うちのお猫様は、私に冷たい

こむぎダック

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4話

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ローゼライト王国第三王子と、リーシャの婚約が内定してから7年。先ごろリーシャは10歳の誕生日を迎えていた。

 今日は3歳で、初めて謁見した日からの習慣である、月に一度の王との面会の日だ。

 これまで王との謁見には、養父のエドモンドがリーシャに付き添い、参内していたが、今回からは、義兄のアシンが付き添う事になった。

 その理由は、アシンが18歳の成人を迎えた事で、エドモンドが隠居を決めたからだ。

 家督を譲るのは2年後。アシンが20歳となるその日に行われる。

 四十を目前とした隠居は早過ぎる。と王も止めたのだが、薬学の学者であり、研究者でもあるエドモンドから。アシンに家督を譲った後、兄の命を奪った病を研究し、その新薬を作る為だ。と言われれば、王も引き留める事は出来なかった。

 よって、これからの2年間、王宮での顔繫ぎと、業務の引継ぎも兼ね。アシンは週一で王宮へ参内する必要が有るのだ。

 エドモンドは、リーシャの付き添いを続けたがったが、アシンに反対されれば、年若い息子へ家督を押し付ける身としては、涙をこらえて受け入れるしかなかった。というのが現状だ。

 そして、アシンが強硬に自分がリーシャに付き添う。と言い張ったのにも訳がある。

 婚約が内定してからの7年間。

 リーシャは王宮が手配した家庭教師から、王子妃教育を受け続け、月に一度の王との面会を習慣としてきた。

 しかしその7年間、リーシャは婚約者となるであろう、第三王子ゼフィールの実際の顔を、ただの一度も見た事がない。

 ゼフィールの父である国王カーネライドは、何度も二人を引き合わせようとして来たらしいのだが、ゼフィールが王とリーシャの茶会の席に参加することは、一度も無かったのだ。

 一年に一度、ゼフィールとリーシャが誕生日を迎えると、その成長した姿絵を互いに送り合ってはいるが、これは王家と侯爵家のやり取りで有り、本人達は、婚約者らしい交流は一切なく、誕生日のプレゼントでさえ、贈られて来た事はなかった。

 リーシャが文字を覚えたての頃。エドモンドに勧められ、何度か手紙を送った事が有ったのだが、メッセージカード一枚の返信も無かった事で、リーシャは手紙を送る事を止めてしまったのだ。

 その後リーシャ自身も自分に婚約者(内定)が居る実感を持つ事もなかった。

 ただ茶会を何度もすっぽかされたリーシャは、会った事も無い人物から嫌われているのだと思い込み、心を痛めているのだ。

 偏屈で人間嫌いと言っても、限度と言うものがある。アシンは張り付けた笑顔の下で、大事なリーシャを傷つけ続けるゼフィールに、腸の煮えくり返る思いを、押し隠しているのだ。

 まあ。このまま二人が会う事が無ければ、破婚は確定。

 それ自体は僕にとって好都合だけれど、毎度毎度、リーシャに悲しい思いをさせるのだけは許せない。

 僕が家督を引き継いだら、リーシャが16になる前に、破婚を願い出てしまおう。頑なに面会を拒否しているのは、殿下の方なんだ。予定より早く破婚を願い出たとしても、陛下も否とは言えないだろう。

 どうせ今日も殿下は顔を見せない筈だ。

 リーシャはがっかりするだろうけど、それは、婚約者に会えないからじゃなく。自分が嫌われている理由が分からないから、モヤモヤしているだけなんだと思う。

 父上は陛下の事を、子煩悩で子供好きな人だと言うけれど、現在の跡目争いで揉めている、王家の現状を見る限り、実際どうなのかは疑問だ。

 赤の他人のリーシャの事を、可愛がってくれるけれど、それはリーシャに発現するであろう能力を、惜しんで居るだけなのかも。

 陛下は賢王と言われる方だから、陛下なりの御考えが有るのかも知れない。父上の様に、素直に陛下を信じることが出来ないのは、僕の考え方が穿ち過ぎているのだろうか。

 それはそれとして、婚約者(内定)であるリーシャに対し、7年間も不誠実な態度を取り続けている息子を、諫める事も出来ず、行いを改めさせられないとは、父親としてどうなんだ?

 今はまだいいけれど、この状況があと2年も続けば、僕の可愛いリーシャは婚約者(内定)から、見向きもされない惨めな令嬢と、笑い者にされるのは目に見えている。

 更に、リーシャには何の落ち度もないのに、瑕疵があると噂される可能性だって高い。悪いのは殿下の方なのに、とんだ風評被害だ!

 殿下との破婚は、僕の望むところでもあるけれど、決してリーシャを傷付けたい訳じゃないんだ。

「お兄様?もう来てたの?お待たせしちゃった?」

「僕も、今さっき終わったばかりだよ。リーシャ。陛下とのお話は楽しかった?」

「はい。今日も楽しいお話をたっくさん聞かせて頂きました。それとね。今日は陛下の猫ちゃんを、紹介して貰ったの」

「ねこ?陛下は猫なんて飼ったんだ。初耳だ」

「ねっ!とっても人見知りな猫ちゃんだから、陛下の猫ちゃんだって、知っている人は少ないって、仰ってたわ。でもね、真っ黒で艶々してて、おててがこんなに大きくてね」

 とリーシャが手の大きさを指で作って見せてくれた。

「ずいぶん大きいな。その猫って体はどれくらい?」

「これくらい?」

 リーシャは、両腕を目いっぱいに広げて見せた。
 
 それって、豹とか虎のサイズだよね?
 陛下は猛獣を猫だって嘘ついたの?
 リーシャが襲われたら、どうするつもりだよ!

「そっそうなんだ・・・引掻かれたりしてないよね?」

「うん。すごく大人しい猫ちゃんだったの。私の手の甲をペロッてしてくれたんだけど、舌がじょりじょりしてて、くすぐったかった」

 王子妃教育の賜物か、淑女らしい話し方と、子供っぽい物言いが混在した、リーシャの語り口調に、アシンは思わず目を細めた。

「そう良かったね。・・・でも、その様子だと、今日も殿下はいらっしゃらなかったんだね?」

 目に見えてシュンとするリーシャの頭を、アシンはそっと撫でてやった。

「リーシャは何も悪くない、悪いのは殿下の方なんだ。何も気にしなくていいんだよ?」

「ありがとうお兄様。その事でお兄様に聞いて欲しいお話があるの。でもここだとちょっと・・・」

「じゃあ、馬車で聞こうか?」

「うん」

 義妹の腕を自分の腕に絡めて、ゆっくりと歩き出したアシンは、普段は下ろしたままの、よそ行きに綺麗に結い上げられた髪を、目を細めて見下ろした。

 黒髪に混ざった銀糸が、光りにキラキラしてて綺麗だな。

 こんなに可愛いリーシャに、冷たくするなんて、本当に殿下は馬鹿なんじゃないのか?

 殿下にリーシャを渡す積りなんて、これっぽっちも無いけどね!


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