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卒業後
1167 星暦558年 翠の月 11日 海に落ちたら(9)
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「そんじゃあまず、ぼくが飛び降りてみるね~」
試作品の一つを手に持ち、シャルロが屋敷船の甲板に立った。
実験の為に今回は蒼流に王都の港へ屋敷船を持ってきて貰い、邪魔にならない様にちょっと沖の脇の方に移動している。
一応落ちるなり飛び降りるなりしたらどのくらい深くまで沈むかを参考にする為に、シャルロは縄も手に持っている。濡れた長さで大体測定しようという訳だ。
清早と蒼流には今日は俺らが海に入っても普通の人が落ちた時と同じ感じになるようにしてくれと頼んである。
俺とシャルロは服とかずぶ濡れになるようにしても、何故か溺れないらしい。
なのでアレクは無事飛び込み係から免除され、俺ら二人で交互に落ちまくる予定だ。
やっぱ、アレクだと落ちて直ぐに水面に上がってこないと苦しいからな。
そうなると魔具がちゃんと起動しているか確認している暇がないだろうし、深さもしっかり確認できない可能性がある。
「おう、しっかり袋が一杯になったら上がってきてくれ」
時間を測る用に甲板に持ち出した時計が動いているのを確認しながらシャルロに応じる。
まあ、実際に使う状況だったら海に落ちた直後から空気が入り始め、海面に上がりつつある状態の方がどんどん創風も早くなるはずだが、取り敢えず落ちた深さのままで確認することで何かに引っ掛かって直ぐに上がって来れなくても大丈夫かも確認する予定だ。
まあ、引っ掛かったままずっと海上に上がれなきゃ溺れちまうが。取り敢えずは短期的な遅延と言う想定だ。
創風の魔具があったら俺たちみたいな水精霊の加護持ちじゃなくても水面下で自由に呼吸して動き回れるかも?という気もするが、取り敢えずこれは魔術回路の効率とか有効範囲とか諸々を確認してからだな。
とは言え。
たとえ問題なく機能するにしても、水面下で呼吸出来る魔具となると引き揚げ屋が欲しがりそうだからなぁ。
俺たちが見つけるかも知れない沈没船を先に見つけられて引き上げられちゃうのを容易にするような道具を売りに出すのはちょっとやめた方が良いかも?
どぼん。
そんなことを考えている間に、シャルロが甲板の端からひょいと海の方へ歩き出し、落ちた。
なんかこう、今更だが突き落とされたっぽく横向きに落ちるとか、飛び込むとかする方が現実的じゃね?
流石に甲板から海の方へ歩いて落ちる人間はあまりいないと思うんだが。
暫く待っていたらざばっと海面が割れてシャルロが浮いて出てきた。
「なんかだんだん空気が入る速度が遅くなった気がするけど、一応袋は一杯になったよ~」
シャルロが膨らんだ袋と、縄を手に甲板に戻ってきた。
「約1ミルってとこかな?
