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卒業後
322 星暦553年 黄の月 5日 ちょっと趣味に偏った依頼(5)
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ウィルの視点に戻ってます。
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「王都の歴史学会の事務所でガルバさんと話した際には、ウィルさんには隠し金庫などを色々見つけていただき、シャルロさんには固定化、アレクさんには書類復元をお願いしたと聞いているのですが同じようなことをお願いしても良いでしょうか?
依頼にあったように、こちらの指示で働いていただくのは午前中だけで結構です。
午後は興味を引いた作業をなさるなり、他の方々の話を聞くなり、街に行くなり自由になさって下さい」
街で朝食を済ませた後に発掘現場のテントに現れた俺たちに、遺跡の見取り図とお茶を差し出しながらシェイラが声を掛けてきた。
「皆が働いていないところの方が効率的かと思って、ウィルさんとシャルロさんには南側のセクションから働き始めて貰いたいと思っていますが、色々聞きながら作業したいなら、今日はツァレスさんは西側で働いているのでそちらから取りかかってもらっても結構ですよ」
テントの周りを見回しても、ある意味予想通り、シェイラと盗難防止用の警備員として雇われたと思われし男性2人以外の姿は全く見当たらない。
・・・既に学者の皆さんは作業中なのか、それともまだ寝ているのか。
「取り敢えず、今日はシェイラさんの指示通りに働いてみますね。
何かもっと効率的に出来そうな方法があると思ったら、後で提案しますので」
シャルロが丁寧に返事をする。
「殆ど同い年ですので、シェイラと呼んで下さい。
あと、何か実用化出来そうな魔術陣や魔道具が見つかった場合は、どんどん登録なり販売なりしていただきたいの。
歴史学会に収益の4割を分けると言うことで良いかしら?」
にっこり笑いながらシェイラが契約書を出して、聞いてきた。
「そうか。ではシェイラも我々のことを呼び捨てしてくれ。
折角だから色々教えて欲しいしね」
アレクが契約書を受け取りながら提案した。
ふむ。
魔術陣や魔道具を実用化出来て売り出せたら俺たちの取り分が6割か。
頑張らないとな。
固定化はともかく、隠し場所とかは2週間で全部カバー出来るから、まだ生きた魔術陣があったらそれは全部見つけられるかな?
使えそうな魔術陣が沢山あったら、2週間の契約をもっと延ばしても良いし。
「これで良いと思う。既に責任者としてツァレス氏の署名が入っているから、あとは我々が署名すれば良いのかな?」
アレクが契約書を俺の方に私ながらシェイラに聞いた。
見た感じ、契約書の日付は今日になっているが署名はもっと前にされたっぽいぞ。
・・・俺たちが依頼を請けると答えたら直ぐにこれも準備していたのかね?
「ええ、お願いします」
シェイラが頷いたので、テント内の机の上にあったペンを借りて署名し、シャルロに両方渡した。
「では、その見取り図を貰って良いかな?
隠し場所とかはここに描き込めば良いんだよね?」
お茶を飲み干してシェイラに尋ねた。
ついでに見取り図に魔術陣とか魔道具とか、何がどこにあったかもメモして一日の終わりに自分達用に転記《デュプラ》するかなぁ。
生きた魔術陣を見つけた時用に魔術陣を写す用紙も持って行った方が良いだろうな。
「はい。
ちなみに、昼ご飯時になったらここの鐘を鳴らすので、手が離せそうだったら来てね。
一応冷めても食べられる物も用意するので、午後からそのまま自由行動を始めて後で食べるというのも可能だけど。
あまり遅くなると全部無くなるかもしれないから、そこは自己責任よ」
遺跡の見取り図を俺に私ながらシェイラが言った。
成る程ねぇ。
俺たちだったら昼食を逃したりしないけど、確かにハラファなんかはしょっちゅう食事に気付かなくって抜かしていたよな。
ガルバが定期的に引きずって行ってなかったら、ハラファなんて絶対に栄養失調で倒れてただろ。
まあ、2度目に行った時は『栄養失調で風邪を引く方が時間の無駄だ』と言ってもう少し定期的に食べていたけど。
こちらの学者連中も同じようだな。
しかも南よりで温かいから、風邪の心配も少なくって更に無理をしていそうだ。
3人で契約書に署名して、テントを出た。
「何か随分とシェイラと気安い感じだったけど、気に入ったんかい?」
アレクに冷やかし混じりの声を掛ける。
シャルロは自分より目上な人間の方が少ない上流貴族らしく、おっとりと誰とでもあまり変わらない話し方をする。相手が呼び捨てにしてくれと言ってきたら直ぐに友達みたいな話し方になるんだよな、こいつは。
俺は敬語とかって苦手だから、使わなくて良いとなれば直ぐにためで話すようになる。
その点、アレクはもう少し用心深いというか、距離を置くというか・・・そこまで簡単に態度を変えないことが多いんだよね。
「いや、別に。
単に、商会の若い人間が集まった時の感覚で対応しただけさ。
商会の人間が集まった時は、それなりに親しそうな話し方をしないとネットワークを作り上げるのに差し支えるからね。
シェイラはそういう集まりにあまり出てきてなかったようだが、やはり対応は商会の人間らしいところがあるな」
ふうん。
俺が裏社会の人間が分かるように、アレクも商会関係の人間が分かるという感じなのかね?
