うちのお猫様は、私に冷たい

こむぎダック

文字の大きさ
5 / 17

4話

しおりを挟む
 
ローゼライト王国第三王子と、リーシャの婚約が内定してから7年。先ごろリーシャは10歳の誕生日を迎えていた。

 今日は3歳で、初めて謁見した日からの習慣である、月に一度の王との面会の日だ。

 これまで王との謁見には、養父のエドモンドがリーシャに付き添い、参内していたが、今回からは、義兄のアシンが付き添う事になった。

 その理由は、アシンが18歳の成人を迎えた事で、エドモンドが隠居を決めたからだ。

 家督を譲るのは2年後。アシンが20歳となるその日に行われる。

 四十を目前とした隠居は早過ぎる。と王も止めたのだが、薬学の学者であり、研究者でもあるエドモンドから。アシンに家督を譲った後、兄の命を奪った病を研究し、その新薬を作る為だ。と言われれば、王も引き留める事は出来なかった。

 よって、これからの2年間、王宮での顔繫ぎと、業務の引継ぎも兼ね。アシンは週一で王宮へ参内する必要が有るのだ。

 エドモンドは、リーシャの付き添いを続けたがったが、アシンに反対されれば、年若い息子へ家督を押し付ける身としては、涙をこらえて受け入れるしかなかった。というのが現状だ。

 そして、アシンが強硬に自分がリーシャに付き添う。と言い張ったのにも訳がある。

 婚約が内定してからの7年間。

 リーシャは王宮が手配した家庭教師から、王子妃教育を受け続け、月に一度の王との面会を習慣としてきた。

 しかしその7年間、リーシャは婚約者となるであろう、第三王子ゼフィールの実際の顔を、ただの一度も見た事がない。

 ゼフィールの父である国王カーネライドは、何度も二人を引き合わせようとして来たらしいのだが、ゼフィールが王とリーシャの茶会の席に参加することは、一度も無かったのだ。

 一年に一度、ゼフィールとリーシャが誕生日を迎えると、その成長した姿絵を互いに送り合ってはいるが、これは王家と侯爵家のやり取りで有り、本人達は、婚約者らしい交流は一切なく、誕生日のプレゼントでさえ、贈られて来た事はなかった。

 リーシャが文字を覚えたての頃。エドモンドに勧められ、何度か手紙を送った事が有ったのだが、メッセージカード一枚の返信も無かった事で、リーシャは手紙を送る事を止めてしまったのだ。

 その後リーシャ自身も自分に婚約者(内定)が居る実感を持つ事もなかった。

 ただ茶会を何度もすっぽかされたリーシャは、会った事も無い人物から嫌われているのだと思い込み、心を痛めているのだ。

 偏屈で人間嫌いと言っても、限度と言うものがある。アシンは張り付けた笑顔の下で、大事なリーシャを傷つけ続けるゼフィールに、腸の煮えくり返る思いを、押し隠しているのだ。

 まあ。このまま二人が会う事が無ければ、破婚は確定。

 それ自体は僕にとって好都合だけれど、毎度毎度、リーシャに悲しい思いをさせるのだけは許せない。

 僕が家督を引き継いだら、リーシャが16になる前に、破婚を願い出てしまおう。頑なに面会を拒否しているのは、殿下の方なんだ。予定より早く破婚を願い出たとしても、陛下も否とは言えないだろう。

 どうせ今日も殿下は顔を見せない筈だ。

 リーシャはがっかりするだろうけど、それは、婚約者に会えないからじゃなく。自分が嫌われている理由が分からないから、モヤモヤしているだけなんだと思う。

 父上は陛下の事を、子煩悩で子供好きな人だと言うけれど、現在の跡目争いで揉めている、王家の現状を見る限り、実際どうなのかは疑問だ。

 赤の他人のリーシャの事を、可愛がってくれるけれど、それはリーシャに発現するであろう能力を、惜しんで居るだけなのかも。

 陛下は賢王と言われる方だから、陛下なりの御考えが有るのかも知れない。父上の様に、素直に陛下を信じることが出来ないのは、僕の考え方が穿ち過ぎているのだろうか。

 それはそれとして、婚約者(内定)であるリーシャに対し、7年間も不誠実な態度を取り続けている息子を、諫める事も出来ず、行いを改めさせられないとは、父親としてどうなんだ?

 今はまだいいけれど、この状況があと2年も続けば、僕の可愛いリーシャは婚約者(内定)から、見向きもされない惨めな令嬢と、笑い者にされるのは目に見えている。

 更に、リーシャには何の落ち度もないのに、瑕疵があると噂される可能性だって高い。悪いのは殿下の方なのに、とんだ風評被害だ!

