1,050 / 1,309
卒業後
1049 星暦558年 紫の月 11日 音にも色々あり(12)
しおりを挟む
「騎士団全ての食堂のテーブル用、ですか」
シャルロが渡した試作品の事について話し合いたいと言ってウォレン爺が俺たちの工房に来た。
で。
ちょっと想定外な数の盗み聞き防止用魔具を造れないかと言ってきた。
流石のアレクもちょっと唖然としているぜ。
「こう・・・特に重要なプロジェクトに関わっているチームが休憩や食事を取る時とか、機密性が高い会議の時に部屋で使えば良いと思っていたんですが。
日常的に全席で使う想定ですか?」
アレクが気を取り直して聞き返す。
「騎士団と言うのはそれなりに国防なり犯罪行為の取り締まりに関与するじゃろう?
騎士団の食堂と言う内輪な場所だとうっかり他に漏らすべきではない内容の事を相談したり愚痴ったりする人間がそれなりに居るのでな。
日常的に気を張っておけと全ての騎士に命じてそれを徹底させる為に定期的に誰かを罰するよりは、他のテーブルで話している内容の盗み聞き自体を出来ない様にする方が現実的じゃろ?」
のほほんと言った感じにウォレン爺が返してきた。
それだったら外交とか財務とかを扱っている王宮の部門の食堂とかも気を付けた方が良いんじゃないんかね?
それとも文官はもっと危機感を持っているんだろうか。
「僕たちとしては試作品を試して貰って売り出す前に雑音として差し込む音に関する感想とかを貰いたかったんだけど~。
あのシャカシャカした音とかベルの音だったらどちらがいいか、意見とかはあった?
もしくは何か他に『こういう音が良い』というのがあったのだったら実現可能性が高いなら試してみるけど」
シャルロが口を挟んで最初に試作品を渡した時のこちらの要求に話を戻す。
そうなんだよな。
まだ試作品なんだから最終形があれで良いのかとかも考える必要がある。
試作品で大量生産しようと工房に契約を交わした後から『もっとこういう形に改善して欲しい』とか『こう言う機能が必要だ』とか言われても困る。
「・・・食堂の音としてはシャカシャカした音の方が気付かない人間が多かったな。
会議室で使う分にはどちらも音が無い方が良いんじゃが・・・そう言う訳にはいかないのか?」
ウォレン爺が返してきた。
試作品の試用先として、イマイチ役に立ってないぞ。
もっとしっかり意見を聞いて来てくれ。
シェフィート商会の会議室で使った試作品に関しての感想の方がもっと細かく色々と指摘があって役に立ったんだが。
まあ、あっちは会議のたびに会議室に持って行って展開して使ってみたようだから、音よりも使い勝手に関してのコメントが多かったが。
それでも貴重な試作品に関する意見と要望だ。
何百も作れなんて唐突に言い出されるより、ずっと良い。
「あの雑音が無いと、話し始めとか沈黙が流れた後の数秒間とかの音が漏れてしまうんですよ。
それでも構わないのでしたらあの雑音は無しでも造れますが。
そちらも試してみますか?」
アレクが説明する。
まあ、最初の幾つかの単語だけが漏れ出るだけだから大した情報は漏れないと考えてもいいかも知れないが・・・最初に何に関する会議なのかを宣言するような感じで会議を始めているとしたら、微妙か?
声の質によってはちょっと漏れやすいタイプもあるかも知れないから、雑音はあった方が無難だと思うんだけどな。
まあ、確かに真面目な会議にはベルの音にせよシャカシャカした音にせよ、あまり雰囲気が合っているとは言えないだろうが。
だからこそ何かもっと別の音が良いというのがあるなら提案してくれと聞くようにシャルロに頼んだんだけどなぁ。
「まあ・・・会議ではベルの音の方が良いかも知れんな。
それなりに無難な印象だし。
それより。
どの位の数をいつまでに製作できそうじゃ?」
ウォレン爺が再び言ってきた。
何か意外とせっかちと言うか・・・そこまで気に入ったんかね??
