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五章

「情報と影響と熱気」その③

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「じゃあ話を変えて最新の情報を教えてくれ」

 いきなり脱線してしまったが、ここからはちゃんとした情報を手に入れよう。
 で、サクラから様々な最新情報を買ったのだが、それらは俺に関係ある事ばかりで驚いた。

 まず情報その1は、北の小さな村が大量に発生した謎の巨大スライムに襲われ、そこへ金色の破壊神が現れスライムごと村を消滅させた、というもの。死者はおらず温泉が湧いた事まで知れ渡っている。既にこの街から大工職人や様々な商人が向かったらしい。村の警護に雇ってもらうために冒険者たちも動いている。
 都会の情報屋網スゲー、テレビもネットも携帯もないのに、あっという間に噂が広がっている。

 情報その2は、砂漠のダンジョンで何者かが夥しい数の極悪トラップを破壊した、ということだ。そのおかげで今まで行けなかった下層部分を冒険できるようになった。これはもうスカーレットがアジトにしていたダンジョンのことだろう。ドジっ子スキルMAXのクリスさんが、ことごとくトラップ発動させたもんな。それを全部クリアしたのは俺だけど。ホンと超人じゃなければ無理ゲーだったよ。なにやら下層部には様々な鉱石や珍しいモンスターがいるらしく盛り上がり始めている。

 情報その3は、砂漠より北のジャングルで、冒険者を手当たり次第に狩っていたボス級モンスターが倒されたということ。そのモンスターは巨大で漆黒ボディーの猪系だ。
 はいそれ俺っすぅ。成り行きで異世界移住したての超人が訳も分からずぶっ飛ばしました。
 それでエリアのボスモンスターが居なくなって遠回りしなくてもジャングルを抜けていけるようになり、尚且つそのモンスターはダンジョンの入口辺りを根城にしていたので、居なくなった今は自由に入れる。
 とにかく冒険者や商人たちのテンションはMAXで熱気が凄いとのこと。偶然だろうがどれも俺が関係していてなにかしら影響が出ている。

「あのジャングルには珍しい食材がありますし、ダンジョンには武具や装飾品にできる良質な鉱石や金属があるはずです。これは久しぶりにお祭騒ぎになりますよ。旦那も乗り遅れにならないように、またとない稼ぎ時です」
「そうだな。俺も駆け出しだけど商人だし」
「でも凄いですよね、ボス級と言われていたモンスターを倒すなんて。きっと有名な勇者様に違いないですよ。一度でいいから本物の勇者様に会ってみたいものです」

 サクラは目をキラキラさせて遠くの空を見ながら言った。なんだか勇者を物凄く美化した妄想してません。猪モンスター倒したの無職のヒキオタだからね。まあガッカリするから言わないでおくけど。それに有名になると出生の秘密のこともあるし色々と面倒が増えそうだ。
 ただこれからモンスターを倒してレベル上げしていくわけだし、普通にしてたら目立つよな、この超人パワー。なにか考えないと。
 そうだ、バトルとか冒険者やってる時は仮面をつけて正体がバレないようにしよう。

「勇者ねぇ……情報屋が会ったことないのは変じゃないか。召喚勇者っていっぱいいるんだろ」
「何人も会ってはいますが、魔王討伐を目指している本物の勇者様はごく一部です」
「なるほど、そういうことか。まあ人それぞれだよな。魔力があるから召喚されたんだろうけど、戦いに向かない性格の人もいるし」

 強い正義感があるとか中二病じゃないと、ある日突然召喚されてもガチでバトルはやらないよね、って話だな。身近では父親がいい例だ。
 この後は行方不明のセバスチャンのマスター、ロイ・グリンウェルの情報をサクラに聞いた。だが残念ながら今はないとのこと。