そんだけずっと息を止めていられるかはかなり怪しい気がするが、死にはしないと期待しておこう。
袋が完全に一杯にならなくても途中で浮く可能性も高いし」
時計を確認したアレクが言った。
あ~。
普通の時でも、1ミルも息を止めていられる人間は少なそうだな。
大きく息を吸い込む前に落ちていたりした場合は更に肺にある空気は減っているだろうし、海に落ちた衝撃で息を吐きだしちゃう場合もありそうだ。
まあ、死んでさえいなければ、海面に浮き上がって顔が水から浮き出ていれば水を吸って気絶していても死なないだろう。
多分。
「そんじゃあ俺は突き落とされた系の動きをするか。
シャルロ、突き落としてくれ」
飛び込みはシャルロの方が上手いだろうから、次にそっちをやって貰おう。
シャルロが試した試作品を受け取り、袋をぺったんこにして空気を押し出してから甲板の端に立つ。
「僕を裏切ったな~!」
棒読みで何かの劇か小説かで見たらしきセリフを叫びながらシャルロが俺の背中を突き飛ばす。
おっと。
意外と甲板から海へ落ちる時の時間って短いんだな。
突き落とされると分かっていても、ちゃんと深呼吸する暇が無かった。
というか、突き飛ばすために押されたらそれで空気を吐いちゃいそうだ。
が、背中の上を押したせいか案外と水平に落ち、ビタンと水に当たったのがちょっと痛かったが意外と水の中に深くは沈まなかった。
『海面に上がらない様にこの深さで止めたいんだよね?』
横に来た清早がちょっと呆れたように尋ねる。
『ああ、ちょっとした実験だな。
実際には浮いていくんだろうが、じたばた暴れるとかしてちゃんと海面に上がらなくてもクッションに空気が入るのを確認しなきゃだからな』
口を開けて舌を出してみると海水の塩味がするのに、何故か水の中で息を吸っても空気が鼻の中に入ってくるってマジで不思議な感じ。
水が俺の体の中に入る時に空気に変換されているのか??
これを魔術回路で模倣出来たら良いのに。
魔術じゃないから、清早や蒼流に聞いても全然手掛かりすらなかったんだよなぁ。
暫く待っていたら袋が一杯になった。
1ミルも経っていなそう?
やはり水面に近い方が空気を集めやすい様だ。
『ありがとう。
水面に上げてくれ』
清早に頼む。
どうせ甲板に上がるのに浮遊《レヴィア》の術を使うんで自力で海面まで上がっても良いんだが、水中で同じ深さに漂っているのは清早の助けでやっているんで、変に俺と清早の力がぶつからない方が良いだろう。
と言うか、俺が浮遊《レヴィア》の術を唱えて上に動こうとしても、清早が海の中で俺を静止させようとし続けていたら動けないかも?
まあ、俺が上に行こうとしていると気付いたら直ぐに解放してくれるんだろうけど。
さて。
シャルロのと比べてどんな結果になったかな?
試作品の一つを手に持ち、シャルロが屋敷船の甲板に立った。
実験の為に今回は蒼流に王都の港へ屋敷船を持ってきて貰い、邪魔にならない様にちょっと沖の脇の方に移動している。
一応落ちるなり飛び降りるなりしたらどのくらい深くまで沈むかを参考にする為に、シャルロは縄も手に持っている。濡れた長さで大体測定しようという訳だ。
清早と蒼流には今日は俺らが海に入っても普通の人が落ちた時と同じ感じになるようにしてくれと頼んである。
俺とシャルロは服とかずぶ濡れになるようにしても、何故か溺れないらしい。
なのでアレクは無事飛び込み係から免除され、俺ら二人で交互に落ちまくる予定だ。
やっぱ、アレクだと落ちて直ぐに水面に上がってこないと苦しいからな。
そうなると魔具がちゃんと起動しているか確認している暇がないだろうし、深さもしっかり確認できない可能性がある。
「おう、しっかり袋が一杯になったら上がってきてくれ」
時間を測る用に甲板に持ち出した時計が動いているのを確認しながらシャルロに応じる。
まあ、実際に使う状況だったら海に落ちた直後から空気が入り始め、海面に上がりつつある状態の方がどんどん創風も早くなるはずだが、取り敢えず落ちた深さのままで確認することで何かに引っ掛かって直ぐに上がって来れなくても大丈夫かも確認する予定だ。
まあ、引っ掛かったままずっと海上に上がれなきゃ溺れちまうが。取り敢えずは短期的な遅延と言う想定だ。
創風の魔具があったら俺たちみたいな水精霊の加護持ちじゃなくても水面下で自由に呼吸して動き回れるかも?という気もするが、取り敢えずこれは魔術回路の効率とか有効範囲とか諸々を確認してからだな。
とは言え。
たとえ問題なく機能するにしても、水面下で呼吸出来る魔具となると引き揚げ屋が欲しがりそうだからなぁ。
俺たちが見つけるかも知れない沈没船を先に見つけられて引き上げられちゃうのを容易にするような道具を売りに出すのはちょっとやめた方が良いかも?
