シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

762 星暦557年 藤の月 4日 ちょっと方向が違う方が良い?(3)

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「コップ1杯分の水を沸かすだけでこんなに変わるんですねぇ」
まずは除湿器としての機能を確認する為に鍋にコップ1杯半の水を入れてそれを火器《コンロ》で3分の1になるまで沸かして貰い、部屋の状態がどうなるかを実験してみた。

食材が湿気ると渋るパディン夫人に、後でしっかり清早に湿気を払ってもらうと約束しての実験なのだが・・・考えてみたら、水精霊の加護があれば除湿器なんて要らないんだなぁ。
まあ、うちらと違って一般の家庭や船には水精霊の加護持ちはいないことが多いが。

船に乗っている水精霊の加護持ちは多分船の運航や水の補給なんかに忙しいだろう。
もっとも、最近は俺たちが開発した浄水器がかなり行き渡るようになったから嵐にさえ遭わなければ船に乗っている水精霊の加護持ちが貨物室の除湿を受け持つのも可能かもしれないが。

それはさておき。
「かなり蒸れたした感じになるね」
実験を始める前はちょっと部屋が乾いているぐらいな感じだったのに、たかだかコップ一杯分の水でなんか意外な程に不快な感じになった。

「で、これを使ってみると・・・どうなるかな?」
昨日でっち上げた、神殿にあった魔術回路をほぼそのまま転用した魔具に魔力を込める。

神殿の魔術回路は外の溝を使って集めた水なり不純物なりを捨てていたようなのだが、この魔具では魔術回路の下に置いた桶に溜まるようにしてある。
効果範囲は台所の壁と天井の表面まで。

あまり時間を掛けたくなかったので取り敢えずガンガン魔力を込めて加速起動させていくと・・・やがて桶に水が溜まり始めた。

「やっぱり除湿器なのか。
考えてみたら船についている除湿用魔具の実験をしていなかったが・・・あれもどっかの部屋に運び込んで除湿するのにかかる時間とか魔力消費量を比べてみるかな?」
かなり大型なので、港のそばの部屋を利用するか、魔術回路を模倣して試作機を作るかする方が良いだろうが。

「水にちょっと油が浮いていますね」
桶を覗き込んでいたパディン夫人が指摘する。

確かに、角度を変えて桶に溜まってきた水の表面を眺めると、少し色がついた感じに反射している。
油が表面に薄ら浮いているっぽい。
「どっから出て来たんだ、この油???」

「油だけでなく煤も入っていませんか、これ?
もしかして湿気た時に水に溶けた汚れも一緒に集めていません?」
水を手に掬ってみたパディン夫人が言った。

「煤??
火器《コンロ》は煙なんぞ出ないんだから煤もないだろ?」
台所にも暖炉はあるが、今は火をつけていない。

「だから、蒸気で浮いた壁の汚れが集められているのでは?」
壁際のタイルを指で確かめながらパディン夫人が言った。

「マジ???
綺麗になってるのか?」
この家に入居した時にがっつり蒼流と清早に洗浄してもらって以来、特に汚れが気になった事はないので丸洗いとかはしていないが、それなりに汚れてきていたのだろうか?

そう言った汚れがこの魔具で落とせるとしたらそれはそれで別な利用法になりそうだ。

「まあ、まだ汚れが全部とれたという訳ではありませんが・・・時間を掛けたら違うのかも?」
雑巾を持って来て壁を拭いてみたパディン夫人が言った。

う~ん。
ちょっと想定外な方向に役に立ちそうだ。

そんなことを考えている間に、魔具に込めた魔力が切れたのか、動きが止まった。
桶を確認してみたら大体コップ一杯分ぐらいの水になっていた。

「ちょっと今度はもう少しゆっくり動かしてみるか」
桶にたまった水は白い容器に入れて廊下に出しておき、もう一杯コップに水を入れてパディン夫人に渡す。

「もう一度お願い」

何度か試して、台所の汚れが無くなったら次はシャルロの家の台所ででも実験するかな?
パディン夫人の台所でも試させてもらえないか、聞いてみるのもありかも知れない。

水の量とか、魔具をゆっくり動かすかガンガン魔力を込めて早く動かすかとかでも違いが出るかも確認しないとだし。

後は・・・魔術回路その物を効率化できるかだなぁ。
まあ、そっちはシャルロ達が帰ってから色々試行錯誤だな。

アレク達が帰ってきたら船用の除湿用魔具の魔術回路を真似て作る魔具でも同じ効果があるか確認しないと。


【後書き】
清浄機として売り出すか、除湿機として売り出すかも考えないとですね~
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