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報告/一方そのころ
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オズワルドさんの研究室の前に来ると、中から話し声が聞こえてきた。
『……だから、この点についてこれ以外の方法を考えられればこの研究も進めることができるはずで――』
『……なるほど、そういうやり方が――』
誰かいるのかな?
出直してもいいけど……まあ、とりあえず覗いてから判断するとしよう。
「失礼します……ってあれ? ロゼさん?」
「お前か。入るのは構わんがノックくらいしろ」
「……セルビアさん、ですか。どうも」
そこにいたのは部屋の主であるオズワルドさんと、意外なことにロゼさん。
オズワルドさんの手には何枚かの束ねられた書類があり、それをめくりながら何らかのやり取りをしていたようだ。
「セルビアさんのおかげで、ルーカスさんたちから何かされることはなくなりました。……ありがとうこざいます」
「い、いえ、もういいですよお礼は。模擬戦の後にも言ってもらいましたし」
私を見るなり頭を下げてくるロゼさんを慌てて止めておく。
お礼に関してはルーカスとの模擬戦以降、会うたびに受け取っている。
そろそろこっちが心苦しくなってくるほどだ。
「えっと、ロゼさんはここで何を?」
「……研究レポートをオズワルド先生に見てもらっていました。自分だけではうまくいかないところがあって……」
「ああ、なるほど――いえちょっと待ってください。そんな課題出てましたっけ……!?」
私とロゼさんはけっこうな数の科目が被っている。
まさか私は出された課題を聞き逃したりしていたんだろうか。
「いえ、これはわたしが個人的にやっているものなので」
「そ、そうですか。それならいいんですが」
「それでセルビア、何か用があったのか?」
オズワルドさんに先を促される。
「それなんですけど、ええと……」
「……? なんですか?」
私の視線を受けてロゼさんが尋ねてくる。事件の話をここでするのはまずいだろうか。
けれどそんな私の迷いは不必要なものだった。
「お前の用が行方不明事件の話なら、隠す必要はない。ロゼはお前が協力者であることも含めて知っている」
「え、そうなんですか!?」
「……はい。おじい様から、聞きました。『剣聖』様が調査に加わってくださっていることも、セルビアさんが元聖女候補であることも」
ロゼさんは淡々と頷く。……初耳なんですが。
とはいえ冷静に考えてみれば、この『第一学院』は失踪者が一番多い場所でもある。
そこに通う孫娘を安心させるために私――というよりハルクさんの名前が賢者様から伝えられるのは不自然じゃない。
私が元聖女候補だと賢者様に話していた記憶はないから、たぶんオズワルドさんがあの後で賢者様に話していたんじゃないだろうか。
それにしても……
「ロゼさんは……その、賢者様と仲が悪かったんじゃないんですか?」
ルーカスが以前そんなことを言っていた気がする。
けれどロゼさんはあっさり首を横に振った。
「いえ、そんなことはないです」
「そうなんですか? でも、賢者様はロゼさんがいじめられているのを知っていて放置していたって」
「それはそうですけど……色々と事情がありますから」
そう言ってロゼさんは目を逸らした。
まあ、本当に仲が悪かったら私たちに潜入の件も言ったりしないか。
とはいえロゼさんの様子を見るにあまり言いたくない内容のようだし、これ以上詮索するのはやめておこうかな。
ええと、それで何の話だったっけ。
あ、そうだ。視線の話だ。
「そういうことなら遠慮なく報告します。オズワルドさん、犠牲者の一人が失踪前に『誰かに見られている』と言っていたそうですよ」
「第五学年のマリアの話だな。俺も聞いてはいるが……」
歯切れ悪くオズワルドさんが言う。どうしたんだろう?