「魔具はその起動範囲内に座った人間が起動ボタンを押し忘れたら意味がない。
食堂のテーブルでそこら辺を確実に実行させられるのか?
駄目だったら食事時間帯はずっと起動させるとか1日中ずっと起動なんてことになると、魔石の使用量がかなりになると思うが」
まだ客って訳じゃないからそれ程丁寧に話さなくても良いよな?
シャルロだって凄い砕けているし。
「・・・幾つをいつまでに幾らで提供できるかを聞いてから予算を組むなりそちらと値段交渉をするなりしたいところなんじゃが」
ちょっと顔をしかめながらウォレン爺が言った。
あまり予算の計算とかは好きじゃないのかな?
「一つを朝から夜まで起動させ続けるっていうのでもそれなりに魔石の使用量が多くなるのに、各騎士団の食堂のテーブル全部に一個ずつ朝から晩まで起動させるなんてことになったら魔石だけで物凄い値段になると思うよ?
誰かがテーブルに座ったらしっかり起動ボタンを押すって決めてそれを確実にやらせられるならかなり魔石の使用量を減らせると思うけど」
シャルロが微妙な顔で言う。
魔術学院の食堂では、ガキだった俺達に手を事前に洗わせるのだけだって全員に覚え込ませるのは先生や寮長たちが苦労していた。
騎士団なんていう脳筋な連中が、目新しい魔具を忘れずに毎回起動させるなんて覚えていられるのかね?
椅子に座ったら自動的に起動なんて言う仕組みを組み込むのは可能だが、意外と食堂の椅子って別のテーブルに動かされたりもするから、範囲指定が難しいと思うぞ。
どうするんだ?
シャルロが渡した試作品の事について話し合いたいと言ってウォレン爺が俺たちの工房に来た。
で。
ちょっと想定外な数の盗み聞き防止用魔具を造れないかと言ってきた。
流石のアレクもちょっと唖然としているぜ。
「こう・・・特に重要なプロジェクトに関わっているチームが休憩や食事を取る時とか、機密性が高い会議の時に部屋で使えば良いと思っていたんですが。
日常的に全席で使う想定ですか?」
アレクが気を取り直して聞き返す。
「騎士団と言うのはそれなりに国防なり犯罪行為の取り締まりに関与するじゃろう?
騎士団の食堂と言う内輪な場所だとうっかり他に漏らすべきではない内容の事を相談したり愚痴ったりする人間がそれなりに居るのでな。
日常的に気を張っておけと全ての騎士に命じてそれを徹底させる為に定期的に誰かを罰するよりは、他のテーブルで話している内容の盗み聞き自体を出来ない様にする方が現実的じゃろ?」
のほほんと言った感じにウォレン爺が返してきた。
それだったら外交とか財務とかを扱っている王宮の部門の食堂とかも気を付けた方が良いんじゃないんかね?
それとも文官はもっと危機感を持っているんだろうか。
「僕たちとしては試作品を試して貰って売り出す前に雑音として差し込む音に関する感想とかを貰いたかったんだけど~。
あのシャカシャカした音とかベルの音だったらどちらがいいか、意見とかはあった?
