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第67話 魂の雄叫び
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周囲で双方が対峙している。
イライジャはこの隙に、オーバードーズされて倒れているマテオの元に走り込んでいた。その身を動かして顔を見ようとした時、崩れてゆく感触に驚いて咄嗟に手を戻す。
「これは……」
マテオの肉は灰になり、骨は風化して崩れようとしていた。
「ヴェスパジアーノは先程、『マテオを吸い込んで』と言っていた……。魔物がオーバードーズする時、同族自体を吸い込むということか……?」
それから動かぬデプスランドに視線を移す。
「……ドラゴンのビオコントラクトを吸収したデプスランドは、まるでドラゴンのような鱗を皮膚に宿した……。しかし屍は大地に残っている……」
魔物が同族をオーバードーズすれば、全てを吸引する。
魔物が他種族をオーバードーズすると、種族特性を引き継ぐ。
「そうか、『憑依している』のではなく、生きていた者のビオコントラクトを身体に纏って『憑依させている』のか……! それをオーバードーズで吸収すると、加齢していくように見えてしまう……。では、当時生きていたマテオやヴェスパジアーノは、すでにこの世に存在していなかったと……我々は過去に生存していた人間が生きていると勘違いしていたのか」
と言うことは、1つ問題がクリアしている。
少し離れた位置にいる若者2人に、イライジャは叫んだ。
「アメリア! ルーカス! 遠慮せず叩きのめしてやりなさい!!」
唐突にそう言われたが、対峙している2人はヴェスパジアーノから視線を外せない。
「え!? なに!?」
「どういうこと!?」
「ヴェスパジアーノは人間に憑依しているわけではありません! 言葉通り『人の皮を被っている』のです!」
脳筋アメリアがざっと砕く。
「人間だと思って遠慮したとこあったけど、しなくてよくなったってわけ?」
「その通り」
それを聞いた彼女が軽くジャンプして肩を回した。
「まんまとアンタに騙されてたってわけ、ね」
ヴェスパジアーノは鼻で笑う。
「バレちまったら仕方ねえ。中々いい手だと思ったんだがよォー」
「こんなことしたって、討伐されたら同じじゃない」
「人間だとどこかで思わせておきゃ、何かのシーンで使える手になるかもしんねえだろ? 逃げ延びる最後のカードは作っておくべきだぜ? 人間は単純だからな、同族に対して甘くなる」
「相変わらず狡賢いね」
ルーカスは呆れたが、アメリアはずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「アンタやマテオは、どうして人間の住む土地に入り込んだの? 誰もいない場所でひっそり暮らしてたら、絶対バレなかったのに」
ヴェスパジアーノは鼻で笑う。
「いい気分で暮らすには都合が良いじゃねぇか。人間って奴らは、金さえあれば何でもしてくれるんだぜ?」
「私、ちょっとだけアナタ達を可愛そうだと思っていた。住む場所がない、追い出されて命を狙われている、そんなことを100年もやってたから」
その素朴で純粋な感情を、魔物は理解できない。
「それだ、そういうやつだ。お前みたいなのがいるから、俺たちは住みやすいんだ。分かったか?」
「もしかして、共存できる未来があるかもしれないって、ちょっと考えたりしたこともあったのに」
イライジャは黙ってそれを聞いていたが、アメリアの生い立ちを思って居た堪れなくなる。
「でも……」
アメリアは腰に下げていたルイネゲゼツに拳を通す。
「ダメって理解した。アンタたちは誰かと共存なんてできやしない。脅して奪って支配するだけのろくでなしだから!!」
「それが俺たち魔族の特性なんだよ、仕方ねぇだろが、世間知らずのお嬢チャン」
「ビオコントラクトは魂よ! どんなことがあってもそれを無理やり奪っていいことなんて、あるわけないじゃない!!」
脇を締め、拳で顎を隠し、1と2のステップを踏み始める。それがアメリアの戦いの合図。
「お前らだってオレらから奪っていくだろガァ!! 善人ぶってんじゃねえぞクソランダマンーッ!!」
「私たちは暴漢から自分の身を守っているだけよ!!」
まるで両者が雄叫びを上げるように攻撃に入り、お互いの距離を一気に縮めると拳同士をかち合わせる。
「ぐうッ……!?」
よもや自分の拳をこの娘に止められるとは思っていなかったヴェスパジアーノは、弾かれた衝撃で体勢を崩して雪に足を滑らせた。それをルーカスが見逃すはずもなく、追い打ちをかけて槍でジャンプする。矛先が到達する前にヴェスパジアーノは身を翻し、間合いを空けた。
「おっと、素早いね」
「チッ!」
合わせた拳から妙な痛みを感じ、ヴェスパジアーノはアメリアのナックルダスターに視線を移す。
「耐魔武器か……知恵つけてきたじゃねえか」
アメリアとルーカスが魔物を睨みつけるその背後で、騎士たちが援護すべく武器を構えた。
「おもしれえ、全員晩餐に招待してやるよ!」
イライジャは咄嗟に身を退き、周囲に警告する。
「いけません! みんな距離をとって!!」
その声と同時にヴェスパジアーノは両手を広げ、再びアンロックスペルを唱えてきた。
「Dedicatemelo!!」
例の如く引き寄せが始まったその瞬間、今まで微動だにしなかったデプスランドが突然巨大な翼を広げて宙に舞い上がった。
イライジャはこの隙に、オーバードーズされて倒れているマテオの元に走り込んでいた。その身を動かして顔を見ようとした時、崩れてゆく感触に驚いて咄嗟に手を戻す。
「これは……」
マテオの肉は灰になり、骨は風化して崩れようとしていた。
「ヴェスパジアーノは先程、『マテオを吸い込んで』と言っていた……。魔物がオーバードーズする時、同族自体を吸い込むということか……?」
それから動かぬデプスランドに視線を移す。
「……ドラゴンのビオコントラクトを吸収したデプスランドは、まるでドラゴンのような鱗を皮膚に宿した……。しかし屍は大地に残っている……」
魔物が同族をオーバードーズすれば、全てを吸引する。
魔物が他種族をオーバードーズすると、種族特性を引き継ぐ。
「そうか、『憑依している』のではなく、生きていた者のビオコントラクトを身体に纏って『憑依させている』のか……! それをオーバードーズで吸収すると、加齢していくように見えてしまう……。では、当時生きていたマテオやヴェスパジアーノは、すでにこの世に存在していなかったと……我々は過去に生存していた人間が生きていると勘違いしていたのか」
と言うことは、1つ問題がクリアしている。
少し離れた位置にいる若者2人に、イライジャは叫んだ。
「アメリア! ルーカス! 遠慮せず叩きのめしてやりなさい!!」
唐突にそう言われたが、対峙している2人はヴェスパジアーノから視線を外せない。
「え!? なに!?」
「どういうこと!?」
「ヴェスパジアーノは人間に憑依しているわけではありません! 言葉通り『人の皮を被っている』のです!」
脳筋アメリアがざっと砕く。
「人間だと思って遠慮したとこあったけど、しなくてよくなったってわけ?」
「その通り」
それを聞いた彼女が軽くジャンプして肩を回した。
「まんまとアンタに騙されてたってわけ、ね」
ヴェスパジアーノは鼻で笑う。
「バレちまったら仕方ねえ。中々いい手だと思ったんだがよォー」
「こんなことしたって、討伐されたら同じじゃない」
「人間だとどこかで思わせておきゃ、何かのシーンで使える手になるかもしんねえだろ? 逃げ延びる最後のカードは作っておくべきだぜ? 人間は単純だからな、同族に対して甘くなる」
「相変わらず狡賢いね」
ルーカスは呆れたが、アメリアはずっと疑問に思っていたことを聞いた。
「アンタやマテオは、どうして人間の住む土地に入り込んだの? 誰もいない場所でひっそり暮らしてたら、絶対バレなかったのに」
ヴェスパジアーノは鼻で笑う。
「いい気分で暮らすには都合が良いじゃねぇか。人間って奴らは、金さえあれば何でもしてくれるんだぜ?」
「私、ちょっとだけアナタ達を可愛そうだと思っていた。住む場所がない、追い出されて命を狙われている、そんなことを100年もやってたから」
その素朴で純粋な感情を、魔物は理解できない。
「それだ、そういうやつだ。お前みたいなのがいるから、俺たちは住みやすいんだ。分かったか?」
「もしかして、共存できる未来があるかもしれないって、ちょっと考えたりしたこともあったのに」
イライジャは黙ってそれを聞いていたが、アメリアの生い立ちを思って居た堪れなくなる。
「でも……」
アメリアは腰に下げていたルイネゲゼツに拳を通す。
「ダメって理解した。アンタたちは誰かと共存なんてできやしない。脅して奪って支配するだけのろくでなしだから!!」
「それが俺たち魔族の特性なんだよ、仕方ねぇだろが、世間知らずのお嬢チャン」
「ビオコントラクトは魂よ! どんなことがあってもそれを無理やり奪っていいことなんて、あるわけないじゃない!!」
脇を締め、拳で顎を隠し、1と2のステップを踏み始める。それがアメリアの戦いの合図。
「お前らだってオレらから奪っていくだろガァ!! 善人ぶってんじゃねえぞクソランダマンーッ!!」
「私たちは暴漢から自分の身を守っているだけよ!!」
まるで両者が雄叫びを上げるように攻撃に入り、お互いの距離を一気に縮めると拳同士をかち合わせる。
「ぐうッ……!?」
よもや自分の拳をこの娘に止められるとは思っていなかったヴェスパジアーノは、弾かれた衝撃で体勢を崩して雪に足を滑らせた。それをルーカスが見逃すはずもなく、追い打ちをかけて槍でジャンプする。矛先が到達する前にヴェスパジアーノは身を翻し、間合いを空けた。
「おっと、素早いね」
「チッ!」
合わせた拳から妙な痛みを感じ、ヴェスパジアーノはアメリアのナックルダスターに視線を移す。
「耐魔武器か……知恵つけてきたじゃねえか」
アメリアとルーカスが魔物を睨みつけるその背後で、騎士たちが援護すべく武器を構えた。
「おもしれえ、全員晩餐に招待してやるよ!」
イライジャは咄嗟に身を退き、周囲に警告する。
「いけません! みんな距離をとって!!」
その声と同時にヴェスパジアーノは両手を広げ、再びアンロックスペルを唱えてきた。
「Dedicatemelo!!」
例の如く引き寄せが始まったその瞬間、今まで微動だにしなかったデプスランドが突然巨大な翼を広げて宙に舞い上がった。
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