「……学院に設置された監視装置の映像を漁ったところ、マリアが失踪前に誰かに後を追われている様子はなかった。よってその件はマリアの勘違いだと結論されている」
「あ、もう調べた後だったんですか」
この学院の中には現在、監視用の映像記録装置が大量に配置されている。
怪しい尾行者がいれば映像に残っていただろうし、それがないなら犠牲者の気のせいと言うしかない。
残念だけど、謎の視線については特に手がかりにならなそうだ。
このぶんだと、さっき私が感じた気配も思い違いかな。
さて、他に報告できるようなこともないし……
「えーと、用はそれだけです。手がかりになればと思ったんですけど……すみません」
「謝るな。今後も手がかりになりそうなことがあれば必ず報告しろ」
「はい、わかりました」
「それと少し待て。お前に渡すものがある」
そう言ってオズワルドさんが隣の部屋に移動してしまう。
その場には私とロゼさんが残され――
「「……………………………………」」
あれ、どうしよう。
なんだかすごくいたたまれない気分になってきた。
と、とにかく何か会話をしてみよう。
「えっと、ロゼさん。こんなところで奇遇ですね」
「……そうですね」
「課題でもない研究レポートを書いて持ち込むなんて、すごく熱心ですね」
「……まあ」
「えっと、あの、……好きな食べ物はありますか?」
「いえ、特に……」
「……」
「……」
「…………なんだこの重苦しい空気は」
「おかえりなさいオズワルドさん!」
隣室から戻ってくるなりオズワルドさんが呆れたような声を出していた。
すぐに戻ってきてくれてよかった。あと数分遅ければ色々と大変なことになるところだった。
「お前に渡すものはこれだ」
「はあ……ってこれ、魔力植物の種ですか? しかもこんなに」
オズワルドさんに渡されたのは、小さな革袋に入った魔力植物の種がいくつか。
しかも複数の種類の種が入っている。
「お前、模擬戦で魔力植物を成長させてルーカスを倒していただろう。そこまで使いこなせるのならいくつか他にも持っておけ。何があるかわからんからな」
どうやら自衛のために魔力植物を持っておけということらしい。
「わかりました。ありがとうございます」
「ああ。俺からの用件は以上だ」
「……わたしもこれで失礼します。オズワルド先生、レポートを見ていただいてありがとうございました」
「気にするな」
そんなやり取りのあと、返却されたレポートを持ったロゼさんと一緒に私は研究室を出た。
▼
一方そのころ。
「――ッ、卑怯だぞてめぇら! 二人がかりで恥ずかしいと思わねえのか!」
シャレア国立第二魔術学院、通称『第二学院』。
その敷地内にある施設の一角で、赤髪の少女――レベッカは吠える。
それに対して二人の少年の声が代わる代わる響く。
「何が卑怯なものか」
「僕たちは生まれたときから二人でひとつ」
「戦うときも二人一緒だ」
「僕たち『風神』と『雷神』兄弟を相手取るならそれを理解しないとね」
少年たちの胸元にはそれぞれ特徴的なバッジがきらめく。
『第三位勲章』と『第四位勲章』。
少年二人が立つ地位を端的に示すものだった。
「あくまで二対一で戦うってか……はっ、そんならまとめて叩き潰すだけだ!」
レベッカは立ち上がる。
すでにその全身は傷だらけだ。けれどレベッカの気力にはまったく衰えはない。
二人の少年は揃って疑問を発する。
「どうして君がそんなに頑張るんだい、新しい『序列五位』」
「そんなに僕たちの序列が欲しいのかい? この学院でのし上がりたいと?」
「違げぇよ。そんなもんじゃねえ。あたしが欲しいのはそんなもんじゃねえ――」
レベッカはまっすぐ二人の少年を見上げる。
そう、それはさながら聖戦に赴く信心深い戦士のように透き通った眼差しで、
「――てめーらが占領してる『魔術武器工房』が見てえんだよ!! そこに見たこともねえ武器防具がしこたまあるってのに、てめえらが実質支配してるせいで入れもしねえ!
だったらてめーらをぶっ飛ばしてあたしがそこの新しい主になる!
