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卒業後
1054 星暦558年 紫の月 17日 音にも色々あり(17)(第三者視点)
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>>>サイド ダグロイド・シャーストン団長(第三騎士団)
「演習だと思って夜番だからとそのまま寝続けた人間が4名。
事前に決めてあった行動手順《プロトコル》を無視した行動をとった人間が30名強。
慌てて階段を踏み外して怪我をした人間が一人。
そして暗殺者役の人間は裏の窓から脱出して逃走に成功。
・・・色々と問題があるな」
副団長が報告書を読み上げるのを聞きながら部屋の中の人間を見回す。
思わずため息を零れた。
非常事態の演習というのは『演習をやる』と前もって知らせておくと皆が心構えが出来ている上に事前に自分の役割を予習しているので、新入り以外に関しては特に問題なく終わることが多い。
警告なしに演習をやると実際の非常事態の際に『これも演習だろう』と思って犯人を倒すのに躊躇する人間が出てきかねないのであまり出来ないのだが・・・本当にちゃんと実際の非常事態に動けるのか、実験してみたいとは常に思っていた。
なのでウォレン爺経由で回ってきた面白い魔具の話が来た際に予告なしに非常事態の演習をやってみた。
元々、暗殺事件やその他非常事態が起きた時の行動手順《プロトコル》と言うのは規定として決まっており、数年に一度見直すし毎年演習はやっている。
今年ももうそろそろその時期だった。
数日前に、非常事態を知らせる魔具にラッパの突撃命令音と救助要請を叫ぶという方法も加わったという話は全団員に士官経由で周知した筈なのだが・・・。
「演習だと思って寝ていた奴らは後で一番キツイ夜番1か月連続だ」
演習だろうと寝ていて勝手に不参加を決め込むのは許されない。
身体が動かないぐらい重症の怪我か病気でもない限り、全員参加が決まりだ。
とは言え、それとなく上手く袖の下代わりに高い酒でも差し入れると、夜番明けの人間は重病人役としてそのまま寝て過ごせるという裏技もあるが。
どうやら裏技の手配をしなくても裏技を使えると誤解している馬鹿が居るらしい。
しかも今回は演習だとは知らせていなかったのだから、本当の非常事態の可能性だって高かったのだ。
次の演習の時に、寝て過ごしている不届き者が居ないか要確認だな。
次も同じような事をやるようなバカは、どっかの僻地へ左遷だ。
「ちなみに、ラッパの音とゲルバーグ軍曹の声は敷地内の隅々までほぼ完全に届きました。
何か音響を拡大していたのですかね?」
メモを取りながら副団長がちょっと首を傾げて言った。
「確認しておこう。
最近は携帯式通信機が軍部内で大体普及し終わったからラッパでの行動指示はあまり必要なくなったが・・・何かの際に決まった行動指示音を流せる魔具を指揮官に持たせておくのも場合によっては良いかも知れないな」
携帯式通信機はそれなりに嵩張る本体も持ち歩かねば、ある程度以上離れたら機能しなくなる。
軍事行動ではあの嵩張る本体を持って走るのが生死の分け目にもなりかねず、命よりは通信機を先に捨てよとは軍で言ってある。
その場合に通信方法が無くなるのは痛いが、比較的小さな魔具でラッパ音の代わりになるならば代替策として悪くない。
現時点では他国との軍事演習などでまだラッパ吹きの人間を使っているが、新規には雇い入れていないので長期的には彼らが引退した後は魔具で全部済ませてしまってもいいし。
「暗殺の方は・・・やはり味方だと思っている人間が突然ナイフで刺してきた場合は対応は士官や後方支援タイプではほぼ不可能そうですね。
特に毒を塗っていた場合は絶望的です。
今回はターゲット役が警戒していたのでとっさに急所は避けられて非常事態ボタンを押せましたが・・・護衛を排除するような機密事項の話し合いの場合は参加者全員の武装解除を確認した方が現実的かも知れません。
ちなみにドアの外に立っていた護衛には部屋に踏み込むべきと判断する程の音は聞こえてこなかったそうです」
副団長が続ける。
「全員出席者がそれなりに知られている軍部の人間なら良いが・・・武装解除をさせて身体検査していても、暗殺者《アサッシン》ギルドの人間が使うような長針やピアノ線の様な凶器は見つけるのは至難の業じゃぞ?」
ウォレン爺が指摘した。
「誰かを暗殺したら誰かにとっての問題が解決するような事態の場合は、諦めて護衛は部屋の中で結界の外に立たせておくしかないな」
どうせ腕利きな護衛で読唇が出来るような人間はそれ程多くはないのだ。
護衛が自分の護衛対象の正面に立っている形にすれば他者の発言までは知ることが出来ないということで、情報漏洩リスクも最小限に出来ると期待しておこう。
「暗殺者役の逃走ルートに関しては、私が先日気付いた警備の穴を教えておいたらあっさり出られたそうです」
さらっと副団長が言った。
穴に気付いたのだったら言ってくれた良いのに。
「・・・ちなみに報告していない穴はいくつあった?」
副団長の意地悪さを考慮して、念のために尋ねる。
「幾つかありましたね~。
今年の演習で使わせて賭けで儲けさせて貰おうと思っていたんですが、残念ながら今回は事前の賭けが出来なかったので無駄になりました」
しれっと副団長が答える。
非常事態演習では犯人役が逃走に成功するか否かの賭けが毎年事前に非公式に行われるのだが、今年は事前警告なしの抜き打ちだったのでそれが無かった。
「4班に敷地の警備の穴を全部探させて、後で答え合わせをしてくれ」