「旦那、すぐに情報を手に入れますので、少しの間お待ちください」
「分かった、ただ無茶はするなよ。別に急ぎじゃないから」
「はい。承知いたしました」

 サクラは見た目と違って使える情報屋だ。はっきりいって頼もしい。悪い奴らも大勢いるだろうし、いきなり出会えたのは運が良い。

「サクラも大変な仕事をしてるよな、女の子なのにさ。ホンと偉いと思うよ」

 何気なくそう言ったが、サクラは少し驚いた顔をした。

「あの、アキトの旦那、ぼ、僕、男なんですけど」
「はあっ⁉ 男、お前が男⁉」
「はい、男です」
「そんなわけないだろ、どこからどう見ても女の子だろ。しかも美少女」

 嘘だろ。まさかまさかの男の娘なのか?
 いやいやいや、これは違うだろ。いくらなんでも男の訳がない。顔や声、身体つきだけじゃなく雰囲気や肌の質感とか全部が女と示している。

「嘘をつくのはいけないことだよ。てかさっき個人情報だから有料とか言って金とったよな。本当のことを言いなさい。ちゃんと秘密にするから」

 きっと危険な商売だから男と言っておいた方が安全なんだろう。うん、そうに違いない。

「本当に男です。男なんです」
「ほう、どうやら君は、俺を怒らせてしまったようだな。そこまで言うなら見せてもらおうか、その男とやらの証拠を」
「しょ、証拠って何ですか……」
「それだっ‼」

 ビシっとサクラの股間を指差す。

「そんなの無理ですよぉ。お金貰っても嫌ですからね」

 サクラは本気で嫌そうな顔をして、いつでも逃げれるように斜に構えている。

「何故だ。男同士ならいいだろ。まったくもって問題ない。さあ、お兄さんに見せてみなさい」
「僕は男同士でも嫌なんです」

 サクラは身の危険を感じたのか逃げ出そうとした。

「待てい‼」

 先読みして動きサクラがダッシュする前に肩を掴んで捕まえた。

「まだまだ動きが甘いよ、サクラ君」

 変態テンションがMAXになり冷静さを失ったこの時、予測しなくてはならなかった災厄に見舞われる。

「あわわわわっ、な、なにやってるのよ⁉ この変態が‼」
「うわっ⁉ アンジェリカ‼」

 イチャイチャして騒いでたら見つかった。こいつ、こんな時間まで探してたのかよ。それなら超怖いんですけど。

「アキト、あんたがド変態なのは分かってたけど、町中で少女のズボンを脱がそうとするなんて鬼畜にもほどがある。犯罪よ犯罪。この世界のために、やはり成敗してやる」

 よく言うぜ。世界のためとか言うなら成敗されるのはお前の方だろ。とはいえ誤解されても仕方がない状況だ。

「こらこら、剣を抜こうとするのは止めなさいっての。魔力も上げるんじゃないよ。はっきり言って誤解だから」
「この変質者が、なにをどう見間違えれば誤解になるのよ。往生際が悪いわね」
「そんじゃこいつ見てみろよ」

 サクラの両肩を後ろから掴んだままアンジェリカの方へグイっと突き出す。

「どう見ても女の子にしか見えないだろ。でも男だって言い張るから確かめようとしたんだよ」
「はあ⁉ この子が男? そんな訳ないでしょ。ドワーフの女の子じゃないの」
「だよな。誰だってそう思うよな。でも絶対に男だっていうんだよ。そんなの納得できないだろ」
「おいお前、嘘をつくんじゃない。お前は女だろ」

 アンジェリカは周囲の空気を凍り付かせるような威圧感を発し、サクラを睨み付けて金縛り状態にした。まさに蛇に睨まれた蛙だ。背景にゴゴゴの効果音が見える。もう魔王を名乗った方がいいんじゃないの。その方が分かりやすい。
 それにしても簡単だ。さっそく餌に食い付いてくれた。このままうやむやにして隙を突いて逃げよう。家を知られるわけにはいかないからな。

「僕は……僕は男です」

 ガクガク震えながらもサクラは言い切った。
 スゲーなサクラ。この状況で男とまだ言うか。本当に男なのかと思い始めたぞ。まあ男の娘でも可愛いからいいんだけど。そもそもなにムキになってるんだ。
 ただサクラよ、そういう意地が押し通る相手じゃないんだよ。何せ二つ名の破壊神だからね。なんだか巻き込んでごめん。凄く悪い事した気になってきた。