そして『魔術を込めた最先端の武器』ってのをこの目で見るんだよォおおおおおおおッ!」
「……どうしよう兄さん。あいつ完全に私怨で動いてるんだけど」
「飢えたヤバい獣にしか見えなくなってきたね……」
理解できないものを見る目で言葉を交わし合う二人の少年。
そう、レベッカの目的はそれだった。
『風神』『雷神』と呼ばれる二人の少年は、その地位を利用して学院内の工房を占領し、自分たちの武器だけを研究させている。
そのため部外者のレベッカは工房に入れず、研究中の武器なんかも閲覧不可。
レベッカにはそれが我慢ならなかった。
……というわけで、この戦闘は単に欲望が爆発しただけである。
「と、とにかく。僕たちの邪魔をするなら見逃すことはできないね!」
「自らを呪うがいい! 僕たち二人をたった一人で相手取ったその愚かさを――!」
二人の少年から雷撃と突風が放たれ、レベッカに殺到する。
それがレベッカに直撃する寸前。
「あら、では二人がかりならどうかしら?」
「「何ッ!?」」
レベッカの周囲を覆うように濁流の壁が形成され、雷撃と突風を防ぎきる。
いつの間にかレベッカの隣には一人の少女が立っている。
レベッカは目を見開く。
「お前は――」
「フッ、驚きを隠せないようね。この私が参戦したことに」
「――誰か知らねえけど強いな! 助かったぜ!」
「思いっきり忘れてんじゃないわよこのバカ女! 『水の女帝』! あんたの『第五位勲章』の元の持ち主よ!」
ぎゃあぎゃあと喚くこの少女の二つ名は『水の女帝』。
レベッカが転入するまでこの学院の序列五位に君臨していた、水魔術の天才である。
「はあっ、はあっ……! 間に合いやしたか、姉御!」
「お前ら!」
次いで現れたのはレベッカの舎弟を自称する男子生徒。
彼は汗をダラダラ流しながら言う。
「『水の女帝』……その女なら、『風神』『雷神』にも引けを取りやせん!
どうか姉御、勝ってくだせえ! そして俺たちに、もっと高い場所の景色を!」
それは彼なりの最大限のエールだった。
レベッカはもう何も言わない。ただ結果で彼らの声援に応えるのみ。
立ち上がり、『水の女帝』と肩を並べる。
「お前、あの二人とやれんのかよ」
「問題ないわ。ただ、勘違いしないでほしいわね。あの双子を片付けたら次はあんたの番よ」
「はっ、上等だ!」
二人の少女は数を同じくする敵を揃って見据える。
「「さあ――反撃開始だ(よ)!」」
その後『水の女帝』の協力のおかげで、レベッカは『風神』・『雷神』兄弟を撃破。
見事その序列を三位まで上げた。
その後になってレベッカは思い出したように呟いたという。
「……そういや行方不明事件の調査全然してねえな」
『……だから、この点についてこれ以外の方法を考えられればこの研究も進めることができるはずで――』
『……なるほど、そういうやり方が――』
誰かいるのかな?
出直してもいいけど……まあ、とりあえず覗いてから判断するとしよう。
「失礼します……ってあれ? ロゼさん?」
「お前か。入るのは構わんがノックくらいしろ」
「……セルビアさん、ですか。どうも」
そこにいたのは部屋の主であるオズワルドさんと、意外なことにロゼさん。
オズワルドさんの手には何枚かの束ねられた書類があり、それをめくりながら何らかのやり取りをしていたようだ。
「セルビアさんのおかげで、ルーカスさんたちから何かされることはなくなりました。……ありがとうこざいます」
「い、いえ、もういいですよお礼は。模擬戦の後にも言ってもらいましたし」
私を見るなり頭を下げてくるロゼさんを慌てて止めておく。
お礼に関してはルーカスとの模擬戦以降、会うたびに受け取っている。
そろそろこっちが心苦しくなってくるほどだ。
「えっと、ロゼさんはここで何を?」
「……研究レポートをオズワルド先生に見てもらっていました。自分だけではうまくいかないところがあって……」
「ああ、なるほど――いえちょっと待ってください。そんな課題出てましたっけ……!?」
私とロゼさんはけっこうな数の科目が被っている。
まさか私は出された課題を聞き逃したりしていたんだろうか。
「いえ、これはわたしが個人的にやっているものなので」
「そ、そうですか。それならいいんですが」
「それでセルビア、何か用があったのか?」
オズワルドさんに先を促される。
「それなんですけど、ええと……」
