うちのお猫様は、私に冷たい

こむぎダック

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2話

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「さあリーシャ。何か欲しい物や、願い事は無いか?」

「おねがい、なんでもきいてくえゆの?」

「おぉ、勿論だとも。なんでも言ってみなさい」

 モジモジと指を弄っていたリーシャは、おずおずと口を開いた。

「リーチャね。とうたまに、あいちゃいの」

「とっとうたま・・・・」

 カーネライドは、鉄の塊で頭を殴られた気分だった。

 少し考えれば分かる事だ。

 たった一人の父親を亡くしたばかりの子が、親を恋しがらないはずが無い。

 自分は、何と愚かで傲慢であった事か。

 絶句するカーネライドに、リーシャはヨゼフに会うことは出来ないのだと察し、俯いてしまった。

「リ、リーシャ?」

「とうたまは、かあたまと、おちょらのかみちゃまの、おてつだいちてゆの。だからあえにゃいの」

「すまないなリーシャ。ヨゼフに合わせてやることは出来ないが、代わりにヨゼフの子供の頃の話を、聞かせてやろう」

 するとリーシャは、パッと顔を輝かせ、カーネライドを見上げて来た。

「ほんちょう?」

「あぁ。本当だ。しかし今日はもう遅い。また今度、王宮に来た時に話して遣ろうな」

「うん!おいたん。やくちょく!」

 リーシャが差し出した、小さな小指に、カーネリアンはごつごつとした小指を絡めた。

「小さなレディ。直ぐに王宮に呼ぶから楽しみに待って居なさい」

「うん!」

 元気の良い返事をしたリーシャは、王の膝の上からポンと飛び降りると、エドモンドの元へ、テチテチと駆け戻った。

「エドパ~パ。おいたんが、とうたまのおはなししてくれゆって」

「良かったな、リーシャ」

「エドモンド。養子の件は承認しよう」

「有難き幸せに御座います」

「ふむ。その代わりと言っては何だが。ヨゼフの話しをしてやると、リーシャとも約束した事だし。これからも、その子を連れて、月に一度は、顔を見せに来るように」

「畏まりました」

「それと」

 まだ何かあるのか?

 と、訝し気に見つめ返すエドモンドに、王はニヤリと笑って見せた。

「養子の手続きが済んだら、次は洗礼だな?リーシャの代父は、私が務めてやろう」

「陛下が代父を?で御座いますか?」

「他ならぬヨゼフの娘だ。私が代父を務めれば、表立って煩い事を言ってくる者も減るだろう?」

「御深慮に感謝申し上げます」

「良いよい。洗礼の日取りが決まったら、知らせる様にな」

 機嫌よく手を振って見せる王に一礼し、エドモンドはリーシャを抱いて謁見の間を後にしたのだ。


 ・・・・・・・・・・


 今日の謁見への同行を許されなかった、ラシール侯爵家嫡男アシンは、王宮へ向かった父親と、迎えたばかりの妹の帰りを、今か今かとやきもきしながら待って居た。

 今日の謁見で、王の承認が得られれば、そのまま養子の手続きを行って来るから、帰りは遅くなるかもしれない。

 そうエドモンドは言い残し、出かけて行った。

 だとすれば、二人の帰りが遅いのは、無事に承認が得られたからだろう。と頭では理解していた。

 しかし、承認が得られなかったらどうしよう。腹黒い大人ばかりの王宮で、リーシャが怖い思いをしていないか。
 広い王宮で迷子になって泣いていないか。

 と宛ら子育て中の親鳥の如く、落ち聞かない様子のアシンに、今日は授業にならない、と家庭教師には匙を投げられ。10分おきに、二人の帰りはまだか?と確認された使用人達は、苦笑を浮かべるしかなかった。

 そして授業を免除されたアシンは、自室の窓から、二人の乗った馬車の戻りを待ち受けていた。そして近付いて来る侯爵家の馬車が目に入ると、階段を駆け下りて玄関ホールに向かい、ドアを押し開けて二人を出迎えたのだった。

「父上!」

「に~ちゃ!」

「お帰りリーシャ!王宮で意地悪な事はされなかった?」

「ううん。やちゃちいおいたん。おかちいっぱい!に~ちゃもたべゆ」

「優しいおじさん?」

 そこでアシンはハッとなり、抱き上げたリーシャの顔を覗き込んだ。

 友人から聞いた話だが、王宮勤めの法衣貴族には、幼児趣味の変態が幾人も居ると、もっぱらの噂らしい。

 これは、子供達が王宮に招かれた際に、勝手に何処かへ行かせないために、親達がでっち上げた警告話なのだが、火のない処に煙は立たず、子供やうら若き乙女にとって、多くの人間が行き交う王宮は、安全な場所、とは言い難いのも事実だ。

 父上と一緒に居れば、そんな危険な連中に関わることは無いだろうが、それでも心配なものは心配だ。

 だってリーシャは、こんなに可愛いんだもん。王宮なんて、変態オヤジの集まりみたいなものだって、皆言ってる。

「アシン。何を考えているのか、丸分かりだぞ?」

「ごめんなさい」

「アシンが心配する気持ちも分かるが、リーシャの言う優しいおじさんは、陛下の事だ。リーシャの事もいたく気に入って下さってね。養子の承認も、二つ返事で頂くことが出来た」

「えっ?国王陛下ですか?でも陛下って・・・」

 アシンの記憶に在る国王は、髭もじゃで目力の強い、おっかない印象の人だった。

「あまり知られていないが、陛下は子供好きな方なのだよ」

「子供好き・・・幼児趣味の変態って陛下の事?」

 顔色を悪くして慄く息子に、エドモンドは呆れてしまった。

「こら!陛下に対して不敬だよ!陛下は子煩悩な方で、普通に子供を可愛らしい、と思っているだけなんだからね。その何でも思ったことを口にしてしまう癖は、早く直さないと、大変な事になるよ」

「ごめんなさい。気を付けます」

「に~ちゃ、めっちゃれた?げんきだちて?」

 シュンとしたアシンの頬をリーシャが、ヨシヨシと撫で、感動したアシンはリーシャの事をぎゅうぎゅうと抱き締めた。

「はうっ!!可愛い!!リーシャの事は、僕が護ってあげるからね!」

 その様子を見て居たエドモンドは、幼女趣味の変態は、息子の方ではなかろうか?と不安を覚え、背筋に冷たい汗を感じたのだった。

 しかし突然引き取る事になった従妹を、拒絶する事も無く、可愛がってくれていることには、エドモンドも安堵していた。

 どうもうちの家系は、夫婦縁が薄いと言うか、親子3人そろって、早くに妻を亡くしている。幼くして母を亡くし、一人っ子のアシンも、妹が出来て嬉しかったのだろうな。

 私にも再婚話が無かったわけではないが、 昔から、継母に虐められる前妻の子。という話はよく聞くものだ。それが無くとも、父と兄がそうだったように、私も亡き妻を忘れることは出来ない。

 かなり薄れてしまったが、これも先祖から受け継いだ血が、そうさせるのだろう。

 もし親戚に言われるがまま、新たに妻を娶ったとして、アシンに愛情をかけてくれた保証はないし、リーシャを引き取る事にも、賛成してくれたか怪しい。

 そう言えば、最近も再婚相手にどうか?と姿絵と釣書が送られてきていたな。

 私にはアシンという、跡継ぎが居るし、リーシャという可愛い娘も出来た。他人を家に招き入れて、不要な波風を立てる必要は無い。

 今後一切見合いはしない。と家門の者達には、命じなければならないな。

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