泣いて謝られても教会には戻りません! ~追放された元聖女候補ですが、同じく追放された『剣神』さまと意気投合したので第二の人生を始めてます~

ヒツキノドカ

文字の大きさ
88 / 113
連載

襲撃

しおりを挟む
『ガルァアアアッ!』

 洞窟の外から火竜の鳴き声が聞こえてくる。

『……ッ、もう来たのかい! 昨日の今日で!』

 大火竜が苛立ったような声を上げる。

「どういうことですか?」
『今のは見張りの連中の警告だよ。風竜が来たから警戒しろってね!』

 風竜が来た!? こんな火竜の本陣みたいな場所に!?

 敵陣真っただ中に突っ込んでくるということは、よほど自分たちが勝つという自信があるんだろう。

 大火竜と一緒に洞窟を出る。
 シャンたちに乗って窪地の上まで出ると、遠くの空に竜の群れが見えた。

「二匹ほど大きいものがいるね」

 ハルクさんが目を細めつつそう言う。

「先頭にいるのはドラゴンゾンビ、もう一匹は群れを統率しているようだ。ドラゴンゾンビは群れの長だった個体らしいから、後者は新たに群れの長になった竜かな?」
『そうだろうね。新たな長のほうもそれなりに手ごわい。……が、まあ私たちの敵じゃないさね』

 ハルクさんの言葉に大火竜が戦意をみなぎらせて言う。

 そんな大火竜にハルクさんがこんなことを言った。

「今更だけど、きみは火竜の長ってことでいいのかな?」
『そうだね。それがなんだい?』
「それじゃあ火竜を取りまとめるきみに交渉がしたい。簡単にいこう。僕たちが風竜たちに対処する。代わりにきみたちは僕たちの願いを一つ聞き届けてほしい」
『……はぁ? 何でそんなことをしなくちゃならないんだい』
「ドラゴンゾンビを倒すことは、いくらきみたちが強いといっても難しいはずだ。あれは普通の魔物じゃない。牙や炎でいくら傷つけても再生してしまうからね」
『……そうだね。あのデカブツには随分苦しめられてるよ。それをあんたたちならどうにかできるって?』
「僕たち――というよりはセルビアがだけどね」
「私ですか?」

 急に話を振られて驚く私に、ハルクさんは頷きを返す。

「ドラゴンゾンビはアンデッド系の魔物だって言ったでしょ? セルビアの得意分野だよ」
「ああ、そうですね。なら大丈夫です」

 言われてみればドラゴン“ゾンビ”なんて、いかにも対霊魔術がよく効きそうな相手だ。

『……望みってのは?』
「竜を一体……いや、二体ほど貸してほしいんだ。リーベル王国の王都まで行きたいんだけど、移動手段に困っててね。もちろん無暗に傷つけたりはしないと約束するよ」

 あ、なるほど。

 ハルクさんは風竜の撃退を交換条件に、大火竜――ではなく、火竜の長から竜の貸し出しを取り付けるつもりのようだ。

 火竜の長は頷いた。

『わかったよ。そのぐらいなら吞もうじゃないか。本来なら小娘の力なんて信じないけど、さっき仲間たちを治してもらったからね』
「助かるよ。それでもう一つ頼みがあるんだけど、きみたちは今回の戦いには参加しないでほしい」
『なんだって?』
「敵味方が入り乱れる戦いになるとやりにくいっていうのと……あとは、きみたちが風竜と戦うと天候が荒れてふもとの町の人たちが困るんだ。ここは僕たちに任せてくれると嬉しい」

 火竜と風竜が戦うと、炎と風がぶつかって嵐を呼ぶ。そうならないためにハルクさんは火竜の不参加を要求しているのだ。

『面白いことを言うじゃないか、小僧。この私たちに大人しく風竜どもの攻撃を受け続けろって? 冗談じゃない、そこまでは頷けないよ』
「もちろん攻撃なんて受けさせない。僕に考えがあるんだ」
『考え?』
「とにかく時間がない。一旦群れの火竜を連れて窪地の中に入ってほしい」
『……ホラだったらただじゃおかないよ』

 ハルクさんは火竜の長と交渉を終えると、やってくる風竜のほうを見た。

 まだ距離はあるけれど、それも数分稼げれば御の字だろう。

 火竜の長たちはハルクさんのほうを少し疑わしそうに見ていたけれど、ハルクさんはどこ吹く風だ。

 火竜たちは窪地に入り、その場には私たちだけが残された。

「で、ハルク。さっき言ってた考えってのは?」
「火竜たちに手を出させないためには、要するにこの窪地に頑丈な蓋をしてしまえばいい」
「蓋って……あ、そういうことか」

 レベッカとハルクさんが私を見た。

 私も納得する。
 つまりこういうことだろう。

「【聖位障壁《セイクリッドバリア》】」

 窪地を塞ぐように巨大な障壁魔術を張る。
 これで風竜たちの攻撃が窪地の中にいる火竜たちに届くことはない。

「……改めて見ると、おそろしい魔力量だな。人間とは思えんぞ」
「一応、神様にもらった力ですから」
「すべての聖女候補がお前ほど聖女候補の力を使いこなせるわけではないだろう。やはりお前、何か特別な点があるのではないか?」
「そんなことを言われても……」

 オズワルドさんの瞳に知的好奇心が宿るけれど、私には特に心当たりがない。

「悪いけど、先に作戦会議をしよう。僕に考えがあるんだけど、聞いてもらっていい?」

 ハルクさんの言葉に私たち三人が耳を傾ける。

「……といっても、作戦というほどのことでもないんだけどね。まず風竜の大半は僕が引き受けるよ。タックに乗せてもらえば空中での戦いも何とかなるだろうし。レベッカとオズワルドは地上で僕の打ち漏らしに対処してほしい」
「はいよ。くくく、シャレアで作った新しい防具を試す機会がほしかったんだよなあ」
「何だその品のない笑い方は……」

 レベッカとオズワルドさんがハルクさんの言葉に頷く中、ハルクさんは私を見る。

「セルビアにはシャンに乗ってドラゴンゾンビの相手を頼みたい」
「……わかりました」

 大役だ。緊張するけど、私にしかできないことだし……頑張ろう。
しおりを挟む
感想 651

あなたにおすすめの小説

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

偽りの断罪で追放された悪役令嬢ですが、実は「豊穣の聖女」でした。辺境を開拓していたら、氷の辺境伯様からの溺愛が止まりません!

