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『第一学院』②

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「――オズワルド。悪いけど、セルビアを潜入させることについて僕は反対だ」

 ハルクさんが静かにオズワルドさんに告げた。

「なぜだ?」
「危険だからに決まっているじゃないか。いくら適正があるからって、何人も被害の出ているような場所にセルビアを一人で送り込むのは納得できない」

 きっぱりとした口調で言い切るハルクさん。

 その態度からは私の身を案じてくれているのが伝わってくる。

「だが、こいつ以外にはできないことだ。魔力の低い人間が『第一学院』にいれば嫌でも目立つ。警戒されれば下手人は動こうとしなくなるだろう」
「他に潜入に長けた人材は?」
「いたらこんな話は最初からしていない」
「……だからって、セルビア一人を危険にさらすのは」

 言い合う二人に割って入るように私は告げた。

「いえ、行きます」
「……セルビア、それは本気で言ってるのかい? きみが事件の犯人に目をつけられるかもしれないんだよ」
「それでもです。だって、この事件が解決しないと魔神討伐用の結界が作れないんですよね? それなら私も多少の危険は受け入れます」

 行方不明事件の解決報酬は『古龍の眼球』――空間魔術を使うための素材だ。

 それを手に入れるのは魔神討伐のための必須事項である。魔神を倒すなんて言い出したのは私だし、ここで弱気になんかなっていられない。

「でも……」

 困ったように眉根を寄せるハルクさんを見て、レベッカがこんな案を出した。

「なら、緊急連絡用の魔道具をセルビアに持たせときゃいいんじゃねえか? ピンチになったら即ハルクに現在地付きで連絡できるようなやつ」
「ふむ。そのくらいならすぐに用意できる」

 オズワルドさんの言葉に、ハルクさんは小さく溜め息を吐いた。

「……そこまで言うなら、わかったよ。けどセルビア、無理はしないようにね」
「はい。心配してくれてありがとうございます」

 私が言うと、ハルクさんは苦笑を浮かべた。
 レベッカがオズワルドさんに尋ねる。

「セルビアはそれでいいとして、あたしとハルクはどうすんだ? 第一学院の近くで張り込みでもすんのか?」
「いや、お前たちには別の場所を担当してもらう。具体的には街中と『第二学院』だ。第二学院のほうはセルビア同様に編入生として紛れ込んでもらう」

 第二学院というと――

「あー、さっき路地裏で絡んできたアホどものいる学校か」

 レベッカの言葉の通り、さっき街中で絡んできた少年たちがそこの所属を名乗っていたはずだ。

「そこでも一人生徒が失踪しているからな。調査するに越したことはない。……まあ、ハルクは顔が割れているから不可能だな。赤髪、こちらはお前が行け」
「あ? 何で命令口調なんだよ。『言ってくださいお願いします』だろーが」

 身を乗り出すレベッカを手で押しとどめつつハルクさんが言う。

「ま、まあまあ。ほら、『第二学院』には魔術武器を開発する工房があるんだよ」
「……工房?」
「うん。だからレベッカ向きだと――」
「そういうことなら仕方ねえな! よーっし、あたしが行ってやるよ」

 一転してうきうきした様子で言うレベッカ。
 まあ、レベッカが旅をしている目的は鍛冶師としてのレベルアップなわけだし、当然の反応かもしれない。

「セルビアが『第一学院』、レベッカが『第二学院』となると……残った僕が街中の担当ってことでいいのかな」
「ああ。お前にはこれ以上被害者が出ないよう防衛の役目も任せる」
「了解。まあ、【生体感知】を使えば街一つぶんくらいはカバーできるかな」

 ハルクさんとオズワルドさんがそんなやり取りをしている。

 何だかハルクさんが凄いことを言っているけど、いつものことなので気にしない。

 そんな感じで、シャレアにおける私たちの行動方針が決まったのだった。





「ハルクさんはともかく、レベッカは大丈夫でしょうか……」

 オズワルドさんと並んで学院の中を移動しつつ、そう呟く。

 レベッカの潜入先である『第二学院』の特徴は、徹底した実力主義。
 身分は問わず魔術戦闘の才能があればどんな人間でも入学できる。

 ……なんて言えば聞こえはいいけど、実力主義の側面として『第二学院』には素行の悪い生徒が多いんだとか。

 学院の中では、毎日のように生徒同士の決闘が繰り返されているらしい。

「何だ。心配か?」

 オズワルドさんの言葉に私は頷く。

「そうですね、心配です。――レベッカに絡んだ相手が」
「気にかけるのはそっちでいいのか」

 レベッカの喧嘩っ早さは相当なものだ。おまけに強い。

 学生たちがうっかり難癖でもつけようものなら大変なことになるだろう。
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