あまみつつき君

さんといち

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一章 天満月くんの不思議

2.気になるあの人

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 視線の集中から逃げようとしたその時。

 二人のひとみが不意に別方向に動いた。
 その一瞬のびくっとした動きだけで、私には何が起こったのかわかった。

 右をちらりと見るとやっぱり。
 隣の席の男子が戻ってきたところ。

 天満月あまみつつきひかり——心の中で、その名をつぶやく。

 初めて聞いた時、どこかのお坊ちゃんかなと思ったくらいに、輝いた響き。

 それから輝いているのは名前だけじゃない。
 つやつやした髪の毛や、たっぷりのまつ毛、整った鼻筋に、見てわかるすべすべの肌……天満月くんは、学年指折りの美形の持ち主だった。

 新学期が始まった時、高等部から入学した生徒がざわざわと眺めていたのを覚えている。
 私だって少しの間見つめてしまった。
 中等部からいる人だと耳にして、人気者だったに違いないと思った。

 鈴ちゃん&清華ちゃんと話し始めて間もない頃、特に深い意味はなく天満月くんを話題に挙げた。
 思った通り中等部の頃から有名人で、二人は彼のことを知っていた。

 イケメンで、勉強も運動もできるすごい人——だけど——

「美紀菜ちゃんっ…、そろそろ、席に戻るね」
「…私も。あとで私が持ってきたお菓子あげる」
「…うん、ありがと」

 二人の顔つきが不自然なぎこちないものに変わり、そそくさと自分の席に戻ってしまう。
 私はそれを慣れた顔で手を振り見送る。

 …天満月くんが来ると、いつもこうだ。

 今度はしっかりと右隣を見つめた。
 席替えで隣の席になり、毎日見られるようになったきれいな横顔——

 でも、彼の目にはいつも感情がなかった。

 魚みたいな目、って…表すのかな。
 顔が整っているから余計に、「作りモノ」のような印象を覚えるの。

 伏せたまつ毛の奥からは、生きている感じがしなかった。
 …言い過ぎなのは、わかってるんだけど。

 今も、ガン見されてるのにちっともこちらを気にしない。
 視界に映っているであろう人にすら興味がなさそう。
 学校に行くようプログラムされた、ロボットを見ている気分。

 イケメンで、勉強も運動もできるすごい人。
 …だけど、天満月くんは人気者ではなかった。

 たとえ美人でも、無感情で、なんだか不気味だから。

 声を出す時は、「うん」とか「わかった」みたいな、簡単な返事だけ。
 授業で当てられたり話し合ったりする時は、一応しゃべるけどすっごく棒読み。
 彼が心を込めて会話している姿を、私は見たことがない。

 ずっと気になっている。
 どうして、感情を殺して学校に来ているのか——

「…天満月くん」

 よく考えるより先に、口が勝手に、言い慣れない長い苗字を呼んでいた。

 彼はほおづえをついたまま、瞳だけをこちらに動かす。
 魚みたいとは言ったけど、赤みのある茶色の目そのものは、明るくてきれいなのよね。

「えっと…、昼休み、空いてる? 話したいことがあるの…他の人が、いないところで」

 そんなわざわざ呼び出すほどの用事、本当はないけれど。
 二人きりなら話せるかもしれないって、ふと思ってしまった。

「…」
 天満月くんは二秒だけ固まって、すぐにこくりとうなずく。

 フツーはさ、「なんで?」って聞いたり、「変だな」って思う気持ちを顔に出したりするものじゃない?

 全く変わらない表情に、声もない返事。

 私が天満月くんに、何とも思われていない証拠だった。
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