どぼん。
そんなことを考えている間に、シャルロが甲板の端からひょいと海の方へ歩き出し、落ちた。
なんかこう、今更だが突き落とされたっぽく横向きに落ちるとか、飛び込むとかする方が現実的じゃね?
流石に甲板から海の方へ歩いて落ちる人間はあまりいないと思うんだが。
暫く待っていたらざばっと海面が割れてシャルロが浮いて出てきた。
「なんかだんだん空気が入る速度が遅くなった気がするけど、一応袋は一杯になったよ~」
シャルロが膨らんだ袋と、縄を手に甲板に戻ってきた。
「約1ミルってとこかな?
そんだけずっと息を止めていられるかはかなり怪しい気がするが、死にはしないと期待しておこう。
袋が完全に一杯にならなくても途中で浮く可能性も高いし」
時計を確認したアレクが言った。
あ~。
普通の時でも、1ミルも息を止めていられる人間は少なそうだな。
大きく息を吸い込む前に落ちていたりした場合は更に肺にある空気は減っているだろうし、海に落ちた衝撃で息を吐きだしちゃう場合もありそうだ。
まあ、死んでさえいなければ、海面に浮き上がって顔が水から浮き出ていれば水を吸って気絶していても死なないだろう。
多分。
「そんじゃあ俺は突き落とされた系の動きをするか。
シャルロ、突き落としてくれ」
飛び込みはシャルロの方が上手いだろうから、次にそっちをやって貰おう。
シャルロが試した試作品を受け取り、袋をぺったんこにして空気を押し出してから甲板の端に立つ。
「僕を裏切ったな~!」
棒読みで何かの劇か小説かで見たらしきセリフを叫びながらシャルロが俺の背中を突き飛ばす。
おっと。
意外と甲板から海へ落ちる時の時間って短いんだな。
突き落とされると分かっていても、ちゃんと深呼吸する暇が無かった。
というか、突き飛ばすために押されたらそれで空気を吐いちゃいそうだ。
が、背中の上を押したせいか案外と水平に落ち、ビタンと水に当たったのがちょっと痛かったが意外と水の中に深くは沈まなかった。
『海面に上がらない様にこの深さで止めたいんだよね?』
横に来た清早がちょっと呆れたように尋ねる。
『ああ、ちょっとした実験だな。
実際には浮いていくんだろうが、じたばた暴れるとかしてちゃんと海面に上がらなくてもクッションに空気が入るのを確認しなきゃだからな』
口を開けて舌を出してみると海水の塩味がするのに、何故か水の中で息を吸っても空気が鼻の中に入ってくるってマジで不思議な感じ。
水が俺の体の中に入る時に空気に変換されているのか??
これを魔術回路で模倣出来たら良いのに。
魔術じゃないから、清早や蒼流に聞いても全然手掛かりすらなかったんだよなぁ。
暫く待っていたら袋が一杯になった。
1ミルも経っていなそう?
やはり水面に近い方が空気を集めやすい様だ。
『ありがとう。
水面に上げてくれ』
清早に頼む。
どうせ甲板に上がるのに浮遊《レヴィア》の術を使うんで自力で海面まで上がっても良いんだが、水中で同じ深さに漂っているのは清早の助けでやっているんで、変に俺と清早の力がぶつからない方が良いだろう。
と言うか、俺が浮遊《レヴィア》の術を唱えて上に動こうとしても、清早が海の中で俺を静止させようとし続けていたら動けないかも?
まあ、俺が上に行こうとしていると気付いたら直ぐに解放してくれるんだろうけど。
さて。
シャルロのと比べてどんな結果になったかな?
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