シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
963 / 1,309
卒業後

962 星暦557年 橙の月 07日 新しい伝手(26)

しおりを挟む
>>>サイド ウォレン・ガズラート

「シェフィート商会から面白い魔具が発売されたのだが・・・こっそり魔術回路を盗んで複製できないかな?」
内務大臣に昼食に誘われて行ったところ、王家の血も引いているせいで絶対に毒味を欠かさないこの男が珍しく毒味の男を連れずに部屋に入ってきた。

まあ、ドリアーナだったら個室で出す食事は全て身内で調理から給仕まで賄うので、ほぼ危険はないのだが。

内務大臣の左手に嵌められた手の甲を覆うようなブレスレットに目が惹かれる。
ここ数日で噂が流れ始めていたが、早速入手したのか。
目的の為には手段を選ばぬ男だが・・・どうやって入手したのだろうか?

「シェフィート商会と言えば・・・シャルロ・オレファーニ達の発明では?」
シャルロの発明を盗むのは気が引けるし、色々と便利なウィルの反感を食らって仕事を請けて貰えなくなるのも痛い。

「だが、これは素晴らしいのだよ。
体質的に過敏《アレルギー》反応する食材だけでなく、毒まで分かるからこれさえつけていれば特殊な毒味も必要なしに好きなだけ食べられる!」
嬉しそうに内務大臣が給仕が持ってきたスープに手を伸ばしながら言った。

そう言えば、この男は幾つかのキノコ類に体質が合わないとかで、毒味に関しても同じ体質の人間を見つけて高額で雇わねばならず、色々と苦労していると聞いた。

「・・・毒探知用魔具、なんですかの?」
毒探知用魔具は国が独占製造していると以前シャルロ達に教えたことがある筈だが。

「過敏《アレルギー》体質安全用魔具という名目で、特定の食材を食べると体調を崩す貴族夫人やそう言った子供がいる家に広げていっているから、今さら毒探知用魔具であると言って国が召し上げるのは難しいな。
妻がチェルナ子爵夫人のお茶会で話を聞いて入手する様手配してくれたのだが、製造数がまだ限られているからということで過敏《アレルギー》体質の人間を優先すると言われたそうだ。
実際に私が食材で反応するのを見せるまで買わせてくれなかったから、王族用に入手するのも面倒そうだ」
嬉しそうに暖かいスープを食する合間に内務大臣が教えてくれた。

なるほど。
毒探知用魔具ではないと言い張る路線で売り出しているのか。

「ちなみに、それを解体して魔術回路を解析するのは?」
この男の事だ。
自分の所に話を持って来る前に試しているだろう。

「溶接されているので、無理に解体したら機能が失われるのはほぼ確実、魔術回路を解析できるかは五分五分かそれ以下の可能性だと言われた。
ちなみに、効果を試す程度の短時間な貸し出し以上な他者への貸与や譲渡はしないと購入時に誓約させられたぞ」
食べ終わったスープの皿にスプーンを置きながら内務大臣が答えた。

随分と念入りにやっているようだ。
誓約契約なんて安くはないのだが・・・まあ、国に召し上げられるよりは自分たちの所で珍しい過敏体質に困っている金持ち相手に売る方が儲かるのは確実だろうが。
それに、ある意味生産した魔具を選んで狙われる地位についた人間の毒味用に取られるよりも、体質のせいで毎日の食事にも危険が伴う人に売る方が意味がある魔具の使い方だと思っている可能性もある。

チェルリーナのように一応薬として流通する薬物を過剰投与された際に反応するのかは是非とも知りたいところだが。

「現存の毒探知用魔具と比べると、精度はどのような感じですかな?」

「東大陸からの『とっておき』だったらほぼ同じなようだ。あれの方が目立たなくて使い勝手が良いが・・・なんと言っても数が手に入らんからな。
これを国内で製造できるならば大きいぞ」
東大陸からごく稀に入手できる毒探知用魔具は目立たない指輪と、腕に嵌めるアームガードっぽいブレスレットなので魔具を身に着けている事すら分からぬ優れものなのだが、入手が難しすぎて数が揃わない。

金を摘んでも東大陸から購入できないので、金さえ払えば買えないものは無いと豪語するザルカ共和国経由で買おうとする人間が数年に一度出てくるものの、大抵は模造品で直ぐに壊れたり、数種類の毒しか判別できなかったりで意味がない物が多い。

せめて王族と政府高官だけでもなんとかなる数が欲しかったところなのだが・・・そう言えば、先月暫くシャルロが王都にいなかった。
その時期に東大陸に行っていたのか?

あの毒探知用魔具はそんじょそこらの伝手では入手できるようなものではない筈だが・・・。
もしかして、蒼流の力でも貸したのか?
下手に他国の地形や地質を変えてしまうと色々と問題が起きる可能性も高いのだが。

アレク・シェフィートが居て、そんな目立つことをやらせるとは思えないが、今度一度確認した方が良さそうだ。

「しかし、その手の甲を覆うデザインでは目立ちすぎて問題なのでは?
製造できる数が限られていると知られているのに、何の体質的問題も無い人間が身に着けていたら顰蹙を買いそうだ」

内務大臣が肩を竦めた。
「公的な晩餐会ならまだしも、家族や親しい者との食事やお茶で毒味が不要なだけでも十分価値はあるぞ?」

「・・・今度、シャルロ・オレファーニの方に話を聞きに行ってみましょう。
それなりに融通は利かせてくれるとは思いますが、堂々と彼らが苦労して開発した技術を盗むと精霊の怒りを買うかも知れませんからの」
精度が高く、簡単に使える毒探知用魔具の有用性は良く分かるが・・・シャルロに嫌われるのは避けたい。


しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...