シーフな魔術師

極楽とんぼ

文字の大きさ
1,169 / 1,309
卒業後

1168 星暦558年 翠の月 11日 海に落ちたら(10)

しおりを挟む
「今回は半ミルちょっと約40秒だな。
深さによって大分と速度が違うとなると・・・船が沈む際なんかは一緒に深くまで引きずり込まれるとか、うっかり船倉に居て一緒に一度沈んでから逃げる羽目になるとかだから、もっと深い場所でも機能するか確認する必要があるな」
アレクが俺が海から浮いて出てきたのを見て時間を確認しながら言った。

「でもさ、船に巻き込まれて沈むとか船の中に居て沈む場合って、船と一緒にそれなりに沢山の空気も巻き込まれて沈むから、浅い所とあまり変わらなくない?」
シャルロが指摘した。

船が沈む時にどのくらい空気が巻き込まれるのかは知らんが・・・確かに一理あるかも?
実際にどんな感じなのかは知らんが。

「クリシファーナ号ってまだ修理してないよな?
あれって一応底に穴が開いていたし、一度中の水を抜いてから海面に出してもそのままだったら又すぐ沈むだろ?
それに巻き込まれる形で沈んだ時にどうなるか、実験してみたらどうかな」
俺やシャルロが船が沈む際に一緒に引きずり込まれるかは微妙なところだが・・・流石にアレクにそれをやらせたら危険そうだから、一緒に沈む感じに海水の流れを阻害せずに俺とシャルロを動かしてくれって蒼流なり清早なりに頼んでおかないとだな。

「・・・なんかこう、救命用の魔具に使う魔術回路の実験の為に船を沈めるなんてなんとも微妙な心境だが、まあ元々穴が開いている船を活用するだけだからな。
それで良いか。
先にもう一つの方の魔術回路の作動状況も確認してから、両方一緒にシャルロとウィルで試したらどうだ?
2回も船を沈めるのも面倒だろう」
アレクが提案する。

確かにそうだな。
クリシファーナ号が沈むのを目撃した人間がいたら騒がれるかもしれないし。


「そんじゃあこっちを持って飛び込んでくれ」
シャルロにもう一つの魔術回路を付けた袋を渡し、甲板の端から飛び込むように頼む。
普通に端から歩いてドポンと落ちるより、飛び込む方が現実的な感じだろう。
ついでにそれで沈む深さの違いが分かったら参考になるかもだし。

と言うか。
考えてみたら、甲板から突き落とされて海に落ちた場合、あっさり浮かんできても船の上に居る人間から助けて貰えるかは怪しいかもだよな。

それこそ豪華客船か何かで、乗客の一人が別の客にこっそり突き飛ばされたっていうなら直ぐに海面に浮いて大声を上げれば何とかなるかもだが、交易船で誰かが甲板から突き落とされるとなったら・・・他の船員が消極的にでも合意している暴動とか乗っ取りっぽい騒ぎの結果って可能性が高そうだ。

まあ、それなりに高いであろう魔具の救命ジャケットなり救命ベルトなりを買って使うのは豪華客船の客の可能性が高いから、客同士の小競り合いで突き飛ばされるケースもそれなりにあるかもだが。

と言うか、豪華客船の客用だったらマジでそれなりにお洒落と言うか邪魔にならないデザインにしないと使ってもらえなそうだな。

「そんじゃあ、行ってきま~す」
両手を頭の上で合わせてシャルロがひょいッと下にしゃがみ込むような感じで『とぽん』と飛び込んで行った。

へぇぇ。
「ああいう風に飛び込むと、あまり泡も音もたたないんだな」
シャルロが消えた海面は誰かが沈んだと思えないぐらい普通だ。
池の水だったらまだしも、波がある海じゃあどこから入水したか殆ど分からないぐらいだ。

「オレファーニ侯爵領の本邸にある湖で飛び込んだり泳いだり湖底を歩いたり、色々と子供のころから楽しんだらしいから泳ぐのは得意だって話だからな」
アレクが教えてくれた。

「家に湖があるんかい。
まあ、レディ・トレンティスの屋敷ですらめっちゃ広かったもんな。
領地にある侯爵家の本邸ともなれば、王宮程度のサイズになっても不思議はないか」
シャルロの婚約式に行った時は領都にある転移門から最寄りの門を通って本邸に直行して、ちょろっと表側の庭にある式の場所に行っただけだから、裏の庭の方は特に見てないんだよな。
あっちに湖があったんか。

