シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1042 星暦558年 赤の月 28日 音にも色々あり(5)

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工房の右側で俺がトランペットのオモチャを適当に吹き鳴らすと、音が変な感じに返ってきた。

面白い事に、防音結界で完全に音を吸収する時も普通に部屋で音を鳴らすのと違う感じになる。お陰で普通の部屋の壁でも音ってある程度は反射して返ってきているんだなぁと実感したが、音を意図的に反射させて防音させようというこの魔具は・・・音を出している側としてはかなり変な感覚だ。
なんか音が合奏しているみたいな感じ?しかも奏者がタイミングが微妙に合ってない、要練習な合奏。

暫く楽器のオモチャを鳴らした後、今度は適当に選んだ本を大声で読み上げる。
やはりこちらもなんかこう、自分の声が一瞬遅れて響いている感じがする。これって会話をしている場合は相手の声が聞きにくくなるんじゃないか?

「もう良いよ~」
シャルロが部屋の反対側から手を振りながら言ったので声を上げるのを止める。

一瞬遅れて魔具から返ってきていた音が止まる。
うう~ん、音のタイミングがずれるのって何とかならないのかね?

「どうだった?」
音を出している側からの不満はともかく、取り敢えず防音させている側としてどうなのか、尋ねてみる。

「時々音の調子が変わった時なんかに一瞬大きな音が流れるけど、そこそこ良い感じに音は小さくなっているかも?」
シャルロが言った。

「あと、変な感じに言っている内容が混じるから何を言っているか分からなくなって盗聴防止にも良いかも知れないな」
アレクが付け加える。

「ふうん?
だが、こちら側としては自分の声や音が変な感じに一瞬遅れて返って来るのが煩いぞ。
会話も相手の声が聞こえにくくなると思うし、音楽や劇の練習だとしたら集中できなくて怒るんじゃないか?」
ほんの一瞬の遅れなんだが、意外と気になるし邪魔だ。

「あらま。
じゃあ、頑張って反射する音に遅れが出ない様にしないとだね。
魔術回路を短くしてみたらどうだろ?」
シャルロが言った。

「ついでに素材も何種類か試してみたら良いかもだな。
盗聴防止は・・・ある意味、この防音の魔具を少し変えて音を一部ずつ打ち消す形にすればいいか。
防音機能は特には要らないだろう」
盗聴されたくないことを話す時に大声なんぞ出すアホはいないだろう。

居たらそいつは盗聴されても当然の報いだ。
とは言え、完全に一部の音を消せるとなったら全部の音を消せば普通の防音結界と同じになってしまう。
防音結界にしないための工夫をどうするかがちょっと悩ましいかも知れない。

「なんかさぁ、近所とか親戚の人たちにプレゼントするだけだったらここまで苦労する必要はなく、普通にちょっと弱い目の防音結界にすればいいだけなんだと思うと微妙かも~。
これってちゃんと売れるのかな?」
シャルロが小さなため息を吐いてティーセットの方へ向かいながら言った。

蒼流の助言でやっと何とかなりそうな試作品になったものの、まだまだ先が遠いのにちょっと疲れたようだ。
まあ、俺も少し疲れたけど。

「煩い音を抑えられる魔具も、盗聴防止の気軽に使える魔具も、完成してそこそこお手軽な値段で買えるようだったら凄く売れるとは思う。
ただなぁ。
販売制限が掛からない物を造るのが難しいな」
アレクがため息を吐きながらクッキーの缶を棚から持ってきた。

「機能を良くするんじゃなくって、良くなりすぎない様に制限を埋め込むって難しいな」
今迄の開発って基本的にいかに機能を良くするかを費用対効果との兼ね合いを考えながら只管頑張れば良かったので、ある意味気楽な頑張りで済んだんだよなぁ。
毒探知のだけはちょっと違ったけど、あれは元の魔術回路がかなりの逸品だったから、隠して使うための一部を取り払っちゃえば復元はまず無理なのでそれなりに気軽な感じだった。

だが。
今回のは既にある完成形ではダメで、しかも機能を良くしすぎると販売制限を受けるかもと言う制約付きなので、ついつい色々と躊躇してしまって考えが滑らかに出てこない気がするんだよねぇ。

「制限があるって面倒だねぇ~」
茶葉をポットに入れながらシャルロがぼやいた。

「値段や素材入手の現実性という制限なら色々とあってもそれなりに折り合いが付けられるが、ある意味、良すぎる機能にすると駄目というのは何とも慣れないな」
アレクも頷いた。

「ちなみに、この防音にしろ盗聴防止にせよ、一方方向にだけ音を止めれば良いのか?
箱みたいな感じに音を出す存在を囲む必要があるとしたら、中の人間に対する音は更に酷くなるんじゃないか?」
さっきの変な瞬間遅れの音が四方全てから来たら更に収拾がつかなくなると思うぞ。

「・・・うわぁ・・・」
がっくりとシャルロが座り込んで頭を抱えた。

取り敢えず、試作してみてどれぐらい酷いか確認してみるか。


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