シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1049 星暦558年 紫の月 11日 音にも色々あり(12)

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「騎士団全ての食堂のテーブル用、ですか」

シャルロが渡した試作品の事について話し合いたいと言ってウォレン爺が俺たちの工房に来た。

で。
ちょっと想定外な数の盗み聞き防止用魔具を造れないかと言ってきた。
流石のアレクもちょっと唖然としているぜ。

「こう・・・特に重要なプロジェクトに関わっているチームが休憩や食事を取る時とか、機密性が高い会議の時に部屋で使えば良いと思っていたんですが。
日常的に全席で使う想定ですか?」
アレクが気を取り直して聞き返す。

「騎士団と言うのはそれなりに国防なり犯罪行為の取り締まりに関与するじゃろう?
騎士団の食堂と言う内輪な場所だとうっかり他に漏らすべきではない内容の事を相談したり愚痴ったりする人間がそれなりに居るのでな。
日常的に気を張っておけと全ての騎士に命じてそれを徹底させる為に定期的に誰かを罰するよりは、他のテーブルで話している内容の盗み聞き自体を出来ない様にする方が現実的じゃろ?」
のほほんと言った感じにウォレン爺が返してきた。

それだったら外交とか財務とかを扱っている王宮の部門の食堂とかも気を付けた方が良いんじゃないんかね?
それとも文官はもっと危機感を持っているんだろうか。

「僕たちとしては試作品を試して貰って売り出す前に雑音として差し込む音に関する感想とかを貰いたかったんだけど~。
あのシャカシャカした音とかベルの音だったらどちらがいいか、意見とかはあった?
もしくは何か他に『こういう音が良い』というのがあったのだったら実現可能性が高いなら試してみるけど」
シャルロが口を挟んで最初に試作品を渡した時のこちらの要求に話を戻す。

そうなんだよな。
まだ試作品なんだから最終形があれで良いのかとかも考える必要がある。
試作品で大量生産しようと工房に契約を交わした後から『もっとこういう形に改善して欲しい』とか『こう言う機能が必要だ』とか言われても困る。

「・・・食堂の音としてはシャカシャカした音の方が気付かない人間が多かったな。
会議室で使う分にはどちらも音が無い方が良いんじゃが・・・そう言う訳にはいかないのか?」
ウォレン爺が返してきた。
試作品の試用先として、イマイチ役に立ってないぞ。
もっとしっかり意見を聞いて来てくれ。
シェフィート商会の会議室で使った試作品に関しての感想の方がもっと細かく色々と指摘があって役に立ったんだが。

まあ、あっちは会議のたびに会議室に持って行って展開して使ってみたようだから、音よりも使い勝手に関してのコメントが多かったが。
それでも貴重な試作品に関する意見と要望だ。
何百も作れなんて唐突に言い出されるより、ずっと良い。

「あの雑音が無いと、話し始めとか沈黙が流れた後の数秒間とかの音が漏れてしまうんですよ。
それでも構わないのでしたらあの雑音は無しでも造れますが。
そちらも試してみますか?」
アレクが説明する。

まあ、最初の幾つかの単語だけが漏れ出るだけだから大した情報は漏れないと考えてもいいかも知れないが・・・最初に何に関する会議なのかを宣言するような感じで会議を始めているとしたら、微妙か?

声の質によってはちょっと漏れやすいタイプもあるかも知れないから、雑音はあった方が無難だと思うんだけどな。

まあ、確かに真面目な会議にはベルの音にせよシャカシャカした音にせよ、あまり雰囲気が合っているとは言えないだろうが。
だからこそ何かもっと別の音が良いというのがあるなら提案してくれと聞くようにシャルロに頼んだんだけどなぁ。

「まあ・・・会議ではベルの音の方が良いかも知れんな。
それなりに無難な印象だし。
それより。
どの位の数をいつまでに製作できそうじゃ?」
ウォレン爺が再び言ってきた。

何か意外とせっかちと言うか・・・そこまで気に入ったんかね??

「魔具はその起動範囲内に座った人間が起動ボタンを押し忘れたら意味がない。
食堂のテーブルでそこら辺を確実に実行させられるのか?
駄目だったら食事時間帯はずっと起動させるとか1日中ずっと起動なんてことになると、魔石の使用量がかなりになると思うが」
まだ客って訳じゃないからそれ程丁寧に話さなくても良いよな?
シャルロだって凄い砕けているし。

「・・・幾つをいつまでに幾らで提供できるかを聞いてから予算を組むなりそちらと値段交渉をするなりしたいところなんじゃが」
ちょっと顔をしかめながらウォレン爺が言った。
あまり予算の計算とかは好きじゃないのかな?

「一つを朝から夜まで起動させ続けるっていうのでもそれなりに魔石の使用量が多くなるのに、各騎士団の食堂のテーブル全部に一個ずつ朝から晩まで起動させるなんてことになったら魔石だけで物凄い値段になると思うよ?
誰かがテーブルに座ったらしっかり起動ボタンを押すって決めてそれを確実にやらせられるならかなり魔石の使用量を減らせると思うけど」
シャルロが微妙な顔で言う。

魔術学院の食堂では、ガキだった俺達に手を事前に洗わせるのだけだって全員に覚え込ませるのは先生や寮長たちが苦労していた。
騎士団なんていう脳筋な連中が、目新しい魔具を忘れずに毎回起動させるなんて覚えていられるのかね?

椅子に座ったら自動的に起動なんて言う仕組みを組み込むのは可能だが、意外と食堂の椅子って別のテーブルに動かされたりもするから、範囲指定が難しいと思うぞ。

どうするんだ?


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