黒崎隼人
ファンタジー
「お前のような女が聖女であるはずがない!」 婚約者の王子に、身に覚えのない罪で断罪され、婚約破棄を言い渡された公爵令嬢セレスティナ。 罰として与えられたのは、冷酷非情と噂される「氷の辺境伯」への降嫁だった。 それは事実上の追放。実家にも見放され、全てを失った――はずだった。 しかし、窮屈な王宮から解放された彼女は、前世で培った知識を武器に、雪と氷に閉ざされた大地で新たな一歩を踏み出す。 「どんな場所でも、私は生きていける」 打ち捨てられた温室で土に触れた時、彼女の中に眠る「豊穣の聖女」の力が目覚め始める。 これは、不遇の令嬢が自らの力で運命を切り開き、不器用な辺境伯の凍てついた心を溶かし、やがて世界一の愛を手に入れるまでの、奇跡と感動の逆転ラブストーリー。 国を捨てた王子と偽りの聖女への、最高のざまぁをあなたに。

地味で無能な聖女だと婚約破棄されました。でも本当は【超過浄化】スキル持ちだったので、辺境で騎士団長様と幸せになります。ざまぁはこれからです。

黒崎隼人
ファンタジー
聖女なのに力が弱い「偽物」と蔑まれ、婚約者の王子と妹に裏切られ、死の土地である「瘴気の辺境」へ追放されたリナ。しかし、そこで彼女の【浄化】スキルが、あらゆる穢れを消し去る伝説級の【超過浄化】だったことが判明する! その奇跡を隣国の最強騎士団長カイルに見出されたリナは、彼の溺愛に戸惑いながらも、荒れ地を楽園へと変えていく。一方、リナを捨てた王国は瘴気に沈み崩壊寸前。今さら元婚約者が土下座しに来ても、もう遅い! 不遇だった少女が本当の愛と居場所を見つける、爽快な逆転ラブファンタジー!

夫から『お前を愛することはない』と言われたので、お返しついでに彼のお友達をお招きした結果。

古森真朝
ファンタジー
 「クラリッサ・ベル・グレイヴィア伯爵令嬢、あらかじめ言っておく。  俺がお前を愛することは、この先決してない。期待など一切するな!」  新婚初日、花嫁に真っ向から言い放った新郎アドルフ。それに対して、クラリッサが返したのは―― ※ぬるいですがホラー要素があります。苦手な方はご注意ください。

この国を護ってきた私が、なぜ婚約破棄されなければいけないの?

ファンタジー
ルミドール聖王国第一王子アルベリク・ダランディールに、「聖女としてふさわしくない」と言われ、同時に婚約破棄されてしまった聖女ヴィアナ。失意のどん底に落ち込むヴィアナだったが、第二王子マリクに「この国を出よう」と誘われ、そのまま求婚される。それを受け入れたヴィアナは聖女聖人が確認されたことのないテレンツィアへと向かうが……。 ※複数のサイトに投稿しています。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

団長サマの幼馴染が聖女の座をよこせというので譲ってあげました

毒島醜女
ファンタジー
※某ちゃんねる風創作 『魔力掲示板』 特定の魔法陣を描けば老若男女、貧富の差関係なくアクセスできる掲示板。ビジネスの情報交換、政治の議論、それだけでなく世間話のようなフランクなものまで存在する。 平民レベルの微力な魔力でも打ち込めるものから、貴族クラスの魔力を有するものしか開けないものから多種多様である。勿論そういった身分に関わらずに交流できる掲示板もある。 今日もまた、掲示板は悲喜こもごもに賑わっていた――

聖女の力を隠して塩対応していたら追放されたので冒険者になろうと思います

登龍乃月
ファンタジー
「フィリア! お前のような卑怯な女はいらん! 即刻国から出てゆくがいい!」 「え? いいんですか?」  聖女候補の一人である私、フィリアは王国の皇太子の嫁候補の一人でもあった。  聖女となった者が皇太子の妻となる。  そんな話が持ち上がり、私が嫁兼聖女候補に入ったと知らされた時は絶望だった。  皇太子はデブだし臭いし歯磨きもしない見てくれ最悪のニキビ顔、性格は傲慢でわがまま厚顔無恥の最悪を極める、そのくせプライド高いナルシスト。  私の一番嫌いなタイプだった。  ある日聖女の力に目覚めてしまった私、しかし皇太子の嫁になるなんて死んでも嫌だったので一生懸命その力を隠し、皇太子から嫌われるよう塩対応を続けていた。  そんなある日、冤罪をかけられた私はなんと国外追放。  やった!   これで最悪な責務から解放された!  隣の国に流れ着いた私はたまたま出会った冒険者バルトにスカウトされ、冒険者として新たな人生のスタートを切る事になった。  そして真の聖女たるフィリアが消えたことにより、彼女が無自覚に張っていた退魔の結界が消え、皇太子や城に様々な災厄が降りかかっていくのであった。 2025/9/29 追記開始しました。毎日更新は難しいですが気長にお待ちください。

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。