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一章
「猫系半獣人奴隷とご主人様になった俺」その③
しおりを挟む「名前はなんていうんだ?」
「名前はないにゃ。奴隷に名前を与えないご主人様はいっぱいいるにゃ」
「へぇー、そういうものか。じゃあ俺が名前を考えてやるよ」
「にゃにゃっ、感激ですにゃ‼」
それから五分ほど考え、西洋風の名前にすることにした。
「よし、クリスチーナと名付けよう」
「あわわわっ、奴隷にはもったいない凄く綺麗な名前なのですにゃ」
我ながらいい名前だと思う。この子も感動して泣きながら喜んでいる。って言うか喜び過ぎじゃね、号泣なんですけど。
何気なく勝手に名前を付けたけど、名無しの奴隷にとっては特別なことなのかもしれない。
「クリスチーナ、もう自由になったんだから好きなところに行って好きなことやって暮らせよ」
そう言ったらクリスは凄く困惑した表情になった。
「そんなこといきなり言われても困りますにゃ。何をどうやって生きていけばいいのか分かりませんにゃ」
そうか、ずっと奴隷で命令されて動いてきたから、それが骨身にまで染み付いているんだ。
「そのうち慣れるよ、自由であることに」
「無理と思いますにゃ。慣れる前に死んでしまいますにゃ」
「そう言われてもなぁ」
「あなた様は命の恩人ですにゃ。更に名前まで頂きましたにゃ。そんなあなた様にぜひ、ご主人様になってほしいのにゃ」
「お、俺がご主人様⁉」
おいおいマジかよ。十七歳のヒキオタがご主人様とか超展開すぎる。
こいつ可愛いだけが取り柄っぽいよな。ラノベ原作のアニメなら役立たずキャラで間違いないだろ。まあ可愛い=神だけども。
さてどうするか。ここでの選択が大きな分岐点になるかもしれない。ってまだこの世界の事なにも知らないし何も持ってないのに、いきなり奴隷ゲットでご主人様とか、どうなのこれ、怖くね。
旅のお供にいたら淋しくはないけど、トラブル巻き起こしそうなんだよな、こういうキャラは。ただそれなりにこの世界の知識はありそうだし、アリといえばアリかもしれない。
「まあいいか。ここで助けたのも何かの縁だし、俺に付いてきていいよ」
「わーいわーい、新しいご主人様にゃ。これからはクリスチーナに何でもご命令くださいにゃ、ご主人様」
まさかこんな展開で憧れのハーレム要員一号をゲットできるとは。ラッキーといえばミラクルラッキーだ。うん、そう考えることにしよう。それにクリスが凄く喜んでるしな。
「ふっ、ご主人様か、いい響きじゃないか。クリス君、もう一度言ってみたまえ」
「はいにゃ。ご主人様」
「いい……いいよクリス君。もっと言ってみたまえ」
「ご主人様」
「もっと‼ もっと大きな声で」
「ご主人様‼」
「そうその調子でもう一回‼」
「ご主人様‼」
「更にもう一丁‼」
「ご主人様‼」
「バッチこいや‼」
「ご主人様‼」
「まだまだぁ‼」
「ご主人様‼」
「って俺は何をやってんだよ」
つい熱くなっちまったぜ。奴隷を持つだけでもありえないのに、その奴隷が猫耳娘とかカオスすぎて我を忘れてしまった。
「にゃははっ、ご主人様は面白いのにゃ」
おっと、調子に乗って遊んでいる場合じゃない。亡くなった奴らをそのまま放置は可哀相だし埋めてやらねば。
しかしいきなりモンスターに襲われて死ぬこともあるなんて、物凄く怖いことだよね。マジでヤバい世界に来てしまったのかも。
馬車の荷物の中にシャベルが二つあったので墓穴を掘るのは問題なさそうだ。てか初めて死体を見たけど、意外に平気なので驚いている。これは異世界へ来た影響が何かしらあるのだろうか。さっきモンスターとエンカウントした時も結局は戦えたしな。普通はあんな巨大なモンスターを眼前にしたら恐怖で震えて動けないと思う。
「クリス、皆を葬ってやるから手伝って」
「はいにゃ。でもご主人様は、あの大きなモンスターを一人でやっつけるなんて強いのにゃ」
「まあな。あの猪みたいなのって、この辺りのボスだったりして」
「この地域のモンスターのことは分かりませんにゃ。ただ商人様が雇っていたのは中級クラスの傭兵さん達なので、それを倒したモンスターは凄く強いと思いますにゃ」
ふむふむ、なるほどな。やはりあのデカ猪は強いのか。そうすると俺の超人パワーはガチのチートってことになるかも。
もしかしたら体も頑丈だし、あいつの突進回避せずに受け止めても全然平気だったかも。勿論試す勇気はないけど。
ただ本当にチートなら、魔王討伐とか目指せたら最高に面白い異世界生活になる。まあ可愛い女の子たちとの日常系も捨てがたいがな。いや待てよ、俺がチート魔王になるって選択肢もあるぞ。ハーレム作って鬼畜勇者もいいし、変態銭ゲバ商人も俺的にはアリだ。
