シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
1,018 / 1,309
卒業後

1017 星暦558年 藤の月 18日 棚以外にも使えるよね?(14)

しおりを挟む
「これって一般庶民も使う可能性を考えるんだったら井戸から水を汲む場合の作業量を減らすことも視野に入れるべきだな」
近所の誰かからパディン夫人が入手してくれたオムツを暖炉用のトングで摘まみ上げて第一段階のブラッシングをする箱に放り込みながら、俺はふと機能だけでなく労力について思い至った。

多分母親とか乳母とかメイドだったらトングを使って恐る恐るオムツを持ち上げるのではなく、むんずと手でつかむだろうからそれ程オムツを放り込む段階での労力的には面倒ではないだろうが、考えてみたら女性にとっては次の段階の水を汲む作業が大変かもしれない。

この家の水は敷地内の井戸から水を汲み上げる魔道具で引いているので、パディン夫人は大して苦労せずに水を使える。
金持ち用の屋敷は基本的にそうなっているか、貴族街だったら上水道が通っている。

が、下町・・・とまで行かなくても一般市民の家でも上水道が通っているのはごく一握りの金持ち用区域で、職人街あたりからは井戸から水を汲み取って来る。
洗濯なんかは井戸端で済ませることも多い。

この魔具を買うことで家まで洗濯用に水を汲んで行かなきゃいけないとなったらかなりの重労働と言えるかも知れない。

「流石に空気中から水を集めて出すようにする術は魔力を使いすぎるぞ?」
アレクが指摘する。

「一回水を汲んできたら、何度も再利用できるようにあの海水を真水に変える浄水装置を取り付けたらどうだ?
石鹸入りの水をそのまますぐに濯ぎに使える程は浄水過程が早くはないと思うが、それでも2回分の水を汲んておけばそれが腐るまで水を追加で汲まずにずっと再利用できるって形にすれば楽になりそうじゃないか?」
まあ、浄水用魔具はあれはあれでそれなりに利幅を取って売っている商品の筈だから、海水を真水にするほどの効果はない劣化版にした方が良さそうだが。

「ふむ、確かに。
ついでに家での掃除や体を綺麗にするのに使う程度の水の再利用にも役に立つと売り込むのも有りかもな。
流石に飲めるほどの浄水機能にすると高くつきすぎるが」
アレクが言った。

「なんだったら、乾かしてブラッシングして汚れを落とす部分だけを売るって言うのも有りかも?
井戸端会議を止めたくないから洗濯は家でしないなんてことになっても、ウンチは流石に家で落としていくだろ?」
でもそうなるとどちらにせよオムツを洗う為にある程度の水は家で準備する必要はありそうだな。
子育てで忙しい母親にとっては手間だと思うが、流石に皆で使う井戸の傍でオムツのウンチを捨てたら顰蹙《ひんしゅく》を買うだろう。
下町なんかでは野菜とか食材も井戸周りで洗う事が多いんだし。

「それも試して良いかも知れないな。
だがそれよりも・・・もっと大型にして町内会というか同じ井戸を使う近所の人間で共同購入しないかと提案するのもありかも?」
アレクが言った。

「大きいのは高くつくし、何世帯もの人間が合意して買うとなると反対する人間を説得するのも大変そうだから、まずは個人の家でオムツを洗う用のを作って、それが赤ちゃんのいるお母さんたちに評判になったらもっと普通の洗濯用の大きいのを売り込んだら?」
シャルロが指摘する。

「確かにな~。
共用となると粗忽な人間が使ったり子供が遊んでいて体当たりしちゃって倒したりしても壊れないぐらい頑丈にしないと、争いの元だろうし」
個人が家で使う魔具だったら当然丁寧に使うだろうし、壊したら自己責任だ。
だが共用となると意外とうっかり壊しても知らぬ振りをする人間が出て来るだろう。
そうなると金の元を取らねばって事で販売元に『壊れやすい不良品を売りつけた、賠償として新品を寄越せ』ってイチャモンつけに来る人間が絶対に出る。

「そこら辺は後回しにしよう。
なんだったら、業務用の洗濯を外注しているようなところに試してみませんかと売りつけてもいいし、もしくは受注する業者の方に売りつける手もある。
先ずはオムツだ」
アレクがパンパンと手を叩いて話を切り上げた。

外注とか業務用なんて話になるとそれなりに利権とか既存の商売とかの話も絡んで面倒な話になりそうだ。
そこら辺はシェフィート商会に投げる事にして、まずはウンチのついたオムツだな。
しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...