 殿下との破婚は、僕の望むところでもあるけれど、決してリーシャを傷付けたい訳じゃないんだ。

「お兄様?もう来てたの?お待たせしちゃった?」

「僕も、今さっき終わったばかりだよ。リーシャ。陛下とのお話は楽しかった?」

「はい。今日も楽しいお話をたっくさん聞かせて頂きました。それとね。今日は陛下の猫ちゃんを、紹介して貰ったの」

「ねこ?陛下は猫なんて飼ったんだ。初耳だ」

「ねっ!とっても人見知りな猫ちゃんだから、陛下の猫ちゃんだって、知っている人は少ないって、仰ってたわ。でもね、真っ黒で艶々してて、おててがこんなに大きくてね」

 とリーシャが手の大きさを指で作って見せてくれた。

「ずいぶん大きいな。その猫って体はどれくらい?」

「これくらい?」

 リーシャは、両腕を目いっぱいに広げて見せた。
 
 それって、豹とか虎のサイズだよね?
 陛下は猛獣を猫だって嘘ついたの?
 リーシャが襲われたら、どうするつもりだよ!

「そっそうなんだ・・・引掻かれたりしてないよね?」

「うん。すごく大人しい猫ちゃんだったの。私の手の甲をペロッてしてくれたんだけど、舌がじょりじょりしてて、くすぐったかった」

 王子妃教育の賜物か、淑女らしい話し方と、子供っぽい物言いが混在した、リーシャの語り口調に、アシンは思わず目を細めた。

「そう良かったね。・・・でも、その様子だと、今日も殿下はいらっしゃらなかったんだね?」

 目に見えてシュンとするリーシャの頭を、アシンはそっと撫でてやった。

「リーシャは何も悪くない、悪いのは殿下の方なんだ。何も気にしなくていいんだよ?」

「ありがとうお兄様。その事でお兄様に聞いて欲しいお話があるの。でもここだとちょっと・・・」

「じゃあ、馬車で聞こうか?」

「うん」

 義妹の腕を自分の腕に絡めて、ゆっくりと歩き出したアシンは、普段は下ろしたままの、よそ行きに綺麗に結い上げられた髪を、目を細めて見下ろした。

 黒髪に混ざった銀糸が、光りにキラキラしてて綺麗だな。

 こんなに可愛いリーシャに、冷たくするなんて、本当に殿下は馬鹿なんじゃないのか?

 殿下にリーシャを渡す積りなんて、これっぽっちも無いけどね!


しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

幼い頃に、大きくなったら結婚しようと約束した人は、英雄になりました。きっと彼はもう、わたしとの約束なんて覚えていない

ラム猫
恋愛
 幼い頃に、セレフィアはシルヴァードと出会った。お互いがまだ世間を知らない中、二人は王城のパーティーで時折顔を合わせ、交流を深める。そしてある日、シルヴァードから「大きくなったら結婚しよう」と言われ、セレフィアはそれを喜んで受け入れた。  その後、十年以上彼と再会することはなかった。  三年間続いていた戦争が終わり、シルヴァードが王国を勝利に導いた英雄として帰ってきた。彼の隣には、聖女の姿が。彼は自分との約束をとっくに忘れているだろうと、セレフィアはその場を離れた。  しかし治療師として働いているセレフィアは、彼の後遺症治療のために彼と対面することになる。余計なことは言わず、ただ彼の治療をすることだけを考えていた。が、やけに彼との距離が近い。  それどころか、シルヴァードはセレフィアに甘く迫ってくる。これは治療者に対する依存に違いないのだが……。 「シルフィード様。全てをおひとりで抱え込もうとなさらないでください。わたしが、傍にいます」 「お願い、セレフィア。……君が傍にいてくれたら、僕はまともでいられる」 ※糖度高め、勘違いが激しめ、主人公は鈍感です。ヒーローがとにかく拗れています。苦手な方はご注意ください。 ※『小説家になろう』様『カクヨム』様にも投稿しています。

行き遅れにされた女騎士団長はやんごとなきお方に愛される

めもぐあい
恋愛
「ババアは、早く辞めたらいいのにな。辞めれる要素がないから無理か? ギャハハ」  ーーおーい。しっかり本人に聞こえてますからねー。今度の遠征の時、覚えてろよ!!  テレーズ・リヴィエ、31歳。騎士団の第4師団長で、テイム担当の魔物の騎士。 『テレーズを陰日向になって守る会』なる組織を、他の師団長達が作っていたらしく、お陰で恋愛経験0。  新人訓練に潜入していた、王弟のマクシムに外堀を埋められ、いつの間にか女性騎士団の団長に祭り上げられ、マクシムとは公認の仲に。  アラサー女騎士が、いつの間にかやんごとなきお方に愛されている話。

死に戻ったら、私だけ幼児化していた件について

えくれあ
恋愛
セラフィーナは6歳の時に王太子となるアルバートとの婚約が決まって以降、ずっと王家のために身を粉にして努力を続けてきたつもりだった。 しかしながら、いつしか悪女と呼ばれるようになり、18歳の時にアルバートから婚約解消を告げられてしまう。 その後、死を迎えたはずのセラフィーナは、目を覚ますと2年前に戻っていた。だが、周囲の人間はセラフィーナが死ぬ2年前の姿と相違ないのに、セラフィーナだけは同じ年齢だったはずのアルバートより10歳も幼い6歳の姿だった。 死を迎える前と同じこともあれば、年齢が異なるが故に違うこともある。 戸惑いを覚えながらも、死んでしまったためにできなかったことを今度こそ、とセラフィーナは心に誓うのだった。

女王は若き美貌の夫に離婚を申し出る

小西あまね
恋愛
「喜べ!やっと離婚できそうだぞ!」「……は?」 政略結婚して9年目、32歳の女王陛下は22歳の王配陛下に笑顔で告げた。 9年前の約束を叶えるために……。 豪胆果断だがどこか天然な女王と、彼女を敬愛してやまない美貌の若き王配のすれ違い離婚騒動。 「月と雪と温泉と ~幼馴染みの天然王子と最強魔術師~」の王子の姉の話ですが、独立した話で、作風も違います。 本作は小説家になろうにも投稿しています。

兄みたいな騎士団長の愛が実は重すぎでした

鳥花風星
恋愛
代々騎士団寮の寮母を務める家に生まれたレティシアは、若くして騎士団の一つである「群青の騎士団」の寮母になり、 幼少の頃から仲の良い騎士団長のアスールは、そんなレティシアを陰からずっと見守っていた。レティシアにとってアスールは兄のような存在だが、次第に兄としてだけではない思いを持ちはじめてしまう。 アスールにとってもレティシアは妹のような存在というだけではないようで……。兄としてしか思われていないと思っているアスールはレティシアへの思いを拗らせながらどんどん膨らませていく。 すれ違う恋心、アスールとライバルの心理戦。拗らせ溺愛が激しい、じれじれだけどハッピーエンドです。 ☆他投稿サイトにも掲載しています。 ☆番外編はアスールの同僚ノアールがメインの話になっています。

二度目の初恋は、穏やかな伯爵と

柴田はつみ
恋愛
交通事故に遭い、気がつけば18歳のアランと出会う前の自分に戻っていた伯爵令嬢リーシャン。 冷酷で傲慢な伯爵アランとの不和な結婚生活を経験した彼女は、今度こそ彼とは関わらないと固く誓う。しかし運命のいたずらか、リーシャンは再びアランと出会ってしまう。

理想の男性(ヒト)は、お祖父さま

たつみ
恋愛
月代結奈は、ある日突然、見知らぬ場所に立っていた。 そこで行われていたのは「正妃選びの儀」正妃に側室? 王太子はまったく好みじゃない。 彼女は「これは夢だ」と思い、とっとと「正妃」を辞退してその場から去る。 彼女が思いこんだ「夢設定」の流れの中、帰った屋敷は超アウェイ。 そんな中、現れたまさしく「理想の男性」なんと、それは彼女のお祖父さまだった! 彼女を正妃にするのを諦めない王太子と側近魔術師サイラスの企み。 そんな2人から彼女守ろうとする理想の男性、お祖父さま。 恋愛よりも家族愛を優先する彼女の日常に否応なく訪れる試練。 この世界で彼女がくだす決断と、肝心な恋愛の結末は?  ◇◇◇◇◇設定はあくまでも「貴族風」なので、現実の貴族社会などとは異なります。 本物の貴族社会ではこんなこと通用しない、ということも多々あります。 R-Kingdom_1 他サイトでも掲載しています。

竜人のつがいへの執着は次元の壁を越える

たま
恋愛
次元を超えつがいに恋焦がれるストーカー竜人リュートさんと、うっかりリュートのいる異世界へ落っこちた女子高生結の絆されストーリー その後、ふとした喧嘩らか、自分達が壮大な計画の歯車の1つだったことを知る。 そして今、最後の歯車はまずは世界の幸せの為に動く!

処理中です...