泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

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異能力学園バトル時空/この街でのよそおい

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「……なんでしょう? ちょっと見てきますね」

 声の発生源はおそらくこの屋敷の目の前だ。少し気になったので、勉強は一時中断して様子を見に行くことにする。

 屋敷の扉を開けると、そこには大量の不良っぽい少年たちにひざまずかれる少女の姿が。

 どうしよう。見に来ても状況がまったく呑み込めない。

 というか、少年たちに頭を下げられているのはどう見てもレベッカに見える。

 レベッカはうんざりしたように少年たちに言う。

「だーかーら、あたしは姉御じゃねえ! つーかなんでついてくんだよ!」
「もちろん姉御をお守りするためッス! 転入初日にあの『水の女帝アクア・エンブレス』を倒して序列五位になったお方ッスからね! 闇討ちされないようにしないと!」
「知らねーよもう! ――あ、セルビア! お前もちょっとこいつらに何とか言ってやってくれよ!」

 私に気付いたレベッカが呼びかけてくるけど、正直私には何が何だかわからない。

 少年たちの先頭に立つ一人が私に向かって勢いよく頭を下げた。

「姉御のご友人ッスか! 自分らは今日から姉御の傘下に入りました! よろしくお願いします!」
「は、はあ。よろしくお願いします」
「では俺たちはこれで失礼するッス! ありがとうございやした!」
「「「ありがとうございやしたァアアアア!」」」

 そのまま去っていく不良少年たち。

「あの、レベッカ。一体なにが……?」
「あたしも知らねーよ……あ、それより怪我治してくれセルビア。骨折れてんだあたし」
「本当に何があったんですか!? というかそういうことは先に言ってください!」

 慌ててレベッカの体に回復魔術をかける。確かによく見ればあちこち血まみれだった。

 怪我をしているなら、もう少し怪我人らしい仕草をしてほしい。

「『第二学院』で名前を売ったようだな、赤髪」

 どうやら窓から様子を見ていたらしいオズワルドさんが、屋敷から出てきてそんなことを言った。

「名前を売った……? オズワルドさん、どういうことですか?」
「『第二学院』では強者こそが評価される。実力を認められれば、ああいう取り巻きも自然とできるようになるのだ」

 そういえばさっきの不良少年たちは『第二学院』の制服を着ていた。

 傘下に入った、とも言っていたし、取り巻きという表現にも納得がいく。

「赤髪、なにか心当たりはないのか?」
「あー……そういや学院で変な女に絡まれたから返り討ちにしたな。そんで、なんか知らんがこれをもらった」

 レベッカが取り出したのは何やら豪華な装飾のついたバッジのようなもの。

 それを見てオズワルドさんが驚いたように瞬きをした。

「ほう。それは『第五位勲章フィフス・シンボル』か」
「さっきの連中にも言われたけど……なんだよこれ? そんな大層なもんなのか?」

 レベッカの問いにオズワルドさんが頷く。

「『第二学院』では魔術戦闘の強さこそが至上と言っただろう。あそこでは学生同士の決闘が奨励されており、その仕組みの一つに序列制度がある。強さに応じて順位がつけられ、それによって学院からの待遇が変わってくるのだ。
 また、順位は決闘に応じて変動する。
 お前が倒したのは、その勲章を見る限り第五位『水の女帝アクア・エンブレス』だろうな。お前が勝ったことで順位が変動し、お前が新たな序列五位となったのだ」
「ああ、確かそんな名乗り方してたな。あたしに絡んできた女」
「序列の上位五人は『選ばれし五人セレクテッド』と呼ばれ特別視される。お前に取り巻きが大量にできたのはその座を奪ったからだろう」
「なるほどなあ」

 オズワルドさんの説明にレベッカが頷いている。

 なるほど。

 つまり今のレベッカは『第二学院』内での強さランキング第五位で、『第五位勲章フィフス・シンボル』を持っていて、『選ばれし五人セレクテッド』入りを果たしたということで――

「……なんだか遠い存在になってしまいましたね、レベッカ」
「お、おい。なんでそんな遠い目をしてんだよセルビア」 

 レベッカの周囲だけ今まで私たちが生きてきた世界と別時空のように思えてならない。

 学内序列やら二つ名やら、もう何が何だかという感じだ。

「ただいま戻ったよ。なんだかここに来る途中で大量の不良少年たちとすれ違ったんだけど……何かあったのかい?」

 そうこうしているうちにハルクさんが戻ってきた。

 今日の街での捜査が終わったようだ。

「レベッカが遠い世界の人になってしまったんです」
「……?」

 私の神妙な言葉に、ハルクさんは首を傾げていた。





 潜入作戦の初日は、私はとりあえず入学手続きが完了。

 レベッカは色々あって『第二学院』の序列五位になって取り巻きもできた。

 オズワルドさんはいつも通り講義をしつつ周囲を探ったけど、事件に関する手がかりはなし。


 街を探索していたハルクさんはというと――「夜になると一気に街に人がいなくなった」と言っていた。
 行方不明事件が三か月にわたって解決していない現在、街の人たちは日が落ちると外に出なくなるようだ。