「な訳ないだろ。私に嘘をつくとは許せん。女子供国王だろうとぶっ飛ばす」

 アンジェリカの迫力と魔力の大きさにサクラは今にも腰を抜かし失禁してしまいそうだ。

「サクラ、この御方は伝説の魔法剣士、あのアンジェリカさんだ。分かるよな、あの、方だ」
「えっ⁉ あの……」

 サクラはアンジェリカの正体を知った瞬間、更に顔色を青ざめさせた。
 ある意味レベル1で魔王とエンカウントした状況だもん、こりゃ精神的ダメージトラウマ級かも。

「嘘はダメだよ嘘は。さぁ、本当のこと言ってみよう。じゃないとこの街ごと消滅するかもよ」
「そんなこと言われても」
「おいドワーフ、もう一度だけ聞いてやる。お前は女だよな」
「ぼ、ぼぼぼ、僕は、お、男です‼」

 サクラは目を閉じて上を向き、ビビりながらも最後は強く発した。

「ふざけんなっ‼ 私は嘘をつかれるのが嫌いなんだよ。だったら脱がせて確かめてやる」

 暴君アンジェリカはサクラともみ合いになりズボンを脱がそうとする。
 完全に我を忘れている。さっきの俺、こんな感じだったのか。恥ずかしいぜ。人の振り見て我が振り直せ、だな。ホンと勉強になりました、アンジェリカさん。

「おーい、アンジェリカさんや、それもう変態の俺と同じことやってますよ、いいのかよそれで」

 サクラが可哀相になったので、ここらで止めに入る。ここまで粘るならもう男でいいや。

「はっ⁉ つい興奮してしまった、私としたことが。って誰がド変態のお前と同じだ‼」

 あぁ同じじゃないさ。全然違う。言っておくが、お前は変態とか変質者みたいなくくりじゃないんだよ。この裏ボスの極悪大魔王が。

「なんだその目は。アキト、死んだ魚のような目で私を見るな」
「別に。いつもこんな目ですけど、なにか?」
「くそっ、こんなバカげたことに乗せられてしまうとは。やってくれたなアキト、流石私のライバルだけはある」

 なにそれ、意味わかんないんですけど。どういうタイミングでライバルとか言ってんのこの子。ただ恥ずかしいのをそれっぽい言葉で濁そうとしてるだけだよね。ホンとそういうのやめてくれるかな。あとストーカーも止めて。

「ここまで男って言うんだから、俺は信じることにするよ。それにさっきもみ合いになった時に、手が股間に触れたんだけど、アレがあったような気がする」

 手が触れたのは嘘だけど、アンジェリカを納得させるために仕方がない。この時サクラは顔を真っ赤にしてモジモジしていた。

「待てアキト、アレがあるからって、こっちの世界では男とはかぎらないからね」
「えっ⁉ なにそれアンジェリカさん⁉ どういうことなのアンジェリカさん⁉」
「ちょっ、なに食い付いてんのよ。超キモいんですけど」
「そこ物凄く大事なとこだろっ‼」
「あぁもう、うるさいよ変態、顔近付けるな、うっとうしい」
「これセクハラとかじゃないからね、純粋な好奇心だからね」
「ウザいんだよクソ変態、必死すぎだっての。なにフガフガ鼻息荒くしてんだ」
「で、どうなのサクラさん。男なの、女なの、それとも両方なの。両方でも色々なパターンあるからね。さぁお兄さんに言ってみなさい」
「だから男ですって。旦那はいま信じるって言ったじゃないですか」
「いやまあそうなんだけども……やっぱ脱いで見せてくれない」
「よし、私も手伝うぞ」

 アンジェリカはノリノリでサクラが逃げないように腕を掴んだ。これもう最強の極悪コンビの爆誕だな。逆の立場だったら超絶怖い。

「嫌ですよぉぉぉっ、やーめーてぇーー‼」

 夜の街にサクラの叫びが響き渡ったその時、大勢の警備兵がやって来る。





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