「……? なんですか?」
私の視線を受けてロゼさんが尋ねてくる。事件の話をここでするのはまずいだろうか。
けれどそんな私の迷いは不必要なものだった。
「お前の用が行方不明事件の話なら、隠す必要はない。ロゼはお前が協力者であることも含めて知っている」
「え、そうなんですか!?」
「……はい。おじい様から、聞きました。『剣聖』様が調査に加わってくださっていることも、セルビアさんが元聖女候補であることも」
ロゼさんは淡々と頷く。……初耳なんですが。
とはいえ冷静に考えてみれば、この『第一学院』は失踪者が一番多い場所でもある。
そこに通う孫娘を安心させるために私――というよりハルクさんの名前が賢者様から伝えられるのは不自然じゃない。
私が元聖女候補だと賢者様に話していた記憶はないから、たぶんオズワルドさんがあの後で賢者様に話していたんじゃないだろうか。
それにしても……
「ロゼさんは……その、賢者様と仲が悪かったんじゃないんですか?」
ルーカスが以前そんなことを言っていた気がする。
けれどロゼさんはあっさり首を横に振った。
「いえ、そんなことはないです」
「そうなんですか? でも、賢者様はロゼさんがいじめられているのを知っていて放置していたって」
「それはそうですけど……色々と事情がありますから」
そう言ってロゼさんは目を逸らした。
まあ、本当に仲が悪かったら私たちに潜入の件も言ったりしないか。
とはいえロゼさんの様子を見るにあまり言いたくない内容のようだし、これ以上詮索するのはやめておこうかな。
ええと、それで何の話だったっけ。
あ、そうだ。視線の話だ。
「そういうことなら遠慮なく報告します。オズワルドさん、犠牲者の一人が失踪前に『誰かに見られている』と言っていたそうですよ」
「第五学年のマリアの話だな。俺も聞いてはいるが……」
歯切れ悪くオズワルドさんが言う。どうしたんだろう?
「……学院に設置された監視装置の映像を漁ったところ、マリアが失踪前に誰かに後を追われている様子はなかった。よってその件はマリアの勘違いだと結論されている」
「あ、もう調べた後だったんですか」
この学院の中には現在、監視用の映像記録装置が大量に配置されている。
怪しい尾行者がいれば映像に残っていただろうし、それがないなら犠牲者の気のせいと言うしかない。
残念だけど、謎の視線については特に手がかりにならなそうだ。
このぶんだと、さっき私が感じた気配も思い違いかな。
さて、他に報告できるようなこともないし……
「えーと、用はそれだけです。手がかりになればと思ったんですけど……すみません」
「謝るな。今後も手がかりになりそうなことがあれば必ず報告しろ」
「はい、わかりました」
「それと少し待て。お前に渡すものがある」
そう言ってオズワルドさんが隣の部屋に移動してしまう。
その場には私とロゼさんが残され――
「「……………………………………」」
あれ、どうしよう。
なんだかすごくいたたまれない気分になってきた。
と、とにかく何か会話をしてみよう。
「えっと、ロゼさん。こんなところで奇遇ですね」
「……そうですね」
「課題でもない研究レポートを書いて持ち込むなんて、すごく熱心ですね」
「……まあ」
「えっと、あの、……好きな食べ物はありますか?」
「いえ、特に……」
「……」
「……」
「…………なんだこの重苦しい空気は」
「おかえりなさいオズワルドさん!」
隣室から戻ってくるなりオズワルドさんが呆れたような声を出していた。
すぐに戻ってきてくれてよかった。あと数分遅ければ色々と大変なことになるところだった。
「お前に渡すものはこれだ」
「はあ……ってこれ、魔力植物の種ですか? しかもこんなに」
オズワルドさんに渡されたのは、小さな革袋に入った魔力植物の種がいくつか。
しかも複数の種類の種が入っている。
「お前、模擬戦で魔力植物を成長させてルーカスを倒していただろう。そこまで使いこなせるのならいくつか他にも持っておけ。何があるかわからんからな」
どうやら自衛のために魔力植物を持っておけということらしい。
「わかりました。ありがとうございます」
「ああ。俺からの用件は以上だ」
「……わたしもこれで失礼します。オズワルド先生、レポートを見ていただいてありがとうございました」
「気にするな」
そんなやり取りのあと、返却されたレポートを持ったロゼさんと一緒に私は研究室を出た。
