』となると自動的に『遠い田舎町』と変換されるらしい。
「そんなものか?
魔具も魔術回路も何十年も前のを使っているのも多いじゃないか」
ゆったりと工房のソファでお茶を楽しむアンディの言葉にちょっと首を傾げる。
「商業ギルドや軍部が使うような魔具っていうのはそれなりの頻度で改善されているぜ?
その方が特許の収入も増えるしな。
空滑機《グライダー》だってもっと使い勝手を良くして欲しいという要望は上がっていただろ?」
まあ、確かにね。
「色々と忙しかったし、あれは僕達的には遊びに行くための魔具という位置づけだったから、あまり言われたような変更に興味が湧かなかったんだよねぇ」
シャルロが肩を竦めながら答えた。
金に困らない育ちのせいか、意外な事にシャルロが俺たちの中では一番モノづくりに関しては頑固だ。
作りたい物を造る。
あったら便利だと思えるような物を造りたいけど、興味を感じなければ人の要望に必ずしも耳を傾けない。
金の為に要求があったら何でも応じるっていうのは嫌という姿勢だ。
一旦開発を始めたらちょっと想定外の方向に魔具の内容が変わる時はあるし、そう言う場合は想定使用者の希望を聞くこともあるが。
空滑機《グライダー》は特に遊びに行くための魔具という位置づけだったせいで、商業用や軍事用の利用の為に便利にしたいという要望はほぼ全て無視してきたのだ。
それが甥姪が増えたお蔭で空滑機《グライダー》の改造版を造ろうという流れになったのは、商業ギルドとか軍部にとっては喜ばれそうだ。
それはさておき。
「ちなみに、空滑機《グライダー》の積載量を増やして使い勝手を良くした場合、転移門の利用が減ったりして魔術院で問題が起きたりはしないか?
通信機で言ったように、それを確認しておきたかったんだが」
アレクがアンディに尋ねた。
ふふんとアンディがアレクの懸念を鼻で笑った。
「元々、転移門は魔術師用の魔具なんだぜ?
空いた時間にどうしてもというから貴族や商家に使わせてやっているだけだ。
第一、多少空滑機が便利になったところで、距離と時間を考えると急ぐ場合はどうしたって転移門を使うだろう」
まあ、確かに。
荷物があるような移動以外だと富裕層は基本的に転移門を使い、そうでない場合は馬車だ。
そう考えると、たいていの人が空滑機《グライダー》を使うのは移動よりも遊びが多いかな?
土砂崩れの様な事案で空滑機《グライダー》改を使うにしても、それは最寄りの街に転移門が無いか、何らかの理由で転移門の魔力補填が間に合わないからだろう。
「狭い空滑機《グライダー》の中に数刻寝転がって、落ちて死ぬかも知れない魔具で移動したいと考える奇特な人間はそれ程多くは無い。
だから瞬時に移動できる魔具を開発しない限り、魔術院への影響は限定的だよ」
「安全装置があるから、空滑機《グライダー》が落ちても死ぬどころか大怪我した人だっていないよ!」
アンディの言葉にシャルロが抗議の声を上げる。
「安全な筈な空滑機《グライダー》が壊れるんだ。
安全装置がちゃんと機能しない可能性だってゼロじゃあない・・・って普通の人間は心配するんだぜ?」
アンディが肩を竦めながら応じた。
なるほど。
「人数を増やした際の安全対策については十分注意しておこう。
あとは・・・乗る姿勢が寝転がる一択ではなく座れるように出来るかも考えてみようか」
アレクが言った。
「確かにな。
今までは空を飛んで景色を楽しむ為の遊び道具だったから下を見やすい寝転がり体勢以外は考えてこなかったが、積載量を増やして飛ぶことに興味がない人間も乗せる可能性が高くなるとしたら、そこら辺の利便性も考える必要があるな」
女性の服なんかはあまり寝転がるのに向いていないし。
シェイラも服に皺が寄ると文句を言っていたな、そう言えば。
改善点は色々とありそうだ。
今まで上がってきて無視していた改善要望について、見直してみるか。
【後書き】
うつ伏せに寝転がったまま寝返りもうたずに数時間って実はキツそうw
2
あなたにおすすめの小説
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした
朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※
落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。
■ ■ ■
毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。
男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。
ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。
男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。
接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。
ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。
たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。
孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。
■ ■ ■
一章までの完結作品を長編化したものになります。
死、残酷描写あり。
↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。
本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。
https://www.pixiv.net/users/656961
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる