うちのお猫様は、私に冷たい

こむぎダック

文字の大きさ
2 / 17

1話

しおりを挟む
「ヨゼフの忘れ形見を養子にしたいそうだが、この子がそうなのか?」

「左様でございます。陛下」

「ふむ・・・銀糸の混ざった黒髪か。変わった髪色をしているが、瞳の色はエメラルド。ヨゼフの要素は全く無いな」

「へっ陛下?」

 兄上に似ていないから、養子にはさせないという事か?
 いや、書類は完璧だ。
 もし、却下されたら、裁判を起こしてでも!

「しかし顔は、ヨゼフの幼い頃にそっくりだ。エドモンドともよく似ている。中々に愛らしい子だな」

 良かった!
 これで養子として、認めて貰ったも同然だ。

「そのようにおっしゃっていただけるとは、きっと兄も喜んでいる事と思います」

「実に惜しい男を失くしたものよ。リーシャと申したか?歳はいくつだ?」

「リーシャ。何も怖い事はないからね。陛下はお前の歳を聞いて居られるのだよ」

 なれない場所で気後れしているのか、エドモンドの足にしがみついていたリーシャは、ふくふくとした丸い手を前に突き出し、指を3本立てて見せた。

「リーチャ、3ちゃい」

 その子供らしい仕草に、国王は目を細めホクホクと頷いている。

「そうか、そうか。3歳か。どれ、お菓子を上げよう。こちらにおいで」

 お菓子と聞いたリーシャは、目を輝かせたが、直ぐに困ったようにエドモンドを見上げて来た。

「どうした?」

「とうたまが、しらないひとから、おかちもらっちゃ、めって」

「そうか、ヨゼフが・・・リーシャ。あの方は、このローゼライト王国の王様で、一番偉いお方なんだよ、そして、とうたまのお友達だ。お菓子を貰っても大丈夫だよ」

「ほんとう?」

「あぁ、本当だ。さあ、お菓子を貰っておいで」

 瞳をキラキラと輝かせ、にぱっと笑ったリーシャは、トテトテと玉座へ向かって歩いて行き、階の前で立ち止まると、王はもっと近くに寄れと手招きをした。

 居並ぶ家臣たちはざわついたが、幼子が王に危害を加えるとも思えず、皆が静観する事にした様だ。

 小さなリーシャがうんしょうんしょ、と掛け声をかけながら、玉座の前の階を登る姿は愛らしく、護衛騎士達の頬も緩みがちだ。
そして、やっとの事で玉座の前へたどり着いたリーシャは、国王へ両手を差し出した。

「おかちくだちゃい」

「何と愛らしい。もっと近くにおいで」

 言われるままリーシャが近付くと、カーネライド王は小さな体をヒョイと抱き上げ、膝の上にのせてしまった。

 急に抱き上げられ、目をぱちくりとさせているリーシャの手に、国王は懐から取り出した、菓子の包みをポンと乗せた。

「中にクッキーが入っている。今食べるかい?」

「うん!」

「そうか、そうか」

 デレデレと眦を下げたカーネライドは、菓子の包みを解き、自らの手でリーシャの小さな口にクッキーを運んでやった。

 これまで子供連れの謁見は幾度もあったが、国王が謁見に来た臣下の子供を抱き上げ、菓子を食べさせる光景など、誰も見たことが無く、異例の出来事に皆が目を白黒させている。

 実は国王は大の子供好きで、子供連れの謁見がある時は、必ず懐に菓子を忍ばせていたのだが、これまでは謁見の間にやって来たのは、国王を怖れ、まともに顔を上げられない様な、肝の小さい子供ばかりだった。

 毎度ガッカリしながら、土産に菓子を持たせてやるのが常だったが、リーシャは髭面で強面の国王にも物怖じしなかった。

 今も、玉体の上でショリショリと、クッキーを頬張る姿は、なんとも微笑ましいものだ。

 しかし、小さな子供は焼き菓子の食べ方が巧くない。
 リーシャがこぼしたクッキーの欠片が、王のマントを縁取る、ユキヒョウの毛皮の上にボロボロと落ちてしまっている。

 王が子供好きな事を知っているエドモンドは、全く心配していなかったが、周りでその様子を見て居る臣下たちは、気難しい事で有名な国王が、いつ怒り出すかと、顔を引き攣らせ、ハラハラと二人の様子を伺っている。

 クッキーを零している事に気付いたリーシャは、王に向かってペコリと頭を下げた。

「ごめちゃい。こぼちちゃった」

「よいよい。気にするな。いっぱい食べなさい」

 相好を崩す王だったが、リーシャはフルフルと横に首を振った。

「どうした?美味しくないのか?」

 するとリーシャは、もう一度首を振った。

「と~~ってもおいちい!だかやね、にいちゃもたべゆの」

「にいちゃ?アシンのことか?」

 うんうんと頷くリーシャの頭を、王は目を細めながら、優しく撫でた。

「兄思いの良い子だな。土産にクッキーを沢山持たせてやる。だからアシンの分は気にせず、リーシャはいっぱい食べなさい」

「あい!あいやと。おいたん、やちゃちいね」

「おいたん・・・?」

 如何にも幼子らしい、舌っ足らずで愛らしいおしゃべりだが、一国の王に向かって、おじさん呼ばわりとは。

 この後、叱責されるラシール侯爵と、泣きだす幼女の姿が容易に想像できた家臣たちは、そろって3人から目を背けた。

 しかし、彼等の想像を裏切り、国王は、さも楽しそうに呵々と笑い出した。

「わはははっ。そうだぞ。おいたんは、優しい王様だからな?リーシャの願いなら、何でも叶えてやるぞ?」

 上機嫌でなんでも願いを叶えてやると言いはしたが、カーネロイドは心の中で、自分の発言に驚いていた。

 幼馴染の娘とは言え、これまでの子供達と同じ様に、能力を開花させるまでは、目を掛けてやる必要なし、と考えていたからだ。

 リーシャの父ヨゼフは、将来を嘱望された優秀な青年だった。
 そのヨゼフが、富も権力も爵位や家族でさえも、なにもかもを投げ捨て、うらぶれた片田舎で人生の幕を閉じてしまった。