もしくは何か他に『こういう音が良い』というのがあったのだったら実現可能性が高いなら試してみるけど」
シャルロが口を挟んで最初に試作品を渡した時のこちらの要求に話を戻す。
そうなんだよな。
まだ試作品なんだから最終形があれで良いのかとかも考える必要がある。
試作品で大量生産しようと工房に契約を交わした後から『もっとこういう形に改善して欲しい』とか『こう言う機能が必要だ』とか言われても困る。
「・・・食堂の音としてはシャカシャカした音の方が気付かない人間が多かったな。
会議室で使う分にはどちらも音が無い方が良いんじゃが・・・そう言う訳にはいかないのか?」
ウォレン爺が返してきた。
試作品の試用先として、イマイチ役に立ってないぞ。
もっとしっかり意見を聞いて来てくれ。
シェフィート商会の会議室で使った試作品に関しての感想の方がもっと細かく色々と指摘があって役に立ったんだが。
まあ、あっちは会議のたびに会議室に持って行って展開して使ってみたようだから、音よりも使い勝手に関してのコメントが多かったが。
それでも貴重な試作品に関する意見と要望だ。
何百も作れなんて唐突に言い出されるより、ずっと良い。
「あの雑音が無いと、話し始めとか沈黙が流れた後の数秒間とかの音が漏れてしまうんですよ。
それでも構わないのでしたらあの雑音は無しでも造れますが。
そちらも試してみますか?」
アレクが説明する。
まあ、最初の幾つかの単語だけが漏れ出るだけだから大した情報は漏れないと考えてもいいかも知れないが・・・最初に何に関する会議なのかを宣言するような感じで会議を始めているとしたら、微妙か?
声の質によってはちょっと漏れやすいタイプもあるかも知れないから、雑音はあった方が無難だと思うんだけどな。
まあ、確かに真面目な会議にはベルの音にせよシャカシャカした音にせよ、あまり雰囲気が合っているとは言えないだろうが。
だからこそ何かもっと別の音が良いというのがあるなら提案してくれと聞くようにシャルロに頼んだんだけどなぁ。
「まあ・・・会議ではベルの音の方が良いかも知れんな。
それなりに無難な印象だし。
それより。
どの位の数をいつまでに製作できそうじゃ?」
ウォレン爺が再び言ってきた。
何か意外とせっかちと言うか・・・そこまで気に入ったんかね??
「魔具はその起動範囲内に座った人間が起動ボタンを押し忘れたら意味がない。
食堂のテーブルでそこら辺を確実に実行させられるのか?
駄目だったら食事時間帯はずっと起動させるとか1日中ずっと起動なんてことになると、魔石の使用量がかなりになると思うが」
まだ客って訳じゃないからそれ程丁寧に話さなくても良いよな?
シャルロだって凄い砕けているし。
「・・・幾つをいつまでに幾らで提供できるかを聞いてから予算を組むなりそちらと値段交渉をするなりしたいところなんじゃが」
ちょっと顔をしかめながらウォレン爺が言った。
あまり予算の計算とかは好きじゃないのかな?
「一つを朝から夜まで起動させ続けるっていうのでもそれなりに魔石の使用量が多くなるのに、各騎士団の食堂のテーブル全部に一個ずつ朝から晩まで起動させるなんてことになったら魔石だけで物凄い値段になると思うよ?
誰かがテーブルに座ったらしっかり起動ボタンを押すって決めてそれを確実にやらせられるならかなり魔石の使用量を減らせると思うけど」
シャルロが微妙な顔で言う。
魔術学院の食堂では、ガキだった俺達に手を事前に洗わせるのだけだって全員に覚え込ませるのは先生や寮長たちが苦労していた。
騎士団なんていう脳筋な連中が、目新しい魔具を忘れずに毎回起動させるなんて覚えていられるのかね?
椅子に座ったら自動的に起動なんて言う仕組みを組み込むのは可能だが、意外と食堂の椅子って別のテーブルに動かされたりもするから、範囲指定が難しいと思うぞ。
どうするんだ?
11
あなたにおすすめの小説
病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。
もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。
死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜
のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、
偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。
水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは――
古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。
村を立て直し、仲間と絆を築きながら、
やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。
辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、
静かに進む策略と復讐の物語。
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で
重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。
魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。
案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした
朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※
落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。
■ ■ ■
毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。
男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。
ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。
男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。
接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。
ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。
たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。
孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。
■ ■ ■
一章までの完結作品を長編化したものになります。
死、残酷描写あり。
↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。
本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。
https://www.pixiv.net/users/656961
A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる
国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。
持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。
これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。
冤罪で辺境に幽閉された第4王子
satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。
「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。
辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる