あまみつつき君

さんといち

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一章 天満月くんの不思議

3.嘘の告白最終作戦

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 数学、英語の授業が終わり、迎えた昼休み。

 忘れられていてもおかしくないと心配したけど、意外にも天満月くんは、私よりも先に指定した教室にやって来ていた。

 窓側の席にぼおっと座っている彼の前に、後ろから近づいた私はドン!とあるものを置く。

 声をかけなかったから驚くかもと期待したのに、彼は肩をぴくりとも動かさなかった。

 …気を取り直して。

「これ、何かわかる?」

 天満月くんは視線を落とす。そしてこくんと小さく首を動かす。

 私が置いたのは、クラスメイトのノートの山だった。

「今日提出する英語の課題。英語の教科担当が集めて先生のところに持っていく。…で、英語の教科担当は誰だったかな?」

 にっこり…、怪しいくらいの満面の笑みを浮かべる。
 
 天満月くんの細長い人差し指は、彼自身に対して向けられた。

「俺」

 あ、やっと声を聞けた。

「そう、『俺』だね」
「ありがとう」

 心のこもっていない感謝の言葉。

 というか、あ、ありがとうって……

「ちがーう‼ 私は手伝いたかったわけじゃありません!」

 バン! とつい山をたたいた。ごめん、みんなのノート。

 天満月くんを呼び出したのはその場の思いつき。
 でもこの苦情は本物だ。

「みんなが『これ、天満月くんに出してもらえるかな…?』って私に渡してくるの! なぜだかわかるよね? 君に頼みづらいからですっ」
「はあ」
「私は隣の席に座ってる人ってだけなの、係の仕事はちゃんとして! だから…もっと頼みやすい雰囲気にして!」

 …言った。一気に伝えた。
 若干、鼻息が荒くなってしまっている。

 でもっ、どうだ…! 私に怒られるだなんて思わなかったでしょ…⁉ 
 ちょっとくらい驚いてるんじゃ——

「うん」

 ……だ、ダメだ~~~‼

 『うん』って…、『うん』って‼
 それだけ⁉ 全然動揺してないし絶対わかってない‼

 無感情な天満月くんを前に、私は頭を抱えたくなる。

 話すネタは尽きてしまった。
 このままじゃ私が、わざわざ呼び出してスベったみたいじゃないの…!

 何か、何かないの…? 
 天満月くんの感情を、少しでも引き出せる方法…考えろ、私…!

 えーっと。人は、どういう時に驚くんだっけ?

 …予想もしないことに、遭遇した時だ。

 天満月くんが予想しないことは何? 

 みんなに避けられているから…、逆に近寄られた時。

 今も近寄ってはいるけど?

 …伝えたのは苦情だ。
 だから、もっと別の、心が近寄った………あ。

 私は、ある一つの感情に行きついた。


 それって——恋心?


 すん、と思考が冷静になる。

 改めて目の前の彼の、不気味に整った顔と向き合った。

 これだ。
 これなら何よりも驚かせる。

 私に告白されたって嬉しくはないだろうけど、まずびっくりはするはず。
 天満月くんは、イケメンはイケメンでも、告白され慣れたモテるイケメンとは違うんだもの。

 そこまでする?…と、ツッコんでいる自分もいる。

 意地張ってるんだろうな、私…。
 相手にされないまま、引き下がりたくないよ。

「——天満月くん」

 真剣なふりをして名前を呼ぶ。
 天満月くんは美しい顔を傾けた。

「な、何か思わない? 私、二人きりで話したいって言ったんだよ…?」
「…?」

 ああその様子、何も思っていなさそう。
 もっとわかりやすく…、背中で手を組んで、もじもじした感じで、あざとくいこう。

「こんな課題の話なんかで、終わるわけないじゃない…」

 目線を逸らして言ってみる。

 ……反応なし。

 次っ。ノートの山に手をついて、身を乗り出す。
 そしたら彼に向かって、熱をこめた(つもりの)視線を送る。

 間近には整った美男子の顔。
 う…、先にこっちがドキドキしてきてしまった。
 ずるいなあ、ぼおっとしててもかっこいいんだからさ。

 私も美人だったら…、と思うけど、天満月くんの表情が変わらないので最終作戦をとるしかない。

 …人生初めての告白を、こうやって迎えるなんてね。


「好きだよ。天満月くんのこと」


 ——この台詞を言うのは、演技でも少し緊張した。

 自分の声が、不思議な程響いて聞こえた。

 見つめる先。
 天満月くんの長いまつ毛がすっと持ち上がる。

 赤茶色の瞳はまん丸に、見開いている。

 …見開いている? 

 あの天満月くんが、目を大きく開けている…!

「あ……」
 やった…、これはクラスメイトの誰も知らない、私しか見ていない表情かお——


 なんて喜べたのは、一秒もない、瞬き一回分の時間。

「——っ⁉」

 信じられないことが起こった。

 告白の直後、天満月くんが姿を消したの。

 教室を速足出て行ったことの、たとえ話じゃなくて。


 しずくが弾けたように…、星屑ほしくずが散るように…、キラキラしたいくつもの粒に変わって、私の前から消えたんだ。

「………」

 床に粒が降る間、私は黙って立ち尽くすことしかできない。

 光の雨に、ただただ美しさだけを感じていた。

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