ざぱん。
シャルロが上がってきた。

「ふむ。
こっちも1ミル75秒程度か。
どちらも飛び込む程度の深さだと大して違いは無い様だな」
アレクが時計を確認して呟く。

「あ、でもさっきより深く潜ってたっぽいよ?」
甲板の上で飛び込む時に持っていた縄を先ほど持っていた縄と並べ比べたシャルロが声を上げる。

へぇぇ。
ちょっと深くても同じ程度の効果が発揮できるなら、こっちの方がいいかも?
まあ、最終結論は沈没する船と一緒に沈んだ時の作動を確かめてからだな。
その前に俺ももう一度突き落とされないと。

しおりを挟む
感想 50

あなたにおすすめの小説

病弱少年が怪我した小鳥を偶然テイムして、冒険者ギルドの採取系クエストをやらせていたら、知らないうちにLV99になってました。

もう書かないって言ったよね?
ファンタジー
 ベッドで寝たきりだった少年が、ある日、家の外で怪我している青い小鳥『ピーちゃん』を助けたことから二人の大冒険の日々が始まった。

死んだはずの貴族、内政スキルでひっくり返す〜辺境村から始める復讐譚〜

のらねこ吟醸
ファンタジー
帝国の粛清で家族を失い、“死んだことにされた”名門貴族の青年は、 偽りの名を与えられ、最果ての辺境村へと送り込まれた。 水も農具も未来もない、限界集落で彼が手にしたのは―― 古代遺跡の力と、“俺にだけ見える内政スキル”。 村を立て直し、仲間と絆を築きながら、 やがて帝国の陰謀に迫り、家を滅ぼした仇と対峙する。 辺境から始まる、ちょっぴりほのぼの(?)な村興しと、 静かに進む策略と復讐の物語。

悪役令嬢が処刑されたあとの世界で

重田いの
ファンタジー
悪役令嬢が処刑されたあとの世界で、人々の間に静かな困惑が広がる。 魔術師は事態を把握するため使用人に聞き取りを始める。 案外、普段踏まれている側の人々の方が真実を理解しているものである。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」

音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。 本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。 しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。 *6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。

【毒僧】毒漬け僧侶の俺が出会ったのは最後の精霊術士でした

朝月なつき
ファンタジー
※完結済み※ 落ち着かないのでやっぱり旧タイトルに戻しました。  ■ ■ ■ 毒の森に住み、日銭を稼ぐだけの根無し草の男。 男は気付けば“毒漬け僧侶”と通り名をつけられていた。 ある日に出会ったのは、故郷の復讐心を燃やす少女・ミリアだった。 男は精霊術士だと名乗るミリアを初めは疑いの目で見ていたが、日課を手伝われ、渋々面倒を見ることに。 接するうちに熱に触れるように、次第に心惹かれていく。 ミリアの力を狙う組織に立ち向かうため、男は戦う力を手にし決意する。 たとえこの身が滅びようとも、必ずミリアを救い出す――。 孤独な男が大切な少女を救うために立ち上がる、バトルダークファンタジー。  ■ ■ ■ 一章までの完結作品を長編化したものになります。 死、残酷描写あり。 ↓pixivに登場人物の立ち絵、舞台裏ギャグ漫画あり。 本編破壊のすっごくギャグ&がっつりネタバレなのでご注意…。 https://www.pixiv.net/users/656961

A級パーティから追放された俺はギルド職員になって安定した生活を手に入れる

国光
ファンタジー
A級パーティの裏方として全てを支えてきたリオン・アルディス。しかし、リーダーで幼馴染のカイルに「お荷物」として追放されてしまう。失意の中で再会したギルド受付嬢・エリナ・ランフォードに導かれ、リオンはギルド職員として新たな道を歩み始める。 持ち前の数字感覚と管理能力で次々と問題を解決し、ギルド内で頭角を現していくリオン。一方、彼を失った元パーティは内部崩壊の道を辿っていく――。 これは、支えることに誇りを持った男が、自らの価値を証明し、安定した未来を掴み取る物語。

冤罪で辺境に幽閉された第4王子

satomi
ファンタジー
主人公・アンドリュート=ラルラは冤罪で辺境に幽閉されることになったわけだが…。 「辺境に幽閉とは、辺境で生きている人間を何だと思っているんだ!辺境は不要な人間を送る場所じゃない!」と、辺境伯は怒っているし当然のことだろう。元から辺境で暮している方々は決して不要な方ではないし、‘辺境に幽閉’というのはなんとも辺境に暮らしている方々にしてみれば、喧嘩売ってんの?となる。 辺境伯の娘さんと婚約という話だから辺境伯の主人公へのあたりも結構なものだけど、娘さんは美人だから万事OK。

処理中です...