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風竜の群れがやってくる。
「シャン、よろしくお願いします」
『ガアッ』
シャンの背にまたがり声をかけると、シャンからは気合十分という声が返ってくる。
故郷の仲間のためだからだろうか?
「セルビア、相手の数が多いからドラゴンゾンビに関しては完全にセルビア任せになる。悪いけど、よろしく頼むよ」
隣でタックにまたがったハルクさんがそう言ってくる。
「わかってます。任せてください」
「もちろん僕もセルビアの方は常に気にするから、安心して――」
「いえ、ハルクさんは他の風竜のほうに集中してください」
「え?」
「シャレアを出る前に言ったこと、私は本気ですから」
「……あ」
ハルクさんははっとしたように目を見開く。
“堕ちた聖女”シャノンに亡き師匠を弄ばれ、激怒するハルクさんに私は対等な協力を申し出た。仲間なんだから当然だという勢いで。
今の私がこういう戦いでハルクさんに並びたてるなんて思わないけど、いつまでも守られるだけの関係でなんていられない。
「……わかった。それじゃあ言うべきことは違うね。頑張ろう、セルビア」
「はい!」
私とハルクさんはそれぞれ飛んでくる風竜の群れに向かって飛び立った。
シャンとタックの機動力を落とさないため、という理由でレベッカとオズワルドさんは地上に残る。
二人はハルクさんの作戦に従い、ハルクさんの脇をすり抜けた風竜の対処に当たるのだ。
風竜の群れは変則的な形だった。
群れの高さが二段に分かれており、高い方は風竜の群れ、低い方は体のあちこちが腐った竜――ドラゴンゾンビとなっている。
『オォオオオオオ……』
ドラゴンゾンビのうめき声に合わせ、体から体液がぼとぼとと落ちる。
その落ちた先では、ジュウッ! という音とともに地面が焼けていた。
毒、あるいは酸だろう。
ドラゴンゾンビの体はそのものが凶悪な毒物になるとハルクさんは事前に言っていた。あの体液に当たらないために、風竜たちはドラゴンゾンビの上を飛んでいるのだ。
「……今さらだけど、どうしてドラゴンゾンビは風竜たちに危害を加えようとしないんだろう?」
ハルクさんが呟く。
「元々味方同士だったからじゃないんですか?」
「うーん……アンデッド化した魔物は理性が消えるものだから、そういう関係性が維持できるとは思えないんだけど……」
ハルクさんは疑問を感じているようだけど、もう風竜たちはすぐ近くまで迫っている。
「とにかく、作戦通りに行きます」
「うん、よろしく」
「【最上位障壁《イクスバリア》】」
障壁をドラゴンゾンビの斜め上――風竜の群れだけが引っかかる位置に出現させる。
『『『シュウッ!?』』』
『――?』
風竜たちは群れの高さが二段階に分かれているため、このやり方なら上のほうを飛んでいる風竜たちのみを止めることが可能だ。
障壁に引っかからなかったドラゴンゾンビだけが先行してくる。
駄目押しでもう一枚、風竜たちとドラゴンゾンビの間に障壁を張っておく。
「よし、分断できたね。行くよタック」
『ガアアアッ!』
ハルクさんはタックを操り足止めを食らっている風竜たちの元へ向かう。
私の相手はすぐ目の前に来ていた。
『ォオオオオオオオオオオッッ!!』
片目の腐り落ちた、動く巨竜の死骸。
私はごくりとつばを飲み込みながら、対霊魔術の準備を始めた。
「シャン、よろしくお願いします」
『ガアッ』
シャンの背にまたがり声をかけると、シャンからは気合十分という声が返ってくる。
故郷の仲間のためだからだろうか?
「セルビア、相手の数が多いからドラゴンゾンビに関しては完全にセルビア任せになる。悪いけど、よろしく頼むよ」
隣でタックにまたがったハルクさんがそう言ってくる。
「わかってます。任せてください」
「もちろん僕もセルビアの方は常に気にするから、安心して――」
「いえ、ハルクさんは他の風竜のほうに集中してください」
「え?」
「シャレアを出る前に言ったこと、私は本気ですから」
「……あ」
ハルクさんははっとしたように目を見開く。
“堕ちた聖女”シャノンに亡き師匠を弄ばれ、激怒するハルクさんに私は対等な協力を申し出た。仲間なんだから当然だという勢いで。
今の私がこういう戦いでハルクさんに並びたてるなんて思わないけど、いつまでも守られるだけの関係でなんていられない。
「……わかった。それじゃあ言うべきことは違うね。頑張ろう、セルビア」
「はい!」
私とハルクさんはそれぞれ飛んでくる風竜の群れに向かって飛び立った。
シャンとタックの機動力を落とさないため、という理由でレベッカとオズワルドさんは地上に残る。
二人はハルクさんの作戦に従い、ハルクさんの脇をすり抜けた風竜の対処に当たるのだ。
風竜の群れは変則的な形だった。
群れの高さが二段に分かれており、高い方は風竜の群れ、低い方は体のあちこちが腐った竜――ドラゴンゾンビとなっている。
『オォオオオオオ……』
ドラゴンゾンビのうめき声に合わせ、体から体液がぼとぼとと落ちる。
その落ちた先では、ジュウッ! という音とともに地面が焼けていた。
毒、あるいは酸だろう。
ドラゴンゾンビの体はそのものが凶悪な毒物になるとハルクさんは事前に言っていた。あの体液に当たらないために、風竜たちはドラゴンゾンビの上を飛んでいるのだ。
「……今さらだけど、どうしてドラゴンゾンビは風竜たちに危害を加えようとしないんだろう?」
ハルクさんが呟く。
「元々味方同士だったからじゃないんですか?」
「うーん……アンデッド化した魔物は理性が消えるものだから、そういう関係性が維持できるとは思えないんだけど……」
ハルクさんは疑問を感じているようだけど、もう風竜たちはすぐ近くまで迫っている。
「とにかく、作戦通りに行きます」
「うん、よろしく」
「【最上位障壁《イクスバリア》】」
障壁をドラゴンゾンビの斜め上――風竜の群れだけが引っかかる位置に出現させる。
『『『シュウッ!?』』』
『――?』
風竜たちは群れの高さが二段階に分かれているため、このやり方なら上のほうを飛んでいる風竜たちのみを止めることが可能だ。
障壁に引っかからなかったドラゴンゾンビだけが先行してくる。
駄目押しでもう一枚、風竜たちとドラゴンゾンビの間に障壁を張っておく。
「よし、分断できたね。行くよタック」
『ガアアアッ!』
ハルクさんはタックを操り足止めを食らっている風竜たちの元へ向かう。
私の相手はすぐ目の前に来ていた。
『ォオオオオオオオオオオッッ!!』
片目の腐り落ちた、動く巨竜の死骸。
私はごくりとつばを飲み込みながら、対霊魔術の準備を始めた。
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