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昼食②

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「セルビアさんのお陰で彼らはわたしに手を出してこなくなりました。今さらわたしは気にしていません」

 強がりでも何でもなく、本当にそう思っていそうな口調で言うロゼさん。

 私は溜め息を吐いた。

「……わかりました。ロゼさんがそれでいいならいいです。他に空いている席もありませんし」
「そうだな。それがいいぞ我がライバルよ」
「言っておきますが、私はあなたを許したわけではありませんからねルーカスさん」

 満足げに頷いているルーカスに釘を刺しておく。

 またロゼさんに何かしようものならこの場で報復する所存だ。

 そんなわけで、私、ロゼさん、ルーカスにその仲間たちという謎の組み合わせで昼食をとることになった。

「そういえばロゼさん、さっきオズワルドさんに見せていたレポートってどんなものだったんですか?」

 ランチセットを食べながらロゼさんに話題を振ってみる。

「ああ、雨林地帯の治水に関するレポートです。水害に強い土嚢どのうを効率的に魔術で生み出せないかと」
「水害……どうしてそんなテーマを?」
「……わたしは魔術師としては落ちこぼれですから。将来は魔術研究者になって、人の役に立つ発明がしたいんです」

 はにかみながらそんなことを言うロゼさん。

 なんて健気な!
 ぜひとも頑張ってほしい。

「セルビア、次の魔術戦闘学の演習で勝負だ!」

 ロゼさんと話していると、ルーカスが唐突に変なことを言い出した。

「……いきなり何なんですか。演習って何のことですか?」
「なんだ、知らないのか? 魔術戦闘学ではそろそろダンジョンを用いた実習が行われるはずだ。
 ダンジョン内の指定された魔物を狩る、というな」

 ちらりと視線を向けると、ロゼさんも頷いている。

 講義ではそんな話はされていないはずだけど……あ、そういえば講義の予定表みたいなのはもらっていたっけ。

 もしかしてそっちには書かれていたかもしれない。

 ダンジョンで魔物と戦う、かあ……
 あまり自信はないけど、オズワルドさんにもらった魔力植物の種があればなんとかなるかな?

「そんな実習があるなら気合いを入れなくちゃいけませんね。勝負はしませんけど」
「セルビアはつれないな……少しくらいボクに興味を示したまえよ。ほら、何か質問とかはないのか?」
「わかりました。では、何か嫌いなものや怖いものはありますか?」
「ボクの弱点を知ってどうするつもりだキミは」

 あ、そうだ。せっかくだしこの人たちにも調査しておこう。

「ルーカスさん。最近何か変わったことはありませんか?」
「ん? どういう意味だ?」
「例の行方不明事件についてですよ。ほら、魔力の高い人が狙われるそうじゃないですか」

 実はこのルーカス、犠牲者候補リストに入っているのだ。

 魔力だけは高いので、万が一次の事件が起こる際はルーカスが標的になる可能性もある。

「その話か。……いや、特にないな」
「本当ですか? 何者かの視線を感じたりとかは」
「それもない」

 現状ルーカスの周りに異変はないらしい。

 もう少し突っ込んで聞いておこう。

「……実は私も魔力が高いので少し不安なんですが、ルーカスさんは何か事件について知っていることはありませんか?」
「そのへんの連中と知っていることは変わらないと思うが……」
「犯人の姿を見たとか、被害者には意外な共通点があるとか」
「いや、知らない。
 まあ、仮に事件だとすれば、犯人はコソコソ小細工をしている臆病者だ。ボクの目の前に出て来れば叩きのめしてやるさ」

 ルーカスが勇ましげに言うと、取り巻き三人が次々に同意の声を上げた。

 うーん、この口ぶりならルーカスが特別な情報を持っていることはなさそうだ。

 念のためにこっそり嘘発見用の懐中時計をチェックすると、やっぱり針は動いていなかった。

「……事件が解決するまでは極力一人にならないようにしてくださいね」

 とりあえず義理としてそう忠告しておいた。
 そんな中、ふとルーカスの取り巻きの一人が口を開く。

「行方不明事件といえば、聞きましたかルーカスさん。副会長の話」
「ああ、最近めっきり暗くなってしまったらしいな。まあ無理もないが」

 一体何の話だろう。
 私が首を傾げていると、ロゼさんが横から説明してくれた。

「事件の犠牲者の一人が、この学院の生徒会長なんです。副会長は会長と仲が良かったので、それがショックだったようで」
「ああ、なるほど」

 友人が失踪してしまって落ち込んでいる、ということのようだ。

 ロゼさんは言葉を続ける。

「副会長さんは、最近だと講義にも全然出ずに寮にこもっているようです。セルビアさんも、あの方に話を聞くのは控えたほうがいいかもしれません。
 かなり気が滅入っているようですから」
「……わかりました」

 ロゼさんの忠告に私は頷くのだった。
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