「折角それなりの商会の若いお嬢さんと親しくなれる機会なんだから、頑張ってみたら?」
シャルロも冷やかしに参加してきた。
まあ、こいつの場合、冷やかしじゃなくって本気で言っているだけの可能性の方が高いが。
「いやいやいや。
商会の人間だからこそ、友人や知り合いとして親しくするのは良いが、恋人として付き合うにはまずお互いの実家のことをもっと調べる必要があるし、商会の上層部とも相談しないといけない。
折角楽しそうな遺跡発掘現場に来ているんだから、そういうのはまた別の時でいいよ」
アレクが首を横に振りながら肩を竦めた。
へぇ。
冷めてるねぇ。
まあ、恋人がいないことにかけては俺も人のことは言えないけど。
でも、少なくとも俺は単にそういう相手に出会ってないだけだが、恋人にするか否かの前に理性的にそんな判断をしていると、いつまで経っても恋人なんて出来ないぞ~。
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「王都の歴史学会の事務所でガルバさんと話した際には、ウィルさんには隠し金庫などを色々見つけていただき、シャルロさんには固定化、アレクさんには書類復元をお願いしたと聞いているのですが同じようなことをお願いしても良いでしょうか?
依頼にあったように、こちらの指示で働いていただくのは午前中だけで結構です。
午後は興味を引いた作業をなさるなり、他の方々の話を聞くなり、街に行くなり自由になさって下さい」
街で朝食を済ませた後に発掘現場のテントに現れた俺たちに、遺跡の見取り図とお茶を差し出しながらシェイラが声を掛けてきた。
「皆が働いていないところの方が効率的かと思って、ウィルさんとシャルロさんには南側のセクションから働き始めて貰いたいと思っていますが、色々聞きながら作業したいなら、今日はツァレスさんは西側で働いているのでそちらから取りかかってもらっても結構ですよ」
テントの周りを見回しても、ある意味予想通り、シェイラと盗難防止用の警備員として雇われたと思われし男性2人以外の姿は全く見当たらない。
・・・既に学者の皆さんは作業中なのか、それともまだ寝ているのか。
「取り敢えず、今日はシェイラさんの指示通りに働いてみますね。
何かもっと効率的に出来そうな方法があると思ったら、後で提案しますので」
シャルロが丁寧に返事をする。
「殆ど同い年ですので、シェイラと呼んで下さい。
あと、何か実用化出来そうな魔術陣や魔道具が見つかった場合は、どんどん登録なり販売なりしていただきたいの。
歴史学会に収益の4割を分けると言うことで良いかしら?」
にっこり笑いながらシェイラが契約書を出して、聞いてきた。
「そうか。ではシェイラも我々のことを呼び捨てしてくれ。
折角だから色々教えて欲しいしね」
アレクが契約書を受け取りながら提案した。
ふむ。
魔術陣や魔道具を実用化出来て売り出せたら俺たちの取り分が6割か。
頑張らないとな。
固定化はともかく、隠し場所とかは2週間で全部カバー出来るから、まだ生きた魔術陣があったらそれは全部見つけられるかな?
