シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1031 星暦558年 赤の月 11日 ちょっと想定外な流れ(6)

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取り敢えず、俺らもシェフィート商会も暗殺《アサッシン》ギルドから目の敵にされていると言うことは無く、シェイラの友人の従姉妹を嵌めた兄弟も手を出したら誰かから報復対象にされる危険もないとの事なので、長の所をお暇してから今度はブラグナル男爵家の屋敷に来た。

領主の屋敷と言うのはその地方の行政を担うことも多いから、領主一族が一体となって協力している場合なんかは成人した子供だけでなくジジババや孫世帯まで全員住んでいても可笑しくはないらしい。

まあ、人の出入りが多くて落ち着かないとか、人数と屋敷のサイズとかの関係で出て行くことも多いらしいし、次男以降とかは子供が出来たら独立して自分の家を持つことが望ましいそうだが。

だが王宮勤めな貴族が多い王都の屋敷は反対に息子が一緒に住むのは独り立ちしていない証拠と見做されるため、親世代と同居することは少ない。

シャルロの所みたいに、侯爵夫妻と跡取りの長男夫妻が交代で王都に詰めている場合なんかはオレファーニ侯爵家の王都邸宅に侯爵家の代表として住まざるを得ないので交代で住んでいるが。
オレファーニ家の連中は領地の方が好きなので、当番じゃない方は社交シーズンに最低限王都に居るだけだから別途家は構えていないらしい。

ブラグナル男爵家は王宮で働ける程有能な人間がいないので王都に別邸を持つ必要がある程の貴族ではないのだが、男爵夫妻が社交好きで浪費家なため、基本的に王都に住み着いている。
だったら息子のどちらかが領地の管理をする為に代官として地方に住むべきなのだろうが・・・どうやらどちらも王都で暮らしているらしい。

そんなことしているから金が無いんだよ。
まあ、昔は次男は領地で働いていたらしいが、あまりにも男爵夫妻の浪費が酷い上に長男もあちこちで『いい儲け話』に騙されるので、それを見張る為という名目で2年ほど前から王都に出てきたと長がいっていた。

確かに次男が王都に来てからブラグナル男爵家の借金の返済の滞りが減ったらしいのだが・・・どうやら結局それって男爵夫妻の浪費が減ったからではなく、単に次男が長男を美人局もどきに使ってあちこちを脅迫して金を搾り取るようになったからだとのこと。

まあ、確かに長男が『いい儲け話』に引っ掛かる回数は減ったらしいが。

懲りずに繰り返し『儲け話』に引っ掛かった事からも分かるように、長男は流されやすく、人の言うことを何でも信じるタイプなせいで色々と悪事を企む人間を引き寄せやすく、また駄目な男を支えなきゃと思いがちな特殊な趣向持ちの女性も上手く釣るのが意外と得意らしい。

悪事を企む人間を脅すほど無謀ではないらしいが、倫理的に駄目でも法的にグレーな悪事だったら次男も一緒になって参加して金を儲け、そうでない場合は長男を罠から引っ張り出すことで詐欺に引っ掛かる回数を減らしたらしく、それなりに裏社会でチンケな悪党としてある程度は名前が知られるようになってきたと長は言っていた。

シェイラの友人の従姉妹がうっかり迂闊な手紙を取られて脅されるようになるなんて駄目だな~と思っていたが、どうやら特定の女性のタイプは駄目な男を支えなきゃと入れ込んでしまう事が多いというのは初めて知った。

そう言えば、下町でも何故か懲りずに繰り返し屑に入れ込む娼婦や洗濯女とか、偶に居たよなぁ。
自分の生活だってきつきつで、何とかそこから脱出する為に必死になって働いているのに、溜めた金をなんだってあんな屑に貸すのかと不思議に思ったものだが、『支えなきゃ』というのが自分の存在意義だと思い込んじゃっているタイプなのか。

幼い頃から誰かの面倒を見る羽目になって、不自由を我慢しつつ育ったタイプは無意識のうちに自分の存在意義を『支えること』だと思い込んじゃって、折角自由になっても次に支える相手を無意識に探してあっさり次の屑に引っ掛かる事が多いのだと長は言っていた。

ある意味、洗脳されちゃった感じなのかね?

だとしたらシェイラの友人はその従姉妹に自分の存在意義は『誰かを支えることじゃない』って事をまず叩き込まないと、また別の屑に引っ掛かるだけじゃないか?

ヤバい手紙の持ち主を探すために自白剤をバラまくなんて何度も出来ることじゃあない。
しっかり本人の問題点を自覚させて周囲の人間も目を光らせておかないと、次は脅迫者から抜け出せなくなるかも知れない。

まあ、それはともかく。
ブラグナル男爵家の兄弟は一応ブラグナル男爵家の屋敷とは別に部屋を借りているが、かなり安い狭い所な上にメイドも居ないので実際は基本的に親の家に住み着いている。

一応次男の借りた部屋も探ってきたが、何枚か着替えが置いてあるだけで大切な物は何も置いてなかった。

つまり銀行に貸し金庫でも借りているんじゃない限り、ヤバい書類はブラグナル男爵家の何処かに隠してある筈。

次男の部屋か、もしくは書斎あたりにでも隠し金庫があるのか。
ブラグナル男爵が次男の脅迫事業に関与しているのかで隠し場所も変わるかな?

取り敢えず。
次男の部屋から先に探そう。


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