シーフな魔術師

極楽とんぼ

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卒業後

1188 星暦558年 萌黄の月 13日 後輩から相談(5)

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魔術院の職員ならばこっそりアンディにでもパルティアの上司の住所を聞き、ついでに愛人の噂も知らないか尋ねるのだが、商業ギルド関係にはそんな都合の良い伝手はない。

あるとしたらセビウス氏ぐらいなものだが、彼は彼で今回の案件の理想的な利用方法を描くのに忙しいだろう。
と言う事で、毎度おなじみの下町に戻ってきた。
流石に昼食の直ぐ後なのでまだ長が起きる時間には早い、か……起床時間後だとしても地下の仕事部屋のどれにもまだ居ないだろう。
居てもソファで寝てるか。
と言う事で、赤か青が居そうな盗賊《シーフ》ギルド直営の酒場を見て回る。

「お久しぶり」
3軒目に行った酒場に赤が居た。

「おう。
またなんか変な物を開発したらしいな?」
赤がグラスを磨きながら応じた。

おや。
救命チョーカーのことを知ってるんだ?
暗殺《アサッシン》ギルドならまだしも、盗賊《シーフ》ギルドにはあまり関係のなさそうな魔具だと思うんだが。

まあ、長って案外と新しい物好きらしいからな。
新しいチョーカーも今度プレゼントに持ってくるべきかね?
三大裏ギルドの一つの上層部をほぼ情報屋として使っているのだ。
それなりに気に入られる物を土産に持って来るべきかも。

「今度試作品を土産に持ってくるよ。
海や川で何かするならもしもの時に役に立つかも?」
船に忍び込むような案件を誰かが引いたなら、いざという時に使えるかも知れないし。
でもまあ、下手に使うと浮いちゃって隠れるのの邪魔になる気もするが。

赤がニヤッと笑いながらエールを出してきた。
もしかして赤自身が興味があったのか?
「で?
なんの用だ?」

「商業ギルドの施設維持部門の部長なんだけど。
家と愛人宅の住所を教えて欲しい。
あと、あいつが何処かヤバいのと繋がっているかどうかも」
ショボイ横領だったら普通に適当な上層部にチクって潰せば良いだけだが、どっかヤバい組織とかと繋がっていた場合は変な報復が来る可能性もある。

パルティアは自分が告発したと表に出るつもりらしいから、ヤバいのに繋がっている場合は知っておいた方が良いだろう。

多分セビウス氏がそう言うのも分かっているだろうとは思うが、複数の経路から確認するに越したことは無い。
セビウス氏がパルティアを守る必要性を感じるかも不明だし。

まあ、王都のヤバい連中だったらパルティアの親父さんがなんとか話を通せる可能性は高いかもだけどね。
引退したとは言え、知り合いは多い筈。

「ああ、あのケチ臭い横領か。
単なるギルド職員の内職的な横領さ。
ギルド内部で気付かぬフリをする事で美味い飯を定期的に奢られてた連中なんかは業腹に感じるだろうが、態々報復して目を引く様な事はしないんじゃないか?」

赤がそう言いながら、紙を取り出して何やら書き込み始めた。
相変わらず、呆れた情報網だよなぁ。

もしかして盗賊《シーフ》ギルドって情報屋ギルドも兼ねてるんじゃないかね?

銀貨五枚3万円だな」
ヒラヒラと紙片を揺らしながら赤が告げる。

「ほいよ」
銀貨五枚を差し出して、紙を受け取る。

「ありがとう」
酒場を出ながら書いてある住所を確認した。
ふむ。
それなりに良い暮らしをしているな。端とは言え、貴族街の中に本邸はあるようだ。
愛人は貴族街と商業地区の間で、ここも悪くは無い地域だ。
ギルド職員ってこんなに儲かるんだ?

まあ、色々とショボイ横領を繰り返してきたんだったらそれなりに懐が膨らんでいても不思議はないか。
とは言え、金に関しては何処よりも煩い商業ギルド内で長期的に横領をやり遂げてきたとしたら、そう言う意味では中々有能なようだ。

商業ギルドでそれなりな立場にある男の家となったら使用人も複数いそうだし、そっちは夜かな。
まずは愛人宅へ行こう。
愛人連中って日中は家でぐーたらしているか、貰った金を使おうと買い物に出掛けているか、どちらかが多いのだが……今回はどっちかね?

自分の中で愛人が買い物派だと先日行ったキルギダーナのクッキーを賭けながら愛人宅に行ってみたら、やはり留守だった。
うっし。
賭けは勝ちだな。帰りに店に寄ってもう一袋クッキーを買おう。

さて。
こっちに二重帳簿があったら色々と話が単純になるんだけどなぁ……。
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