とかアホな事を妄想しながら全員を埋めてやった。
何か武器が欲しかったので、遺品の中からダガーナイフを貰うことにした。わざわざ埋めてやるんだからこれぐらい貰ってもいいよな。できれば剣が欲しいけど使い熟せそうにないし邪魔になるからやめた。
が、今は一文無しだ。生活するには金がいる。なので高く売れそうな剣を一本貰っていこう。
本当は商人とかの懐から財布を抜き取れば金は入るけど、流石にそれは抵抗があった。
「クリス、町に行ったらこの剣売るから、背中に担いでて。ちょうどベルトみたいなの付いてるし」
「はいにゃ」
クリスは素直に、そして命令されたのが嬉しそうに剣を担いだ。
「おっ、なかなか様になってるぞ。強そうな女剣士みたいだ」
「にゃは、照れるのにゃ」
とか言いながらノリノリでカッコよくポーズとってんじゃねぇか。
「後は……そうだ、旅してるわけだし馬車に食料あるだろ。それ貰っていこう」
そう思って馬車に戻ると、紫の毛色の猿のような動物かモンスターか分からない生き物の群れが荷物をあさっていた。
「あっ、それ、こいつら食料持っていくつもりだ」
「ご主人様、クリスチーナにお任せなのにゃ」
クリスは自信満々にそう言って剣をその場に置くと、勇猛果敢に群れの中に飛び込んでいく。
フラグのようなドヤ顔だったが、もしかして期待できるかも、と思いバトルを見守ることにした。そもそも半獣人だし身体能力は人間以上のはずだ。まあゲームとかアニメのイメージなので本当のところはよく知らないけど。
「う~ん、俺はいったい何を見せられてんだ」
眼前では子供の喧嘩のようなバトルが繰り広げられ、ものの一分でクリスは帰ってきた。大号泣しながら。
「うううううっ、ダメでしたにゃ」
「ですよねぇ、見てれば分かりますけどね」
弱い、こいつ弱すぎる。フルボッコじゃん。
そして猿たちはドヤ顔で勝ち誇り、食料を持ってジャングルの奥へと消えた。
「まあいい、仕方がない。向こうは大勢だったからな。クリスは頑張ったよ、気にするな」
「ご主人様は優しいのにゃ。全然ぶったりしないにゃ。前のご主人様は鞭でお尻をいっぱい叩く人だったのにゃ」
鞭でこのデカ尻を……俺もやってみたいかも。いやいやいや、ダメだろそんな鬼畜なことしちゃ。妄想の中だけで我慢しよう。
「できれば失敗した時は、お尻をぶって欲しいのにゃ。その方が安心するにゃ」
お仕置きおねだりキターー‼ こいつ完全にドM調教されちまってる。
父さんは抗うな、郷に入っては郷に従え、と言ってたけど、乗っかっていいの、お尻を叩いていいのか?
そんな鬼畜ご主人様になっても白い目で見られたりしないだろうな。てか人として、何か大切な物を失う気がする。しかしここは異世界、元いた世界の常識など無意味。そう、今こそレボリューションの時。
「ご主人様、ダメなクリスチーナを叱って欲しいのにゃ」
ってクリスさん、そのデカ尻を突き出して何やってんすか‼
叩けってこと? 今すぐはハードル高すぎるんですけど。心臓バクバクしてヤバいぃぃぃ、でもやってみてぇぇぇ‼
「ま、また今度な」
って俺のバカ、弱虫、ここはお尻ぺんぺんだろ。逃げてんじゃねぇよ。
クリスは少し落ち込んで名残惜しそうにこっちを見ている。もうね、鬼畜ルート一直線になりそうで怖い。なのにアリじゃね、ってもう一人の、いや五人ぐらいの悪魔な俺が耳元で囁く。脳内会議では賛成多数で可決している。
「食料は後で調達するとして、出発したいんだが、商人はどこの町に行こうとしてたんだ」
「南の方なのにゃ。このディアナ大陸の南には大きな街が幾つかあって、一番大きな国もあるにゃ。大きな大きなお城があるらしいにゃ」
「城か。じゃあ城下町があるな。まずはその国に行くとしよう。で、どっちが南だ」
「こっちの方角にゃ」
俺が進んでいた方をクリスは指差した。
「目的の町までどのくらいで着く予定だった?」
「分かりませんにゃ。でももう少し行ったら砂漠があると言ってたにゃ」
きたきたきたよ、砂漠越えきちゃったよ。ロープレの王道だけど、ちょっと早くね。まだ完全に素人のニセモノ冒険者なんですけど。
「砂漠か……となれば、手前に準備するための町があるはずだ。とにかく明るいうちに進めるだけ進もう、行くぞ」
「はいにゃ‼」
元気だけはいいんだよな。そして可愛い、可愛すぎる。
しかしどうなるんだろこの旅は。異世界のことを何も知らない浮浪者とポンコツ奴隷のパーティーって、絶望的すぎじゃね。でもまあ、どんどん楽しくなってきた。
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