毎年副団長に穴を探させて演習後に潰しているのだが、何故か翌年の演習時には新しく穴が出来ている。
不思議すぎる・・・。
取り敢えず、あの盗聴防止用魔具はそれなりに使い道があるが、危険性もあるというところだな。
「演習だと思って夜番だからとそのまま寝続けた人間が4名。
事前に決めてあった行動手順《プロトコル》を無視した行動をとった人間が30名強。
慌てて階段を踏み外して怪我をした人間が一人。
そして暗殺者役の人間は裏の窓から脱出して逃走に成功。
・・・色々と問題があるな」
副団長が報告書を読み上げるのを聞きながら部屋の中の人間を見回す。
思わずため息を零れた。
非常事態の演習というのは『演習をやる』と前もって知らせておくと皆が心構えが出来ている上に事前に自分の役割を予習しているので、新入り以外に関しては特に問題なく終わることが多い。
警告なしに演習をやると実際の非常事態の際に『これも演習だろう』と思って犯人を倒すのに躊躇する人間が出てきかねないのであまり出来ないのだが・・・本当にちゃんと実際の非常事態に動けるのか、実験してみたいとは常に思っていた。
なのでウォレン爺経由で回ってきた面白い魔具の話が来た際に予告なしに非常事態の演習をやってみた。
元々、暗殺事件やその他非常事態が起きた時の行動手順《プロトコル》と言うのは規定として決まっており、数年に一度見直すし毎年演習はやっている。
今年ももうそろそろその時期だった。
数日前に、非常事態を知らせる魔具にラッパの突撃命令音と救助要請を叫ぶという方法も加わったという話は全団員に士官経由で周知した筈なのだが・・・。
「演習だと思って寝ていた奴らは後で一番キツイ夜番1か月連続だ」
演習だろうと寝ていて勝手に不参加を決め込むのは許されない。
身体が動かないぐらい重症の怪我か病気でもない限り、全員参加が決まりだ。
とは言え、それとなく上手く袖の下代わりに高い酒でも差し入れると、夜番明けの人間は重病人役としてそのまま寝て過ごせるという裏技もあるが。
どうやら裏技の手配をしなくても裏技を使えると誤解している馬鹿が居るらしい。
しかも今回は演習だとは知らせていなかったのだから、本当の非常事態の可能性だって高かったのだ。
次の演習の時に、寝て過ごしている不届き者が居ないか要確認だな。
次も同じような事をやるようなバカは、どっかの僻地へ左遷だ。
「ちなみに、ラッパの音とゲルバーグ軍曹の声は敷地内の隅々までほぼ完全に届きました。
何か音響を拡大していたのですかね?」
メモを取りながら副団長がちょっと首を傾げて言った。
「確認しておこう。
最近は携帯式通信機が軍部内で大体普及し終わったからラッパでの行動指示はあまり必要なくなったが・・・何かの際に決まった行動指示音を流せる魔具を指揮官に持たせておくのも場合によっては良いかも知れないな」
携帯式通信機はそれなりに嵩張る本体も持ち歩かねば、ある程度以上離れたら機能しなくなる。
軍事行動ではあの嵩張る本体を持って走るのが生死の分け目にもなりかねず、命よりは通信機を先に捨てよとは軍で言ってある。
その場合に通信方法が無くなるのは痛いが、比較的小さな魔具でラッパ音の代わりになるならば代替策として悪くない。
現時点では他国との軍事演習などでまだラッパ吹きの人間を使っているが、新規には雇い入れていないので長期的には彼らが引退した後は魔具で全部済ませてしまってもいいし。
「暗殺の方は・・・やはり味方だと思っている人間が突然ナイフで刺してきた場合は対応は士官や後方支援タイプではほぼ不可能そうですね。
特に毒を塗っていた場合は絶望的です。
今回はターゲット役が警戒していたのでとっさに急所は避けられて非常事態ボタンを押せましたが・・・護衛を排除するような機密事項の話し合いの場合は参加者全員の武装解除を確認した方が現実的かも知れません。
ちなみにドアの外に立っていた護衛には部屋に踏み込むべきと判断する程の音は聞こえてこなかったそうです」
副団長が続ける。
「全員出席者がそれなりに知られている軍部の人間なら良いが・・・武装解除をさせて身体検査していても、暗殺者《アサッシン》ギルドの人間が使うような長針やピアノ線の様な凶器は見つけるのは至難の業じゃぞ?」
ウォレン爺が指摘した。
「誰かを暗殺したら誰かにとっての問題が解決するような事態の場合は、諦めて護衛は部屋の中で結界の外に立たせておくしかないな」
どうせ腕利きな護衛で読唇が出来るような人間はそれ程多くはないのだ。
護衛が自分の護衛対象の正面に立っている形にすれば他者の発言までは知ることが出来ないということで、情報漏洩リスクも最小限に出来ると期待しておこう。
「暗殺者役の逃走ルートに関しては、私が先日気付いた警備の穴を教えておいたらあっさり出られたそうです」
さらっと副団長が言った。
穴に気付いたのだったら言ってくれた良いのに。
「・・・ちなみに報告していない穴はいくつあった?」
副団長の意地悪さを考慮して、念のために尋ねる。
「幾つかありましたね~。
今年の演習で使わせて賭けで儲けさせて貰おうと思っていたんですが、残念ながら今回は事前の賭けが出来なかったので無駄になりました」
しれっと副団長が答える。
非常事態演習では犯人役が逃走に成功するか否かの賭けが毎年事前に非公式に行われるのだが、今年は事前警告なしの抜き打ちだったのでそれが無かった。
「4班に敷地の警備の穴を全部探させて、後で答え合わせをしてくれ」
毎年副団長に穴を探させて演習後に潰しているのだが、何故か翌年の演習時には新しく穴が出来ている。
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