使えそうな魔術陣が沢山あったら、2週間の契約をもっと延ばしても良いし。
「これで良いと思う。既に責任者としてツァレス氏の署名が入っているから、あとは我々が署名すれば良いのかな?」
アレクが契約書を俺の方に私ながらシェイラに聞いた。
見た感じ、契約書の日付は今日になっているが署名はもっと前にされたっぽいぞ。
・・・俺たちが依頼を請けると答えたら直ぐにこれも準備していたのかね?
「ええ、お願いします」
シェイラが頷いたので、テント内の机の上にあったペンを借りて署名し、シャルロに両方渡した。
「では、その見取り図を貰って良いかな?
隠し場所とかはここに描き込めば良いんだよね?」
お茶を飲み干してシェイラに尋ねた。
ついでに見取り図に魔術陣とか魔道具とか、何がどこにあったかもメモして一日の終わりに自分達用に転記《デュプラ》するかなぁ。
生きた魔術陣を見つけた時用に魔術陣を写す用紙も持って行った方が良いだろうな。
「はい。
ちなみに、昼ご飯時になったらここの鐘を鳴らすので、手が離せそうだったら来てね。
一応冷めても食べられる物も用意するので、午後からそのまま自由行動を始めて後で食べるというのも可能だけど。
あまり遅くなると全部無くなるかもしれないから、そこは自己責任よ」
遺跡の見取り図を俺に私ながらシェイラが言った。
成る程ねぇ。
俺たちだったら昼食を逃したりしないけど、確かにハラファなんかはしょっちゅう食事に気付かなくって抜かしていたよな。
ガルバが定期的に引きずって行ってなかったら、ハラファなんて絶対に栄養失調で倒れてただろ。
まあ、2度目に行った時は『栄養失調で風邪を引く方が時間の無駄だ』と言ってもう少し定期的に食べていたけど。
こちらの学者連中も同じようだな。
しかも南よりで温かいから、風邪の心配も少なくって更に無理をしていそうだ。
3人で契約書に署名して、テントを出た。
「何か随分とシェイラと気安い感じだったけど、気に入ったんかい?」
アレクに冷やかし混じりの声を掛ける。
シャルロは自分より目上な人間の方が少ない上流貴族らしく、おっとりと誰とでもあまり変わらない話し方をする。相手が呼び捨てにしてくれと言ってきたら直ぐに友達みたいな話し方になるんだよな、こいつは。
俺は敬語とかって苦手だから、使わなくて良いとなれば直ぐにためで話すようになる。
その点、アレクはもう少し用心深いというか、距離を置くというか・・・そこまで簡単に態度を変えないことが多いんだよね。
「いや、別に。
単に、商会の若い人間が集まった時の感覚で対応しただけさ。
商会の人間が集まった時は、それなりに親しそうな話し方をしないとネットワークを作り上げるのに差し支えるからね。
シェイラはそういう集まりにあまり出てきてなかったようだが、やはり対応は商会の人間らしいところがあるな」
ふうん。
俺が裏社会の人間が分かるように、アレクも商会関係の人間が分かるという感じなのかね?
「折角それなりの商会の若いお嬢さんと親しくなれる機会なんだから、頑張ってみたら?」
シャルロも冷やかしに参加してきた。
まあ、こいつの場合、冷やかしじゃなくって本気で言っているだけの可能性の方が高いが。
「いやいやいや。
商会の人間だからこそ、友人や知り合いとして親しくするのは良いが、恋人として付き合うにはまずお互いの実家のことをもっと調べる必要があるし、商会の上層部とも相談しないといけない。
折角楽しそうな遺跡発掘現場に来ているんだから、そういうのはまた別の時でいいよ」
アレクが首を横に振りながら肩を竦めた。
へぇ。
冷めてるねぇ。
まあ、恋人がいないことにかけては俺も人のことは言えないけど。
でも、少なくとも俺は単にそういう相手に出会ってないだけだが、恋人にするか否かの前に理性的にそんな判断をしていると、いつまで経っても恋人なんて出来ないぞ~。
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