 多くの人間が渇望して止まない、地位と名誉を擲ち、最後に残されたものが、どこの誰とも分からぬ女との間に出来た、たった一人の娘だという事が、子供好きの王でも、納得が出来なかった。

 しかしエドモンドに抱きかかえられ、連れて来られたのは、なんとも愛らしく、父にそっくりな幼女だった。

 ローゼライトの一般的な美人とは系統が異なる様にも思えるが、成人を迎える頃には、数多の求婚者が現われる事が、容易に想像が出来る。

 自信の子供は全て男児ばかりで、女児と言うものに馴染みはなかったカーネライドは、自分に対して物怖じする事も無く、ふわふわと柔らかい、抱き心地がするリーシャに、一瞬でメロメロになってしまった。

 ふむ。存外女の子というのも悪くない。
 もうひと頑張りして、子を設けてみるか?
 いやいや。
 産まれてくるのが女児とは限らない。
 次も男児だと、継承争いが面倒だ。
 他人の子を可愛がるくらいが、丁度良いのかもしれんな。

 と、勝手な事を考える、国王だった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

遡ったのは君だけじゃない。離縁状を置いて出ていった妻ーー始まりは、そこからだった。

沼野 花
恋愛
夫と子供たちに、選ばれなかったイネス。 すべてを愛人に奪われ、彼女は限界を迎え、屋敷を去る。 だが、その先に待っていたのは、救いではなかった。 イネスを襲った、取り返しのつかない出来事。 変わり果てた現実を前に、 夫はようやく、自分が何を失ったのかを思い知る。 深い後悔と悲しみに苛まれながら、 失ったイネスの心を取り戻そうとする夫。 しかし、彼女の心はすでに、外の世界へと向かっていた。 贖罪を背負いながらもイネスを求め続ける夫。 そして、母の心を知っていく子供たち。 イネスが求める愛とは、 そして、幸せとは――。

【完結】妻の日記を読んでしまった結果

たちばな立花
恋愛
政略結婚で美しい妻を貰って一年。二人の距離は縮まらない。 そんなとき、アレクトは妻の日記を読んでしまう。

私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。

MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。

貴方なんて大嫌い

ララ愛
恋愛
婚約をして5年目でそろそろ結婚の準備の予定だったのに貴方は最近どこかの令嬢と いつも一緒で私の存在はなんだろう・・・2人はむつまじく愛し合っているとみんなが言っている それなら私はもういいです・・・貴方なんて大嫌い

冷徹公爵の誤解された花嫁

柴田はつみ
恋愛
片思いしていた冷徹公爵から求婚された令嬢。幸せの絶頂にあった彼女を打ち砕いたのは、舞踏会で耳にした「地味女…」という言葉だった。望まれぬ花嫁としての結婚に、彼女は一年だけ妻を務めた後、離縁する決意を固める。 冷たくも美しい公爵。誤解とすれ違いを繰り返す日々の中、令嬢は揺れる心を抑え込もうとするが――。 一年後、彼女が選ぶのは別れか、それとも永遠の契約か。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

【完結】離婚を切り出したら私に不干渉だったはずの夫が激甘に豹変しました

雨宮羽那
恋愛
 結婚して5年。リディアは悩んでいた。  夫のレナードが仕事で忙しく、夫婦らしいことが何一つないことに。  ある日「私、離婚しようと思うの」と義妹に相談すると、とある薬を渡される。  どうやらそれは、『ちょーっとだけ本音がでちゃう薬』のよう。  そうしてやってきた離婚の話を告げる場で、リディアはつい好奇心に負けて、夫へ薬を飲ませてしまう。  すると、あら不思議。  いつもは浮ついた言葉なんて口にしない夫が、とんでもなく甘い言葉を口にしはじめたのだ。 「どうか離婚だなんて言わないでください。私のスイートハニーは君だけなんです」 (誰ですかあなた) ◇◇◇◇ ※全3話。 ※コメディ重視のお話です。深く考えちゃダメです!少しでも笑っていただけますと幸いです(*_ _))*゜

【R18】純粋無垢なプリンセスは、婚礼した冷徹と噂される美麗国王に三日三晩の初夜で蕩かされるほど溺愛される

奏音 美都
恋愛
数々の困難を乗り越えて、ようやく誓約の儀を交わしたグレートブルタン国のプリンセスであるルチアとシュタート王国、国王のクロード。 けれど、それぞれの執務に追われ、誓約の儀から二ヶ月経っても夫婦の時間を過ごせずにいた。 そんなある日、ルチアの元にクロードから別邸への招待状が届けられる。そこで三日三晩の甘い蕩かされるような初夜を過ごしながら、クロードの過去を知ることになる。 2人の出会いを描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスを野盗から助け出したのは、冷徹と噂される美麗国王でした」https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/443443630 2人の誓約の儀を描いた作品はこちら 「純粋無垢なプリンセスは、冷徹と噂される美麗国王と誓約の儀を結ぶ」 https://www.alphapolis.co.jp/novel/702276663/183445041

処理中です...