 ちなみにハルクさんも聞き込みをしていたようだけど、こちらも手がかりはなかったらしい。

 今日は潜入作戦二日目。

 私とレベッカが入学手続きを終えたことだし、今日から本格的に事件解決に向けて行動していくことになる。

 というわけで――

「これが『第一学院』の制服ですか」

 真新しい制服を着てその場でくるりと回ってみる。

 正式に入学手続きを終えたことで、今朝がたオズワルドさんにこの制服を支給された。

 今日からはこれを来て、名目上は『第一学院』の生徒として過ごすことになる。

 制服はシンプルなシャツにスカートに加え、上着として黒のローブというもの。
 街の学者さんがつけていたような角帽も受け取ったけど、これは正装扱いなので式典のとき以外はつけなくてもいいらしい。

 似合ってるかどうかは……自分ではよくわからないなあ……

 姿見の前で自分の姿を確認していると、ハルクさんが後ろから声をかけてくる。

「ここにいたのかい、セルビア。僕は街に調査に行ってくるから」
「はい。いってらっしゃい、ハルクさん」
「うん。……」

 ハルクさんは今日も街の調査と警備だ。

 挨拶をして送り出そうとしたところで、ハルクさんはなぜか難しい顔でこちらに歩み寄ってきた。

 それからがしっと私の肩に手を置いて言ってくる。

「いいかいセルビア、いくらこの事件を解決する必要があるからって無茶はしないこと。一人で先走ったりしないように」
「は、はい」
「何かあればすぐに腕輪で僕に連絡を入れるんだよ。すぐに行くから」
「わかりました」

 私は頷いたけど、ハルクさんの表情は晴れない。

「…………心配だなあ……」

 どうやら私の身の安全を気にかけてくれているようだ。

「大袈裟ですよ、ハルクさん。まだ危ないことがあると決まったわけじゃないんですし」
「それはそうだけど……それに、セルビアと長時間離れて行動する機会は今までなかったから、なかなか慣れないよ」
「ハルクさん……」
「子供を始めてお使いに行かせる親もこんな気持ちなのかな……」
「ハルクさん?」

 なんだか心外な心配のされ方をしている気がする。

 私はハルクさんに視線を合わせて言った。

「王都を出る前、ハルクさんが言ってたじゃないですか。私たちは『対等な仲間』だって。
 確かに私はまだ頼りないかもしれませんけど、少しは信用してください」

 私が言うと、ハルクさんは苦笑した。

「それを言われると……そうだね。悪かったよ。けど、危ないと思ったらすぐに連絡してね」
「はい。そのときはよろしくお願いします」

 そこでこの話題は一区切り。

 私はふとハルクさんの姿を見つめる。

「ところで、ハルクさんは今日もその格好で街へ?」
「え? うん、そのつもりだけど。……もしかして変かな」

 自信なさげに自分の服装を見下ろすハルクさんは、今日はごく普通の若者っぽい出で立ちだ。
 さらに眼鏡と帽子を着けているためいつもとかなり印象が違う。

 ハルクさんはこの街では有名すぎる。

 そんな人物が街中を見張っていたら犯人も動きを見せないだろうということで、ハルクさんはこうして変装しているのだ。

「いえ、似合ってると思いますよ」
「そう言ってもらえると助かるよ。どうも普通の服装は慣れなくてね……」
「心配しなくても、ちゃんと格好いいです」
「……ありがとう」

 私が褒めるとハルクさんは照れたように苦笑した。

 ハルクさんは謙遜しているけど、似合っているというのは本当だ。

 例えるならお忍びで街に来た貴族令息といった感じだ。
 服装はオズワルドさんのものを借りたそうだけど、ハルクさんの紳士的で柔らかい雰囲気によく合っている。

 こほん、とハルクさんは咳払いしてこう言ってきた。

「セルビアも、その、よく似合ってるよ」
「ありがとうございます。……なんで目を逸らすんですか?」

 制服姿を褒めてくれるのは嬉しいけど、なぜかハルクさんは私から視線を外してしまう。

 ちょっと意図がよくわからない反応だ。

「いや、何というか……あんまり女の子の服装を褒めるような経験がないんだよ。さらっと言えた方がいいんだろうけど……あはは」

 苦笑するハルクさんの耳元が少し赤い。どうやら本当に慣れていないようだ。

「でも、慣れてないのに褒めてくれたんですよね。嬉しいです」
「……どういたしまして」

 私が素直な気持ちを伝えると、ハルクさんはなぜか顔を隠すように手で口元を覆ってしまった。

「あー、それじゃあ僕は行くから」
「はい。気を付けてくださいね」

 最終的にハルクさんは視線をさまよわせ、足早に部屋を出ていった。




『…………朝っぱらからえらい胸やけさせられたぜ……』
『あの二人はいつもああなのか、赤髪』
『まあわりと。つっても、別に恋人とかそういうんじゃねーみたいだけど』
『あれでか……よくわからん関係性だな』

 レベッカとオズワルドさんがこっちを見て何やら囁き合っている。

 なんなんですか、一体。
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