▼
一方そのころ。
「――ッ、卑怯だぞてめぇら! 二人がかりで恥ずかしいと思わねえのか!」
シャレア国立第二魔術学院、通称『第二学院』。
その敷地内にある施設の一角で、赤髪の少女――レベッカは吠える。
それに対して二人の少年の声が代わる代わる響く。
「何が卑怯なものか」
「僕たちは生まれたときから二人でひとつ」
「戦うときも二人一緒だ」
「僕たち『風神』と『雷神』兄弟を相手取るならそれを理解しないとね」
少年たちの胸元にはそれぞれ特徴的なバッジがきらめく。
『第三位勲章』と『第四位勲章』。
少年二人が立つ地位を端的に示すものだった。
「あくまで二対一で戦うってか……はっ、そんならまとめて叩き潰すだけだ!」
レベッカは立ち上がる。
すでにその全身は傷だらけだ。けれどレベッカの気力にはまったく衰えはない。
二人の少年は揃って疑問を発する。
「どうして君がそんなに頑張るんだい、新しい『序列五位』」
「そんなに僕たちの序列が欲しいのかい? この学院でのし上がりたいと?」
「違げぇよ。そんなもんじゃねえ。あたしが欲しいのはそんなもんじゃねえ――」
レベッカはまっすぐ二人の少年を見上げる。
そう、それはさながら聖戦に赴く信心深い戦士のように透き通った眼差しで、
「――てめーらが占領してる『魔術武器工房』が見てえんだよ!! そこに見たこともねえ武器防具がしこたまあるってのに、てめえらが実質支配してるせいで入れもしねえ!
だったらてめーらをぶっ飛ばしてあたしがそこの新しい主になる!
そして『魔術を込めた最先端の武器』ってのをこの目で見るんだよォおおおおおおおッ!」
「……どうしよう兄さん。あいつ完全に私怨で動いてるんだけど」
「飢えたヤバい獣にしか見えなくなってきたね……」
理解できないものを見る目で言葉を交わし合う二人の少年。
そう、レベッカの目的はそれだった。
『風神』『雷神』と呼ばれる二人の少年は、その地位を利用して学院内の工房を占領し、自分たちの武器だけを研究させている。
そのため部外者のレベッカは工房に入れず、研究中の武器なんかも閲覧不可。
レベッカにはそれが我慢ならなかった。
……というわけで、この戦闘は単に欲望が爆発しただけである。
「と、とにかく。僕たちの邪魔をするなら見逃すことはできないね!」
「自らを呪うがいい! 僕たち二人をたった一人で相手取ったその愚かさを――!」
二人の少年から雷撃と突風が放たれ、レベッカに殺到する。
それがレベッカに直撃する寸前。
「あら、では二人がかりならどうかしら?」
「「何ッ!?」」
レベッカの周囲を覆うように濁流の壁が形成され、雷撃と突風を防ぎきる。
いつの間にかレベッカの隣には一人の少女が立っている。
レベッカは目を見開く。
「お前は――」
「フッ、驚きを隠せないようね。この私が参戦したことに」
「――誰か知らねえけど強いな! 助かったぜ!」
「思いっきり忘れてんじゃないわよこのバカ女! 『水の女帝』! あんたの『第五位勲章』の元の持ち主よ!」
ぎゃあぎゃあと喚くこの少女の二つ名は『水の女帝』。
レベッカが転入するまでこの学院の序列五位に君臨していた、水魔術の天才である。
「はあっ、はあっ……! 間に合いやしたか、姉御!」
「お前ら!」
次いで現れたのはレベッカの舎弟を自称する男子生徒。
彼は汗をダラダラ流しながら言う。
「『水の女帝』……その女なら、『風神』『雷神』にも引けを取りやせん!
どうか姉御、勝ってくだせえ! そして俺たちに、もっと高い場所の景色を!」
それは彼なりの最大限のエールだった。
レベッカはもう何も言わない。ただ結果で彼らの声援に応えるのみ。
立ち上がり、『水の女帝』と肩を並べる。
「お前、あの二人とやれんのかよ」
「問題ないわ。ただ、勘違いしないでほしいわね。あの双子を片付けたら次はあんたの番よ」
「はっ、上等だ!」
二人の少女は数を同じくする敵を揃って見据える。
「「さあ――反撃開始だ(よ)!」」
その後『水の女帝』の協力のおかげで、レベッカは『風神』・『雷神』兄弟を撃破。
見事その序列を三位まで上げた。
その後になってレベッカは思い出したように呟いたという。
「……そういや行方不明事件の調査全然してねえな」
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